2020/09/23 のログ
シンディ・オーネ > 「親切に甘えるだけ甘えて省みないなんてダメでしょう。
 …まあ、マレクさんにとっても子爵夫人の機嫌が良いのが一番なら、
 私が一番失敗しているのは、昨日のうちに、話してくれていたときに、
 態度を決められていなかった事だけど。」

…察しは悪い方なのかもしれないと、自分の一面を思う。
マレクを憎めという言葉を、直接の解決策でなく心情的慰めや周囲への配慮と軽く見た結果が今だ。
あなたは言っていてくれたのに、ごめんなさいと。
深まった笑みに戸惑う顔を向けるが――

「っい、いいおもっ――? …させちゃったら、それは仲良しじゃない。」

良い思いと言えば、身体検査が高じての本番かな?というイメージで。
高笑いを冗談が過ぎると嫌そうに見て、あ、そういう感じでいくのかなと思っておく。

「…自分で下りられる。」

そうだった。
恭しい真似をされるのは居心地が悪いので、今度馬車が止まったらとっとと降りてしまおうと思っていたのだが。
間に合わずエスコートされて… 強がるけれど、今は必要だった。

馬車に揺すぶられ続けた身体は媚薬の熱を高めていて、キツめのレザースーツがもう身体の芯の方を疼かせる。
顔は赤く目はとろんと潤んで、はっはと短くつく息は熱っぽく。
差し出された手にはぎゅうっと力が入り、タラップを踏む足は膝が笑っていた。

マレク > 「私こそ言葉が足りなかった。より明確に言えば良かったのです。あの場で貴女をしっかり躾けて、雌としての自覚を持たせ、ガラス棒より太く逞しいモノで奥の奥まで愛して差し上げるべきでしたよ。……失敬。今の内から、クズ男の練習をやっておこうかと」

男はそう、真顔で言ってのけた。自分で降りられる、というシンディの言葉を聞いても、腕を引っ込めない。

「どうぞそのまま、ゆっくりと」

差し出した手に体重がかかっても、男の身体は微動だにしない。シンディの頼りなげな足取りに合わせて少しずつ腕を下げていき、相手が地面に着けば笑いかける。

「さあ……此方ですよ、お美しい方」

ゆっくりとした足取りで冒険者ギルドの扉の前までやってくる。本来淑女をエスコートする場所ではないが、目的地なので止むを得ない。

シンディ・オーネ > 「いや、甘く見ていた、私が――」

悪いのだと、言おうとして。

「ッッ……!?」

続いた言葉に何を言い出すのかとぎょっとするが、なるほど練習か。
…まさか実際にやったりしないだろうなと、そわそわしてしまい。
嫌悪すべき状況のはずなのに、その想像にジンと下腹部に痺れるような――

「…そういうのもいい。」

手に扉の縁も掴みながらの降車で格好つかず、
新米冒険者がギルドにエスコートされて入るなんてそれこそ間抜けで、
そういうテイストでなくていいからと、こちらは努めて普通に入ろうと。

マレク > 「では、私も」

相手があくまで平静を装うなら、こちらも押し付けはしない。それでも先に扉を開けて、相手を入れようとはする。そして室内に足を踏み入れた後、声を張り上げた。

「冒険者ギルドの皆様! この度、貴方がたの同胞であるシンディ・オーネさんが正式に、メルデ子爵夫人の後援を得たことをご報告いたします!
夫人はかくも貴重かつ有望なる人材が王都に集っていることを喜ばれ、シンディ・オーネさんが如き才人を見出し、重用するは高貴なる者の務めとお考えです。今後も是非……」

ぺらぺらぺらぺら。シンディが魔導学者との連絡手段を問い合わせている間、男は持って回った馬鹿丁寧な言葉遣いで彼女を宣伝する。他の冒険者の反応は半分が驚き、もう半分が苛立ちと嫉妬といった所だった。

冒険者ギルドの末端構成員……という正式名称があるかはともかく、名高き存在ではなかった彼女がいきなり貴族の後ろ盾を得るというのは有り得ないことだし、一部の人々にとってはあってはならないこと。

シンディの容姿にほれ込み、いつかはパーティに入れて便宜をはかる代わりに交際を迫ろうとしていた男が、憎々し気にマレクを睨みつけていた。

シンディ・オーネ > 「――っぶ!?」

飲み物も飲んでいないのに吹き出した。

え、何、ギルドにこう報告みたいな感じで、
ギルドの仕事ついでに依頼外の仕事を受けて貴族の私有地に入っちゃったけど、
カクカクシカジカで不問にーというか処分保留にーみたいな話をしてくれるものだと思っていたら。

何宣伝してくれているんだそんなの悪い方向に転がる気しかしないと、慌てて止めようと。

「待て待て待てマレクさんッ!?
 間違ってもそんな大袈裟なものじゃないだろう貴族の仕事を受ける事自体は珍しくない!
 後援って、そちらの仕事で使う物しか用立てて貰うつもりもないし…!」

違う!違うぞ!と、この時だけは体の熱も忘れてわたわた。
学者との件にこそ窓口でマレクから口添えというかメルデ家の公認が欲しいのだと、引っ張って行こうとするが!

マレク > 「シェンヤンの策動!北方の魔族!アスピダの叛徒! 大乱渦巻くマグ・メール王国において、貴方がたは正に荒廃と平穏との間に立つ勇……はい?えっ?何ですか?」

引きずられながらも少しの間は喋り続けていた男は、シンディの言葉に瞬きして。

「何を仰るシンディ・オーネさん! 確かに貴族からの依頼は珍しからず! されど貴族が補給も治療も一切負担して、仲介者を使わず、じきじきに依頼を提示する相手ですよ!そんな冒険者が、この広い王都に一体どれだけいると、ああ、シンディ・オーネさんが受諾された荷運び?荷造り?運搬業務を調べて頂けますか?本件はメルデ家の子爵夫人が委細承知しておいでです」

誉め言葉で悉くシンディの言葉を否定し、しつこく彼女のフルネームを呼ぶ男が、物のついでのように窓口に伝えた。場がざわつく。何で?という声があちこちから上がる。シンディ・オーネなる新人冒険者は、一体どうやって子爵家に取り入った?

そんな疑問が、野火のようにギルドホールの隅々まで広がっていく。

シンディ・オーネ > 「あああだから黙れっ! あんな風にっ…」

脅迫まがいの契約を迫っておいて後援などと。
確かに待遇は破格だが、訴追の可能性さえ無ければあんなわがまま娘との付き合いは願い下げ。
それを抗議しようとするが、そんな事を大声で言うのはまたマズイし、私がこの契約を断れないのも違いない。

…向けられる苛立ちや嫉妬に、故郷の村で突っ張っていた自分を思い出す。
別にこいつらにどう思われようと知った事じゃない。そっちはそっちでこっちはこっちだと。
しかし誰も私を知らない街で、誰にも露骨に疎まれたりしない生活がしばらく続いていて、
こんな形でそれが壊れるのではないかと思うと、無性に悔しくなってしまう。

「――ハイ、あの、ええとちょっと言い難いんですが…」

何の騒ぎかと訝るギルドスタッフに委細説明したら、あとは学者先生に荷物を届けてお仕事完了だ。
まだ出立していないと良いが。

「――ここまでご足労ありがとうございます、マレクさん。
 後は自分で出来るので、ここで。」

馬車から荷物を預かったら、少しギルドに置かせてもらってトイレに行こう。
そんな所で自慰などした事無いが、変な顔になってやしないか心配なくらい昂らされていてもうダメで。

ありがとうございましたと、そそくさお別れの姿勢。

マレク > 「いやそんな自分で出来るなどと、シンディ・オーネさん。私もメルド子爵夫人の相談役として、必要なことが……」

名ばかり貴族たる男が、そして役柄上とはいえ悪名を被りがちな男が、それでも生き残っているのは何故か?それは、彼を使う人達が望んでいることを実行するからだ。そして子爵夫人は、シンディの独占を願っていた。

何故こんなにも、恥ずかしい程シンディを宣伝したか?それは彼女の、ひょっとしたら出来つつあったかもしれない冒険者としての横の繋がりを破壊する為だ。

つまりこういうことである。一体誰が、貴族の正式な後援を受けた新進の冒険者を手助けしようと思うだろう?誰が、そういう人物を自分達の依頼に一枚噛ませようとするだろう?

「お待ちください、シンディ・オーネさん! あなたに万一のことがあれば、私の立場も……!」

などと言いながら、男はどこまでもしつこく追いかけ、荷下ろしを手伝ったりして中々辞去しようとはしないだろう。流石に、トイレまでは付いてこないだろうけれど。

シンディ・オーネ > 察しは、悪かったが。
しかしここまでの話を考えれば、このようにした意図も分かる。
マレクはさせられたのだと思いたいので、やむをえないと諦めるけれど、今は顔を見たくない。

「――あの子のところで名を挙げて、力をつければいい、でしょう?」

社交的な性格ではないので、友人と呼べるような者は今に至るもそれほど出来ていないが。
その可能性がごっそり削られたのを感じながら、あなたはそう言うのでしょうと言って。

「――ここからどんな万一の事がある!?
 ほら用が無いならもう―― あああもうトイレッ! トイレだ!」

どたばたと慌ただしく、トイレ宣言もどうかというところだが余裕無く、
引っ込んでしばらく、えらく長い間、出て来なかった。

ご案内:「冒険者ギルドへの道すがら」からシンディ・オーネさんが去りました。
ご案内:「冒険者ギルドへの道すがら」からマレクさんが去りました。