2020/09/24 のログ
ご案内:「ある貴族の邸宅」にマレクさんが現れました。
マレク > 【お約束につき待機中です】
ご案内:「ある貴族の邸宅」にシンディ・オーネさんが現れました。
マレク > 男には役目があった。メルド子爵夫人の相談役として、彼女が見出した冒険者シンディに成功をもたらすことだ。そして、その為には解決しなければならない問題があった……のだが。

「……子爵夫人、私は今日、貴女をお諫めするつもりで参ったのです。今日はシンディさんが依頼に取り掛かる最初の日。そういう時に服を脱がせ、身体を薬漬けにするというのは誰の為にもなりません」

メルド子爵邸の執務室に入室を許された男は、傍らに立つレザースーツの女性を見遣った後、視線を正面に戻す。部屋の主である黒衣の少女の両脇には護衛の女が立ち、メイドも2人に増えていた。
そして増えたのは人数だけではない。机の隣に置かれた小さなテーブルには媚薬入りのガラス瓶と、銀製の、明らかに女の身体を責め苛む為の器具がずらりと並んでいる。壁際の姿見も、犠牲者が辱められる様を余すところなく見物する為だと分かる。
来るところまで来たな。口に出さないが、それが正直な感想だった。幼い子爵夫人は自分の思い通りに振舞わないシンディに対し、明らかに対決姿勢をとっている。財力で縛り、権力で跪かせようというのだ。男を使ってでも。

そして標的になったシンディもまた、これを見て許しを乞うような女性ではないと分かっている。彼女は心に嘘をつけない人だ。正しいものは正しく間違っているものは間違っている。そんな態度を隠せず、貴族達が当たり前のようにやる迂遠な言葉遊びも相手にしない。

両者は一歩も引かない。利用し合うべき間柄の2人が、いがみ合うのを止めない。だからこそ自分が動かねばならない。その考えのもと、男は続けた。

「ですが改心致しました。愚かなマレクが、ようやく子爵夫人のお心を理解したからです」

頭を垂れた男がシンディの背中に手を当て、進み出るよう無言で促す。

シンディ・オーネ > 「……。」

そのまま何か忙しくなったりして、私の事など忘れてくれれば良かった。
しかし冒険者ギルドで後援を喧伝されてからそう日を置かずに仕事の連絡が入り、
来てみれば案の定… よりよっぽど悪化した状況である。

遺跡探索のために呼ばれたのか、あるいは身体検査と称した悪質な嫌がらせの方がメインか。
つい後者と思ってしまいがちだけれど、一応マレクと話して私に功績を上げさせる気もあるのだとは理解していた。

――部屋の有様を半眼で睥睨して『バカみたい』って態度だが、
どんな用途かあまり理解したくない器具類に、既に冷や汗が吹き出している。
癇癪を起こすような魔術の発動をぐっとこらえて、まさに言いたい事を言ってくれるマレクにはおや?と内心首を傾げた。

私の肩を持つのは打ち合わせと違う。
何を血迷ったか私を独占したいらしい少女の機嫌をとるために、マレクとはいがみ合う予定だ。
いやでも、これは進言したいところなのでこのタイミングでとりあえず伝えるのも間違いではなく…

促されるままに踏み出して、ひとまずの沈黙で成り行きを見守った。

マレク > 「つまり、子爵夫人が探しているのは冒険者でなく、娼婦だったということですよ、シンディ」

幾ら堪えようと、冒険者の戦意は伝わる。魔術発動媒体を内蔵したグレイブを持つ2人の女戦士が、目を細めてレザースーツの女性を見据えた。男が冒険者を呼び捨てにしたのは、正にそんな時だった。

「冒険者ギルドで貴女の存在を知らしめたのも、目をかけてやったのに裏切られたと主張する為です。まあ、ある意味で今も目をかけて頂けているようですがね。カシア産の蜂蜜より高価な媚薬を、これから浴びるように与えられる訳ですから」

一歩踏み出した相手の背後に近付き、レザーグローブに覆われた手に5本の指を這わせた。まるで恋人がそうするように手を握った後、肘から二の腕へと這い上がる。

「そして私も子爵夫人に賛成です。貴女は冒険より、男に傅く方が似合っています」

男は首を傾げ、ブルネットの向こうに覗く真っ白なうなじに息を吹きかけた。

シンディ・オーネ > 「――あ?」

その言葉に、瞬間殺気が膨れ上がる。
マレクのそれは私のために一芝居打ってくれているのだろうという理解は意識の片隅にあるものの。
奴隷?できるものならやってみろという、村八分に鍛えられた反射的な激しい戦意を抑えられない。

囲われ娼婦など奴隷と同じ。奴隷扱いを甘んじて受けるなど死人も同じ。ならば戦ってやると啖呵を切りそうになって――

「――ご、ご冗談を子爵夫人。あなたがこんな、下卑た男のような、まさか…」

…子爵夫人に目を向けて、ご機嫌を取らないといけないんだよねとギリギリの理性で口を開く。
しかし、この準備のどこをどう見たら『まさか』なんて言えるだろう。
この女の子にそんな趣味があるとは思えないが、並ぶ物品の本気さ加減は、
マレクが高価な媚薬と言うのもその通りなのだろうと思えてしまう。

どちらかと言うと、マレクの今までがデタラメで、まさに本性を剥き出しにしたような…?

「――ゃ、やめさせてください。私を使い物になるか試しもせず奴隷に落とすなんて損でしょう?
 だいたい、こんな新米を脈絡なく後援して『裏切られた』なんて、それこそ物笑いだ。
 そんな振る舞いはメルドの家を貶めます。」

――いっそ露骨でない限り、この少女は貶めてしまいたいのではないかとチラリと思う。

腕を取るまでは無視していたが、うなじにかかる息にはぶわりと身を総毛出させて思わず腕を振り払った。

「――触るなっ! 私は冒険者として契約した。娼婦なら他を当たれ。」

マレク > シンディの演技に対し、黒衣の少女は特に返事を示さなかった。しかし関心を引いたということだけは、羽扇を開いたり閉じたりしつつ、ベール越しに彼女を見つめ直したことで分かるだろう。

「そういう態度が、会った時から気に入らなかったのですよ、シンディ。誰に物を言っているか分かっているのですか?」

腕を振り払われた男は、酷薄な笑みを浮かべて冒険者の胸を指差す。

「私はメルド子爵夫人の相談役です。私に歯向かうということはつまり、夫人に逆らうということだ。なるほど貴女1人が暴走して命を落とすだけならまだ良い。しかしもっと悪い結果が待ち受けていると、なぜ想像出来ないのですか?」

男のその言葉に、少女が頭をもたげた。笑みを深くした男が更に続ける。

「何のことを言っているかお判りですよね。貴女が私に反抗し続ける限り、貴女のみならずアーネストさんまで危険に晒されるということですよ。
それとも……正しい感情に任せた結果なのだから、その所為で想い人が死んだとしても問題はない、とお考えですか?ご立派なことですねえ」

肩を竦めた男は小馬鹿にしたような口ぶりで言った後、シンディに手招きした。意地を張らずに従え、と。

シンディ・オーネ > 「従えと言うなら道理くらい通せ。人望失って良い事もないだろう。」

冒険者一人に対する扱いなど誰も気にも留めないかもしれないが。
それでも塵も積もれば山となり、一事が万事に滲み出る人間性は結果として家を不利にするのではないかとか。

「虎の威を借る狐だな。夫人やメイドがお前を罵っていたのはこれか…!」

悪い結果と言うマレクに、どこまで本気かと睨む形相は暗殺でも画策しかねない魔術師のそれ。
半分本気でマレクを罵り、いやでもこれは違うだろうと自分で思ってしまう。

マレクは罵られていたが、この状況をセッティングしているのは夫人なのだ。

「――夫人…! あなたのような方に、こんな趣味が本当にあるとは思えない。
 やめさせてください、ここでコレを喜ぶのはこの男だけでしょう、あなたの品位まで落とすことはない。」

…説得の方向としてどうも間違っている気がするが、
夫人がこちらの味方だと捉えられる整合性のとれた状況が見出せず、
追い詰められて半信半疑の中で口だけが動いていた。

マレクに手招きされ、本気じゃないですよね?と救いを求めるように夫人を見てしまう。
促される一歩を簡単には踏み出せず。

マレク > 「人望? 貴女に何をしたところで、人望など失われない! 今まで何処の石の下で暮らしていたのです? どうやら私達王国の貴族を、口うるさい仕切り屋程度にしか考えていないようですね。何と無知な女だろう!」

同心円の溝が刻まれた目を見開いた男が胸を反らして笑う。そしてシンディが夫人を振り返れば、その背に男が声を投げかけた。

「現実を見ることですね。子爵夫人は、性奴隷を躾ける道具をもって貴女を出迎えた。私は夫人のお心に沿って行動しているだけです。そもそも、他にどう捉えようがあるのです? ……子爵夫人、私に考えがあります」

シンディを嘲笑った男は、そのまま彼女の隣まで歩いて片膝を突いた。

「この思い上がった恩知らずな女を躾けるには、バフートで出回っている薬が一番でしょう。今直ぐ貴族を恐喝した罪でシンディを捕らえて下さい。後は私が、万事良いように致します。ご心配なく。こういう気の強い女程、男に屈した後は脆いのです」

得意げに語る男と、言葉少なに判断を迫る冒険者。少女はその2人を見て羽扇を手に立ち上がり、執務机を回り込んで2人へと近付く。

シンディ・オーネ > 「昨日の貴族が今日は奴隷な世情じゃないのか…!」

すがるように印象を口にするが、そういえばメルド家の事など何も知らない。
確かに貴族の没落が珍しくないとはいえ、盤石な家というのもありそうで。
マレクの口振りを聞いていると、この程度の戯れは何でもないのではないかと、不安が膨らむ。

「……ッ!」

現実を見ろと言われ、言葉が詰まる。そうそれ。他にどうとも捉えようがないのだ。
マレクの口車に乗せられて用意した、なんて事が無いのは先日の、少女の激昂を見れば分かる。
では―― やっぱり本当に、本気なのかと、こんな事で私は容易くオモチャにされるのかと、膝が震えた。

「――何がっ…! 何が恩知らずだ、騙しておいて! 娼婦なんて… なんて…」

娼婦になれと言われていたらすんなり引き受けたりしなかったと、言いたいが、
ではあの状況で断れたかと言えば… どうだろう。一瞬悩むけれど。

「娼婦まがいの扱いを受けるなら私有地侵入の罪を問われる方を選んだ!
 仕事を干されたって、私を知ってる人も… 少しは、いるんだ!」

実際に迫られたら分からなかったが、強がって、罪に問われても再起してやると。

バフートの薬って何だと眩暈を起こしかけながら、そんな言い合いの中で夫人が席を立てば、何事かと固まる。

「夫人、どうか。せめて私が契約通りにして使い物にならないかを…!」

確認してほしい、試してほしいと、新米冒険者はあまり強く言えないけれど、
しかし魔術師としての力量には自負がある。

縋るように言うのはもう本気で―― 言ってから、気付き慌てて膝を折った。
マレクの見様見真似で臣下の礼をとり。

「どうか…っ!」

マレク > シンディがマレク同様膝を突いて子爵夫人に訴えても、黒衣の少女は歩みを止めない。閉じた羽扇を握る手に力が篭もり、先端が開く。

「そう悲観する必要はありませんよ、シンディ。男勝りな貴女が、いかにして男無しではいられない身体になっていくか、魔道具で撮影してあげます。それをアーネストさんに送れば、彼とて少しは寂しさが紛れるでしょう」

勝ち誇った男の、彫りの浅い端正な顔。それが、乾いた音と共に揺れた。無表情で扇を振り上げた少女が、力任せに男の頬をはたいたからだ。
シンディの、他の女達の見ている前で、男の顔に何度も何度も羽扇が打ち付けられる。羽毛が飛び散り、扇の骨が折れ、鋭い先端が生白い肌に赤い筋を刻む。

やがて、完全に駄目になった扇をマレクの頭に投げつけた少女が、弾んだ呼吸でベールを揺らし、男の髪を掴んで顔を上げさせた。

『私の心は伝わりましたか』
「はい、子爵夫人。確と心得ました」
『では二度と間違えないように』
「お言葉、胸に刻みます」

そんな短いやりとりが交わされる。先程までの気勢はどこへやら、血のにじんだ顔で、まるで人形のように淡々と従う男を見た幼い子爵夫人は、執務机へ戻った。そして彼女らしからぬはっきり通る声でこう言った。

『今後、身体検査のやり方はマレク殿に一任します』

そう、確かに言ったのだ。