2017/08/14 のログ
ご案内:「娼婦宿 Colorless」にヴィクトールさんが現れました。
ご案内:「娼婦宿 Colorless」にリュシーさんが現れました。
ヴィクトール > 深夜に降り注ぐ雨は、夏の季節でも冷たく体温を奪う。
深くフードを被って、彼女が濡れないようにしっかりと包みながら歩きだすと、それほど時間も掛からず、外れにある娼館へとたどり着いた。
娼館にしては厳重な門番が二人いる入り口は、フードを取った彼を見ると、さも当たり前のように中へ通す。

「空き部屋借りるぜ、あと何か食い物頼むわ。ぁ~出来りゃ、消化にいいもんの方がいいか?」

宿の中は少し閑散としていたが、首輪のないミレー族の少女や女が男達ににこやかにしなだれかかっていたり、料理を振る舞っていたりと平和的だ。
襟口を覗き込むようにして問いかけ、食のご要望を確かめれば、投げ渡された鍵を手に二階の個室へと向かう。
一番上等な為に、なかなか使われない部屋。
大きめのベッドに少々手の込んだ調度品、心地よい香りが満ちた綺麗な整い。
ここらにしては珍しい個室の風呂もついた部屋に入ると、彼女を下ろし、コートを脱いでいく。

「風呂入れるから身体拭いて布団に潜ってな」

脱衣所からタオルを引っ掴むと、彼女へと放り投げ、そのまま風呂をいれに浴室へと向かっていく。
建物に隣接した貯水樽を通してバスタブに水が流れ込むと、傍に置かれていた赤い魔石に魔力を込めて落とす。
ジュボッと水を蒸発させるような熱気を発しつつ、石は水の中で熱を広げ、徐々に水を湯へと温めていく。
込めた魔力の具合で調整は効くと聞いたので、後は湯が沸くまで放置だ。

「――ん? あぁ、わりぃな」

ノックの音が響き、いそいそとそちらへと向かえば、彼女のオーダーに答えた料理を、料理担当の少女が届けてくれたようだ。
トレイごと受け取りながらお礼を告げると、ベッドに近いテーブルの上へとそれを運び、向かいの席に腰を下ろす。

「遠慮せず食えよ? 腹減っちゃ何も出来ねぇからよ」

ニヤッと笑いながら告げると、トレイに一緒に乗っていたジョッキに手を伸ばす。
ぐいっと冷えた酒をあおりながら、この男も一息つける。

リュシー > (多分、さほど遠くもない道中だったのだと思う。
けれど己の身体は存外雨にやられていたらしく、順調に彼の体温を奪いつつ、
それでも彼の目的地へ辿り着くころには、指先などすっかり冷え切っていた。

娼館には珍しい、屈強な門番の存在に首を傾げるも、中へ入ればすぐ、
その理由には思い至った。)

―――ミレーの、女の子……首輪、させてないん、だね。

(ぽつりと呟いた拍子、首まわりに冷たく重い感触を憶えて、
無意識に冷たい指が、己の首に嵌まる円環をなぞる。
供される食べ物に否など唱えぬ、とばかり、覗きこんでくる視線には、
お任せで、とひっそり囁き返して。

案内された部屋は、きっとこの娼館でいちばん高価な部屋だと思う。
劣悪な環境で酷使される娼婦も、世の中には多い筈だけれど―――
降ろされた部屋の床に、敷き詰められた絨毯の感触だって、心地良い。

投げ渡されたタオルに顔を埋め、小さく喉を鳴らす。
言われた通り、もぞもぞと濡れた裸身に纏いつく水気を拭いながらも、
碧い瞳は室内のあちこちを、落ち着きなく彷徨い)

―――― タオルも、柔らかい。

(ここは、いったいどういった施設なのだろう。
今更のような疑問が浮かぶも、料理が運ばれてくれば自然、
鼻腔を擽る香りに今日を引かれて、思考はいったん中断する。
潜りこんだ布団のなか、スプリングの利いたベッドの上で座り直し、
己のために用意されたと思しき、あたたかい湯気の立つ皿を前にして)

……え、と、……いただき、ます。

(食事の前にはそのひとことを、欠かさず言うのはボンボン育ちゆえ。
おそらくは柔らかなドリアのたぐいであろう皿へ、そっとスプーンを差し入れて―――
まずは、ひとくち。)

……… 美味し……。

(冷え切った身体に、あたたかさが染み渡る。
青ざめていた頬にもきっと、見る間に赤みが戻るだろう。
向かいに座って酒杯を傾ける男へ、好奇心も露わな視線を向けて)

あの、さ。ここって、……いちおう、娼館、なん、だよね?

ヴィクトール > 「あぁ、ここは首輪いらずの宿だからよ?」

門番は、首輪をつけず働く少女達が、安全に仕事が出来るようにするための露払い。
そういった点では、みすぼらしいものを追い払う為の門番とはまるで違う。
おまかせでと言われれば、食べやすいもん作ってやってくれと、料理番の少女にニカッと笑いながらお願いし、二階へ。
渡したタオルも、貧民地区の娼婦宿にしては綺麗で、柔らかなもの。
綺麗に磨かれたガラス窓、大きな棚には性的な道具も色々あるが、壊したり、傷つける類のものはない。
拘束プレイ用の枷もあるが、重苦しくなく、桜色の可愛らしい色合いに内側に柔らかな布地が付いている。
鞭も一本鞭ではなく、音を激しくさせるだけで痛みの抑えられたバラ鞭。
性的なことを真っ当に、そんな考えが詰め込まれた奇妙ながら綺麗な室内である。

「おう、食え食え」

ミルクで煮込むようにして作られたドリアは、柔らかく、優しい味付けで整っている。
焦げ目の付いたチーズも、安いながらに丁寧に調理されたのもあって、味は良い方。
血色良くなる少女に、良かったというように笑みを浮かべて酒を楽しむ。

「娼館だぜ。まぁちっと違うのは……ミレー族とか、奴隷として売られている娘を買い取ってきて、自由にさせたり、後は逃げ込んできた娘を買い取ったりしてる宿だ。だから首輪いらず、Colorlessって名前なわけだ」

奴隷とは、虐げ使い潰し、廃人になれば裏路地に転がして死なせ、病や怪我にかかれば殺されてしまうような存在。
それを人並みに扱う奇妙な宿だと語れば、苦笑いを浮かべつつ、酒に添えられていた干し肉を手に取り齧る。

「俺の兄貴が開いた宿でよ、兄貴は奴隷って制度が嫌いなんだわ。国変えちまうことは出来ねぇから、じゃあ居場所をって、第一歩がここってぇわけだ」

1階からは客達とはしゃぐ少女達の声が聞こえる。
今夜は一緒に寝ようやと誘う客に、あんまりギューってしないでよね?と笑うミレー族の少女の声。
種族も何も関係なく、平等に接する世界を願った、第一歩の場所らしい声が下から届くと、そんな感じだとにやっと笑う。

リュシー > ――― 首輪、いらず……?

(首輪はこうした場で働く女性たちにとって、枷であると同時、
一種の庇護のしるしでもある筈だ。
それをしていないからこその門番なのだ、と、知らず真顔になってしまいながら頷いた。

異質といえば、部屋の調度も、タオルの手触りや香りも、何もかもが異質だった。
そしてなにより、働いている女の子たちの表情が違っていた。
肩から胸元へタオルをかけるまま、遠慮なくスプーンを動かしつつも、
彼が語ってくれる、この施設の理念、ともいうべきものに聞き入り)

ふぅ、ん……ここって、ヴィクトールの、お兄さんの持ちものなんだ。
……こう言ったら悪いけど、お兄さん、ちょっと変わってるね。

(感心しているのかと思えば、第一声がこれである。
否、たしかに感心してはいるのだが、しかしやはり、今の時代、
この国においては、変わった考え方だと思わずにいられない。
ただ、変わってる、と口にする己の表情に、それを忌避する色は勿論なく。
もうひと口、とあたたかいドリアを口に運び、咀嚼して飲みこむ間をあけてから)

………でも、なんか、わかった気がする。
ここは、ある意味、ヴィクトールのお兄さんの、理想の都なわけだ。

(女性たちに客を取らせていることの是非については、この際措いておく。
ただ、強制的に鎖で繋がれたり、首輪を掴んで引きまわされたりすることなく、
彼女たちの意志で、笑顔で過ごせるのなら。
それは、―――それだけでもとても、素晴らしいことのように思えて。

搾取し、虐げる側の立場であった己の胸は、そう感じると同時、
居た堪れない感覚を憶えもするのだが。
わずかに眉宇へ翳りが生まれてしまったのは、その痛みのせいだ。)

ヴィクトール > 「ここの中だけではってよ、外出るときゃ、捕まんねぇ為に、可愛いの付けさせたりするけどな?」

そこの棚にあるような奴だと、可愛らしい手枷を指差す。
彼女の思った通り、首輪はある意味では庇護の印だ。
他の誰かに奪われないための……だが、そうある世界でなければ、本来はいらないはずのものでもある。

「ははっ! だよなぁ、俺も変な兄貴だと思ったぜ。でもまぁ、馬鹿みてぇに真面目で面倒見がいいし、挙句にもっと手広くってやってたらよ、いまじゃ王族の養子だぜ?」

変わってると言われても、気を害すること無く納得するように笑い飛ばす。
娼婦以外の生き方を示せればいいが、王都の直下で農作業などは難しい。
結果としてではあるが、彼女たちが笑えるようにと配慮を尽くしたからこそ、ここは成り立っているというのもある。
彼女のつぶやきにそうだと頷きながらも、眉を潜めつつ顔色が曇るのが見えれば……苦笑いをしつつ、ポスっとその頭に掌を乗せる。

「なんつーか、リュシーはどっかの貴族かなんかのお嬢ちゃんだったんだろ? 別に気に病むこたぁねぇよ、やっちまったもんは仕方ねぇ、わりぃとか思うなら…次しなきゃいいさ」

今は貴族が嫌い、そういったのは、今ではない過去があるからだろう。
今までの言葉に、そしてここのミレー族の少女達の扱いに顔を曇らせるなら、それは己に対する罪悪感か。
彼女の正体にまでは至れないが、彼なりの推理で近いところへ答えを寄せると、わしゃわしゃと髪を撫でる。

「今はリュシーも、か弱い女の子だ。これからは仲良くしようや」

な? と言いたげにニカッと笑いながら語りかけると、子供扱いに髪を撫で続ける。
罪悪感を覚えるなら、きっとそれに押しつぶされそうなのだ。
兄が他の少女達に接してきた今までを、脳裏に蘇らせながら、それに沿うように彼女の痛みを和らげようと接する。