2022/10/11 のログ
ヴァン > 「いや……俺が払うよ。俺と会うまで、私服が要らなかったんだろう?」

気にするなとばかりに軽く首を横に振った。
男は質問には答えずに左手をとると、透明な石を触るように促す。触れたのを確認すると、鏡の中で男が頷いた。

(……聞こえる、かな?マーシュさん)

頭の中に直接、男の声が響く感覚。耳元での囁きとはまた別の擽ったさがあるか。男は口を動かしていないのは、鏡をみれば明らかで。
穏やかな笑みを浮かべ、男は続ける。

(念話、とでもいうのかな。この石を触っている時に俺が聖印に触れていると、こうやって話ができる。
俺に交信の意思があると、その透明な石に色がつく。マーシュさんが望む時は、こっちの聖印が震え、熱が残る。
どちらも実際に交信がされるまで残るんだ。昔使っていたものを久しぶりに使おうと思ってさ)

男がやや離れると、右手をあげて聖印を示す。

「これがプレゼント、かな。じゃあ、会計に行こうか?」

服を着替えるのを待ちながら、やがて会計へと。ボルドーのシャツではチョーカーを露わにするか、隠すか興味深そうに視線を向ける。

マーシュ > 「………あまり必要がなかったといいますか」
聖都にいたというのもおそらくは大きい。ぎこちなく頷くものの代金をすべて相手任せ、というのが少々心苦しい。

仕草で、喉元の石に触れることを促されると、素直に振れた。
小さな、つるりとした石の感触を指先に感じていると、不意に聞こえた声に目を瞠る。

「………!?」

相手を見る。だが鏡越しの相手の唇は動いていないし、背後からの声音であれば自然感じる吐息もなかった。
混乱しつつ、続く言葉に鏡に映る石を見やる。

────意思伝達の魔具がないわけではないが、改めて目にすると驚いてしまう。
頷く挙動だけで返事を返して。

やや離れた位置に佇んだ相手が聖印を示すのに視線を向けた。
そこで試しに使えばよかったのかもしれないが、なんとなく気恥しさが勝った。

「はい、では着替えます」

このくらいの距離であれば念じるよりも早いのは確かだし。
素直にカーテンの仕切りの向こうに姿を消すと、またもとのシャツを纏いなおす。
襟もとの釦を占めながら、喉を彩るチョーカーに少し触れて。
けれどシャツの襟に重なるように隠したのは、装身具に慣れていないのも、理由としてある。

「お待たせいたしました───」

髪の乱れを整え、少し気恥しそうに。
時折喉元を指先がかすめていた。

ヴァン > 「んー……なら、屋台なり喫茶店なり、お昼をおごってもらおうかな」

付近の店でどれだけ食べようと、シャツの金額になるかどうか。
念話について、大分驚いている様子に少し意外に思う。
確かに小型で、魔術の素養を問わず使えるものは珍しい方だろうか。

着替えた姿、隠すようにしたのは少し残念そうにしたものの、指先が喉元に向けられるのを見て目を細める。
会計の間、店員が値札を眺めて計算をしている短い間、耳元に顔を寄せた。

「マーシュさんは念話より、こうやって囁かれる方がお好みかな?」

店員が向き直るまでに姿勢を戻す。最後に軽く息をふきかけるのを忘れない。
店を出て、次に向かうのは屋台か、喫茶店か――。

マーシュ > ほっとしたように、頷いた。
装束の代金分、というには少額だが、果たして己はこんなことをしてもらう何かがあったかどうかと己に問いただしても何もないのだから。

あまり荒事に通じない女にとっては、魔法や、道具に頼ることはないのが大きいだろう。

それを必要としない場所にいる、というのが至極幸せなことなのだと、最近は思うようにもなっている。

「─────っひゃ、……!」

会計の合間の悪戯に、文字通り肩をはねさせた。
自身のあげた声に訝しそうな目が店員から向けられて、なんでもない、と首を横に振る。

じりじりと頬が染まるのを感じながら、会計を終えた彼を引っ張るようにして店を後にするのは間違いない。
そこから向かうのは、己はともかくとして、相手の食べたいものをきいてから───。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/市場通り」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/市場通り」からマーシュさんが去りました。