2017/11/23 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 大通り」にオルティニアさんが現れました。
オルティニア > 雨こそ降ってはいないものの、一面を灰色の雲に覆われた冬の空は、昼間とは思えぬ程に重苦しい。
港から吹く潮風が、肌寒さを助長しつつ黒茶の髪を靡かせた。

空を見上げていた翠瞳がゆっくりと地上に戻り、気の強そうな細眉が不機嫌さを隠しもせずに歪んで小皺を作り出す。

市門から街中央、そして港までを貫くこの大通りは、決して狭くは無い。
むしろ、道幅で言えば王都のメインストリートにも引けを取らぬ広さを有していよう。
にも関わらず狭苦しくて雑然とした印象を強く感じるのは、高い建物がみっちりと密集して林立する威圧感と、そこを行き交う人波の慌ただしさのせいだろう。
すれ違う相手を跳ね飛ばさんまでに荒々しい歩調、喧嘩の怒声にも似た物売りのがなり声。
まるで大雨で氾濫して荒れ狂う激流の中にでもいるかの有様だ。

マグメール王国最大の港町、港湾都市ダイラス。

話にこそ聞いてはいたが、実際に立ち寄ったのはこの日が初となるエルフ少女は、洗練されているとは言い難い街並みと、騒然たる人の流れに不満たっぷり目を細めて言い放つ。

「――――磯臭い。ごちゃごちゃしてる。治安悪そう。汚らしい。高貴なるエルフ様には全く似合わない見窄らしい街ね。」

小鳥のさえずりにも似た愛らしい声音は、声を張り上げたわけでもない単なる呟きに過ぎなかったが、野太い喧騒の中にあってやけに良く響いた。
癇に障る小生意気な物言いに、何人かの荒くれが太眉をヒク付かせた睨みをぎょろりと利かす。
その視線の先にいたのは、この場に見合わぬ妙に綺羅びやかな印象の小娘である。

オルティニア > レース飾りも美しい純白のハンカチで形良い小鼻を押さえたその表情は、この街に対する侮蔑をありありと覗かせた小憎たらしい代物。
人間とは一線を画す美貌を持って広く知られるエルフの娘は、そんな表情を晒していてもなお愛らしい人形じみて整った顔立ちを見せている。
夜会巻きにしたダークブラウンの髪は冒険の最中とは思えぬ艷やかさを見せ、長い睫毛に飾られた切れ長の双眸はエメラルドの如き澄んだ翠の輝きで彩られている。
華奢で小柄な体躯は少女を幼く感じさせるも、彼女を子供扱いする者は少なかろう。
それは、エルフ少女の細身を覆う蒼銀の鎧の立派さゆえ―――なんて話ではなく、その胸元を苦しげに張り詰めさせる柔肉の圧倒的なボリューム感ゆえに。

普通に生きていたのなら、早々お目にかかることのないエルフの美貌に気圧されたか、はたまたそこらの娼婦が裸足で逃げ出すだろうエロ乳の大迫力に絶句したのか。
小生意気なチビガキを鬱憤晴らしに軽くブチのめしてやろうかと睨みを効かせたはずの乱暴者達は、一様に黙り込んでエルフ娘の不機嫌そうな立ち姿を見下ろす事となった。

ここで黙って立ち去れば、何事も大過無く、平和に人生を過ごせるのだろうが、このエルフ娘は生まれついてのトラブルメイカーである。
こちらを見下ろし、アホみたいに固まった港湾労働者相手に、切らなくてもいい啖呵を切る。

「――――何よ。なんだか文句でもありそうな顔ね。ハ、本来ならあんた達みたいのが口を聞いていい相手ではないのだけれど……いいわ、言いたいことがあるなら言ってごらんなさい。特別に聞いてあげるわ。」

ツンと斜めに顎を持ち上げ、己よりも随分高い位置にある男達に傲慢そのものの笑みと見下すような視線を向ける。
あまりと言えばあまりな物言いを、それはもう愛らしい美少女の桜唇が見事なまでに囀ったのだ。
一瞬状況に付いていけず、ぽかんとした荒くれ男達は互いに視線を交わし合って、つい今しがた耳にしたセリフが空耳の類で無いことを確認し、直後、その無骨な顔を憤怒に染めて、筋肉の塊の如き巨躯を小柄少女に迫らせた。

オルティニア > 『オルァアッ、エルフのチビガキが、舐めた口聞いてくれんじゃねぇかぁぁああぁあんっ!?』
『その無駄にでけぇ乳、ちぎれるくらいに揉み倒すぞこらぁぁああっ!!』

ただ一人であろうとも、大の大人を震え上がらせるに十分な迫力を備えた筋肉ダルマが5人も集まり小柄な少女を取り囲む。
曇天から差し込む薄暗い昼の明りが彼らの巨躯にて更に翳る。
そんな肉壁に囲まれて、耳を聾する怒鳴り声を浴びせられ、にも関わらず、エルフ娘はぴょこんと立った長耳を繊手にてそっと押さえて、いっそ優雅なまでの困り笑いを浮かべてさえいる。

「―――全く、言いたいことを言っていいとは言ったけれど、予想通りの全く身にならない内容よね。そもそも、この可愛らしい長耳を見て分かる通り、わたし、聴力にはそこそこ自信があるのよ。怒鳴らなくてもちゃんと聞こえるわ。……うわ、ばっちぃ。唾が飛んできたじゃないのよ。」

どれほど声を荒げても、見上げるエルフの翠瞳には怯えの欠片も浮かんでこない。
丁寧に巻き上げた黒髪の天辺でも、男達の胸元程度にしか無い小柄なエルフに過ぎぬはずなのに、この余裕はなんたることか。
よくよく見れば、エルフの身につける装備は素人目に見ても高級感漂う逸品ばかり。
よもやこのチビ、こんな成りはしていても凄腕なのでは……なんて不安が男達の脳裏に過るも、時既に遅し。
怒鳴り声に興味を引かれた野次馬達が、二重三重に人垣を作って見世物見物を始めているのだ。
こうなってしまってはもう、男達にもメンツという物がある。
後には引けない状況である。

そしてそんな中、どのように脅しを掛けても一向に怯む様子を見せないエルフ少女に焦れたのか、荒くれの一人が乱雑な手つきで華奢な肩を小突いた。
男にしてみれば牽制にもならぬちょっかい程度の物なれど、彼らの半分程度にも体重の無いエルフはその一突きにてあっさりと

「――――きゃ……っ!?」

なんて可愛らしい声を上げてよろめき倒れた。
小突いた本人からして予想外の弱々しさに、困惑の表情を覗かせてしまう。

オルティニア > 『あれ……? こいつ、無茶苦茶弱くね?』『これ、普通にいけンじゃね?』みたいな意志が戸惑い混じりに顔を合わせた男達の視線の中に交わされる。

「い、いきなり何してくれんのよっ! お尻打ったじゃないのっ! ったく、これだから人間っていうのは……。」

ぶつくさ言いつつ立ち上がり、乳に比べてまるっきりボリュームに欠ける尻肉を叩いて埃を落とすエルフ娘は、先刻まで妙な緊張と追い詰められた者の気配を漂わせていたはずの男達の変化に気付いていない。
相手が、見た目とは裏腹な実力者であるという可能性が消え、食べごろの美味しそうな獲物に過ぎぬと分かった荒くれの目に宿るのは、下卑た色欲の気配。
ゴクリ…。
誰かが鳴らした喉の音がきっかけとなったのか、無造作に伸ばした掌がエルフの腕を―――それこそ、力を入れたらそれだけで折れてしまいそうな程に華奢な細腕を掴む。

「―――痛ッ、ちょ、な、何いきなり掴んでんのよっ、離しなさいよ無礼者ぉ……っ!」

愛らしい顔立ちを歪め、小さく握った拳でぽかぽかと叩いてくるエルフの無力感。
『あ、これ、普通に行けるやつだ』なんて理解が男達の顔に広がり、下卑た笑みが涎を垂らさんばかりの物になる。
『ひひっ、うるせぇよチビガキが。オレ達の街を好き勝手にこき下ろしやがったんだ。仕置される覚悟くらいは出来てンだろぉがよぉ、あぁぁんっ!?』
『うひひっ、全くだぜ。お前ェみてぇなガキにゃあ、オレ達大人がしっかり躾ってもんを施してやらにゃあいけねぇ。』
『おうっ、大人の責任ってぇやつだなっ!』
などと好き勝手な事を言いながら、エルフの細腕を引っ張って、大通りから外れた暗がりへと連れ込んでいく。
何人かの野次馬は、食べ残しのおこぼれに期待して荒くれの後をついて行くが、殆どの野次馬はその場に留まりエルフ娘がこの後辿ることになるであろう凄惨な運命についてまことしやかに囁きあったりするのである。

―――それからしばらくして、精霊魔法に吹き飛ばされた男達の悲鳴が裏路地に響き、痣のついた細腕をさすりさすり、ぷんすか頬を膨らませたエルフが大通りへと戻ってきたりするのだが、その頃には野次馬も散り散りに立ち去った後。
大通りに端を発したエルフ娘の立ち会いは、こうして大都市の雑踏に紛れて消えていくのである。

ご案内:「港湾都市ダイラス 大通り」からオルティニアさんが去りました。