2018/05/29 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 魔法雑貨店」にオフェリアさんが現れました。
オフェリア >  静寂で満たされた店内に、一定の間隔で紙を捲る音が立つ。

 ―――星を散りばめた濃紺の空を、黄金色の幾望が映え映えと照らす夜。
 其の日、大通りのと或る雑貨店は、夜の帳が街に降り始めた後も照明の柔い光を硝子窓から外へ漏らし続けていた。
 珍しい。近隣の住民はそう思って居る事だろう。

 実際、暫しの時間が経っていた。そろそろ店仕舞を、と、椅子へ腰掛け本を読む女が、胸の内でそう呟いてから。

オフェリア >  針が絶え間なく時を刻む。カウンターの傍ら、カップに残った紅茶は既に冷め切り、湯気の欠片も昇らない。
 流れる時間に気を逸らす暇も無く、女の意識はすっかり書物に記された噺へと注がれていた。

 確か、読物を始めたのは夕刻だった。
 あともう一時間程度、知人からの誘いを断った建前として営業を続ける間に、供を書籍と決めて手を伸ばし―――
 壁に掛けられた時計は、三本の針がもうすぐ頂で巡り合う。そんな時刻を示している。

 時間も、店仕舞も忘れて集中した甲斐あって―、と、云うべきか否か。読み進める書物の頁は、残り半分をとうに過ぎた頃。

オフェリア >  何時かは遥か針路の先に、然も怖ろしげな魔獣が待ち構え。何時かは突如、雷鳴轟く大嵐に見舞われ。
 そして何時かは、苦難と悲劇の果てに、未踏なる島を発見。
 赤い爪先が頁を捲る書物―――高名な冒険家の航海記は、そんな大海の過酷さと、抱ききれぬ夢を余さず語り綴っていた。
 広げた本へ向けた貌は女の平時と変わらず、今日もまた造り物めいている。悲嘆的な出来事が記された頁で、眉を寄せるが如く微かに動く、其れ以外は。

 「―――…、…」

 突如、静寂を裂く鐘の音。時計が奏でる音が、漸く女の意識を本から逸らす。
 文字盤の頂、三つの針が一つに重なり、一瞬の内にまた休む間も無く時を刻み続ける。其の様子を、赤い眸が見上げた。

 何処か不思議そうに、一つ、二つ。緩やかに瞬いてから、本を閉じ、そっと席を立つ。

 ―――近隣住民、曰く。
 其の日、大通りのと或る雑貨店は珍しく遅くまで店を開けていた様子だったが、真夜中頃になって漸く明かりが消えたらしい。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 魔法雑貨店」からオフェリアさんが去りました。