2020/10/03 のログ
シンディ・オーネ > 「少なくともここで教育的指導をしたかった誰かにとっては都合のいいヒトになってるんじゃないかしら。」

どうせ試せないので、雑に大丈夫なんじゃないのと冗談めかしながら、来た道を戻っていこう。

「――マレクさん?一応傘とか…」

何か降ってくるんでしょ?と、頭にマントをかぶって。
頭上に対し防御的な魔術の構成を編みながら歩を進める。
円盤に足を乗せるマレクを3歩後ろから見守れば、案の定の異音。
しかし覚悟する雨は無く。

「……?
 ――あ、枯れたか!」

何百年前か、何千年前か知らないが、液体のストックなんか干上がっているだろうと安堵の表情で手を打って――

「――ってえ!?」

そこに飛来する金属球。案内板との整合性を思うが考えている暇もない。
マレクは剣を引き抜いてくれるが、ひとまず階段へ引き戻そうと手を伸ばした。
同時、光熱波による攻撃をイメージして魔術の構成を編み始める。

マレク > 男が剣を抜くのに合わせ、前に出た2体も得物を構えた。先端が真四角になった、細く薄い板。それを手首側から出し、剣か棍棒のように構える。

「こいつらは私が引きつけます!シンディさんは脱……」

脱出を!と言いかけた男が引っ張られてたたらを踏む。何ですか!と叫びかけたが、彼女の纏う何かに気付いて口を閉じた。

同時に、両手に武器を握ったゴーレム2体が下半身の底を回転させ、黒いレザースーツ姿の冒険者目掛けて突進する。
その勢いには、手加減だとか、拘束だとか、そんな意図は一切感じさせない。殺害まで含めた完全な無力化を命じられているということが分かるだろう。

シンディ・オーネ > ――3対2、ならばまずは狭いところへ。
それに階段まで後退すれば見逃してくれるかもしれず、そうなれば準備万端整えてもう一度顔を出せば良いのだ。
たたらを踏むマレクに意図を伝える間も無いが、魔術師だと伝えてあれば分かってくれるだろうと当てにする。

「――砕けろッ!」

ワン、と空気の震えを肌で感じさせるような声を張り上げると同時。
術者の傍らから脈絡なく光の奔流が一番近くのゴーレムに向かって迸る。

まとめて吹き飛ばそうと試みるには、飛べるくせに質量もありそうな見てくれが気になった。
編んだ魔術は一点突破の単純なもの。
破壊力だけを求めて副次的な効果は何も無い。
ただ熱エネルギーをなんやかやして凝集しそれが光って見えて当たるまで爆発しないが当たると何故かドカンみたいな、
それこそ魔術師の攻撃的なイメージが原理無視して発揮されるお手本のようなものを、叩きつけにかかり。

マレク > 2人が階段まで下がっても、敵は追ってきた。しかし行動は制限される。それほど幅広ではない故に、ゴーレムは2体同時に襲い掛かることを諦め、1体が攻撃しもう1体が様子見に回る。

その瞬間、熱の塊とも呼ぶべき白い閃光が迸り、先行したゴーレムを直撃した。シンディの魔術が卓越していたものだったからか、それとも年月が経ちすぎ脆くなっていたか。純粋な力の迸りを受け、半球の下半身を持つ機械人形の左腕がもげた。胴体から火花と光の靄を吐き出しながら身体を横に傾け、ひっくり返って停止する。

「お見事……!」

ゴーレムを一撃で倒したシンディに短い賛辞を送った男は、切りかかってきた2体目を迎え撃つ。ソードブレイカーで敵の振り下ろしを受け流し、サーベルで関節を狙うが、此方の戦果は芳しくない。少なくとも下がらせることは成功したが。

「魔術が来ます! 奥の3体目!」

そして自分達から最も距離をとっていた3体目のゴーレムが、何も持たない両腕を高々と掲げた。そこに赤い光が集まり、円盤の床に向かって真紅の熱線が放たれた。

唸りを上げる光線はあたかも巨大な剣で切り上げるが如く床面を這い、2人の人間を薙ぎ払わんとする。

シンディ・オーネ > 「――ッ…!」

ゴーレムの左腕はもげたが、痛みとか感じなさそうな人形の腕一本。
では畳みかけられるのではないかと警戒するが、ひっくり返ってくれれば一安心。
あとはこれを繰り返そうと安易に考えるものの、螺旋階段は視界が効かない事を思うと半周より内側にも下がりたくない。

既にマレクには2体目が肉薄しており、押し返してくれたが何だって?

「――は、え、魔術っ!?」

そういう機能もあるのかと、うろたえる。
こちとらバカの一つ覚えみたいに先ほどと同じ魔術の構成を編んでおり、飛び道具への防御には即応できない。

「――下がってッ! 下がって!」

魔術による防御は期待するなと悲鳴を上げて、螺旋階段の内側へと転がり込むしかなかった。
マレクの後方で半ば階段の中にいたこちらはそれで真紅の熱線をやり過ごすが、マレクがどうなったかは確認できていない。

――再度光熱波の構成を編みながら、階段の外を覗く。
狙いをつけるためと、安否確認と。

マレク > 下がってというシンディの指示には、2体目を牽制していた為に従えなかった。階段の内側に避難できた彼女の耳に、熱線が遠ざかる音と男のうめき声が届く。

「しまった……!」

そして次の魔術の準備をするシンディが階段の外、円盤の上を覗き込めば、男が消えてしまったことに気付くだろう。ひるむことなく、2体目のゴーレムが彼女へ斬りかかる。

そんな中で3体目がもう一度両腕を掲げ、そこに真紅の光を集めるのも見える。

「……魔術師を狙って!」

2体目の真後ろで声が上がり、光が走る。景色が揺らいで虚空から現れたマレクが、背後からゴーレムの上半身を羽交い絞めにした。ハーフマントと布鎧の左半分を焼け焦げさせた男が、接近戦を挑む敵をシンディから引きはがす。

「頼みます!」

叫びながら、男は自分ごと2体目のゴーレムを退かし、女性の為に射線を確保した。彼女の目には、今まさに2度目の熱線を放つ敵が映っているだろう。

シンディ・オーネ > 「――。」

マレクの姿が無い事に動揺するが、それよりも今は眼前に迫るゴーレムだ。
階段の奥に身を隠しながら戦えば魔術師はしのげるだろうと考えるのは、マレクの生存を半ば諦めていたのかもしれない。
――しかしその声が聞こえれば、これまで身を盾にしてくれたマレクに従わない理由は無く。
…でもどうやって?と視界いっぱいに迫りつつある近接ゴーレムに思うが、
不意に現れたマレクの羽交い絞めが回答。

「ああ―― 勝負よッ!!」

姿の消失に驚いたり、傷を気遣ったりする間も無く。
ただ安堵の声を漏らし、魔術師型のゴーレムにそう宣言するのと同時、
発動が発声と同じタイミングなのでいささか気の早い光の奔流がそちらへ向かって再度。

効果判定を待たず、マレクがまだゴーレムと格闘中と思えば、今度は階段を登りきる方向へ踏み出していく。

マレク > シンディが放った光の奔流と、ゴーレムが放った熱線が丁度真ん中でぶつかり合う。紅の輝きが霧散し、魔術師型の3体目に破壊の光が直撃した。

上半身が大きく仰け反り、垂れ下がった両手に赤い光の残滓を纏わせたそのゴーレムは、あちこちから火花を散らして円盤の縁をずり落ち、深い穴の底へと落下していった。

「っ……うおおっ! くっ! この……!」

そして派手な魔術の撃ち合いに決着がつく一方、相手ごと床に倒れ込んだ男は、羽交い絞めにした最後の1体とくんずほぐれつの泥仕合を続けていたのだった。ソードブレイカーをゴーレムの脇の下へ突き立てようとするも、膂力は相手の方が上。だが関節を極めているのは男の方なので、勝負がつかない。

シンディ・オーネ > 「――ッ!」

ゴーレムの魔術と相殺されたかのように見えれば肝を冷やすが、最悪相殺でも、前進は止めない。
階段を登りきる頃には爆ぜる光の向こうで魔術師ゴーレムが崩れ落ちて行くところで――

「――うわっとっと!?」

さあマレクに加勢するぞと勢い込むがこういう状況が一番困る。
味方と敵がくんずほぐれつしてしまっては魔術が打てない。
これがヒトならどうとでも加勢できるがゴーレムとなると勝手が違い――

しかし、マレクが羽交い絞めにして動かす事が出来、この状況で泥仕合が成立するのなら、肉弾戦でも勝ち目はあるのか。

刃が通るのか疑問であるがマレクの動きを見て、大腿のナイフを引き抜きながらおもむろに近付く。
むんずとゴーレムの拘束に加勢したら――

「――ぇえぃやッ!」

首?とかその辺と思しき、球体から展開された接合部の内側辺りに、無造作に刃を突き立てていこう。

マレク > 「おおあぁ!?」

またしても普段の男らしからぬ声を上げたのは、鼻先を剣呑な両刃のナイフが掠めたから。接合部を狙うシンディの刺突は、相手が拘束されていることもあってあっさり決まった。

首のような、喉元のような場所を貫かれた最後の1体が、両腕をでたらめに動かした後、停止する。拘束を解いて立ち上がったマレクがすぐにバックパックを開き、戦利品が壊れていないか確かめ、安堵の息を吐いた。

「いやあ強い! お見事でした、シンディさん。子爵夫人も、きっと喜ばれることでしょう」

笑顔と共にゴーレムの残骸を撮影した男は、目玉型の魔道具を袖口に飛び込ませた。その後、熱線で焦がされた左腕を押さえて顔をしかめる。

とその時、例の球体が円盤に着地する音が聞こえた。それも2度や3度ではない。下層部を囲む輪状の施設から一斉に飛び出したゴーレムの大群が、獲物を探し始めた。

「……逃げましょう!」

笑みを消した男は相手を促し、渡し板を通って上層へ戻り、洞窟の裂け目を抜けて脱出するのだった。

シンディ・オーネ > 「あああごめんっ!」

刃が通らないのではないか、という不安は刺突を渾身の一撃にしたが、予想に反してざっくり通っちゃえばその下にはマレク。
さすがに反射的に詫びて、ゴーレムの随意的な動きが止まればまだジタバタしているそれをマレクから引き剥がそうと。

「――あの案内図は何!?」

雨のように見えていたものは飛来を演出していたのかな?とか。
抗議の声を上げながら、バックパックを検めるマレクの負傷を検めようと。

「…マレク。マレクさん、ちょっと、じっと、おい。」

バックパックの確認よりする事あるでしょうよと、笑顔にジト目を向けて。
…ほら傷を見せろと処置しようとするが―― すっかり終わったつもりになっていた、知っている音に立ち上がる。

「――いいいいいじゃないゴーレム! 条件満たさなきゃ大人しいなら、これだけいれば!」

大人しくしているところをお持ち帰りしてちょめちょめできるのではないかなと。
引きつった顔で強がるが、今出来るのは逃げの一手。
一目散に地上を目指す。

マレク > 「ご領地を出る前に、お話しておかねばならないことがあります」

からくも24号遺跡から逃げ出し、メルド子爵邸への馬車に乗り込んだ男は、向かいに会って座るシンディにそう言った。

「第1に、シンディさんには今回の探索で2000ゴルドが支払われます。即金です。回収物を王国軍に引き渡せば、もう少し報酬が上乗せされるかもしれません。
第2に、今回の探索で出して良い名前は、すなわち手柄を上げるのはシンディさんお一人です。冒険者ギルドでもそこ以外でも、話す時は貴女だけでやったことにして頂きたい」

その後、男は笑みを深くした。

「第3に……契約に従って、身体検査を受けて頂きます。といっても子爵夫人は私に手続きを一任されたので、今回からは場所を選べます。どうされますか?
これまで通り夫人の執務室で、女性たちに見られながら行うか……それとも私の部屋で2人きりになるか。私はどちらでも構いませんよ」

心底楽しそうに言った男は、小首を傾げてシンディを見つめた。

シンディ・オーネ > テンヤーワンヤーして逃げ出して、マレクの傷の具合はどうだろう。
じきに専門家の治療を受けられるから要らないと言われれば納得しそうだが、表面の焼け焦げだけで済んだのだろうか。
それはさておき――

「――2000!」

報酬の話が出る馬車の中。
おお、と思わずほんのり目を輝かせてしまった。
…名前を出して良いのが自分だけとかなってくると、
お膳立てされて名を上げるのもどうよと嫌そうな顔をするが、それでいいならそうしよう。
基本的に、この辺りの仕事の話をあまりしなくなるだけである。

「…んん。」

で、身体検査には受けなきゃダメかなとますます不承不承といった顔。
…が、場所も選べると聞くとおやと表情が明るくなった。

「――あ、じゃあ、二人きりで。」

御者が地獄耳だったりするかもしれないのよねと、したり顔で嬉しそうである。
二人きりなら、身体検査をやった事にしてスルーできると思っているのだ。

ご案内:「設定自由部屋3」からシンディ・オーネさんが去りました。
ご案内:「設定自由部屋3」からマレクさんが去りました。
ご案内:「さる貴族の邸宅」にマレクさんが現れました。
マレク > 【お約束につき待機します】
ご案内:「さる貴族の邸宅」にシンディ・オーネさんが現れました。
マレク > メルド子爵邸に戻ってからは、全てが順調に進んだ。幼い子爵夫人の前に立った貧乏貴族の男が、弁舌爽やかに遺跡探索の物語を聞かせる。
その傍ら、魔道具で撮影した先史文明の文字やゴーレムの残骸を執務室の真っ白な壁に投影し、下層部で発見したペンに似た道具と、ガラス瓶に入った建材の欠片を少女に差し出した。
勿論、事あるごとにシンディの強さ、勇敢さ、機転を宣伝することも忘れない。何故ならそれが、子爵夫人の求めているものだから。
報告を聞き終えた夫人は何時もの調子でシンディの労を労い、その場でゴルドがぎっしり詰まった袋を手渡し、屋敷の浴室で湯浴をするよう強く勧め、ついでにマレクの治療を手配したのだった。

「シンディさん。私がどれだけ喜んでいるか、貴女に分かって頂けるでしょうか……つまりその、信頼の証ですよね? 2人きりでというのは……あ、どうぞ。もっと奥へ」

しかし何事も、始まりからお終いまで上手くいきはしない。
湯浴を終えた彼女を呼び止め、自分の客室まで連れてきた男は、気味が悪いくらい朗らかな笑顔と共にベッドの傍へ行くよう促した。ゆったりとした服に着替えた男の左肩と腕の火傷には膏薬が貼られている。

「私も心苦しく思っていたのです。貴女はまるで罪人のように立たされ、幾人もの目に晒されていた。それも、今日から変わります。……さ、身体検査を始めましょう。
ああその瓶の中身は、治癒効果を持つ潤滑液です。幾ら細くて先が丸い道具とはいえ、大切な場所に触れるのですからね。媚薬を使わないとはいえ、配慮を欠くべきではありません」

ベッドのサイドボードに置かれている、青色の粘液を湛えたガラス瓶と、先が膨れた細いガラス棒、そして水滴のような先端を持つ、球を幾つも連ねた棒状の器具を一瞥した男は、訳知り顔で頷いて見せたのだった。

シンディ・オーネ > ――子爵夫人の前では努めて和やかな顔を作っていたが、
コミュニケーションスキルは高くなく内心のぎこちなさは隠せなかったかもしれない。

本当は、本格的な『遺跡』の、それも未踏査区画の探索でまだ生きている機構に当たるなんて胸が高鳴らないわけがないのだが。
誇張されたマレクの報告だか紙芝居だかが終わるのを白けた気持ちで待ち、
しかしずっしり重い袋にはほんとに頬が緩んでしまった。

…入浴を強く勧められたりするとそうですか臭いましたかと気恥ずかしい気持ちになるがそれも当たり前。
今度からは汗を流した後で顔を合わせた方が良いのではと思うけれど、そのままの煤けた格好の方が感じは出るのかもしれない。

貴族の邸宅へ出入りするのに不適切かもしれないが、帰りは大工さんめいた平服でいいかな?と考える湯上りのバスローブ。
仄かに果実で味付けされている冷たい水を煽っていたら、マレクに呼ばれ客室へ。

「……。」

そうそう信頼の証よと思うけれど、あんまりそんな話しているとわざとらしくないか。
部屋で二人きりになっても止まらないマレクの言葉には、ここも監視されているのかときょろきょろして、
招かれるままに移動するが、脱ぐ気配は無い。

「…腕は、大丈夫なの?」

命を落としていたっておかしくないし、後遺症が残るのも簡単だ。
そうして冒険者達は次々に脱落していく。

ベッドサイドで所在なげに佇んで「見張られているの?」と口パク。

マレク > 「はい、シンディさんに助けて頂いたおかげです。それにしても子爵夫人のお言葉は有難いことでしたね? 遺跡探索は勿論のこと、それ以外の依頼も考えている、とか」

腕のことを訊かれたというのに、男の話題は幼い少女の事ばかり。見られているどころか、此処は執務室からは遠く離れている。だというのに、男は子爵夫人への感謝と尊敬の言葉を途切れさせない。

「全くもって、シンディさんは時機を上手く捉えられたと思います。更なるご成功とアーネストさんとの幸せな生活を実現させる為に、私も微力を尽くす次第です」

シンディとの距離は近く、部屋は狭い。にもかかわらず男の声は朗々としていて、まるで演説をぶっているかのよう。対面する女性の唇の動きを読んだ後は、笑みを浮かべつつ小さく、首を縦に振った。注意深く見なければ首肯とは分からないだろう。

確かに、権力を握る少女は過ちを正した。シンディへの私怨を押さえ、冒険者としての活躍を支援することに決めた。だからといって、自身が見出した女性の「管理」を諦めたわけではないのだ。管理にマレクを使うという考えもそのままである。

この国の貴族は権力で強引に奪う者と、様々な力を組み合わせて巧みに縛り付ける者の2つがいる。子爵夫人は、どちらかといえば後者だった。佇むシンディを見た男が、小さな手振りでベッドを示す。

シンディ・オーネ > 「……。」

遺跡探索以外の依頼?
今さっき手にした報酬を思うと期待して良いような気もするが、
どうもろくな事にならない気がして表情は引きつってしまう。

口に出したい事は基本的に聞き咎められると面倒なものばかりなので、自然と言葉少なに。
自分の傷について全く触れないマレクを追及したくもなるが、
話を逸らすように言葉が止まらないなら大丈夫なのだろうと思っておいた。

…そして口パクに頷かれると、どうせやるなら夫人の前で堂々と受けた方が良かったのではないかと、嫌そうな顔。
適当に免除してもらえるだろうという当てが外れて文句たらたらなところだが、
マレクの首振りがわずかだった事を思うと、監視のレベルはマレクの記録機械並みに良いのではないか。
迂闊な事は出来ずに、ベッドを一瞥。

「……い、いいわよ、その辺で。」

ベッドの上でなんてまるで…
だからどこかその辺で、執務室でやられたように立って受けるよともごもご。

バスローブを脱げば下は裸で、それでこの部屋まで歩いて来たのだから神経は図太い。
というか無頓着なのである。隠れていれば履いててもなくても同じでしょって。

「……。」

顔を赤らめそっぽを向いて仁王立ち。マレクが器具を手に取ったら、どこかその辺に手をつこう。

マレク > 「そうですか?まあ、シンディさんの良いようにするのが一番ですからね……」

その辺で、と言われれば反対はしない。瓶の蓋を開け、まず先の膨らんだ方をたっぷり潤滑液に浸す。
ガラス棒の先端と瓶が触れ合う硬い音と粘り気を帯びた水音が、裸になって壁に手を突くシンディの耳に入るだろう。

「立ったままということですから、器具を入れるため、少し御身体に触れます。……おや?」

予め断った意図は、シンディへの配慮が半分、これを監視している者に、彼女をどう辱めるかということを知らしめるのがもう半分だった。
冒険者の女性の背後から腕を回し、濡れ光る器具の先端を彼女の前に。そうしながら、尻たぶに触れて軽く開かせた。

「私はアーネストさんのことを純朴な好青年と勝手に思い込んでいたのですが……存外、激しい行為をなさるのですね」

尻たぶの奥。秘めるべき後ろ。前回媚薬漬けの細いガラス棒を受け入れるのがやっとだった場所に変化を認めたマレクが声を上げる。多くの女性を毒牙にかけてきた男には分かるのだ。この場所でも雄を受け入れた、と。相手は酷く性急だった、とも。

シンディ・オーネ > これが診察台のような場所であれば抵抗は無かったが、
そのままのベッドで、男性と二人きりで、股を開いてなんやかやされるなんて。
そんな風に意識してしまうのも癪だが、壁に手をつきちょっとだけお尻を突き出す。

「…口から飲み込んでたらどうする気。」

ガラス棒のカチャカチャが気になって、壁に少し爪を立てた。

「……ッ!」

まだ入浴後の温まった肌に手が触れて、ビクリと身を固くする。
これが医師だとか、検査を専門にする人ならまだいいが、
さっきまで共に遺跡を探索していたマレクと思うと、
一度目よりも妙に恥ずかしく、お尻にきゅっと力が入る。

「――!?!?!?!」

そこで指摘された言葉に、ぎょっと振り返る。

「なななななな何の話だっ! 知らないっ! きき気のせいでしょうっ!?
 な、なにっ? どこかおかしいのどこがっ!?」

やんごとなき貴族様からの護衛依頼を受けて領地視察の旅に同行してみたら、
行程の半分は服を着る間もなく常にお尻をほじくられて過ごす事になった。
思い当たる節としては十分で、おかしくなっていてもおかしくないが、
自分で確認した限りではちょっと裂けてしまっていたくらいだったような。
しかし自分のお尻など日ごろからよく観察するものではなく、実は前後の比較はできていない。
どこがどうおかしいのか言ってみなさいよと、大いにうろたえる。

マレク > 「御心配なく。手はありますから」

飲み込んでいたら、の質問にはそう返した。「手」については詳しく聞きたくないだろう。そして自分の問いかけに対し、相手の反応は思いのほか激しい物だった。

「あぁ、どうか落ち着いて下さい。治癒しないほどの……被害ではないので。そう、ですね。何処かと言われれば、周囲に治りかけの細かな傷が幾つもあります。その……する時に、引きつるような感覚を覚えたことは?」

するとは勿論、体内をすっきりさせるアレのことだが、敢えて言葉には出さない。そして、男の説明は続く。

「それから……勿論、ほんの少しですが、縦方向に開いています。長時間、しかもかなり太い物で……されたのでは? また、それにしてはほぼ形崩れをしていないので、恐らく強い媚薬で弛緩させられていたのだと思います。心配なのが体内、腸内の傷ですね。治りにくい場所ですし、深部の怪我というのは病などへの抵抗力を落とします。
……差し出がましいようですが、アーネストさんと、その、した後……きちんと病院で診て貰いましたか?」

お前は医者か?と言われんばかりの勢いで解説した男は、狼狽える女性に首を傾げてみせた。

シンディ・オーネ > 「……。」

その『手』はこの検査と同時に使わないと持ち出されてしまうのではないかとか、
疑問はあるがこの話題は完全にヤブヘビである。やっぱりいいです、と口を噤んで。

「…す、少しは、まあ…」

はーっ、はーっ、と声を荒げた息を落ち着かせつつ。
する時に、というのは行為の最中の事だと思ってしまったが、どちらでも変わりない。

「――も、もちろんなの…!?」

えええ、と診断結果に泣きそうな声が出た。
媚薬まで言い当てられてしまうと哀しいやら恥ずかしいやらでもう真っ赤。

「…いえ、行ってないです…」

もはや否定するフリも出来ずに、蚊の鳴くような声で病院なんてまさかと。

マレク > 「そうですか……そうですよね。こういう……患者を診る病院というのは余り」

押し黙った男が、じっとシンディの顔を見る。濡れた器具を一旦ガラス瓶へ戻し、大きく息を吐き出した。

「アーネストさんに手順書と必要な器具をお送りしたい気分ですよ。それはともかく、この……この、状況を放置してシンディさんに思わぬ不調が出ると、私の落ち度ということになります」

すっかり顔を赤らめながらしょげ返ってしまったシンディの顔を、またもやじっと見た男。お尻から手を離して腕を組んだ後、口を開いた。

「貴女は気に入らないでしょうが……この私に、手当をさせて頂けませんか?本当はこれを引き起こしたアーネストさんにやって頂くのが一番とは思いますが、このままになっているということはつまり、そういうことでしょうから」

未だ彼女の恋人が後ろの処女を奪ったと信じている男は、そう申し出た。

シンディ・オーネ > 「…あー、あの、治癒を早める魔導具にアテがあるので…」

アーネストの剣を抱いて寝ようかなと思う。
それは当初も考えたのだが、どこが傷ついたのかと心配されるのも嫌で言い出せなかった。

「――ややや止めてそれは止めて殺すわよッ!?」

こんな生い立ちの女だけれど一応言葉は選ぶタイプ。
歯に衣着せないところはあるが殺すなんて言葉を冗談で使ったりしない、のでこれは本気だ。
アーネストに手順書や器具なんて送り付けられたら、どこから言い訳すれば良いのかもう――

「…ん? ああいやいやいや。」

そこまで考えて。
そんなものがあるのなら、誤配送を装ってアーネストの手に渡らせてはどうかと思いつくが、
尻穴調教の記憶を払拭したいにしても、アーネストにそんな事はさせられないと首を振った。
不衛生なのは本当だし、それで死にかねないのも当然だと思っている。
私に突っ込んだ男は、病気になっていてくれないかなと改めて呪った。

「…ぅえっ? ええ… いや… それは…」

ふつふつと目で殺しそうな表情で虚空を睨みはじめたが、手当てと言われて我に返る。
…そんな事はさせられないと思うが、どうせこれからガラス棒は突っ込まれる仲なので、
じゃあついでにお願いしちゃってもいいのかなと。

「ああ… うん、じゃあ、ついでに… お願いします… すみません、お手数…」

ごにょごにょもごもご。顔を伏せるように頭を下げて、声は萎んでいった。

マレク > 殺すわよと言われれば思わず仰け反る。この女性が本当の意味で演技が出来ない人間、自分の心を騙せない人間ということは知っているので、シャレにならない、と。

「……あの、今ので分かった気がしました。アーネストさんでは、無かったのですね。ご心配なく。これ以上の詮索は致しませんから」

そう言った男はベッドに向かった。枕を毛布で包み、寝台の中ほどに置き直す。そして彼女を振り返った。

「これに……お腹を乗せて、うつ伏せになって下さい。それから、媚薬を使えないので今まで以上にお身体に触ります。身体の力が抜けきっていないと余計に痛むでしょうし、シンディさんの大切な場所を傷つけでもしたら、アーネストさんに申し開きのしようもありませんからね」

口調こそ丁寧だが、男の言葉は断定的だった。何時もの彼女からは想像もできないほどしおらしくなった相手に頷いて見せた後、ベッドのサイドボードを動かし、追加のガラス瓶を置く。