2017/04/07 のログ
ご案内:「ドラゴンフィート」にルークさんが現れました。
ご案内:「ドラゴンフィート」にアーヴァインさんが現れました。
■ルーク > 「――……。」
逃げることは許さないと、『駒』であることに初めて逃げた事を見抜くように動揺を突かれる。
何かを紡ごうと開きかけた唇は、音にならずに閉じられる。
『駒』ではない、ルークとしての彼への答えを持っていなかった。
それは拒絶ではなく、想像もつかない事だったから。
ミレー族の少女たちのように、心の拠り所といえる存在があることを、彼がルークの居場所になってくれるという未来を。
「誰かに人として認められたいという願望は、今でも恐らくはありません。
いえ…寧ろ、人として認められるよりもただ主の意思を追うだけの『駒』でいたほうが良いのだと、そう思います。
なのに…胸の内に湧き上がる奇妙な感覚が、どんどんと強くなっていくのです。」
胸を擽り、真綿で締め付けるようなこの感覚が人として認められる喜びに起因するものだというのなら、
それが強くなれば強くなるだけ、ルークの駒としての意識と感覚との間で矛盾を大きくしていく。
湧き上がる感覚を受け入れ、人としての喜びを知ること。その先できっと彼は待っていてくれるのだろう。
けれど、変化への恐怖と生まれた時から刷り込まれている物という感覚は人の側へと行く事を踏みとどまらせる。
その矛盾が苦しくて、苦い。
その苦しみから逃れたくて、今までの生き方である『駒』という生き方に逃げてしまいそうになる。
「このような居た堪れないような感覚が、女性を美しく見せるものなのでしょうか…。そのようなことは、無いと思いますが…。乱れるような心などというものは持っておりませんので…。」
むず痒いような、居た堪れないような感覚が照れと恥じらいの感情なのだと教えられるが、女性としての自覚がないルークは彼が言った女性という言葉をそのまま世間一般の女性とだけ捉えて。
意識していなかった言葉尻を捉えて指摘されるのに、否定しようとしたが動揺が出ていたのか指摘された通り『で』で終わってしまうのに、少しだけ視線が動く。
動揺すると、無意識に彼に言葉を返しながらも自分自身に言い聞かせようとしているためにそのような言葉尻になってしまうようで。
「――っ…っ…次代を担う世継ぎを孕ませていただけるのは、私にとってこの上なく光栄な事です。」
ぐいっと肩に回された手に力が篭もり、力強い腕に引き寄せられる。
思う以上に強い力は、軽々とルークを膝の上へと持ち上げて、向かい合うような形でより近く密着することとなり、細い体を抱きしめられる。
抱きしめれば、服の布越しに細いながらも女性らしい曲線と柔らかさがアーヴァインの体へと伝わり、そしてまたルークにもアーヴァインの戦いの中で生きてきた男らしい体つきが伝わってくる。
トクン、トクンと彼の胸から響く鼓動と、それよりも早いルークの鼓動が重なり合って聞こえてくる。
それはどこか懐かしいような、安心させるような優しいリズムと音。
トクン、トクンとその音が響くたびに重なるたびに、胸の内に広がる何かが沸き上がってくる。
駄目だ、これ以上は戻れなくなる。
まるで枯れた泉に、水が湧き出てくるかのように暖かで澄んだ何かが胸の中に広がっていく。
冷たい、空虚な器を満たそうと湧き出すその何かに、満たされていこうとする感覚に恐怖を覚える。
満たされていく事で、いかに自分が空虚であるか思い知らされるから…
満たされてしまえば、再び空虚な自分に戻る事が出来ない事が分かるから…。
顔を俯かせながら、ぐっと、拒むようにルークの腕がアーヴァインの肩を押し返そうとする。
■アーヴァイン > 「…誰かじゃなく、俺だけならどうだ? 駒では嫌だと、誰よりもはっきり言う、俺なら」
逃げを許さず、言葉を投げかけ続けると、気持ちは一層大きく強まっているように見える。
不器用で堅苦しい言葉ながら、欲する存在と、求められ続けた現実の合間に挟まれているのがよく分かる。
敢えて間口を狭めたのは、いきなり広い世界に放られるよりは、小さな場所から少しずつと、慣れさせるためのもの。
少なからず、そこらの他人や義父よりは、信じられていると思っていたからで。
「可愛がりたいと思うのと同時に、その顔が見たくて意地悪もしたくなる。そうやって魅了されてしまうのが男だ」
男心を擽る表情や仕草、それが大きく表に出ないものの、小さな変化で現れるだけでも、その落差は大きく感じる。
もっと出せるように、もっと人らしく慣れるようにと可愛がりたい心地と、恥じらう顔みたさに、もっと言葉で擽りたくもなる。
楽しげに微笑んでいると、指摘した癖がすぐに現れ、いま出ただろう?と変わらぬ表情で見つめる。
「少し分かりづらかったか……名誉的な喜びではなく、女としての喜びだ」
そういう喜びもあるかと、困ったように笑いつつも膝の上へと導く。
一層近くでその瞳を見つめ、ゆっくりと腕の中に包み込んでいく。
どれだけ女性らしさを否定しても、身体には特有の感触が確りとあり、柔らかく細い感触は、どんな女性とも変わらぬ脆さを感じさせられる。
細い割には戦うための体つきは、彼女へ見た目よりも男らしい一面を肌で伝えるだろう。
縫い跡や筋の起伏、その特有の硬さ。
互いの鼓動が聞こえるほどの距離の中、肩を押し返そうとすれば、その手に手のひらを重ねる。
密着しない程度には離れられるものの、膝の上から降りるのは赦さなかった。
「……駒なら抱かれたままだろう?」
何も感じず、ただ従うのであれば、不意に遠ざけるような仕草などしないはず。
逃げようとすれば、それも意思になってしまう。
苦笑いを浮かべながら、重ねた手のひらを彼女の頬へ重ねようとゆっくりと伸ばす。
「確信した、もうルークには自分が存在している。まだ弱くて、小さいかもしれないが……断言する、もう駒ではない。ルークという、一人しか存在しない人間だ」
心に反発することも、一つの意思。
奇しくも彼女の逃げようとした仕草が、彼にそう思わせる一手となって、微笑ませていた。
■ルーク > 「貴方様だけ…?胸が、締め付けられて苦しいんです。人としての願望を抱く可能性を考えるだけで、こんなに苦しいのに、人として生きなければならないのでしょうか。」
ぎゅっと胸に湧き出す何かは、同時に喜びと恐怖といった大きな矛盾を生んで胸を強く締め付ける。
彼ならば、出会ったときから駒として扱わなかったルークが出会った初めての人である彼ならば、彼の言葉通り人であることを望んでも受け入れてくるのだと思う。
けれど、怖い。新しい未知の世界は怖くて苦しくて…けれど、与えられる言葉に確かな喜びと温もりがあった。
ぐっと眉根を寄せて、変化の乏しい顔に苦しさが滲み弱音を零す。
「…男性とは、奇妙な考え方をするものなのですね。」
可愛がるのと意地悪といった矛盾する感情、その感情を抱いて相手に魅了されるという考え方は理解するには心を理解しきっていないルークには複雑すぎて不思議に思える。
『で』で締めくくる癖が無意識に出てしまい、指摘するように見つめられると居心地が悪そうに視線を少しだけ彷徨わせて、頬が熱くなるのを感じる。
「女としての、喜び…ですか。」
困ったような笑いとともに、訂正されるもののその喜びの違いがピンとこないようで復唱するように呟くものの実感が伴っていない。
膝の上に導かれ、その腕に包み込まれると服ごしに引き締まった体躯と、近くなったことで服から露出する部分に残る戦いの傷跡が目に入るようになる。
あからさまに筋肉が盛り上がって筋骨隆々といった体ではない彼は、けれど触れれば男らしい硬さをもつ体で自分との体の違いを感じさせる。
触れる事で、感じる事でルークが否定してきた、否定されてきた女と、実際の男との違いを認識させられる。
「…申し訳ありません、しかし…これ以上、アーヴァイン様に近く触れていると自分が壊れてしまいそうになるのです。…どうか、お許しください。」
ぐっと肩を押し返したことで、アーヴァインとの間に腕の分だけ距離ができる。
しかし、肩に置いた手に重ねられた手のひらが膝から逃れる事を許さなかった。
重ねられた手からは、小さな震えが伝わる事だろう。
その顔を見れずに俯かせたまま、従えなかった事への侘びと離れたいと告げるが許してはくれない。
逃がしてはくれない。
「――っ……でも、私は…」
認めるのが怖い。
駒でなくなった自分が、駒であった自分を振り返るのが怖い。
しかし、ルークの仕草の一つ一つから確信を得て断言するアーヴァインに俯いていた顔が弾かれたようにあげられる。
そこには途方にくれた子供のような、頼りない色が浮かび上がり。
■アーヴァイン > 「そう、俺だけだ。そうだな…人らしくあれば、心地よくも辛い時もあるが、誰もがそうだ。ルークは…ずっとそれを止めていたから、不安かもしれない。だが、そうあれと願ったのは俺だ。ルークが不安だというなら、俺はいくらでも向き合い、側にいよう」
葛藤の合間、徐々に表情に辛いという気持ちが浮かぶようになっていく。
それだけでも人らしい、その痛みが不安なのならばと、ゆっくりと囁きかけて、彼女の弱みに寄り添うように語り、微笑む。
「奥深いだろう? だから一つずつ知っていくことも、触れて理解していくことも大切だ。女としての喜びも…こうだというより、感じたほうがいい」
ずっと切り離してしまった感覚は、一朝一夕で形にはならない。
矛盾する感情の理由も、そのうち理解できると言葉を重ね、抱きしめていく。
抱きしめられることに安堵するのも、唇を重ねる事で心が焼け落ちそうなほど熱くなるのも、肉欲だけでなく、血という深い繋がりを求めて愛し合うのも。
彼女が遅まきながらも、実感していくべきだと思えば、その全ては言わずに囁くのみだ。
「…壊れるのは、駒としてのルークか? それとも、本当のルークか?」
震える細い手は、幼子の様に思わせるほど、脆く感じさせられた。
それでも、壊れかかっているのが駒としての殻なのならば…壊してしまいたい。
もう、壊しても良いタイミングまで迫ったのだろう。
だから、流れ込む外気が敏感な自我を擽って、痛みともくすぐったさともなるように。
断言した言葉に、視線が重なる。
今までにないほど、不安を一杯にした瞳は、ぞくりと肌を震わせるほど心が擽られた。
見た目や口調、知性とは裏腹に、心は幼子と変わらないまま、取り残されている。
そう思えれば、考えるより早く、改めてその体を抱きしめてしまうだろう。
「……最初で最後の、駒としてのルークに命令しよう。素直になれ、恐れず認めるんだ。それでもし…刃も握れず、泣きじゃくる子供になってしまっても、人になったルークを大切にする。駒のまま、何もなく終わるより、苦しくとも幸せを覚えて欲しい。誰しも生まれ落ちて、手にしている権利を手放さないでくれ」
命令には従わねばならない。
その駒としての彼女を逆手に取った、酷な命令を課した。
彼女がそれだけ不安を抱えるなら、そこまで引っ張った自分が支える。
その誓いと共に、言葉の力強さと同じぐらい、壊さぬ程度に彼女の身体を抱きしめるだろう。
■ルーク > 「胸が苦しくて、足が竦みます…なのに、アーヴァイン様が傍にいてくれると言われると、苦しいのとは別に胸が締め付けられる気がします。」
吐いた弱音を受け止め、それでも前に進むことを促し一人ではないと微笑む彼に、齎される感覚を素直に告げる。
前に進む恐怖と、苦しさではない胸を締め付ける感覚。
これが彼が言っていた『嬉しい』ということなのか。
嬉しくて切ない感覚が、ぎゅっと胸を締め付けてルークの背中を押そうとする。
「奥深くて、不思議で…私に理解できるでしょうか」
人の感情はあまりにも深くて、単純なようでいて複雑で、繊細で、今はまだそれが分かる日が来るかどうかも分からない。
「今まで歩んできた道が、私が、です…。」
それは駒としての自分が壊れるという事。
虚ろな器、駒としての殻が壊れた時にそこに何もなかったら?
流れ込む外気に触れるのが怖い、その痛みを実感するのが怖い。
温もりを知らなければ、冷たさを感じる事はない。
誰かといることを知らなければ、誰かといたいという心を持つことがなければ孤独を感じる事はない。
『知る』という事が怖い。
「――っ…。」
肩に手を置き突っ張る事で離れていた体が、それ以上の力で再び抱きしめられる。
強く強く、抱きしめる腕が触れる肌が、胸の内に沸き立つ泉のようにルークの中で様々なものを溢れさせる。
まだそれが何なのか、形にはならないがルークを内側から満たしていく。
「――………ご命令なら、従うほかはないようですね。」
刃も握れず、幼子のようになきじゃくるだけになったら、アーヴァインの妨げになるだけなのに。
駒としての価値を失った自分に、一体どんな価値があるというのか――
そんな葛藤がルークの中でせめぎ合う。
それでも、そばにいてくれると人らしさを望めと彼が言う。
返答は、それが精一杯だった。
けれど、不安に押しつぶされそうになりながら困ったように微かな笑みがルークの唇に浮かんでいた。
■アーヴァイン > 「…それはやはり、嬉しいんだろうな。喜びの強さも強まれば擽ったいより、締め付けるような不思議な感覚に変わる」
殻が崩れていく、向き合い続けた時間が彼女の外殻に罅をいれ、壊れぬように隠していた彼女自身が見えていくような気がした。
その淡い苦しみの名前を教える、彼女が今後何度も感じるだろう感覚だからだ。
「出来る。時間は掛かれど、たくさん理解できるようになる。一つずつ、ゆっくりと進めればいい」
それを一つ一つ確かめるのすら、彼女には全て真新しく、心地よくなるだろうものもある。
ゆっくりでいいのだと囁きかけながら、安堵させようと微笑むのだ。
今までの自分と、彼女がはっきりと言えば、確信は更に強くなる。
彼女の中にしっかりと自身が生まれ、二つ目に慣れているのだから。
そうかと頷きながらも、笑みは変わらない。
そして力強く抱きしめ、囁やけば…最後の命令は、彼女の殻を壊しきったのだろう。
僅かに浮かべた微笑み、それに恥じらいよりも強いしびれを感じさせられる。
目を丸くして驚きながらも、徐々にニヤけるような笑みになっていき、背中に回した片手で黒髪を撫でた。
「いい顔をしてる。女の子らしい、可愛い笑みだ。そういう笑顔を見れば、男は女を大切にしたくなる」
この笑顔がもっと強くなるように、もっと数が増えるように。
そう願いながら何度も何度も撫で続ける。
居心地悪そうにしていた駒の頃とは逆に、この場所こそが彼女の居心地の良い場所になれるようにと。
■ルーク > 「嬉しい…これが、嬉しい…」
苦しさとはまた別の、胸を締め付ける感覚。
その感覚の名を告げられれば、噛み締めるように呟きを零す。
まだ実感としては薄いが、それでも一度その感覚を自覚すれば事あるごとに、感じるたびに実感は強くなっていくのだろう。
「それらが、全て理解できたら私は人になれるのでしょうか。理解したとき、私はどのようになるのでしょうか…。」
まだ『知る』事は怖い。
未知への感覚への好奇心よりも、恐怖の方が大きい。
変化が怖い。
それでも、彼が出来ると断言すれば出来るような気がするからとても不思議だった。
駒としての殻が壊れたばかりの、柔らかで脆弱な自我は指し示される恐れながらも光に手を伸ばす。
「笑み…笑って、いましたか?」
驚くように目を丸くしていた彼の表情が、ニヤけるように変化していくと微かに浮かんだ笑みは消えてしまう。
無自覚に浮かべていた表情を指摘されて、抱きしめられながら唇に触れる。
先ほど笑おうとしても、やり方が分からなかった、今でも自覚して浮かべようとするとどうしたらいいのか分からない。
それでも、浮かんだ笑みは確かにあり自我の存在を証明する。
抱きしめ、黒髪を撫で続ける腕に緊張に強張る体から少しだけ力を抜いてみる。
温もりに慣れず、戸惑う感覚は強いが伝わる鼓動はどこか懐かしく心の中の苦しみを解きほぐしてくれるようで。
■アーヴァイン > 「あぁ、嬉しいと笑うのを禁じられていたから…それとも、まだ不慣れだからか…どちらにしても、もっとすんなりと受け入れられる日が来る」
確かめるような呟きに、背中を後押しする。
そして、知ることに怖がる彼女の言葉に、思わずクスッと微笑んでしまう。
まだ少し駒の感覚が抜けないのだろうと思えば、髪をなでながら、笑みの理由を囁きかける。
「少し違うな、もう人になった。これから感情を知るのは、ルークが人らしく幸せになるためだ」
自分の感情を受け止めること、理解すること。
それが出来た彼女は、不慣れながらも人らしさを取り戻したことになる。
どうすれば人になれるかという問いは、すでに通り越したのだと微笑んでいたのだろう。
それぐらい、気づけばあっという間に過ぎ去る障害もあるのだから。
「あぁ、薄っすらとだが笑っていた。まだ不慣れだが、とても愛らしく、可愛がりたくなる笑顔だ」
唇に触れる頃には笑顔が消えてしまうが、それでもこの瞳には確りと焼き付いた。
大きな一歩だとその笑みを向かい入れていると、ふと体にかかる力が強くなる。
強張っていた力が抜けて、此方に身を委ねてくれた事に嬉しさを覚えれば…嬉しさ極まって、彼女の言う締め付けられるような心地を覚え、口角が上がっていく。
「ルーク…先程、世継ぎを作る時にと話をしたが…こうして抱きしめられて、撫でられながら眠るのを今思うなら…どんな心地だ?」
ただ交わるだけでなく、身も心も繋がり合う一夜の終わり。
体力を使い果たした彼女を労るように抱きしめ、撫でる夜を浮かべるならどんな思いだろうか。
今なら、先程よりも可愛らしい答えが聞けるだろうと思えば、そんなことを問いかける。
■ルーク > 「この感覚が何なのか、など疑問に思わぬようになるのでしょうか。」
それは嬉しいのだと、教えられて初めて自分の中に生まれた感覚に感情という名前がついてくる。
しばらくは、感情というものを確認する事を繰り返さなければならないだろう。
いつか、この感情が何か、この感覚が何かなど考えられずに自然に受け止め、自然に表に出す事ができるようになるのだろうか。
零した言葉にクスっと彼が笑む声が聞こえ、微かに首を傾げるとその理由が告げられる。
「……人に?私が、人らしく幸せになるために、感情を知る…。」
告げられた理由に、アーヴァインを見上げた琥珀の瞳が何度か瞬きを繰り返す。
また表情が驚きに大きく変化をする事はないが、それでも言葉に驚いている事は伝わるだろう。
駒から人になったという実感はまだない。
知らぬ間に、一番の関門だと思ったそれは通り過ぎており次が待っていた。
「………笑っていた、自覚もありませんでしたので…その、今後も上手く笑える自信はありません、ので…」
笑っていた事を指摘されること、その笑顔を褒められる事にむず痒いような感覚が溢れてくる。
先ほど恥じらいや照れだと教えられたその感覚は、湧き上がってアーヴァインから視線を逸らすとまた『癖』が出てしまう。
男性が女性を褒める事に対して照れるというよりも、まだ褒められる事に慣れていない幼子が照れを見せるかのような反応が強いだろうか。
まだ体は、完全に相手に委ねる事はできずに緊張にこわばっている。
それでも、少しだけアーヴァインを受け入れるように力の抜けた体はその重みを彼へと伝え。
「……抱きしめられて、眠る、ですか?…あの、…眠れる気がしません…。」
子供を作る男女で交わる瞬間を思い浮かべたというよりも、ただ抱きしめられて髪を撫でられながら眠る瞬間を思い浮かべた。
かぁっと頬に熱が集中するのを感じながら、素直に感想を零す。
今でも、触れられている事に慣れずに体は緊張してしまう。
何より、いたたまれないような照れの感覚が強くて恐らく眠るどころではない、気がすると。