2022/04/09 のログ
ご案内:「設定自由部屋3/腐海沿いの翳りの森」に影時さんが現れました。
ご案内:「設定自由部屋3/腐海沿いの翳りの森」にジギィさんが現れました。
■影時 > ――森は多く見てみたけれども、ヒト以外の者の手が入った森というのは、何か違うものがあるのだろうか。
例えば原生林なる形容、表現をされる森は何よりも生命の生々流転のありようを、その全体をもって表している。
永く永くあり続けた木は高く、その幹を太らせて年輪を重ね、一方で日照を遮られて枯死したものは腐り、落葉と混然として若木の糧と成る。
行儀よく、整った植生が見えるのは、云わば庭園を管理する庭師の手が入って管理されていてこその情景だ。
材木とするために特定の種の木が多く植えられた森と違い、天性の庭師めいたモノたちが手をかけた森はきっと偏りなく在ることだろう。
だが、それも一たび管理の手が離れてしまえば、手前勝手の繁茂が始まってしまう。
しかも目に見えぬ環境の歪みめいた霊的な干渉さえ加わってしまえば、自然の働きは一層カオスめいた様相を見せてもおかしくはない。
その結果、出来上がった場所がここだ。人を寄せ付けぬ危険地帯であるとともに、多様な森林資源が生い茂る領域。
「……名は体を表すたァ、よく言ったモンだ。樹海の類は色々見てきたが、ここもまた一筋縄じゃぁいかなそうだ」
そんな言葉が零れては、森に陰のように落ちる静けさに落ちて消える。
ここは王国北方、魔族の国に近い山岳地帯に広がる森の一つ。その外輪部。人が切り開き、踏み均したことで辛うじて入り口の体を保つ場所に立つ姿がある。
いくつかの荷物と籠を固定した背負子を担ぎ、柿渋色の羽織を纏った忍び装束姿の男だ。
口元を覆う黒い覆面の下で言葉とともに慨嘆めいた表情を浮かべ、空を仰ぐ。
南中を過ぎた日の傾きは何度見ても、昼間であるはず。しかし、視線を下し、遠く透かし見る森の向こうはー―彼方まで視線が通る感覚がない。
鬱蒼とした枝葉の茂りとはさながら、競い合うかの如く。陽だまりを独り占めしたいという欲求とは、動物も植物もかわりはないのだろう。
中継点、経路として立ち寄った近隣の村でも、魔物が出るという噂も聞いた。
この森かその向こうには、エルフの住処もあったらしいという話も。
■ジギィ > 「まあー元々一筋縄じゃない存在が支配してた、っていうか今も支配している場所だからね。
カゲトキさんの言う樹海も気になるけど、多分他にはなかなかないんじゃないかなー」
荷物を背負った彼の隣、すこし場違いに軽い口調で銅色の肌のエルフが並び立つ。彼と比較すると、荷物はかなり少ない。……彼に任せているといっても良いかもしれない。
エルフのどんぐりまなこは瞬きはするが、森を見通すに苦はないらしい。目を眇めることはないけれど、ほんの少しその太い眉が寄っている。
彼にこの未開の地の探索を誘われたとき、あっさりとこのエルフは『知っている』と答えた。生まれ育った場所、その辺りだと。
里自体は深い深い森の奥、更に深くに今も――――その残骸を、残しているだろうか。
「んーと、口元の布はなるべく取らないようにね。空気を吸うとすぐにどうこう、ってわけじゃないけど、場所によって上から胞子を降らせてくるやつがいるから。
あ、悪気はないのよ?
あとそうね、陽が全く差し込まない辺りまで行くと、動くものは大体こっちを捕食してくる類だからそれも。あとあと、足元はよく見る事。白っぽいものとか湿っている様に見える所は絶対踏んじゃ駄目。
―――――事前注意はそんなとこかな?
カゲトキさん的にはなにかある?」
エルフは滔々と奥を見詰めながら彼に話しかけて、スカーフを口元まで引っ張り上げる。
彼の発言を促しながらも、視線は森の奥、蔭のふかいほうへ向けたまま。
■影時 > 属する冒険者ギルドが発布している仕事の中で、今回受けた内容はそれなりの実力者であることが前提条件だった。
請けた依頼の内容は、大雑把に言えばこうだ。
高名な楽器作成者が良質かつ量のある木材を探し求めている。指定の地域に赴き、確保せよ――というもの。
確保した原木の運搬手段と報酬等はさておいて、依頼の実行者は樵めいたことを遣れる知識者、経験者が求められる。
前提となる知識と経験は持ち合わせているつもりだが、如何せん実行のための知識の面では不安が残る。
そうして、道連れを銅色の肌のエルフに求めた。未開といいうる筈の地域についても“知っている”と云えばなおのこと。
「ははは、現在進行形ってやつか。
森が広く広がっているトコを海に例えて樹海、と言ったりすンが、確かにこれはなかなかだ」
支配している、されている、か。
刃を布で包んだ斧を入れた籠付きの背負子だけを見れば、一見すれば野良仕事めいても見える。
だが、羽織の下の腰に帯びた刀と鎧の存在は魔物との遭遇戦も視野に入れたもの。
隠れる、やり過ごすにしても、どうしても避けえないものについては刃を交えざるを得ない。
「……――そういう手合いもいるのは覚悟してたが、想像している以上に大変そうだな。
諸々了解だ。こりゃ、魔性の森だ。白っぽいのはあれか、キノコの類かね。
先の村で聞いたが、“動く森”やらいう奴が徘徊しているという。
瘴気で狂った樹霊なのか、どうなのかはわからんが、とても大きな樹木の化け物らしい。
出来りゃあ遭遇は避けたい処だが、特に依頼者からの推薦の樹木を見つけて斬っているときに遭うのは避けておきたい。
まず、この点共有しておく」
覆面をこの姿では欠かさないのはある種昔からの癖と、魔族の国を往来するときからの習慣だが、この場所も正しいらしい。
防毒は大事そうだと改めて認識しながら、まずは足を踏み込みながら言葉を紡ごう。
「あと、出来りゃあ切ってもイイ樹だけを選んで切っておきたい。
推薦されてる樹は針葉樹の類だが、間伐してもいい手ごろな奴の見分けができそうなら教えてくれ」
よその国、特にエルフの手が入っているかもしれない森というのは、同族に見てもらうほうが一番間違いはないかもしれない。
そう思うがゆえに、今回は素直に頼む。
■ジギィ > 魔性、と聞いたエルフの口元がスカーフの下で笑むのが、三日月にすこし細くなった目元で解る。
「神聖な、といってほしいなー。 まあ、昔と比べると確かに魔性っていうに大分ふさわしくなっちゃったけど。
ンン、そうね。白っぽいのは大体菌糸の類か、両生類の卵関連。だいたい無害だけど、それに引き寄せられるものもあるから触らないに越したことは無いよ。
っ―――――――… そう。」
視線を先にやっていたエルフは、『動く森』と聞くと途端に彼を振り返る。見開かれた眼は明らかに心当たりがあるような、ただ驚いただけのような。
口元を覆ったスカーフのお陰でそれは判然としなかったが、エルフは暫く考える目をしてから、また先へと視線を戻した。
「すべては必要な所に足るように出てるはずだから、そうだなー若木の傍の古木から拝借するならたぶん色んな意味で大丈夫。
でもそのぶん太いから、重いよ?」
そう言いながら、何気ない風でエルフは森の中、陽の弱くなるほうへ足を踏み出す。
針葉樹というなら、方向に心当たりがある。
仲間と過ごした森の思い出は苦く感じてしまうけれど、感傷にひたる期間はとっくに過ぎてしまった。
(そんなタマでもないしね)
内心そんなことを思いつつ、彼を先導するように先立つ。表情を見られたくなかったからでは決してない。
踏み入れればすぐに分かる。香りが違う。濃すぎる緑と水と土の匂いは、一瞬であれば気が晴れるのであろうが…。
陽の差さない森の中は、シダ植物が弱々しく身を寄せ合っている。。
「しばらく平らな道だけど、根っこが隠れてるから注意してね」
エルフはひょいひょいと少し進んでから、彼の様子を一応伺うように振り返った。
■影時 > 「物は言いよう――ってコトにしとくか。
出る悉くが魔物かどうかというのは、大体害があるかどうかの有無で見方が違うのが嗤えんが。
白い奴は……ああ、卵か。なるほど、確かにあるか。その見方もこのあたりじゃあンのか。
……――やっぱりお前さん誘って正しかったな。
この国や土地の森には慣れたつもりだが、知らぬ土地に踏み入るならわかる奴に同道を乞う方が、……間違いはないか」
魔性の女、というコトバというのは喜ぶか嫌がるか、判断に迷う例え方か。
スカーフ越しに伺える表情を目元の形から察しながらも、続く言葉に対する反応に真逆な、と思考を巡らせる。
酒宴ながらもいつか聞いた話のことを思い出す。関係があるのか否か、今の時点では考えるべきもないが、何よりも懸念すべき点だろう。
樹木は燃えやすいというのは、早合点だ。
俗に「木の家が燃えやすい」というイメージは加工しやすいよう、よく乾燥させた材木を使うことに由来しているからだ。
湿気を含んだ生木の類は薪にするには燃えづらい。
そして、「動く森」というからにはきっと想像以上に大きく、質量があることだって予想すべき事項であろう。
「そういう、ものか。不可思議が過ぎるが、面白いモンだ。
自給自足できる位の塩梅なら、確かに一生森から出ずに済むことだって可笑しい事じゃあねえわな。
そこは勿論、心得ている。
持ち帰る手段については、依頼の際に“手渡し”されてるからな。伐り方を気を付けりゃあいい」
出立前、依頼主からの使いから運搬の手段は渡されている。
貼り付けた対象を指定の場所に転移、移動させる魔術を込められた札――というものを預かってきた。
背に担いだ籠は道中、荷物担ぎを買って出る代わりに、有用な薬草類をついでに持ち帰るための用途のものだ。
伐採した樹木を運び出す作業というのは、いかに己が分身の術を駆使できるとしても、大変な作業である。
逆に言えば、魔術の札という決して安くないものを供出してもおつりが出る、と。この地から産するものに価値を見出しているということなのだろう。
「心得た。……季節もあるんだろうな。自然の気配が濃い」
先導するように立つ姿を追いつつ、答えては踏み抜きそうになった白い菌糸の塊を跨ぎ超える。
しばらく前までは街中でも肌寒い気配が抜けなかったのが、気づけば嘘のように陽気の巷を迎えている。
街でそれなら、山野となればきっと一層だろう。意外と近くで、鳥が鳴く声も響く。
■ジギィ > 「うふん、この間の汚名返上ってとこ?」
振り返ったその顔で彼にウインクひとつ。送ってからまた行く先へと視線を戻して、彼が足元を気にできる速度を図りつつ足を進める。
森歩きは特殊だ。幾ら知った土地でも季節が違えば景色まで違う。目印としていた植物は育ちまた衰えて、岩は苔むし割れて生き物の身体をその一部にした土は柔らかく起伏する。凡そ隅々まで解るということは、長くを森で過ごすエルフでも至難の業。
丈の低いシダや高みから降り落ちた枝葉を踏みながら、所々弱く光の差す森の中をふたりづれが進む。
「可笑しくないよー 現に里から出ずに寿命を終えたエルフだっているもんね。
自給自足はいまでも多分十分できるよ。ただ前よりも格段に肉類は手に入りづらくはなったかなー
へー そうなの?」
持ち帰る手段、と言うのにくせ毛からはみ出たエルフの耳がひこっと揺れる。基本的には己の手で持てるもの以上は持たない、採らないという習性は、こういうときすこし軋む音を立てる。
―――――それも何もかも、この森では精霊の采配。逆らうことは無いし、駄目ならば阻まれるだけだろう。。
歩きながらふうっ、とエルフが吐息を吐く。
「――――いまね、この森は多分『休眠』にはいってるの。魔族に侵されたぶん、均衡を取り戻すために『ヨソモノ』を排除する瘴気がつよくなってるみたいなんだよね。
だからこの先、森の外からの来訪者には少し厳しい環境になっていると思う」
空高い梢の方からは、鳥同士の囀り合いが聞こえる。そういう季節だと思うと同時に、薄暗い森の中に春の香りがしないのに不穏な気も覚える。
「ン―― 方向は解るけど、安全じゃないかも……」
かさ、ぱきっと軽い音を立てて進むうち、ふとエルフは立ち止まる。
その頭が向いている先、光が少し束になって降り注いでいる場所で、蹲る影ひとつ。
大の大人3人ぶんくらいの大きさはありそうな、猪
――――のような、身体から蔦を生やした生き物。
そんな生き物でも、春の陽光の中では微睡んでいる様子、ではあるが…
(…… あれの向こう側なんだよねー…
迂回するしかないね)
エルフは振り返って彼に視線で、そう、伝えたつもり。
■影時 > 「へいへい。――頼りにしてるぞ?」
今回だけは、なぞと云う余分な言葉は入れない。つける理由もない。
成れの果てという枕詞はつくかもしれないにしても、異種族が手塩にかけていた領域だ。
そこを案内してくれるなら、頼りにしない理由がない。
故郷においては、例えば鎮守の森というような、ある種の神域とされた場所がいくつかあった。
その場所全体が信仰の対象となるほどの古き森の名残であれば、神域という題目の封鎖地という個所もあった。
いずれも、一挙一動を誤れば酷いしっぺ返しを受ける、報いを受けることもざらだ。
道中で珍しい薬草類を持ち帰って、生計の足しとする暗黙の了解めいた採取でも、気を付けなければ余分な災厄を招く。
もちろんその狙いも混みで依頼を受けたつもりだが、その点でも、自分の選択は間違いないだろう。
「やっぱりそういう御仁もいたか。森の民という譬えというのは、あながち間違いじゃないのは面白ぇなあ。
……肉はそうだろうな。もう少し奥まで行かなきゃわからんかもしれんが、妙な具合になっていそうだ。
道中ちょっと説明はしたような気がしたンだが、依頼人の使いから札を預かってきた。
目的の樹を伐採して貼り付ければ、予め対となる札がある場所に対象を送る――という術を込められた奴だそうだ。
そうでなきゃ、ここに踏み入るにゃあと十数人位居ねえと足りんだろうよ」
樹を切り出し、外に運び出すという行為は、円環の如く自己完結できる環境では禁忌となりうるだろう。
それに何より少数単位の冒険者では、あまりに人数が足りない。
目的達成のハードルが高くなりすぎる。まっとうにやるなら、それこそ十数人単位かそれ以上の事業にさえなりうる。
事前の用意も含めて、結果として得うるものが大きいからこそ、決行に踏み切ったのだろうが――、
「なるほど。確かにその意味でも、俺は余所者だなァ。誤魔化しも効かねえわな。
……ン」
春と云えば芽吹きの季節だが、この森は香り立つ、匂い立つ気配が薄い。
成程、目覚めを得るための休息に入っている、まどろんだままであると考えると、頷けなくもない。
そうとなれば、巣くう動物は、魔物はどうなのだろう。
その実例を立ち止まるエルフの後ろにて、己も気配を殺しながら立ち止まっては目を細める。
天蓋めいた枝葉の間より差し込む光の下にて、蹲る生き物を認める。猪――でいいのか?
体躯から生えた蔦は寄生、または共生しているのかは定かではないが、無用な戦いは避けるに越したことはない。
迂回の意を示す目配せに顎を引いて頷き、慎重に風向きを確かめてルートを変えよう。
風上ではなく、風下となる方位に道筋を変え、そこから目的の材木が得られそうな樹を探す。
――遠く、遠く。低く蠢く音色を聞きながら。