2022/09/10 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にマーシュさんが現れました。
■ヴァン > 結論から言うと、男の希望は叶わなかった。
神殿図書館まであと10分という所で、ばけつを引っ繰り返したような夕立。あわててジャケットを鞄の上に被せるが、焼け石に水なのは明らかだった。
雨の心配をしながら傘を持たなかった己のうかつさを呪うが、この雨では傘などあっても役に立たなかっただろう。
周囲を見渡し雨宿りできそうな所を探すが、この一帯は住宅街なのか店らしきものはない。走りながら見つけた店舗へと飛び込んだ。
九頭龍の水浴び場。雨から逃れほっと一息つく。ハンカチを取り出すとマーシュへと渡す。
周囲を見渡すと、同じ境遇の人達が何人もいるようだった。周囲を見渡し、ふと思う。
水浴び場はこのあたりだったか?ちょっと場所が違うような。微かな違和感を抱くのは一瞬。服を乾かしたい。
ただ雨宿りというのも施設に悪い。従業員を見つけたので声をかける。
丁寧な口調で話を聞くと、施設の利用料を払えば浴衣の貸し出し、衣服の乾燥を無料でやってくれるらしい。渡りに船と入湯料を二人分払ってから振り返る。
「マーシュさん、雨があがるまでここにいよう。
夏とはいえ濡れた服のままだと風邪をひくかもしれない。まずは風呂で身体を温めて――!?」
温泉の入口、脱衣所の方向に指を向けて、固まる。
普段なら男女の入口を示す2つの暖簾が、大きな1つの暖簾に変わっている。混浴ということか。
動揺を悟られぬように脱衣所へと向かう。
■マーシュ > 最初は、頬や手に冷たいものがぽつりと零れた程度。
その最初から一転してふり始めた雨はあっという間に、街並みを霞ませるような大粒の雫を空から注ぐ。
夏の名残のような夕立は、勢いからしてもほどなくやむだろうが、だからと言って濡れ鼠になるわけにもいかない。
鞄の中身は書籍で、湿気や水に弱いのだから。
似たような状況の人々が三々五々に散る中で駆け込んだ店舗は以前世話になったこともある旅籠。
あの時は水たまりの水を浴びたからだったが──、己にとっては雨と紐づいてでもいるのだろうかと若干思う。
「ありがとうございます……」
素直にハンカチを受け取って、濡れた髪を拭う。
水気を吸った髪が重たく揺れて、床に雫を落とすのを少しでも軽減できるのはありがたかった。
────絞ったほうが早いかもしれない、とぼんやり考えていると、従業員と交渉している相手の姿。
「はい、本も心配ですし……」
荷物も預かってくれるのなら、雨が上がるのを待ちつつ、そちらの確認するのがよさそう、と視線を向ける。
ただ不自然に黙り込んだ相手の視線を追いかけて、女も沈黙。
それでもとどまっているわけにもいかないし、濡れたままの体は冷える。
少々煩悶を抱えつつも女も静かに歩きだす。
若干俯きがち。
■ヴァン > 脱衣所の中に入ると番台、女の従業員が立っている。近づくと手慣れた仕草で二着のセットを男に差し出した。
浴衣の大きさは体格で判断しているようだ。濡れた服はここに持って来ればよい、と言われ頷く。
セットの中には浴衣の他には大小のタオルと小さな石鹸。
浴衣に着替え、服を預けてまた浴衣を脱ぐ。下着ごと服を番台に預けたから、棚に置かれた籠の中に入れるのは大きなタオルだけだ。
小さなタオルで前を隠し、歩くたびに首から提げられた聖印が揺れる。
「……すまない」
なんと声をかければいいのかわからずに。離れすぎるのもよくないだろうと思いながら浴場に。
その間、男は女の姿を視界の端に留めるのみにしていた。
かけ湯をしてから、小さな部屋が4つは入りそうな広い石造りの浴槽に入る。
女の姿を直視しないようにしながら、湯船につかると落ち着いたのか、長い息をついた。
水音で女の身体が首から下が湯船に浸かっただろうと思ってから顔を向ける。申し訳なさそうな笑み。
窓が近いのか、外の雨音が浴場にも聞こえてくる。
「身体が温まったら食堂で軽く何か食べて、服が乾いたら戻ろう。雨がいつやむかはわからないが」
■マーシュ > 当然のように脱衣所も一つだったことに、若干狼狽えた、が、そのせいで表情が変わらないのは、感情が表に出ない己もたまにはいいのかもしれない、と余計なことを考えることで羞恥を散らしつつ。
渡された籠と、それから浴衣。説明に耳を傾ける。
自分たちの姿でおおよそのことは察しているのだろう従業員は慣れたものだった。
濡れて張り付いたような衣服を解くのは少々難儀したけれど、やはり体が冷えていたこともあって少しほっとした。
相手に倣うようにはしたものの、羞恥はさすがに拭えない。
「ぇ、ええと、ええと……、謝られると、困ります」
謝罪の言葉に、あちこちに視線を彷徨わせたのちに、応じた。
極力男の方を見ないのは、お互いの肌が露わなのを意識しすぎないように、だけれど途中であきらめたようにため息をついて、眉尻を下げて目を細めた。
浴場にはいれば、湯気と熱気。
ひとまずは各々体を流す。
湯船に髪が浸からないように項を見せる程度に髪を上げ。
己を気遣ってかこちらを見ないようにしてもらっている間に、湯に身を沈めた。
湯の音を合図にしてかこちらに顔を向けた相手の表情に応じるように、顎先を湯につけるようにして目を伏せる。
体をつけると、じんわりとした熱が染み入るのを感じ。
先ほど逃れてきた雨音が、籠って響くのに風情を感じるのは、やはり人心地つけたからなのだろう。
「はい、そういたしましょう、……ヴァン様も狼狽えることがあるんですね」
ふ、と呼気を抜きがてら。己の緊張をほぐすように小さく軽口をたたいた。
■ヴァン > 謝罪の後の反応には頷くのみ。
一度見たことがあるとはいえ、それは極めて私的な空間で、互いにそうなることを予想してのこと。
今のように不意に公共に近い場所でそうなるとは思ってもいない。
「ん……?そりゃ、俺だってうろたえることぐらいあるさ。
ここが時々混浴になることは知っていたが、一人でしか来たことがなくてね。
こう……女性の友人と一緒に入ることになるなんて、想像したこともなかった」
女の軽口に微笑むと、湯の暖かさが心地よいのかしばし、湯の中で身体を伸ばした。
髪を上げる姿に、その姿もいいな、と褒める。どのようにしたら長い髪が上がるのか、不思議そうな表情。
「マーシュさんはここに来るのははじめて?
俺は時々ここに来る。家に帰ればシャワーを浴びることはできるが、湯船に浸かりたい時もあるから。
修道院や王城ではお風呂ってどうしてるの?」
とりとめもない雑談。女の顔よりやや上を見ているような気がするのは、直視し辛いからか。
お湯を掌で掬い顔にかけた後、手櫛で髪を後ろに流す。オールバックの男は歳相応の顔つきをしていた。
■マーシュ > 最初こそ緊張はしていたが、お湯の温かさに徐々にそれらがほぐれてゆく。
初対面というわけでもないし、それなりに親交があるから、というのが大きい。
「私はあまりこういったところは使用いたしませんので……。たしかに、新鮮ですね。」
思ってもみなかった、という点では女も同じ。
この浴場以外にも、いろいろお湯の種類はあるようで、と入口の案内板を思い返してつらりと言葉を発した。
髪のあげ方を問われると、軽く眉を上げて、少し背筋を伸ばした。
パシャ、と軽い湯の音を立てて背中を向ける。
そう強くまとめているわけではないのを一度解いて、湯に浸かる前に片手で巻き取ると、軽くねじるようにしてもう一度元のように上げてみせる。
それを木製のピンでとめて、おわり。
あくまで簡易的なので、と言葉を添えたのちにまたもとのように身を沈めた。
「以前、泥水がかかった時に好意で利用券を戴きました。……普段は、王城の沐浴場か、そうでない時は部屋で体を拭いたり。お湯に浸かる、というのはあまりなくて」
ですが、こういうのもいいですね、と肩に湯をかけて、その温かみを楽しめるのに純粋にうれしそうな表情。
此方を気遣ってか視線がやや上部へと向けられているのに、口許に手を宛がって静かに笑う。
■ヴァン > 「サウナや打たせ湯、泡が出るお湯……ちょっとした娯楽施設だね、ここは。」
背中を見せると、自然とその姿を視界の中心に捉える。髪をほどき、纏める姿を見ると感心したように声が漏れる。
振り返った後、視線はまた、少し上に。
「泥水……馬とか馬車とか?いい人なのか、評判を気にする人なのか。
やっぱりこうやって湯に浸かるのは珍しいか……あ」
嬉しそうな表情は視界のやや下側、その時ばかりは頭の少し上から顔を視界の中心に。
口許に手をあてて笑う姿に、つられるように笑った。
最後に漏れた言葉と共に、男の眉が顰められた。忌々しそうに舌打ちする姿を女は初めて見るかもしれない。
男の視線の先にある脱衣所への扉が開き、4,5人の女達が半裸の姿で浴場へと入ってくる。服装からして従業員のようだ。少し遅れて小さな箱を持った男。洗い場の隅にその集団は陣取ると、身体を洗っていた何人かの男客たちが向かっていく。
浴場には柱や低い壁があるため、湯船に浸かっている分には集団の姿はよく見えない。
「マーシュさん、ちょっと、こっち側に……」
呼びかけるが、無駄な努力だった。女達のあられもない嬌声、あえぎ声が浴室中に響き渡る。
■マーシュ > 「お風呂に入る、ことも娯楽の一つなのですね」
楽しみ方は人それぞれ。
己にとっては、禊や、体を清潔に保つためのものではあったが。場所や、やり方を変えるのは十分新鮮で、同時にくつろげもする。
「ええ、馬車の車輪が水たまりの水をはね上げて、乗っておられた方が親切にも、ですね」
あの時は、なんとなくお湯には浸からず、足湯だけで済ませたので、と答えながら。
湯の熱で緊張がほぐれて、表情もほころんで、それでお互い穏やかな空気でいられるのならば、まあ混浴も悪くはないの、かも、と思っていたのだが。
不意に険しくなった相手の表情と舌打ちに訝しむように首を傾げた。
追いかけた視線の先、女性たちの姿と、男性客が其方へと向かってゆくのが己が捕らえられた姿だったが。
「──え」
己を呼び寄せる声に顔を上げたのだが、聞こえ始めた声に、驚いたように目を瞠る。
浴場だから、籠っているとはいえ音が響くのは当然とはいえ。
「…………」
声や、音が何をしているのかは如実で、見えないだけで何をしているのかは理解してしまった。
湯の熱だけではない朱が、女の頬に上った。
「んー………」
相手の気遣いが無駄になってしまったことには目を伏せて。
そういうことを行う場所でもあったのを改めて知る。
何をしているのか、と問うのも無粋、というか、意識せざるを得なくなりそう。わずかに思案して
最初の言葉通りに身を寄せた。内緒話するような距離間でひっそり、と
「今日は、そういうことに縁があるんでしょうか…?」
■ヴァン > 「じゃあ、ここで湯船に浸かるのは初めてか。よかった……のか、なぁ」
ハプニングでも転じて、女が楽しんでくれたのなら男にとっては良いのだろう。
穏やかな時間が終わりをつげ、肉がうちつけられる音などが耳に入る。
頬を染める相手に対し、ばつが悪そうな顔で説明する。
「俺個人としては、そういうのを君に意識させるような出来事は避けてきたつもりだったんだが。
……ここの従業員が時々、ああやって小遣い稼ぎをするんだ。一緒にいる男は金庫番だな。
客の男も勝手知ったる……ってことで、浴室に硬貨を持ち込んだりしてる」
この行為が従業員の独断ではなく、宿公認のものであることを匂わせる。内心、よく知ってるなと言われないことを願いつつ。
説明する間も、嬌声は止まない。全員に聞かせようとしているかのようだ。
「……うん、さっさと出よう。こういうことがあるからここは気が休まらないんだ。
っと、ちょっと様子を見た方が良さそうだ」
立ち上がろうとして、視線の先が白いことに気付く。湯気ではない。
白い煙のようなものは、洗い場の半分ほど、地上から2mほど上を漂っていた。
空気が流れる関係か、白い煙は浴槽の上にはきていない。
一分もしないうちに、音が複数個所から聞こえるようになった。理由を察し、無表情になる。あの煙は催淫性の媚薬。
ただ息を止めて走り抜けるだけならなんとかなるだろう。マーシュが同じことをできるかは疑わしかった。
どうしたものか、と悩ましげな表情。
■マーシュ > 「少なくとも、楽しく思ってはいますので」
そうしたことでもなければ、己の立場で、混浴に足を踏み入れることはないだろう。
事故であったり、故意に暖簾に細工などされていなければ、だが。
説明の言葉に対しては不思議そうな眼差しを向けて。
「避ける、というのはどうしてですか?」
男が杞憂していることではない方向性で気になった言葉への問いかけを向けた。
その間も実に悩ましい、というよりは生々しい音や声が聞こえてくるのだが。
ある種それもまた、客を引き寄せるための呼び込みならば、聞かせるように響くのかもしれない。
「………え、と、は、ぃ?」
会話の途中で湯から引き揚げようと促す言葉に、遅れて立ち上がろうとしたのだが、歯切れ悪くそれも潰えたのに、ちゃぷ、とお湯に戻ったなら。わずかに逡巡しつつ手を伸ばした。
「……先ほどの図書館のような事情ではないようですし。落ち着くまでいてもいいのではないでしょうか」
彼が何に対して逡巡しているのか、その事情は分からない。
悩ましい音の中くつろげげない、と言われたらそれまでではあるが──。
■ヴァン > 「それは……あんまり、『代価』を意識させたくないからさ。
君とは自然体でのつきあいでいたい。きっかけはどうあれ、普通の友人としてね」
生々しい音や声はある程度でそれ以上増えることはなくなった。浴室にいる男女の数が限られているのだから、当然といえば当然か。
同じ湯船、遥か向うで老婆が数人、のんびりとお湯を楽しんでいるのが見える。呑気でいいな、と苦笑が漏れた。
「そうしよう。換気がされればみんな正気に戻ると思う。隅っこのあのエリアを除けば、だが。
まずい。まずいまずい……」
周囲に視線を向ける。白い煙を吸引し性欲を無理矢理高めさせられ、いた場所が悪かったのかそれ以外の理由か、とにかく『つがい』を見つけられなかった不幸な男達。彼等は空いている女がいないかとのそのそと歩き回り、最終的には見目麗しい女をターゲットに、距離を取りながらも視線を向ける。
マーシュには7,8人の視線が注がれていた。
己自身を猛らせながらも手とタオルで前を隠すのは傍から見れば滑稽か。少しづつ近づく男達に、殺気の籠った視線で睥睨する。
「おい……俺はこの娘を、お前達とシェアする気はねーぞ。湯船に入ったらただじゃおかん。
……マーシュさん、こっちに」
犬歯を見せるように、笑みとも威嚇ともとれない表情をして独占を宣言する。ひるんだ何人かの男が退散するも、まだ数人が窺っている。
浴槽の端は椅子のように段差があり、腰掛けることができる。女の腰に手を回しながら、壁際へと移動した。
まず己が深く腰掛け、開いた足の間に女を座らせる。後ろから緩く抱き寄せると、女の背中に男の胸と、提げられていた聖印があたった。
■マーシュ > 「……『代価』、と言っても知りたいことはすでに教えていただいたような状況ですからね───………」
代価の内容を思えば、確かに慎重にはなるのだろう。
彼は思った以上に紳士で、それから己を尊重してくれているのは、それすらも含めてなのだが。
「そうです、ね…?」
まずい、と紡がれる言葉に首を傾けたが、うろついている男性客が数人此方に気づいたのに流石に寛ぐ、というわけにもいかないのか。
欲望に負けたような粘着く視線に、少し、身を固くした。
彼が危惧していたのはこれなのだろうか、と思ったが、呼ばれるまま相手の誘導する方向に身を寄せたまでは良かったが。
「────っ、……」
背後から緩く、守るように抱き寄せられるのに、普段とは違う距離の近さに背筋が伸びる。
他意はないのはわかっていても、背中に感じる相手の肉質と、それからいつも胸元に下げられている聖印の硬い感触。
湯の流れる音や、少し遠くなった悩ましい声や音がひどく客観的に耳に響いた。
どう、反応するべきなのか、何が正解なのか、考えあぐねて。
だが。
「───ありがとうございます」
彼我の違いは性別以外にも明確だ。
それでもこちらを立てて、尊重してくれていることへ。
こうして理不尽なものから守ってもらっていることに対しても。
浮力があるから背筋を伸ばすのもそこまで辛くはなかったが──。
相手を受け入れていることを示すように少しだけ凭れかかった。
湯の中と言えど、触れあった熱は、重ねた肌の記憶に少しだけ近くなる。
■ヴァン > 「そういうこと。そんな取引があったことすら、お互い覚えてない状況が俺の理想さ」
にっと笑う。男の過去からして、友人とは貴重な存在なのだろう。
抱き寄せた際、少し背筋が伸び、身体が硬くなったのを察したか。手で腕をとんとん、とあやすように軽く叩く。
軽く息をつき、耳元に口を寄せた。女の尻に柔らかい男自身があたる。
「今日一日で、何回謝ったかな……。手伝ってほしいことがある。
マーシュさんを狙っている男連中を諦めさせる必要がある。棒読みでいいから演技してほしい。アドリブも歓迎だ。
あいつら全員ぶん殴れば済む話なんだが、彼等もあの白い煙を吸っておかしくなった被害者だ。できれば避けたい」
自嘲気味に呟いた後、囁くようにお願いをする。凭れ掛かる身体を男はしっかりと受け止めた。
マーシュの胸から5,6cm手前に掌を出して、指先を動かしはじめる。
間近で見れば誰でもわかるが、湯煙がある浴室内、しかも10m以上も離れていると意外とばれないらしい。
周囲の男達の目には、男が女の乳房を捏ね回しているように映っているようだ。銀髪の男女が絡み合いはじめたのを見て、何人かは他に自由にできそうな相手を探しに、マーシュを諦めたようだった。残りは2、3人。
男の細い指先は先端の周囲を擦り、二本の指で挟み、三本にしては抓り、刺激を与えていくような動きを見せる。実際には肌にさえ触れていない。手の動きは、女に数日前のことを思い起こさせるだろうか。
男は顔をやや前に出し、互いに顔が見えるようにする。変な事に巻き込んでしまったな、という申し訳なさが伝わってくる。
「なに、当たり前のことさ」
感謝の言葉には、ゆるく頭を振った。意図的ではないにせよ、理不尽に巻き込んだのは他ならぬ男自身でもある。
■マーシュ > 「あまりお気になさらず。……忘れてはいませんでしたが、私も似たようなものですね」
切っ掛け、とはなったが。別にそれを縛りにするわけでもなく。
ただ、それは別として、友誼を深めるのは好ましい。
ただ、距離が近いのに緊張を帯びるのは、普段そこまでの接触を基本的に余人に許さない女の性質があるせいだ。
耳元に触れるか触れないかの感触にくすぐったそうに身を竦め。
「てつだ、ぅ、です、か………演技───……?」
殴る、という選択肢を流石に許すのはどうかと思ったのか目を伏せて。ささやきに応じた。
ちゃぷん、と湯の揺れる音。胸の前に寄せられた掌が、けれど実際は空を掴んだ動きで蠢くのを見やって、少しだけ気恥しくもある。
まだこちらを伺っているような男性客の視線を感じつつ──
「ん……、……っ、」
意図して声を出すことの難しさと、羞恥。
ぎこちなく身じろいで湯の音をはねさせてしまうのは演技ではないが、目に映る手の動きが、どうしたって睦み合いの記憶が同時によみがえって羞恥に肌が染まるのは致し方ない。
「───、っ、あ、の……っ、………」
思った以上に恥ずかしい。吃音が買っているせいで、喘ぎとも聞こえなくはないのが幸い、だが。
此方を覗き込む表情は、申し訳なさが先に立っているようだけれど、こちらはそれ以上に惑っていた。
「……は、っ、…………ん、………っ──」
パシャ、と湯を波立たせて、手を、あげる。せめて手の動きを隠そうとでもいうように相手の手に己のそれを重ねたのだが。
同時に、互いの顔が見える状態、ということは向こう側から己が何をしてるのかは見えないということ。
この恥ずかしい状態を、申し訳なさそうにしている相手にも押し付けたくなった女は、少し顔を寄せて───。
男の口許に、僅かにずらして唇を押し当てる。
「は、恥ずかしぃのは、変わらないんですが、これ……!」
ひそりと、聞こえない声量で訴えた
■ヴァン > 演技を依頼する時、身を竦ませたのは耳元での囁きゆえか。
悪戯心が芽生えるが、後にとっておく。
横顔から窺える感情、そして漏れる声。羞恥に染まる姿。どれも記憶に留めたくなる。
「んっ……どう、した……?」
男の声色も、興奮しているのを表現しているつもりなのか。手が重ねられると、指先の動きを止める。
顔を寄せられると、不思議そうにして――。
不意打ちだったのか、口許に唇が押し当てられると肩が軽く震えた。少しだけ、男自身が反応する。
男は目を丸くしている。アドリブ歓迎とはいえ、女から能動的な行動に出るとは思ってもみなかったようだ。
「あと……1人だけ、諦めてない。煙は消えたから、もう少しだけ、我慢して」
ひそひそ声でこたえる。長く湯に浸かっているせいか、少し顔が赤い。
右手が湯の中に沈み込み、腹部へと添えられる。右腕の動きを遠くから見れば、女の秘所を指先が弄んでいることを想起させるか。
数十秒後。最後の一人は正気に返ったのか、銀髪の男女の姿を認めると恥ずかしそうにそそくさと立ち去った。
視界内から出歯亀が消え去ると、目を閉じて静かに安堵の息をついた。再び緩やかな力でマーシュを抱き寄せる。