2021/12/21 のログ
ご案内:「郊外の洋館」にジギィさんが現れました。
ご案内:「郊外の洋館」に影時さんが現れました。
ジギィ > 時刻としてはまだ昼にもならない頃の筈だった。
向かう途中の山道からだんだんと雲行きが怪しくなってきてはいたが、終にぽつりと来たのは門の前に立った時だったろうか。
雨を凌ごうと駆けるのは生き物の性ともいう行動で、来訪者は迫りくるように聳える洋館の玄関アプローチを一直線に走って扉の前の庇の下へ。
ほっと一息も束の間。

「――――……やば」

途端に黒い雲間に雷光。程なく横殴りになってくる雨粒は、もう足元を濡らし始めている。
門の向こうに見える辿ってきた道は、夜と見紛うばかりに闇に沈んでいる。…絵にかいたような悪天候。

『郊外にある洋館で行方不明者が出ているから調査してほしい』
というのがギルドで聞いたざっくりとした依頼の説明だった。詳しい話は聞いていないが、随分放置されていたものを買い取った貴族が依頼主らしい。何でも元貴族の別荘だったとかで、改修のために向かわせた業者が戻ってこず、それを確認しに行った従者までも行方不明となっているとか。
ギルドでパーティを組んで来たのだが、途中の山道で唐突に同行していた神官が体調をくずし(「おなかいたい」)
どうやらぼんぼんだった彼についてきた騎士の女性(巨乳)
『坊ちゃま!わたくしが負ぶってまいります』
と魔法使い(巨乳)
『ああん、坊ちゃまかわいそう、心配だわあ』
ともども引き返してしまって、依頼内容に対してはかなり精彩を欠くことになってしまった。
そのまま同じく引き返しても良かったのだが、その時は天気も良かったので散歩のつもりで進んでみることにして……今に至る。

「………」

びしびしと足元に雨粒が跳ねる。ここに居ても、いづれずぶ濡れになるのも時間の問題だろう。
銅色の肌のエルフは少し湿ったくせ毛を指先で弄りながら、どうする?と無言でどんくりまなこを傍らに居る人物に向ける。
このエルフとしては土砂降りでも館に入るより森の中のほうが良い雰囲気をびんびん感じる。なにより精霊の気配がどんよりというか、とにかく気詰まりだ。
が、その正体を確かめに来たので、結局選択肢は『洋館に入る』ことになる。

「……わたし、積極的な男の人ってステキだとおもう」

最終的に、両手を握って彼を上目に見る。意訳は
『最初の突入はお願いします』

影時 > 山の天気は変わりやすい、とまことしやかによく言われる。
言われるけれども、だ。ここまでありありと、あからさまに。劇的な勢いで変わられると寧ろ困る。
野外で雨に濡れるのは備えていても避けえない事項だが、こうも降られると。濡れると辛い。

懐などに仕込んだ火薬や紛薬が湿気る。
錆止めの油を塗っていても刃が錆びるのが不安、というのもあるが、何よりも体力を奪われるのが困る。

一度降り出して濡れてしまえば、急ぎ足も聊か諦めめいた色合いすら伴ってくる。

「……――色々言いてェことはあるが、だ。此処まで来て。退けるかね。ン?」

ギルドから引き受けたざっくり目の依頼だ。
要点を弁え、激戦も視野に入れた過剰な持ち物は避けて、同道する面子を立てるつもりでいたのが仇となったか。
慣れない事をするものではない。
だから、脱落者も出たのか。そうではないのか。
取って食いたくなる肉付きの取り巻き諸々脱落者を見送って、残る同道者の声に気配薄き姿は濡れた前髪を掻き上げる。
柿渋色の羽織と腰に刀を帯びた長身の男は、問う言葉に肩を竦めて応える。
履物の革に包まれた足先に染み入るような心地の雨と、そして目的地である館の門を前にして。

「世間じゃァ女を立てる方がイケているらしいが、兎も角だ。……先に行くぞ。探りも必要だろう」

この天候だ。周囲の立地と建物の威容を外観から測るのも、難しいだろう。
割り切ればもう、突っ切るしかあるまい。押し開く門扉は喘鳴の如く蝶番を軋ませ、諸手を広げるように。
水溜まりを踏み抜く足は、何者よりも密やかに。飛沫も立てずに前に進む。
特に遮るものも何もなければ、柿渋色の羽織を纏った姿は玄関に居たり、施錠の有無も確かめに掛かるか。

ジギィ > 此処まで来る間ごく近くに居たはずなのに、まあまあエルフ女の方が濡れている。
ふうん、とその様子を確認すると何となく同道者のその羽織に仕掛けでもあるのかと、その端をちらっとめくったりして。
「あらあ、カゲトキさんてば尻に敷かれたいほうだったんだ?
 なるほどねー」

殊更あっけらかんとした口調、というわけではなくいつもの調子で扉を探る彼の背後から声を掛ける。
そうしながら顔は仰向けて行って、洋館2階のほうへ視線を伸ばしていく。
……その窓のカーテンが、ちらと何か横切ったような揺れ方をした、ような。

視線をゆーっくり下の方へ降ろす。
程なく、彼の後頭部を捉える筈が

「――――……」

重く閉ざされた両開きの扉の上部、何か内側から抜け出そうとしているかに歪んでいる。
よくよく見ると…幾つもの顔のような…手形のような…

「…ねー、カゲトキさんて霊感あるほう?
 あるほうだったらこの扉、すごくよく伸びる素材っぽい」

ぞくぞくと背筋に悪寒が奔る。正体はいづれ、ヒト以外ではあるのだろう。
兎に角ソレを気付いてもらおうと、いささか呑気な声と共にエルフは彼の両肩を背後から掴んで、強引に上向かせようと

影時 > 羽織の生地自体は、値は張るが魔法仕込みなどではない。戦闘衣向けに織られた丈夫なものだ。
染料込みで多少は撥水性もある生地であれば、完全に染み入るにはまだ多少なりとも、気休めでも微かな余裕がある。
端を捲る手に「何もないぞ」と云いつつ、

「まさかなァ?そういう習慣がある、らしいって話だ。
 その実、先に女を進ませて安全を測らせる――なんてオチらしいが」

レディファーストなる行いのその実なぞ、又聞きめいている故に真相は知らない。どうでもいい。
そうと考えれば辻褄も合うが、物事の深くまで考えると何事もキリがなくなってしまう。
わざわざ門扉から館の玄関までの間に、目に見えないものも含めて罠を仕掛けるようなこともあるまい。
その意味でも、探索者の心得を持っている者が先行く方が、安全確保の意味では間違いないだろう。

そう判断して先を進むが、さて。実際はどうだろうか。
歩く距離はそう長いはずではないのに、先ほどから妙な違和感、圧迫感めいたものを微かに覚える。
一番近い例えをするならば、観察されている。見られている、とでもいうのだろうか。

「ッ、こら。首が折れるだろう。
 ――……よーく伸びる素材な、ワケあるかこら。内側から建材歪めるくらいに押された、とか言うんじゃねえだろうな」

ごきゃ、と。首が鳴った気がした。
強引に上向かせるエルフの手につられ、己も上を見る。そこにある顔やら何やらに目が合った気がした。
わざわざそういう風に作った、というのであれば、この館の施工主は随分と飛び抜けたセンスをしていることだろう。
そうでないなら、これは何か。「開けていいんだろうな?」とばかりに、肩越しに後ろにある目を見よう。

ジギィ > 「ええーヒッドイ」

まるで彼がその『レディーファースト』をしたかに非難の顔。実際は彼がその役を請け負ってくれているのは大分棚上げだ。
さっきから背筋が粟立つというかむず痒いというか、とにかく首竦めたいような感覚。
彼の両肩を掴んでその頭越しに顔型に歪む扉をじぃと見上げていたのを、肩越しに視線を呉れるほうへ視線だけずらしていって。

「……とりあえず、開けて欲しいっぽい」

喋っている間にまたひとつ、ひとつと顔やら手形やらに歪みが迫って来る―――こちらのほうへ。
そちらへ視線を戻しながらこのまま待ってたらどうなるのかしらん、なんて思っていると

「――― !?」

―――すぽん!と音がしたようなのは錯覚だったろうか。
扉は元の色あせて重々しく閉ざされた姿に戻っている。
どんぐりまなこを真ん丸に見開いて、今度はちゃんと彼と視線を合わせるだろう。

「……内開きとかってオチじゃない?」

気が抜けたのだろうか、あは、なんて笑って彼の肩越しに手を伸ばして、玄関扉を押してみる―――あくまで彼を盾の恰好のまま。
すると
ぎぃ、と、素気ないほどの音と共に
うっすらと扉が開かれた。

同時にこぼれた屋敷の空気から香ったのは―――何故か、水仙のかおり。

影時 > 「はっはっは。ま、あれだ。お前さんを先に行かせて怪我なぞさせンのは、目覚めが悪いか」

先に帰った同道者たちには、いよいよ以て言葉がない。
だが、自分一人の安全を図りたいわけでもないとなれば、己が先陣を切る方が何よりも面倒がない。
前衛後衛の概念、役割分担を考えても、そうする方が何よりも事はスムーズに回る。

「分かった。ンじゃ開け……――ぁ、ン?ん、ン?」

館の破壊は禁じられているが、リフォーム前提なら玄関を「切り開いた」ほうが早いか?
そんなことを考えながら、扉のノブに一瞬目線を落とす。
そんな刹那に。一瞬目を疑う。もう一度見直す扉とその周りの造形は、先程までの胡乱な有様は失せている。
だから、つい改めて同道者たるエルフに目線を合わせつつ、まさかなあと首を捻る。
あくまで己を盾扱いするような立ち位置には、敢えて言うまいとしながら、彼女が伸ばす手が。

「……不安にしかならねぇイイ匂いってのは、快いを飛び越えて臭いと思うのは、気のせいかね」

罠の有無も改めてから、開く予定だった扉があっけなく開かれる。
その隙間から微かに香る花の薫りに思わず顔を歪めつつ、右手を伸ばす。扉をそっと押し開きつつ、前に進む。
離れるなよ、と。きっと始終後ろに引っ付いていそうな姿に、顔を引き締めながら声を遣る。
奥の奥の方から、何か。遠く。喜色めいた声を上げるものを幻視したような感覚が、脳裏から離れない。

ジギィ > 水仙の香り。そういえば館へ来る途中の山道でも、いささか不自然に群生があったような気もする。

「うーん…そうね……あの…『クサイものにはクサいものを』だっけ?」

彼に同意(のつもり)の言葉を返しつつ
扉を押し開く彼の背後にほぼぴったりくっつくようにして、手元はスリングに弾をセットする。殺傷威力はごく低いが、咄嗟の足止めくらいにはできる。
…相手に通用するかは別として。
そうして後衛たる女エルフが館内部まで踏み込めば、背後で扉がまた呆気ない音を立てて閉まる。

「―――…」

閉じ込められたら嫌だなあ、と思って木の枝を差し込んでおいたはずなのに。
室内は窓から差し込む稲光で時折照らされるが、長い間打ち棄てられていたとは見えないくらいには整っている、気がする。
あんまり気配を辿ると余計なものを見てしまいそうなので、取り敢えず目の前の彼の後頭部あたりを見る。
―――と、何か感じたのだろうか?前にいる彼の気配が尖っているのが解る。

「ちょっとまって―――…!!」

兎にも角にも灯りだ。灯りを、と常のように光の妖精に頼もうとしたところ
ぼう、とエントランスホールの壁にあったらしい灯りが一斉に灯る。
思わず、息を飲んで目の前の羽織にしがみ付く。
次の瞬間には、その羽織がやや湿っていたために「やだあ」とか言いながら離れるのだが。