2022/09/08 のログ
ご案内:「王都 平民区『神殿図書館』」にマーシュさんが現れました。
■マーシュ > 【本日お約束です】
ご案内:「王都 平民区『神殿図書館』」にヴァンさんが現れました。
■マーシュ > 富裕地区と平民地区の境界線。
神殿所有の図書館の前に佇むのは、私服姿の女。
多少の手荷物を手にしつつ、平素のように静かな眼差しで、主教に属すというのに、聖職者が寄り付かない図書館を見上げていた。
「────さて、と、………いらっしゃるでしょうか」
正直彼の居場所をきちんと把握しているわけではない。
今日ここを訪ったのも、いる可能性が高い場所から訪れているだけだ。後は、借りた本の返却も兼ねて。
ただ懸念としては、手荷物があまり図書館という場所にそぐわないのではないか、という不安はありつつも───、その門をくぐることにした。
■ヴァン > 神殿図書館の受付カウンターから少し離れた所で、男は作業をしていた。書名が列挙されたリストと鞄の中に詰める本を照合する。鞄には車輪がついていて、小さい子供が入れそうな程度には大きい。
作業が一段落すると顔をあげ、入口をくぐる友人の姿を認める。少し離れているが、声をあげるわけにもいかない。
軽く手を振って、気付かないようなら近づいていく。
「やぁ、マーシュさん。こんにちわ。今日はお休み?それとも、何かの帰り?」
来館の理由に思い至る。以前己が見繕った本を読み終わるには十分な時間だ。
■マーシュ > 入り口をくぐり、視線を巡らせる間に、視界の端で手を振る姿を認めた。
常のように頭を下げる仕草を見せる。
携えている荷物には当然書籍もあったが。
「こんにちは、お邪魔いたします。ええと、休みの方で」
休みだと告げずとも、普段の修道服姿ではないのでそれとわかってしまいそうだが、ここを訪うにはこちらの方が目立たないような気はした。
逆に以前修道服のままの時、受付の司書には珍しそうな視線を投げかけられたのを覚えていたから。
「今日は以前貸し出していただいた書籍の返却と、あと────」
来館者としては当然の理由を一つ。
そこでいったん言葉を切って、どう告げようかを言いあぐねるように視線を彷徨わせたが──。
「ヴァン様をお目当てに」
端的な言葉は、端的に過ぎて、ある意味意味深な言葉ともとれるが───事実は事実だし、女の表情は真面目くさっている。
聞き咎めた誰かが固まるくらいだろうか。
■ヴァン > 「言われてみれば……」
私服だということに今更ながら気付く。先程まで取り組んでいた作業のせいで頭が回っていないようだった。
「単純な読み物としても面白かっただろう?あと……?」
言葉にやや詰まったようなので、首を傾げながら待つ。
何か相談事でもあるのか、と思いながら生真面目そうな顔を眺める。
マーシュからの言葉に、一瞬固まった。
「お目当て……って、俺は酒場の看板娘じゃないぞ。
何か用事があって会いに来たんだな。ここでいいかい?それとも――」
内容によっては衆目を集める一階ではなく、地下に移動した方がよい内容だろうか。来館者の邪魔にならぬよう、壁際に歩き出す。
■マーシュ > 「ええ、大変面白かったです。知らない土地のことが忌憚なく描かれていて、文章も読みやすかったので」
相手の言葉に首肯とともに書籍の感想を返す。
女はその性質上あまりほかの土地のことを知らない。
だから、いまだ訪れたことのない土地の物語であり、その土地の在り方などを著者自身の目線で語られたそれは、純粋に面白くもあったのだ。
それから己のつづけた言葉に、表情が固まったの訝しそうに視線をやって、それから端的すぎる言葉に気が付いて、口許を抑えた。
「────ぁ、ええと、はい、そうですね」
指名で司書をえらべるのだろうか、と若干思ってしまったのだけれど、知り合いと呼べるような存在はここでは相手しかいない。
失言に少々目許を伏せながら、用事というほどのことではないのですが、と、口許を蠢かせた。
「あ、…ぅ、ん、そうですね。ここよりは地下の方が、いいのかもしれません…?」
誘導に従い、歩を進め。
特に疚しいことがあるわけではないのだけれど、地上階でやり取りをするには確かに気恥しさも芽生えたからだ。
とりあえずまずは返却を、と読み終えた書籍の返却手続きをお願いしつつ。
■ヴァン > 「それはよかった。今日も何か借りていくといい。
旅行記は国内のものも面白いが、特に海外のものが人気がある。文化や言葉の違いからくる失敗談とかね。
国内でも珍しい土地はあるけどね。南の方には王国内なのに数年前まで主教が存在しなかった所があるんだ」
雑談をしながら取り出された本を受け取ると、少し待つようにと伝えて代わりに返却手続きを行う。
同僚に何か指示をすると、先程まで本を詰めていた鞄を受付カウンターの中へと仕舞わせた。
「お待たせ。じゃあ行こうか」
言葉のトーンから、地下であることは必須ではなく、可能ならば程度であることが気になったのか、不思議そうな顔をした。
階段を下り、センサーを解除し、どこへ向かったものか足を止める。逡巡の後に宿直室に向かい、机の前の椅子に座るように促す。
扉は開けたまま、ベッドに腰掛ける。深刻な話ではなかろうとリラックスしている。
「で、マーシュさん。用事というのは?」
■マーシュ > 「ええ、異なる国の文化は、確かに興味深いです。またそのような本を紹介していただけると嬉しいですが、───へえ?」
今では主流になっている主教の分布に、それでも空きがあったことに驚いたように目を瞠る。
宣教師たちの活動は熱心であったし、存在しなかった、というのに興味をそそられた。
返却作業を行ってくれるのを見守りながら、林立する書架に視線を滑らせる。
紹介された本以外にも何かあれば借りよう、と己が興味のあるあたりに視線を馳せていた。
ややあって戻ってきた相手の後ろをついて、一度たどった道を歩く。
インクの香りと、羊皮紙の香り。
独特のそれは、少し落ち着く。
以前訪った時よりは余裕をもって周囲を観察できるのは、多少は己の心持も変わったからかと思いながら、少し暗くなってゆく地下への階段を降りてゆく。
少しだけひんやりとした空気が頬を撫でるのを感じながら、書架ではなく、宿直室に通されると、ここなら大丈夫なのかな、と視線を巡らせた。
不思議そうな相手の表情に若干視線をそらしがち、ではあるがたしかに今日はそう堅い話でもない。
促されるまま椅子に腰かけ、持っていたかごを膝の上に。
単刀直入な問いかけに、ええと、とこちらが口ごもった。
「いえ、ごく個人的な要件でしたので、たいしたことではないのですが───」
言葉を挟んで、どうしたものか、と思考を巡らせつつ。
「……そうですね。いろいろ話を聞いていただいて、きちんとお礼を申し上げていなかったこと、と」
落ち着いたはずの椅子から立ち上がると、手にしていた籠を相手の手元に差し出した。
「……この前のようなお礼の方法は、ヴァン様にとってはあまり本意ではないのかな、とも思いまして、改めて───」
籠からは仄かに甘い香り。
蓋を開けると、それはより強く。バターと砂糖の香ばしさが広がるだろう。
中に詰められていたのは丸い焼き菓子と、長方形の焼き菓子。それに小さな瓶詰のジャム。
「あまりこれといったものが思い浮かばなくて、あまりここにふさわしいものでもなかったかな、と思うのですが」
取り出すのをためらったのは、こうしたものが書籍には良くないことは重々承知しているからだった。
■ヴァン > 「オリーブ、じゃなくて……オリアーブ島という所が南海にあるんだ。ここから陸路で数日の距離かな。
7年前だったか、そこの女王ってのがマグメール王を名乗って戦争になったんだよ。ま、その話はいいや。
その島はわりと閉鎖的だったらしくてね。戦争前は主教がなかったらしい」
男も詳しくは知らないようだった。
主教がない場所に興味を持たないだろうことは、ヴァンがマーシュに伝えた話から容易に想像がつくだろうか。
宿直室でなお言葉を探す女に、思ったより深刻な話なのかな、と居住まいをただす。お礼、とのことにふっと力を抜いた。
「あぁ……俺が好きでやっていることだ、気にしなくていいのに。この前……?」
何かあったかな、と思い返す。直近で会ったのは霊園。その前は安息日か。
うーん、と唸ってみるが思い出せない。自室で教えた内容のことを指しているのか。
ともあれ、その内容は本題ではない。改めてという言葉に籠の中を見遣る。
「おぉ……これ、マーシュさんが作ったのかい?
食べながらページを摘ままなければ大丈夫さ」
立ち上がると食料が保存されている棚を漁る。瓶詰めの冷たいお茶を見つけ、まぁいいかと取り出した。
コルクを抜けばすぐ飲めるそれを1つはマーシュに、1つは自分にと机に置く。
「ありがとう。じゃあ、早速いただいてもいいかな」
一つを手に取ると最初はジャムなしで口に運ぶ。咀嚼し、少し驚くような表情。マーシュも一緒に食べるように掌で示す。
「シスターってのは色んなスキルがあるんだな。医療なり修繕なり調理なり。大したもんだ……」
■マーシュ > 「そんな近い場所で、というのは少々意外ですね。───戦争。たしか200年前も、戦争があったのですよね」
戦争そのものには興味のなさそうな言葉に、関連性はとくにはないだろうが思い付きのままに言葉を紡ぐものの、続く言葉に、己の足りない言葉を補填するように口を開く。
「はい、ええと、霊園で───。友とおっしゃっていただいたのに感謝を」
もちろんそこにつづくまでもいろいろあるのだけれど。
「はい、できるのはこれくらいですし。ヴァン様はお茶を嗜まれるようでしたからお口に合えば、と…?」
丸い焼き菓子はそのままバターと砂糖の甘さで。長方形の焼き菓子は、それとは逆にチーズと胡椒で、どちらかというと酒にも合うような味わい。
ジャムは城の庭園で主教関係者が儀礼用に育てている薔薇のそれ。
一つ一つを説明して、問題がないのであれば少々ほっとした。
「───?」
取り出された瓶に不思議そうな表情。中のそれが液体で、お茶、というのにそのまま瞬いた。
促されるまま再び席について、コルクの蓋を開ける。
普段お茶は淹れるものだと思っていたのもあって、そうした保存をされるというのが意外だった。
「あ、はい。どうぞ」
促されるまま、甘い方を一つつまんで口にする。
味わいは、己が作ったのだから、口に馴染んだ味わい。材料もほぼバターと砂糖、小麦だけ、という素朴さ。
咀嚼し、飲み込んでから、首を横に振った。
「できる、というだけで長けているわけではございませんので……。」
王都に並ぶ菓子店の方が、よほど味わい深いものを出してくれるのではないか、と答えた。
医療にしても、己ができるのは多少の補助と、簡単な神聖魔法だけ。
その点は騎士の称号を持つ相手も同じでは、と首を傾けた。
■ヴァン > 焼き菓子をそれぞれ一つづつ食べ、長方形の方は後で食べることにしたのか、手を伸ばすのは丸い方。
「まだ扱っている所は少ないのかな。飲み物をこうやって瓶に入れて売ってるお店があるんだ。
飲み終わったら瓶を戻せばちょっとお金が戻ってくる。普通なら日持ちしないけど、魔法で何日かは保つようにしてるんだ。
風味は淹れ立てにはかなわないが、手軽なのがいい」
瓶詰のお茶について説明をしながら、丸い焼き菓子をもう一つ。バターの香りが鼻に抜ける。
焼き菓子を楽しみつつも、思い返すように口にした。
「友人、といえば……俺以外に、気軽に話ができる人っている?
仕事が最初の接点だとしても、そこから仲良くなっていくってことはあると思う。
街に出るようになったのが最近だから、これからできる感じかな」
少々堅物っぽく見えるところはあるが、若い男ならアプローチをかけてくるのも多いだろう。
女はどうだろうか。何か趣味などが共通いていれば増えるのかもしれないが、オジサンを自認する男にはよくわからない。
「そんなものかな。マーシュさんにとって、俺が紅茶を淹れるのがうまく見えるのと同じか。
上を見たらきりがないさ。できる、っていうだけで凄いと思う。
俺ができることは……なんだろうな。司書と戦闘と魔法と……あとこうやって、綺麗な女の子とお茶を飲めるぐらいか」
冗談めかして話す。考えてみればこの男、業務時間中である。ある意味職場で堂々とさぼっているのも才能と言えた。
■マーシュ > 「……保存の魔法ですか、面白いですね」
手の中の瓶をしげしげと眺め、瓶に口をつける。
たしかに、お茶の風味が口に広がる。不思議なものだな、と思いながら一口一口を静かに嚥下した。
「そうですね、王都にきてからは日が浅いので───、時折お声掛けはしていただきますが」
相手の言葉に少し首をかしげて答える。
親切にしてもらった人は幾人か、基本的に行きずりだし、再会があるかというと、正直なところわからない。
どちらかというと、勤めの間は個人としてのそれよりは、修道女としての認識が強いだろうし、女もそうやって個性のないのを良しとしているのは、無私、の精神があるからだろう。
───そうでない会話を交わそうとした其方が珍しいのですよ、と静かに告げた。
「…………はい。あの時のお茶は、美味しかったのは事実ですし。
……どれも私には難しいことですね。─────」
己を言祝ぐような言葉に一瞬つまる。
否定しようとしたが、そうしたら以前たしなめられたのを思い出して、若干ぎこちなく頷いた。
「ええと、ありがとうございます……。が、こちらこそ、こうして一緒にお時間を戴けて感謝しております」
静かに照れたように目許を染めて、視線を横にそらした。
■ヴァン > 「それなりに魔力を消費するから作れる数が限られるのが残念な所だ。
魔力の総量が大きい人なら大量生産できるだろうが……」
そんなに力のある人なら、もっと魔力を別のことに使うだろう。自分もお茶を飲みながら、ままならないなと呟く。
マーシュの話をきく限り、今の所親しくなりそうな人はいなさそうだ。こうやって話せる時間が多いのは喜ばしいことだが、友人が増えることは彼女にとっても世界が広がるだろうと考えると呑気に嬉しがってもいられない。
「そうだな。マーシュさん、最初は名前教えてくれなかったもんな。『若輩にございます』って。
学院に教会の人間がいるのは珍しかったからさ。興味本位で修繕をみにいったのはよかったと思う」
似てない声真似をして揶揄いながらも、男は柔らかく微笑む。お茶を褒められるとやはり嬉しいのだろうか。
「また飲みに来るかい?自宅の蔵書はこことは違ったラインナップだから、それなりに楽しめると思うよ。
一部はあの部屋で読んでもらうことになるが」
男の言葉が本当ならば、焚書対象や禁書を複数冊持っていることになる。さすがに扉から見える本の数には敵わないだろうが。
照れる姿を見てにこにこと笑う。最初に会った頃に比べ、表情が豊かになったと告げる。
■マーシュ > 「……残念です。……薬や薬剤の保存に使えるかと思いましたが──」
学べるものであれば学んで、その一助に己の拙い力をつかえるかと思ったが、魔力消費が大きいと聞いて少し残念そうに眉尻を下げた。
───精神力は遣いすぎれば身を削る、のは身をもって理解していることでもあったから、素直に引き下がった。
相手の懸念には大丈夫ですよ、と柔く応じた。
縁があること自体は否定するつもりはないからだ。
「…………気をつけます。聖都ではあまり気にされたことはございませんでしたので。王都でも、あまり名乗る機会もございませんでしたし」
初対面時のことを持ちだされると気まずそうに肩を竦めた。
ただ、修繕のために学院の図書館にはまた訪れるだろうとも返し。
「ヴァン様がよろしいのであれば、伺えると嬉しいです。」
手の中のお茶の瓶に視線を落として、申し出には素直に応じる。
なぜか笑顔の相手の言葉に、僅かに目を細めた。
……宗教者としてはあまり良いことではないようには感じる。
奉仕者は、無私であることが至上だと自認するがゆえに。
けれど────
「友誼を、感じていただけること、そうして、こちらを気にかけてくださる、というのに感情を持たずにいられるのは難しいことですね」
感謝と喜びは、否定するものでもないから、難しいものです、と困ったように笑んだ。
■ヴァン > 「薬か……それならうまくいくかもしれない。
保存の魔法というのは、正確には対象の時の流れを遅くするものだ。こういったお茶は安全に飲めるのが1日程度なのを3,4倍にしている。薬や薬剤はもっと保つだろう?魔法の仕組みについて、話だけでも聞いてみるといいかも」
後でその魔法を使う奴を紹介するよ、と話す。天井を指さしたところをみるに、どうやら同僚の1人らしい。
「あぁ、いや。責めてる訳じゃない。聖都では『集団の1人』でも、ここでは『個』として見られることも多い。
マーシュさんが望む・望まないにかかわらずね」
来訪に前向きな反応をみれば、帰ったら本棚を精査しようと心に決める。
目を細め紡がれる言葉には頷きつつも。
「色々な職業や属性で縛られても、それ以前に我々は人間だ。感情を持ち、それを表すことは主教でも禁じてはいない。
強い負の感情を人にぶつけるのは良いことではないが、ポジティブな感情を表明するのはいいと思うよ。
受け取った相手も、同じものを返そうとする。それが繰り返されれば、お互い良い気分になる」
■マーシュ > 「……であれば、施療院の方にお渡しする生薬の鮮度もよくなりそうですね。はい、ぜひ伺いたいです」
勿論、薬の製造は己だけが携わっていることではないが、それでもそうした知識の共有は悪いことには思わない。
職責としてもそうだが、純粋にそうした知識を増やすことは好ましい。
「───失礼である、というのは確かでしたから。あまり、そうしたことに重きを置いていなかったので、改めて感じたというか………、はい、そのようです」
王都にきてからは、集団の中の一人、としてよりは個人である己に興味を傾けてくれる言葉も耳にする。それがいいのか悪いのかは、己には判別がつかないが。
「────……難しいですね」
あまり強い感情の発露をするようには育てられなかった。それ自体は、こうした務めを果たすうえでは、良いものとして作用しているとはおもう。
けれど同時に、個としての己としては、感情の発露への罪悪感をほんのわずか宿しもするのだ。
それが躊躇いや、言いよどみにつながっていることも少しじかくで来たが。
「……そうですね。良い感情の反射、というのは───」
ゆる、と視線が、焼き菓子の詰まったバスケットへと向けられて。
静かに頷いた。
「ヴァン様も良い気分になってくだされば幸いです」
■ヴァン > 「いや……まぁ。思い返せば、最後にやったことがあるからなぁ。名乗らないのも当然といえば当然な気はする」
最後というのは、額への口づけ。単語を調べるように忠告した際の、異常さを伝えるための工夫。
ただ調べるようにとの言葉なら、人によっては忘れたり、聞き流したりしてしまうだろう。
変なことを一緒にすればその危険性は減る。代わりに男への不信感が増えただろうが、結果オーライということか。
「難しい、かもしれないな。たとえば厳格な親に育てられた子は感情表現が苦手だと聞いたことがある。
無理強いはしない。自分にとって一番いいやり方を試行錯誤するのがいいんじゃないかな。
俺?俺はこうやって、君と話ができているだけで十分なっているよ。マーシュさんも、そうであってほしい」
つられるようにバスケットへと視線が移り、頷く。
お茶が入った瓶が空になると机の上に置いて、立ち上がる。あまり長時間さぼっているのも具合が悪いらしい。少しは仕事らしいことをしようかと。
「ここまで下りてきたんだ。本棚のタイトルだけでも見ていくかい?それとも、あと少ししたら俺は学院の図書館まで行くんだけど、一緒に来る?」