2020/09/20 のログ
ご案内:「とある貴族所有の倉庫」にシンディ・オーネさんが現れました。
ご案内:「とある貴族所有の倉庫」にマレクさんが現れました。
■シンディ・オーネ > 「――ねえ。 …なあ。 おい、いつになったら来るんだその貴族様は。」
とある倉庫。同じような木箱のうず高く積まれた場所。その少し開けた一画で、
後ろ手に手を、両足を安普請な椅子の足に縛り付けられて、遠くでカードゲームに興じる数名の男達に声をかける。
何度か無視されているが今回は何人かがこちらへ向かって来てくれて、まったく、と深く長いため息をついた。
思えば、少しクサかった。
いつものように冒険者ギルドで仕事を請け負って、内容は引っ越しのお手伝いのようなもの。
魔導の研究をしているという人物が、転居に際し助手を引っ越し業者にするつもりが見立てを誤り、
ちょっと人手が足りなくなってしまったらしい。
つづがなく力仕事に精を出して荷造りし、その中でちょこちょこと身の上話もしていて、
終わった後でもう一件手伝う気はないかと声をかけられた。
アグレッシブなその学者は以前、フィールドの遺跡を一部占拠して研究室としていたが、
魔物の増殖やら盗掘者からのどさくさ紛れな襲撃やらが重なり、やっていかれなくなったらしい。
諦めるには惜しい私物を放棄してきているので、可能なら回収してくれれば謝礼を出すという話。
本来なら、真偽不明なこういった依頼は、冒険者ギルドを通すべきだ。
その遺跡で本当にこの学者が活動していたのかは不明で、
場合によっては他人の研究所から物をかっぱらうとか、そんな事になりかねないのだから。
しかし遠方への転居を控えていて、半ば諦めるつもりだったが冒険者と話して欲が出たと言われると、
急を要するのは分かるし、冒険者冥利に尽きるような気もする。
何より新米の私を応援したいとか言ってくれて、報酬が良くて。
…アーネストは遠征から、派手に防具を破損させて戻って来た。
先日ちょっとお買い得な防具を見つけていて、それで少し、欲張ってしまったのかもしれない。
――疑わしい部分からは目を逸らし、そんな話もあるんだなあ、くらいに思って指定の遺跡に潜った。
道中魔物だか原生生物だかを蹴散らす必要はあったが、人類とは敵対せず。
説明通りの場所から依頼された物品を見繕い、まだ無事に残っていた物をサルベージ。
つつがなく仕事をこなしての帰り道。
喧嘩腰で呼び止めて来た貴族の私兵を名乗る男達が言うには、この土地はつい先日よりとある貴族の私有地となっており、
先ほど潜った遺跡はもちろんその中にある物も全て、その貴族の物という事になるらしい。
どうやら相手が『本物』らしい事は察せられたが、こちらもお仕事。
はいそうですかとは引き下がれず、ひとまず物品を依頼主に納品して、
後はその貴族と依頼主の間で相談してくれないかと交渉してみるも、聞いてもらえず今ここ。
『主人に確認する』の一点張りで、日をまたぐ勢いの放置である。
「――冒険者ギルドのシンディオーネ。
確認出来たら解放してもらいたい。私が持ち出した物はもうそっちで持ってていいから。」
いつまで待たせるつもりかと言外に。
私兵だと言う男達も今は防具を脱ぎラフな服装でそうだよなあ時間かかり過ぎだよなあと相談。
…お、これは帰してもらえるんじゃないかと期待したが――
『じゃーヤっちゃいますか?』 『一発イっときますか?』 と何やらゲヒゲヒ不穏な笑い声を上げ始め。
「……。」
吹き飛ばしちゃっても罪は無いよなあ、と倉庫を見回した。
箱の中身、何だろう。何にせよ壊したりしたらますます立場が悪くなりそうだが、
不当な私刑には反撃したって許されると思うのだがどうだろう。
■マレク > たるみ切った態度の男達がいかにもゲスな笑い声と共に何かの算段を立て始めたその時、倉庫の外から馬車の車輪と、蹄の音が聞こえてきた。椅子に縛られた女性へ歩き出そうとしていた男の1人が、眉間に深い皺を刻んで舌打ちする。
やがて馬車は止まり、少なくとも4人が地面に足を付ける音が上がった。と同時に、新たな音が加わる。鎖が鳴る音。人間のものとは異なる低い唸り声。猟犬だと察せられるだろうか。
「やあ、皆さん。こんばんは」
いかにも温厚そうな男の声と共に、倉庫の扉が外側から開かれた。入ってきたのは、ダブレットにホーズ、皮の短靴といかにも貴族然とした男。その顔立ちは整っているが、作り物めいて見えるかもしれない。
男は青白い光を放つランタンを掲げ、同心円状の溝が刻まれた目で室内を隅々まで見渡し、苦笑いと共に頭を振った。
「……皆さん、子爵夫人は大層心配していらっしゃいましたよ?余りに心配され過ぎて、此処へ来てしまった程です。報告くらいはされるべきだったとは思わないのですか」
いかにもゴロツキな男達と、隠しようもない怠慢の形跡を見つつ男が告げる。すると、その背後に音もなく1人の小柄な影が寄り添った。わざとらしく溜息をついた男が言葉を続ける。
「とはいえ皆さんもお疲れだったのでしょうね。寛大なる子爵夫人は、しばしの休暇を下さるそうです。羨ましい限り。さ、どうぞ。此処は私が引き継ぎます。……さあ!」
男が再三促すと、ゴロツキらは愛想笑いを浮かべつつ男と、男の背後の小さな何者かの脇を通って倉庫を出る。鎖の音と唸り声が大きくなった。
「さてと……この度は災難でしたね。少々、行き違いがあったようで」
そう言った後、男と、暗がりに隠れたもう1人は椅子に拘束された女性へと歩み寄る。
■シンディ・オーネ > ――口は塞がれておらず、話が出来るならその相手は射程内。
この場を制圧する算段を立て始めたところで、扉の向こうに馬車の音。
救われた… とは一概に言えない気がするが、少なくともこれで事態は進展するだろうと、
動きにくい身体でガタゴトと座り直す。
全身を覆うタイトなレザースーツはどこか盗賊めいて、
それであらぬ誤解が深まっているのではないかとも考えていたが――
「……ん?
報告くらいは…?」
入って来たランタンに目を細め、相手の容貌にはまだ注意を向けられていない。
それよりも、報告くらいはって今何て言った!?と、剣呑な目を私兵を名乗る男達に向けた。
…退散するようであれば見逃すが、顔を覚えておいてやろうと、一人一人を見送るように、じー。
「……ああ、分かってもらえたならいい。
あなたは、ええと… 私は子爵夫人とやらの土地に居て、夫人の代わりにあなたと話せばいいのか?
どこまで聞いている?」
話せば分かってもらえる程度の事と思っているので、話の通じそうな相手には素直で穏便な態度である。
ずっと同じ姿勢でお尻やら肩やら痛いなあ、ともじもじ。
■マレク > 「貴女が……」
男が何か言いかけたその時、背後の小さな影が彼の袖を引く。黒衣に身を包み、黒いベールを被り、羽扇で目から下を覆った何者かが、レザースーツを着た冒険者を見つつ少女の声で男に何か囁く。『シェンヤンの地の者』『宴にも出せる』『くれぐれも無理強いは』といった言葉が断片的に聞こえてくるだろう。
「……承りました、子爵夫人」
肩越しに振り返った男が承諾すると、黒ずくめの少女?は『よしなに』と告げて羽扇を閉じ、倉庫から出て行った。視線を落とした男が再び微笑む。
「失礼しました。どこまで聞いているか、ですね。貴女がここ、メルド子爵の御領地に無断で侵入し、遺跡に押し入り、盗掘人の野営地から装備を持ち出し、あまつさえ逃走を図った……ということは、把握しております」
笑顔を保ったままの男が言ったことは、到底女性には受け入れられないだろう。そして、何故男が拘束を解こうとしないかについても分かった筈。
「これは単独の犯行なのですか?それとも、盗掘人の指令を受けたのですか?どうか、包み隠さずお話し下さい」
訳知り顔で頷いた男が、どうぞ?と言わんばかりに右手を差し出す。
■シンディ・オーネ > 鎖の音に唸り声は、馬車で来たのを思うと猟犬が少し不思議だけれど、護衛という事だろうか。
背後の人影は… 女の子か?
まさかそれが子爵夫人か?
状況をうかがいきょろきょろして、断片的な単語が聞こえると――
「――シェンヤンの出身ではないわ。行った事もない。」
敵国人ではないぞと、そこだけは早々に口を挟んでしまう。
無礼だったかなとチラリと思うが、無礼も何も必要な情報だろう、という感性で。
「…無断で侵入したが私有地とは知らなかった。冒険者ギルドの依頼で――
ええと、依頼で、引っ越しの荷造りを手伝った学者先生から、
あの遺跡を研究室にしていた時に置いて来た物があるから取って来てくれと頼まれた。
その学者先生が盗掘まがいの事をしていたとか、メルド子爵に許可を取っていたかとか、そんな事は本人に聞いて。
シンディオーネが荷造りの依頼を受けた学者先生って、冒険者ギルドで確認してもらえれば分かるから。
逃走もしていない。声をかけられて、大人しく協力してる。
頼まれたのは私一人。私が知っている限りではね。持ち出した物は取り上げられたので全部。
…あの、さっきの、宴って何。」
ゴロ… もとい私兵にしたのと同じ説明を繰り返し、
先ほど少女と男がやりとりしていた、宴の言葉が引っ掛かっていてそわそわと聞いてみる。
■マレク > 「なるほど。シンディ・オーネさんですね。私はラノエール家のマレクと申します。どうかマレクとお呼びを。……ふむ」
口を挟んだ部分も含め、名乗った男は笑みを浮かべてその都度頷き、冒険者の女性の説明を聞いていた。その後、取り出したナイフで縄を切り、拘束を解いた。
そして内緒話の中身が気になるらしい彼女へ、やんわりと右の掌を突き出す。
「……シンディ・オーネさん。今はもっと大事な話をしましょう。見た所、貴女は困難な立場に置かれている。この地が子爵領となったのは2日前ですが、だとしても貴女が法を犯したという事実は変わらないのです。そんな貴女の前には今、3つの道が伸びています」
手の指を3本立てる。その後立てた指を1本にし、微笑と共に続ける。
「1つ目、貴女は罪人として王都の衛兵隊に突き出され、その事実が冒険者ギルドに報告される。貴女は貴族の地を侵したならず者として記録され、以後、生業に差し障りが出るかもしれない。2つ目。貴女は」
2本の指を立てた男の言葉はまたしても中断させられた。犬の吠え叫ぶ声と、ゴロツキの悲鳴が夜空に響き渡ったからだ。それらは、段々と遠ざかっていく。
「……貴女はどうにか私に一撃を食らわせ、猟犬が放たれた夜の森へ逃げ出す。生き延びればお尋ね者。さもなくば」
何度も何度も上がる悲鳴を聞いて、男がちらりと背後を振り返った。そして女性へ向き直り、肩を竦めて小さく笑う。