2017/04/06 のログ
ルーク > 「……――。」

何故、駒であるだけではいけないのか。
そう問いかけそうになるのをぐっと飲み込む。
主に質問を投げかけるなど、有り得ない、あってはいけない。
主の意図を正しく読み解き、理解しなければならない。
――だというのに、理解しようとすればするほど『何故』という単語が繰り返される。
教えると、感情の発露さえあるかどうか分からないのに、どれだけ時間がかかるか分からないのに彼はそう言う。
彼はやる事が、為すべきことが沢山あるというのに…。
胸を締め付ける感覚は、言葉により強くなっていきギリ…と無意識に胸元を握り締める手の力も強くなっていく。
皮膚に爪が食い込んでいく中で、彼の手が重ねられるとハッとしたように握り締めていた手の力を抜いて。

「見えない疵を抱えながらも、ああも明るくあれるのは安心できる場所と信頼できる存在がいるからなのでしょうね。」

彼女たちひとりひとりに、目には見えない疵や体に残る傷跡は多く刻まれているのだろう。
けれど、初めて見たルークには彼女たちのその疵は感じられなかった。
それだけ、彼女たちは年相応に明るく健やかだった。

「…先ほどおっしゃったように、人らしさを考えるよりも駒として物として行動するほうが、楽なのかもしれません。
 不快なのかどうかも、よく分からないほどの感覚です。内側から羽毛で擽られているような、かと思えば真綿で締め付けられているような。」

傍から見れば、物と扱われ物としての振る舞いは自己を殺し苦しみがあるように見えるかも知れない。
けれど、生まれた時からそうだと価値を定められていれば疑問に思うこともなかった。
人らしく、と今までと正反対の生き方は少し苦しいくて苦い。
感覚を告げれば、捨てたくないものなのだろうと指摘され胸に改めて手を置くとその感覚を思い出そうとする。
確かに不思議な感覚ではあるが、不快とは感じなかったように思う…けれど、弱すぎてはっきりしない。

「――…あ、あの……」

言葉とともに、正面に座っていたアーヴァインが隣へと腰掛けてくる。
反射的に彼の分のスペースをあけつつも、その意図が分からずに戸惑いを濃く浮かべる。
指の間で黒髪を梳くように撫でられると、短い髪はさらさらと指の間から零れおちていく。
そんな時に、どういう反応したらいいのか分からないようで瞬きが多くなり、琥珀色の瞳が微かに彷徨う。
体は、緊張してしまい血が体中に巡っていくよう。
巡った血は頭に集中して、戸惑いを滲ませつつも変化に乏しい顔はうっすらと朱に染まり今までで一番の変化らしい変化を見せる。

アーヴァイン > 「そうだな、安心して、もう一度自分を出せる場所、任せられる存在。俺がルークにとってのそんな居心地のいい場所になれたら…と思う」

手に爪痕を残すほどに考えてしまう彼女にとって、まだ定位置の定まらぬ今だが、何時か自分が彼女にとっての主以外でありたいと願う。
そんな心の中を語れば、彼女の心に生まれる変化へ耳を傾け、成る程と言った様子でうなづいく。

「どちらも大切な感覚だ、胸に擽ったい感触があるのも、特に締め付けられる心地は…心が強く何かに反応したんだろうな。嫉妬でも、喪失への怖さでも、悲しみでも、その気持があるからこそ、嬉しいと境目が生まれる」

弱くとも大切な変化だと、その感情の確たる答えは言えないが…引っかかりそうなものをあげて、説明を添えていく。
けれど、苦しいままでは嫌になるだろうと、こうして隣りに座って撫でるわけだが。

「ルークを甘やかせてるところだ」

問いたげな言葉と瞳に、有言実行をしているまで答える。
戸惑いながらも、頬が薄っすらと赤く染まるなら、それは恥じらいの色だろうかと思いつつ、もう少し変化を見てみたいと思う。
ちょっと失礼と囁きかければ、片腕を後ろから回して肩を抱き寄せようとする。
いきなり正面から抱きしめると、脳がパンクしてしまうかもしれないと気遣ったはいいが、少し甘ったるい抱き寄せ方になったのに気付いていない。
肩を重ねるように抱き寄せ、片手は髪をなで続けと繰り返し、じっとその顔を見つめる。
思わず、可愛い顔だと小さくつぶやいてしまうほど変化に見とれていた。

ルーク > 「アーヴァイン様は、現在の私の主で…やるべき事も為すべき事も多いはず。私などの事をお気にかけていただく必要は…」

また胸の奥で、擽られるようなそんな感覚が訪れる。
あのミレー族の少女達のように?
浮かんだ可能性を頭の中で必死に否定しようとする。
必要ない、そう駒として育て上げられた思考がそう断ずるのに明確に形にはならない、けれどその思考と相反する何かは胸の内に広がっていく。

「駒でなく、人であれと貴方様に言われた時に感じた締め付けられる感覚は、少し苦しささえありました。苦しいと思うものでも、大切な感覚なのでしょうか…。嬉しさとはどのような感覚なのでしょうか」

初めて会った時に、人らしく振舞うように言われたときは生まれる事のなかった感覚。
それは、事あるごとにルークの思考に石を投じ波紋を広げ続けた事で生まれたもの。
まだ嬉しさというものがどういうものか分からない、けれどその苦しさが嬉しさとの境目となるというなら感情というものがルークの中に芽生えつつあるのだろう。
しかし、ルーク自身にまだその実感はなく教えられる言葉と自身の感覚を当てはめていく。

「甘やかす…ですか…あの、なんだかその、居心地が悪いというかどうしたら良いのか、分からなくなってしまうというか…。」

すぐ隣に座り、黒髪を梳くように撫でられるのに血が頭に登っていく感覚と顔が熱くなっていく感覚は強くなっていく。
失礼と、囁きながら肩に手を回して抱き寄せられるのに体の緊張は更に強くなりいつもの淡々とした口調までも保てなくなってしまう。
しどろもどろといった体で、自分の状況を伝えながら頬の赤みは強くなっていくことだろう。
そんな状況で、可愛い顔だと呟きが溢れればいつもなら心の琴線に触れることのない賞賛の言葉ですら、居た堪れないような感覚を強くして鼓動を早めてしまう。

アーヴァイン > 「…自分の意志がない否定だな?」

此方を気遣ったような言葉は、彼女が見せてきた僅かなほつれだろう。
必要ないと自身の意志で紡ぎ続けられないほど、心は揺さぶられていると見える。
そこを冷静に指摘しつつも、責めるのではなく、その否定に笑みを浮かべ、柔らかな音で語りかけた。

「……そういう事か。きっとそれは…ルークが涙を零したいほど嬉しかったんじゃないか?」

肩を抱き寄せたまま、黒髪を撫でつつゆっくりと語りかける。
子供の寝物語を聞かせるように、静かにゆったりとした音を響かせては、黒髪を指の間で滑らせる。

「嬉しさが極まって締め付けられる思い。嬉しいを言葉にするには難しい…だが、ルークは自分が認められることが嬉しいんじゃないだろうかと思ったよ。駒ではなく、自分としてそこに居て良いことに嬉しさの極みと…駒だった自分を失う怖さが入り混じった、そんなところだろうか」

どうだろうか?と問いかけるような視線を向けながら、彼女の言葉から推察される答えを口にする。
それが噛み合うならば…きっと自然と溶け込むように理解できるだろう。
予測は噛み合っただろうかと、じっとその様子を見て確かめようとしたが…かなり頬を赤らめた様子に、少しだけ色香を覚えて撫でる手が一瞬だけ止まる。

「…どこか擽ったいが、嫌な心地ではない。そういうのは…おそらく照れくさいと言うやつだろうな。もしくは恥ずかしい、どちらも裏にあるのは、嬉しいという感情だ」

思っていた以上に、感情の根っこは育ち始めていたようだ。
顔を近づけ、耳元に唇が届きそうなほどに距離を狭めれば、もう少しその感情を喚起させようと、少し意地悪を囁く。

「子作りするといったが…その時はもっと肌を重ねて、可愛いや、綺麗だと、思うがままの言葉を聞かせて、終わった後、眠る時はこうして抱き寄せて撫でながら、息遣いを聞きつつ眠る。それをすんなりと…出来るかな?」

今ですらこれだけ恥じらいが浮かんでいるのだから、それが強まれば、彼女は耐えられないはず。
微笑んではいるが、嗜虐心が混じらぬ程度、すこし意地悪な微笑みで問いかける。

ルーク > 「――…物は、ただそこに在るだけです。物に、居心地など感じる心はなく、ですので私のことをお気遣い頂く必要はありません…。」

責めるのではない、柔らかな声での指摘に胸の内に広がる未知の感覚は、今までの自分の在り方を足元から崩してしまいかねない。
そう思えば、胸の内に沸き起こったその感覚も、アーヴァインの言葉も否定しようとするが、それははっきりとした駒という立場への逃げだった。
今まで駒であることに、逃げていたつもりはない。
そうあれと、教え込まれてきた事を徹底して守ってきたはずだ。
けれど、今だけは『駒』であるという事に逃げてしまった。

「胸が締め付けられるような、あの感覚が嬉しい、ですか…?」

肩を抱き寄せられ、黒髪を梳かれるのに体を緊張に強ばらせながらもアーヴァインの言葉に必死に答えようとする。
寝物語を聴かせるようにゆったりとした口調は、先ほどとは少し違う見解を紡ぎ。

「自分を認められる事…でも、私は国を維持させるための『駒』としての生と道具としての生を受けて生まれただけで…誰かに自分を認めて欲しいなど、思ったことはないはずで…。人らしくあれと言われると、胸が締め付けられて、けれどどこか擽ったい感覚がします。」

ルークとしてそこに在る事を許される喜び。
一人の人として扱われる大きな戸惑いの中に混じる微かな喜び。
けれど、駒として育てられた意識がそれを覆い隠し、無自覚の矛盾は胸を締め付けて苦しくなる。
駒としての自分を失う怖さ、恐らくは胸の内を締め付ける感覚を齎す割合が大きいのはきっとそっちだったのだろう。
胸の内を羽毛でくすぐる様な感覚がきっと、喜びや嬉しさや恥ずかしさというものだったのだろう。
アーヴァインの言葉に、漠然と胸に訪れた感覚の名前を感じ取っていく。

「…なんだか居た堪れなくて、やめていただきたいと思うのに、嫌ではないんです。」

アーヴァインがルークの小さな変化を見つけては、反応を返す事で想像以上に今まで押さえつけられていた感情が芽吹き始めていた。
それに加え、甘やかされたり人に触れられた経験が殆ど無かったルークに触れる体温と肌の感触は戸惑いとともに感情の発露を加速させ、羞恥というものにつながっていく。

「私は子を産む為の道具ですので…道具に対してこのように優しく触れていただく必要も、お言葉をかけていただく必要もありません、ので」

少し意地悪な響きをもつ彼の声が、世継ぎをと望む事に対して触れてくると、道具として抱いてくれればいいと返して。

アーヴァイン > 「何時もより答えるのが遅れたね?」

ほんの小さな変化、動揺を突っつくのは、逃げようとするのだけは許さないという意志。
駒であればいいと思えば、感情から逃れられると…。
その瞬間だけは直ぐに囁きかけて、彼女自身の答えを強請っていく。

「多分、だ。思ったことがなかったのが、今は思うようになった。良い変化だ、もっともっとそれを感じ取って欲しい」

望むことがなければ、感じることもなかった感情。
それが形となる今、こちらが聞かせ、伝える一つ一つが変化をもたらしていた。
漠然と浮かぶイメージで彼女に伝える予測もまた、中央を射抜くほどではないが、しっかりと受け止めている彼女に微笑みかける。


「それはやっぱり照れと恥じらいだろうな…どちらも、女性を美しく見せる感情だ。それと、ルークは……心が乱れると、言葉を『で』の言葉で区切る癖があるみたいだ」

偶然かも知れないが、彼女の言葉尻に多い音を伝えてみる。
それだけ耳を傾けている証拠でもあるだろう。
何時か、義父に抱けと言われれば、彼女と交わらねばならない日が来る筈。
それでも、決めている本心があれば、方に回した手のひらに少しだけ力が籠もり、更に引き寄せる。
身軽そうな見た目とは裏腹に、戦う男らしい力強さで引き寄せて、向かい合うように膝の上へ座らせてしまう。

「作業としては抱きたくない、抱いて孕ませるなら…ルークが、それを望んで喜べるように心を育てたい。笑い方が下手だろうが、感情を伝えるのが下手でも良い。ルークが喜んで望んでくれるなら」

彼女へそんな本音を囁きかけつつ、その体を抱きしめようとする。
肩を重ねたのよりも密着し、互いの鼓動も聞こえ、互いの体つきも感じられる触れ合い方。
傷跡の多い身体が彼女を包み込もうとし、双腕もまた、彼女の身体を感じ取ろうとするだろう。

ご案内:「ドラゴンフィート」からアーヴァインさんが去りました。
ご案内:「ドラゴンフィート」からルークさんが去りました。