2017/01/10 のログ
ご案内:「とある僻地の山荘。その一室」にハイドリアさんが現れました。
■ハイドリア > ずいぶんと人里離れた場所にある廃村跡の周辺、
僻地の山奥で名前すらついていないような小さな村が
かつてあった場所から更に山中に分け入った場所に小さな山荘がある。
植物や風雨に晒され、荒れ果てた村跡とは対照に
綺麗に整備されたその館の庭園に薔薇の生け垣がある。
やわらかい日差しに揺れる薔薇の生け垣を
つば広帽子をかぶり真冬だというのに薄着姿のまま丁寧に世話をする
一つの影があった。
「-------」
その口元から小さく紡がれる歌声は誰かに届くことはなく、
それでも寂し気な響きのその歌は少し掠れた声で紡がれ続け
ただ静かに空へと消えていく。
「……っ」
唐突にその歌が途切れる。
それを口ずさんでいた人影は唐突に口元を抑え、
其の仕草で帽子が風に乗りながらゆっくりと地面へと落ちていく。
日にさらされたその顔は、少しだけ疲れた表情を見せており
そのまま落ちた帽子に目をくれることなく、
口元を抑えたまま館の中へと足早に入っていく。
「……っは、はぁ……」
乱れる呼吸と指の間からゆっくりと垂れる鮮血。
水を引き込んだ炊事場のそばでそれをゆっくりとぬぐい
鮮血の染み込んだ布を握りこむ。
それは瞬く間に灰となり、水の流れへと消えていく。
そのまま別の部屋……恐らく書斎へと戻り、
暖炉の前に置かれていた安楽椅子へと腰かけ、
呼吸が収まっていくのをただじっと待ち続ける。
■ハイドリア > 「……そう」
ただ瞳を閉じ、一言つぶやいた。
接続を強制的に切られる余波で、
それに使われた力の一部が彼女自身にも流れ込んでいた。
正面から振るわれたならともかく、契約者から直接流れ込んでくるというのは
多少なりともダメージがあった。
「やはり平穏は私には似合わないといったところかしら
……いえ、平穏でいてはいけないのかもしれないわね」
穏やかな口調で、けれどどこか諦めたように
小さくつぶやくと、ゆっくりとその身を背もたれに預け一呼吸置く。
再び開かれた瞳には濁った揺らめきが宿っており、
その雰囲気は先ほどとは一変する。
「……感動的ねぇ?
いやはや、実に感動的だわぁ
それに確かに一部有効打ではあったわねぇ」
くすくすと笑みをこぼす。
薄暗い部屋に、暖炉の明かりが影を壁に投げかける。
揺らめく炎に照らされた影はその身をくねらせ、
まるで巨大な竜がのたうっているように本棚に、壁面に影が躍る。
「確かにこれでこちらから見聞きするのは難しくなってしまったわねぇ
魔術的な繋がりを断つには最善策といったところかしらぁ
頭が固い偏屈主義というエルフの認識を改める必要がありそうだわぁ」
次第に大きくなる笑い声。
それは決して敗北したものでも
敗れたものの破れかぶれな笑いでもない。
ある意味彼女らしい、全てを見下し、掌で転がすような笑い。
■ハイドリア > 「力で力を押しのけるのもぉ
仕掛けられた道具を別の道具で解除するのもぉ
確かに有効よねぇ……ふふ、さすがに複数がかりで
道具に対抗するにはあの魔術では荷が重いというものだわぁ」
所詮道具といったところ。
ツールなど別のツールで簡単に取り除かれる。
今回の例のように。
「……でも甘いわねぇ。
道具はしょせん道具。そんなもので私が縛るわけないじゃなぁぃ
所詮副産物程度の物を命がけとはいじらし過ぎて笑いしか出てこないわぁ」
くすくすと嘲り笑う。
力をもって力を制す。
より力あるものが別の力をねじ伏せる。
そんな螺旋にとらわれる以上、彼女にとっては
どこまで行っても喜劇でしかない。
そんなものはただ便利な道具を持っているがゆえに
それを自己の存在価値と誤認し誇る愚か者の種族……魔族と大差ない。
■ハイドリア > 「くだらないわぁ……ああ下らないわぁ
ただ暴風のような力の螺旋に飲み込まれるだけなんてぇ。
人なんて所詮そんなものかしらねぇ?
その流れにある限り、力あるものに蹂躙される事を良しとすると
あんなにも大きな犠牲を払ってなお……理解できないのかしらねぇ
笑う以外どうしろっていうのかしらぁ」
力在るものの責務を理解しているもののいかに少ないことか
それを知るからこそ選択することに価値が生まれるというのに。
より強力に、より過激になっていく力の応酬の果てに人族の席などない。
この世界にはより強い力を持った存在が
文字通り数えきれないほど存在するのだから。
彼女は人を愛するがゆえに、力が力を制する世界を彼女は忌み嫌っていた。
彼女は人を憎むがゆえに、力が力を凌辱する世界をこの世界に顕現させようとしていた。
矛盾する愛憎、それこそが彼女の中に巣くう最もたる狂気。
「さて、今は幸福の余韻に酔うといいわぁ。
契約は為され、全ては私の思うがままに。
絶望の前にはまず与えよっていうじゃなぁぃ。
ゆっくりと今は幸福をかみしめるといいわぁ。
取り除かれた病巣が再び芽吹くその時までねぇ」
心底楽しそうな笑みをこぼし、独り呟く。
何一つ、彼女にとっては何一つ終わってなどいない。
いや、これこそが長い間待ち望んだ始まりなのだから。
禍根は取り除かれず、盤上に駒は並んだ。
舞台は整い長いプロローグの末、演者は踊り始めた。
無邪気に、残酷に突き進む盤上と掌を眺め蛇は笑う。
収穫の時を迎え、禁断の果実が実るその時を
ただただ待ち望みながら。
「……王都に戻るわよぉ。
支度をしなさい。幕が上がったのだから
裏方は舞台裏に戻らなくてはねぇ?」
虚空に向かって声を投げかける。
穏やかな時間は終わり、再び悪徳の街へと舞い戻ろう。
その全てが力の螺旋に堕ちていくまで。
ご案内:「とある僻地の山荘。その一室」からハイドリアさんが去りました。