2022/10/10 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/市場通り」にヴァンさんが現れました。
■ヴァン > 【お約束待機】
■ヴァン > 店が立ち並ぶエリアに鎮座するオベリスク。
遥か昔の戦勝記念碑らしいが、今では待ち合わせ場所のいい目印以上の意味を持たない。
その真下、何人もの待ち合わせをしている人達の一人。奇妙な模様のバンダナをした銀髪の男は、教会の方を見遣った。
予想ではそろそろ時を告げる鐘がなる頃合いなのだが、その気配はない。
「少し早くつきすぎたか……?」
相手の姿を想像する。私服を着る機会は少ない様子だったから、いつもの暗い赤のシャツに濃い灰色のスカートだろうか。
男はというと、いつものジャケットにカーゴパンツ。色や装飾が微妙に違うが、購入先が同じなので注意深く見ないとわからない。
周囲を見遣ると、夏の暑さはまだ残るものの、秋の訪れを感じさせる。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/市場通り」にマーシュさんが現れました。
■マーシュ > いつもの───というには少々語弊があるのかもしれないが。少なくとも、職責にかかわらない場に訪れる場合の出で立ちだった。
深い色合いのシャツ、少々ハイウエスト気味のロングタイトスカート。
釦でスリットを調節するスタイルだったが、女の場合は膝のあたりまできっちりと留めている。
いつも髪を隠すウィンプルがないのだけが少々、気にはなるよう。
靴音までは変わらない。コツ、と控えめで硬質の音を伴い姿を見せた。
「………遅かったでしょうか」
既に待ち合わせ先に相手の姿があったことに対して瞬きを一つ。
ほかにも人待ち顔の人々が佇んでいる中で、そう声をかけた。
相手が己に気づくのならば静かに頭を下げる。
多少出で立ちが変わった程度で日々の仕草はそう変わるものでもなかった。
■ヴァン > そろそろかな、と思ったところで馴染のある靴音。女に気付くと、軽く手を挙げ、掌をひらひらと振った。
時間について口を開こうとすると、ちょうど教会の鐘がなる。約束した時間。
「時間ぴったりだな。俺も先程きたばかりだ。
で、今日の予定なんだが、まずはいくつかマーシュさんのものを買おうと思う。
というのも、聖都から此方に来る時に、冬服は持ってこなかっただろう?秋が来たらあっという間に冬が来る。
今のうちにコートを買っておくといいんじゃないかと思ってさ。他にもシャツの予備とか、セーターとか……?
あと、マーシュさんにアクセサリーをプレゼントしようと思ったんだ。けど、色や形は人によって好みが別れるだろう?
なら、一緒に選んでもらった方が確実かな、と。こっちのお店はすぐそこにあるから」
そう言うと周囲を見遣り、ある方向を指さした。あまり訪れることが少ない地区なのか、方向を確認したようだ。
途中、女の服で疑問形になったのは、男にとっても女性の服については馴染がないからだろう。特に着せることには。
■マーシュ > 時刻を告げる鐘楼の鐘の音が響く。
それに応じるように、パラパラと人が散ってゆくのは、それが待ち合わせの合図だった者たちが自分たち以外にも当然いるからだろう。
落ち合った相手の言葉に耳を傾けて、それから、ん?と首を傾ける。
「…………え、あ、の………?」
まるであらかじめ決められていたようにさくさく予定が組上がってゆくのに目を瞬かせて。
合理的な言葉ではあるのだが───。
「…………えええ、と、はい、であれば何かを見繕いますね」
あまり物欲がない所為でピンとこないが、実用性を訴えられると首肯した。
「装飾品……、では、先にそちらに行きましょうか…?」
実用よりさらに縁遠い言葉、示されたほうへと目を向けて、こちらも遠慮がちに頷いた。
かくん、とからくりじみた動きになりつつ。
見てから決めよう、と女は思うのだった。さすがに、門外漢らしく疑問符が浮かんでいる相手に、気を使ってもらったのかもしれないな、とひっそり思い。
■ヴァン > 「聖都に比べると海が近いからか、こちらの方が少し暖かいけど。冬にその格好は少し肌寒いと思う。
……出向は具体的にいつまで、って決まっていないんだろう?」
歩きながら問いかける。これまでの会話でそういった話はなかった。
数分歩き、男が指さしたのは一軒の店。露店とは違い、それなりの物を扱っているようだ。
窓越しにみえる店内は女性客が多い中、プレゼントを選びにきたであろう男性客やカップルもいる。なかなか繁盛している様子。
入店前に、俺の発言にあわせて、と奇妙なことを男は言った。店内に入り、目当ての場所に向かう。下見で一度は来たのだろう。
「なんていうのか…こんなのを考えてる。今の所この3つが候補かな。色や造り、アドバイスがあれば頼む」
入店後、男は目の前の女というよりは、その周囲にいる人達に聞かせるかのように話す。女性店員は入店してきた二人連れに目を留めるが、発言内容から『男が誰かに物を贈るが、共通の友人から助言を受けるのだろう』と判断し、にこやかな表情になる。立ち止まる場所にやや表情が固まり、助平な男を見るかのように冷たい目つきの後、つきあわされる女へ同情のこもった視線。
こんなの、と言いながら男が立ち止まったのはネックレス――というよりは、チョーカーのコーナー。男性客はヴァン一人。
前述の言葉がなければ、女につけるチョーカーを二人で選びに来たようにしか見えない。……それが事実ではあるのだが。こういった予防線を張っておけば、様々な感情のこもった視線は男一人にのみ向けられるだろう。
男が示した候補は3つ。黒いリボン製で、後ろで留める素朴なもの。バックルつきの赤い「いかにも」な首輪。銀製で、魔法がかかっているのか中央部を押すと首に沿って形成されるもの。普段女が着ている服ならば、どれも服の下に簡単に隠せてしまうだろう。
■マーシュ > 「……そうですね。良い毛糸が手にはいれば、それで何か作れたら、と思いますが。……お城にいらっしゃる商人さんはあまり材料は扱ってないようなので──」
日々必要なものは支給されるものか、城に出入りする商人からの購入で賄っている女は、男にしてみれば随分と暢気な言葉を嘯いているのかもしれない。
そんな言葉を交わしながら、それからちょっとした指示に訝しそうな表情を浮かべるものの、あまり気にすることなく頷いた。
そうして彼の目当ての店に足を踏み入れる。
当然自分たち以外の客もいるし、店員もいる。馴染みのない装飾品のきらめきに視線が奪われもするのだが。
相手の言葉にある程度目星は付いているかのような立ち居振る舞いに、特に否もない女は静かに頷いた。
それらは新たな入店者である自分たちに注目している店員たちにとっても同じように届いたに違いない。
己と違うところがあるとすれば────、店員たちは己の店の商品を正しく把握していることくらいか。
「───……?チョーカー、ですよ、ね……?」
ネックレスというには首周りにぴたりとつけることを想定としている形状。
一つ一つのデザインはそれぞれの方向性を示しているようだが。
「…………ぅ?」
一つ目のそれは装飾品として普通に身に帯びられるものだが、後者二つは何というか、装飾品というか、首輪のような、という認識を持った。
…………その意図を掴みあぐねつつもこの中で選べ、というのなら───。
「これが一番、響きにくいかと……?」
一番最初に上げられた候補を示す。
柔らかそうなリボンは、肌にあまり圧迫を与えないだろうし、衣服越しでも目立つことはない。
素材や、色味も落ち着いているから、と理由を告げる。
■ヴァン > 自作という手もあるのか、と盲点だったとばかりに呟く。
「どれも似合うと思うんだ。あとは好みに合わせて、と……」
華美でなく、仕事柄も考慮して目立たずに済み、身に着けやすい装身具。
髪留めなどが最初に思い浮かんだが、チョーカーを選んだのは男の趣味だろう。女が持った認識は正確なものといえる。
選んだチョーカーを見て、口を開く。
「一番無難な感じかな。赤いのは……自分で候補に入れておいてなんだが、なんというか。
俺が前、学院からの帰りで何て言ったか知ってるだろう?」
あくまでも第三者を装った言い回しと、仕草。温泉宿での逢瀬で男が言った中にあった言葉。
目の奥に微かにからかうような気配。
黒いチョーカーを手に取ると肌触りを細い指先で撫でて、頷いてみせた。
自分がつける訳ではないが、確認しておきたいのだろう。会計を探すように周囲に目をやった。
■マーシュ > 「あまり器用ではないので、ショールや、ひざ掛けといったものにはなりますが、羽織るものならそれで十分です。ただコートや、冬用のシャツなどは確かに入り用ではありますね」
一応清貧を旨としているから、身の回りはできるだけ己でできるものを、とはなるが。外套など大ぶりのものは、かんがえなければならないとかえす。
「───う、………………」
様々な情報が交錯して少し唸った。
それは己の認識が正しい、ということなのか、どうか。
少し考えすぎたことをリセットするように首を横に振り、籠った熱を散らすように呼気を吐き出した。
「………コメントしづらいことをおっしゃらないでください……」
目許を染めて、返す。
揶揄っているだけだとわかっていても心臓にあまりよろしくはない。
一応己が指針を示したものを、手に取り確かめてから納得したように、改めて会計場所を探すように視線を彷徨わせていると、おそらくは、店のものが心得たように案内はしてくれるのだろう。ほかの客ともそんなやり取りをしていたのを視界の端に捉えていた。
■ヴァン > 首を振る相手を見ると、くすりと笑い声が漏れた。
どの言葉について言及しているかが伝わったかわかり、満足そうな表情。
「あぁ……そうだな。選んでくれてありがとう。会計をしてくるから、ちょっと待っていてくれ」
店員の近くへと向かい、何事か伝えると、店員は店の奥へ引っ込んだ。数分の後、品物を受け取って戻ってくる。
ただ包むだけならばそう時間はとらない筈だ。他の客の会計などで立て込んでいたのだろうか。
ジャケットの内ポケットに入れたのは、目立つ場所で直接渡すとさっきの小芝居が無駄になるからだろう。
「次はコートか。……そういえば。修道服は夏と冬で生地が違うと思うんだけど、それでも寒くないか?
さっき言った羽織るものがあっても、それを使って外出するシスターは見たことがなくてな……」
室内だけで過ごすのならばともかく、仕事で屋外に出ることもあるのはこれまで女と出会った場所からも明らかだ。
服といえば自分が着る物ぐらいしか馴染がない男は疑問をそのまま口にした。
店を出て、市場通りで大き目の服飾店へ向かい歩き出す。平民向けの服が大半だが、服の質で目立たない方が良いだろうとの考え。
まだ街路樹は緑色の葉を茂らせているが、しばらくすれば色も変わり、景色も変わるのだろう。
■マーシュ > 満足そうな相手に変わって、こちらは若干恨めしそうな表情を浮かべていたかもしれないが、その程度は許されたい。
待つことは特に問題ではなかったから、見るともなしに並べられた装身具を眺めていた。
物珍しく様々なものに視線を向けていたから、さほど時間は断っていなかったようにも思う。
ややあって戻ってきた相手の言葉に視線を上げて。
移動の時に羽織る外套も、生地や型は決まっているから、支給のそれがある。
「そうですね、冬は冬用の厚手の生地で、同じ型のものを作ります。外套は、本当に移動時だけで。
大体はそのままになります。そういったことも修養のうちですが──、目に見える場所よりは下の方に重ね着をしますから、わかりづらいのはあるのかもしれません」
相手の疑問にひとつづつ応えて。
例えば、と男のジャケットやシャツに視線を向ける。
色柄が多少変わっているのと同じように──
「素材が少し変わるだけでも十分保温性は上がりますし、その下に2、3枚を重ねたら……あとは忍耐、でしょうね」
もちろんそうじゃない場所もあるかもしれないが。
少なくとも己の所属していた修道院は、堅実な運用をしていた。
そんな言葉を交わしつつ、店を出ると、外の喧騒が耳を打つ。
いつも眺めるだけのそれの中にいることは少しおかしくて、小さく笑みを口許に浮かべ。
「街の生活は、馴染みがないので新鮮ですね」
■ヴァン > 「なるほど。確かにゆったりした服だから、重ね着をしててもわからないな。忍耐……か。
……マーシュさん、凄いな。同僚にはこの8年、三桁になるくらいは『昨日はどこに泊まったんですか』って聞かれたのに」
素材は同じでも、色の抜け具合や細かなデザインに気付く人は珍しいのか、驚きの声を素直にあげた。
もっとも、男がそう声をかけられたのは服が同じに見えるだけではなく、日頃の生活のせいでもあるだろう。
「聖都はそのなりたちもあって、ここまで商業が盛んではないものな。色々あるが……いい場所だ」
微笑む姿をみとめると、つられるように笑う。他愛もない話を続けていると、大きな店舗の前についた。
服飾店に入ると店員に場所を尋ね、案内された場所で思わず言葉をこぼした。
「……俺はこれまで防御性能を重視して選んでいたから、一般的に服を選ぶ基準がわからない。
色とか素材とか、デザインで選ぶものなのか?世の女性たちはこんな沢山ある中から選ぶのか……」
冬以外にも使える女性用コートということで時季柄か、店内でそれなりのスペースが割かれている。
選択肢が多すぎることに感嘆の声を漏らす。似合うかどうか、どちらが良いかの判別はできそうだが、選ぶことはできそうにない。
自然と顔が女の方へ向く。まずはコーナー内を一通り歩き回って候補を見繕うことからだろうか。
■マーシュ > 「………もっと目端の利く方は女性にはいくらでもいると思いますよ」
女にしてみれば、同じ型であっても、生地の目の変化はどうしたって気づくもの。
裁縫をある程度収めている女性なら、その縫い目の端の処理の違いや、糸の色遣いなどでもわかるでしょう、と種明かしをした。
きっとそう問うたのは、男性だったのではないですか、なんて面白がるように告げて。
「…すべて、というわけではないですが、主教が基本的に街の主導を行いますし。そういった意味では統制はとれているのでしょうね」
聖都は、整っている。そういった印象を受けるのは待ちの作りからが、そもそも主導している存在があるからなのだろう。
王都のような賑わいとは明らかに違っているのは確かだ。
先導されるまま、なのはあまり商用の場所に足を踏み入れないから。
つい物珍しくて足が止まりがちになりながら足を踏み入れた店は、先程のような宝飾店とはまた規模が違う。
秋口だから、色が濃い目で、落ち着いたものが目に付くのだが、それでも色とりどりの布地が目に飛び込む。
「………私は、どうなのでしょう。……ですが、普段使いにしていいのであれば選ぶ範囲は限定的ですから、問題はない……んじゃないでしょうか」
店の中を歩きながら、その柔らかな商材の洪水に女も飲まれそうにはなるのだが、女の職掌上、つかえるものは限られている。
それを店のものに告げれば、さらに絞れるだろう。でも、こうしてあてどもなく店を彷徨うのは少し楽しいですね、と声を弾ませた。
■ヴァン > 「そんなものか……いや、女性でもそう声をかけてくるよ。確かに男というか、上司、つまり館長が大半だ……が」
ふ、と思い出す。女性の時は本当に同じ服だったのではないか。決まりが悪そうに途中で言葉を飲み込んだ。
聖都と王都の違いには頷いてみせる。男も何年かは聖都にいた身だ。
「そうだなぁ……素人考えだが、色は黒、紺、灰色、あとは白系か……?茶色系も定番だと思うが、どうなんだろう。
っと、こんなのもあるのか……」
男は詳しくないのか、これまでの記憶からコートの色として思いつくままのものを挙げてみる。
目についたのはピンク色のもこもこした暖かそうなコート。珍しそうなものを見るようにして、首を捻る。
しばらく店内を巡り、楽しそうにする姿に目を細めた。
時折気になったものを、自分が着る訳でもないのに眺め、その後にマーシュに視線を向ける。
「コートは……一着あれば大丈夫なのかな。あとはもう一着くらい、シャツはあってもいいかも。」
男の中で、私服は一張羅というやや失礼な思い込みがあるようだ。
■マーシュ > 「……あまり深く聞いてはヴァン様が困りそうですね……?」
己のように同じ型、同じ生地で作られた装束を纏わなければならないという不文律はなさそうだが。
そう問われるだけ、彼は同じものを持っているか───あるいは、なんて意地悪なことを考えてしまう。
「そうですね、色は、紺で。それから襟やそでに装飾がないもの。丈は───」
それから記事についても、毛皮はダメですよ、と、彼が目を取られているらしい、淡い色合いのコートに告げた。
………色合いもそうだが、可愛らしいものが好きなのだろうか?なんて思いながら。
「一着で十分です。……シャツは、……そうですね。今のものより厚手の生地のものがあれば……」
一張羅というより、私服はこれしか持っていないからその認識は正しい。
其方については華美なものでなければなんだっていいからどうしようか、と考えあぐね。
■ヴァン > 「マーシュさんも……言うようになったな?」
後でクローゼットの中を見せるよ、と返す。
色合いや装飾で指針が出されると、いくつか条件に合うコートを選び、近くのハンガーラックに掛けた。
先程の淡い色のものは、好みという訳ではなさそうだ。好奇の目を向けた後、そのままラックへと戻していた。
「シャツは……あっちの方かな。落ち着いた色の方が似合うと思う。コートはここで着てみればいい」
一角にある大き目の鏡を示し、ハンガーごと何着かのコートを持って行く。
試着する姿を見ながら、ぽつりと呟く。
「人の服を選ぶのは……いや、女性?うん。女性の服を選ぶのは、かなり久しぶりだな」
途中言いなおしたのは、最近何かあったのだろう。
疑問形であったことから、男性か、あるいは子供なのだろうか。
■マーシュ > 「………ヴァン様がいつもからかってくださるので」
少しはそんな温度の差にも慣れてきたのだ、と言いたそう。
人のクローゼットの中身をのぞき見する趣味はないけれど、同じデザインの服ばかり並んでいたら、それはそれできっと面白そう。
己の告げた指針通りのものが数着選ばれる。
人に衣服を選んでもらうのは妙な感じだ。
羽織ものだから、その場で試着するのもさほど難しくはない。
己が普段の装束を着ているときの感覚を思い出しながら、いくつかにそでを通す。
実際に着てみた重さや、風合い、生地の丈夫さや、縫製。
一つ一つを確かめるのは多少時間を取った。
その中の呟きに、どこか意味ありげなそれに首を傾げた。
「近頃誰かとこのお店に?」
それは不思議とは思わない。
この店への足運びは迷いを感じさせないものだったから。
■ヴァン > 自業自得ということか。
そんなやりとりも、どこか楽しそうにしている。
試着をしている時、男からわかるのは外見だけ。女が確かめている間、周囲を回って眺めてみる。
表情からどの服にどんな印象を持ったかはわかるだろうか。
「いや……ここではないが。少し前、姪がこの街に来ててね。
その時に目立たない服を選んだんだ。あまりに目立つ服では、平穏な田舎暮らしに慣れた子供には危ないから。
ここを選んだのは単に大きな店なら種類があるかなと思ってね。……想像以上にあって驚いたが」
小さな店で子供服は種類が少ないのか、迷うこともなかったと付け加える。近しい人に対しては心配性なのだろう。
しばし経ち、コートを選び終わった後。選ばれなかったコートを元の場所に戻していく。
シャツのコーナーはコートよりは小さめだった。男は黒系が好きなようで、時折目が留まっている。
■マーシュ > 楽しそうな様子に、こちらは何も言わない。
何着かの着心地を確かめて、基本的にはケープスタイルのコートを選ぶことになるだろう。
鏡を見て確かめて、それからどうですか、と声をかけるも。さして普段と印象が変わるわけではない。
「───ああ、ではもしかして、先程のあわい色のコートは姪御さまように、でしょうか。」
合点がいったように言葉を継いだ。
伝え聞いている分には、彼の故郷はもっと南方だから、きっと寒さには慣れていなさそうだったし。
己に対してもそうだが───、やや過保護気味の相手のことだ。
血縁の少女に対してはもっと過保護になっていそうだと穏やかな想像とともに笑みをうかべていた。
コートを選び終えて、向かうのはシャツの売り場。
用途が普段用ということもあって、特に希望がないから、彼が目にとめたものを選べばいいかな、と思っているあたりは物欲の乏しさと、自身に対する頓着のなさが、如実に表れていた。
「……こちらはあまり華美でなければ何でもいいので、見繕っていただいてもいいですか?」
相手の視線を追いかけて、この辺でしょうか、と手を伸ばし。
■ヴァン > 「色合いのせいもあるのかな……違和感が全くないな」
普段の修道女服と色合いが似ているからか、素直に口にする。
ケープスタイルのコートは男性ではあまり見ないからか、こんな感じなのかぁ、と感心した様子。
コートについては来た時は夏だったから、とかぶりを振り、過去形で伝えた。
「そうだな……じゃあ、こういうのはどうだろう。サイズ……は、わからないな」
男が示したのは黒いシャツ。襟がやや高めな他は、落ち着いた、とりたてて特徴のないもの。
デザインの好みで指したものの、男の服装では首回りと袖の長さ程度しか指針がないため、女性服でも通用するかわからないようだ。
周囲を見回し、試着室を探しあてると示して見せる。まずは着てみないとわからないだろうと。
■マーシュ > 「そう言うものを選びましたから」
むしろそうでないと困るのだ、とも。
男性用のコートと比較するのなら、インバネスケープが近いのかもしれない。
どちらにせよ、比較的ゆったりとしたシルエットには変わりがない。
「……問題は、ないように思いますが……そうですね、試着してみます」
相手の選んだそれは襟が高い、という以外はごくシンプルな形のようだ。
首周りのサイズは来てみないとわからないから、示された試着室へと素直に向かっていった。
こういうとき連れがいる、というのは心理的に楽になるのだな、と思いながら、その中へ。
布で仕切られたそこには姿見がある。
試着のため、衣装を吊るすための小ぶりのラックとその姿見以外は何もない。
とりあえず、女自身が身につけているシャツのボタンをはずして、ゆく。
あまり日に焼焼けていない肌と、体の稜線が鏡に映る。
単に服を脱いで、試着するその行為にあまり時間をかけるわけにもいかないから、手早くシャツを脱ぐと、選んでもらったシャツにそでを通す。
釦を止めあげるまでほぼ無心。
黒色のそれは、特徴がない分だれにでも似合うし、あえて言うなら肌の色の白さと野コントラストになる、のかも。
する、と仕切りの布を開いて、とりあえず纏った姿を見せた。
「とりあえずは、このような感じ、です」
装飾が少ない分、動きづらいということもない、と軽く腕を動かし。
■ヴァン > カーテンで仕切られ、着替えるのを待つ間、ふっと都市伝説を思い出す。
小さな服屋で、試着室に入った人を攫う店があると。連れがいない客を狙うとかなんとか。
昔は着替えている途中で試着室に入りこんでいちゃつくなんてこともしたな、と15年以上前の記憶が甦る。
さすがにいい大人になり、獣欲も落ち着いた。背後からおどかすのも……今回はやめておこう。
とはいえ、先程少しやりこめられたので、何かしてみたくはある。何がいいか……。
考えていると、カーテンが開かれる。
「お……いいね。落ち着いた感じがして、顔の白さが映える。
あとは……ちょっと後ろを向いてみて。銀髪も綺麗に見えるんじゃないかな」
ふっと思いついたので、女が背を向けた後に懐から先程買ったものを取り出すと、ちょっと失礼、と呟く。
両手を女の前、肩のあたりに回すと、襟のボタンだけを外す。首に沿ってゆっくりと指先を動かし、チョーカーをつける。
正面、喉のあたりには透明な石がいつのまにかつけられている。うなじで紐を結ぶように手が動くのが伝わるか。
店員が怪訝な顔をして二人を見るが、いやらしい行為をしている訳ではなさそうなので気にせずに背後を通る。
■マーシュ > 布で仕切られた、ごく小さな部屋。
悪意のある店であればいかようにも───。とはいえいまは連れがいるから安全、なのかもしれない。
───その連れが過去になしていた悪行……というべきものを思い返しているのを知らないのは女にとって幸いというべきだろうか。
「では、これで。……あの、シャツとコートは、私もお支払いすべきだと思うのですが────
え、と、あ、はい……?」
金銭を全く持っていないというわけではないのだし、シャツとコートについては己の日常品だ。当然の主張は、相手の言葉に呑まれて素直に背を向ける。
姿見があるから何をしているのかは己の目にも見えるのだけれど。
釦が外されて、そっと首筋に装いが増えるのにくすぐったそうにしたが、すぐに小さな違いに目がいった。
「………何か増えている気がするのですが……?」
ごくシンプルなチョーカーに、なかったはずの石の装飾が下がっている。色身も透明でそれらは衣服の邪魔になるものではなかったが───。
訝しむ様な、説明を求む様な、そんな声音。
そんな男女のやり取りを横目に通りがかる店員も、特にあえて声をかけない程度には健全なやり取りではあるのだが。