2020/05/03 のログ
ご案内:「設定自由部屋3」にバルベリトさんが現れました。
バルベリト > ――第八師団執務室。

『査察』を終えて王都に戻ってみればきな臭い話題ばかりが飛び交っていた。積みあがっているのは山の様な報告書と指令書。
文字を読めば頭痛がする己からしてみれば、これほどまでに嫌がらせと思えるような仕打ちは他にあるだろうか。
一枚、また一枚。報告書を読むたびに眉間に皴が寄り、舌打ちとため息ばかりが広くもない執務室に響いている。

「血の旅団、ねぇ……。」

面倒臭い。魔族よりも人間の方がよほどのあくどさと言わんばかりに被害が記されていた。
女、子供は言うまでもなく。護衛の騎士、傭兵、冒険者に至るまでが被害を受けているという。
元々広範囲の警戒、監視を活動の趣旨に入れている八師団では、無視が出来ない範囲で人的損害も受けている。

シェンヤン方面への監視の人員を減らし、監視網を狭め、小隊単位で相互に連携が取れる様に配置を変更すべきか。
自分名義の指令書に配置の変更、撤退戦術の重視を記してはいるが――。
問題なのは。洗脳という2文字。

「こればっかは俺じゃわかんねぇからな。あー……詳しい奴に一度見てもらって判断必要か?」

洗脳の厄介な点は、はたから見てそうだ、と判別出来ない点につきる。
洗脳を受けてなお、騎士として師団内に留まる人員が絶対にいない、と現時点では断言が出来ない。
魔法に詳しい人物や医学的な意見も欲しい所だが、どこの師団も手一杯だろう。あまり他者をアテにしすぎるのも宜しくない。

ぎしり、と椅子に背中を預け――暁天騎士、血の旅団。それらの被害と対策に頭を悩ませる。
ミレー族は――自分の領地にもかくまっている。いや。匿っているというより、普通に市民権を得て普通の人間と同様に、普通に生活しているのだ。
其処を踏み荒らされる心配が出てきたのは、無視も出来ない。

バルベリト > 暁天騎士団については空からの偵察は悉く迎撃され、執拗な追撃も受けた報告がある。
戦闘力、と言う点では明らかに他師団に劣る以上、極力逃げる為の武装、兵装、魔法の道具を持たせている。
最たる物では閃光魔法、煙幕弾、偽装音発生符等。ただし、前提が意識を持つ存在の注意を、或いは意識を反らすためのものであり。

例えば洗脳。催眠。これらにより、特定の目的だけに囚われてしまった意識を反らす事はかなり難しい事もある。
大体の戦闘力、と言う点で言えば第八師団でも上位の強さを持つ騎士でも1対1で敗色濃厚。1対2ですら苦戦どころではなく極めて厳しい劣勢。
流石に戦え、と言う指示は出せない為に、ゾス村周辺の監視網と防衛線、補給線は引き直す必要もある。

アスピダへの道沿いについては正直、職務放棄と言われかねないが一旦人員を撤退させる。
騎士道や人道の為に、騎士団の人間に命を投げ出せ、とは言えない状況だからだ。
机の上の書類の横、すっかりと冷めたコーヒーを喉に流し込んでから。

もう一度、重い重いため息を吐き出していた。煙草でもあれば気を紛らわせるにはうってつけだったかもしれない。

バルベリト > (領地内の警護も多少厳重にしとくべきか。人攫いが横行している以上、本当はこういう真似したかねぇが……。)

自分の領地はそれほど護衛、もしくは自警団の数が多くない。
血の旅団しかり暁天騎士団しかり。この辺りが押し寄せれば凡そ、抵抗は難しいだろう。
城壁や堀、柵といった防護施設が少ないのだ。
冒険者か。それとも傭兵か。彼らを雇うには相応の金銭も必要になるが。悲しいかな、師団長程度の収入ではせいぜい2,3人雇えるかどうか。

今はもっと相場が上がっているだろう。傭兵の需要が高まれば当然価格も上がる。
そして質のいい、腕の良い冒険者は傭兵ほど先に抑えられている。
今から雇おうとしても、恐らくは新人の傭兵か。それとも退役軍人で暫く年数が経過し、食い詰めた結果の老兵ばかりだろうか。
ミレー族を、売り飛ばさせる訳にはいかない。自分の領地の、領民でもあり。何より、ある人物との未来を見据えた会話において、ミレーも。魔族も。人間も。変わらぬ領民として扱うのが前提なのだから。

「あ、会議要請きてたわ。まぁいいや面倒だし頭良い連中に任せときゃなんとかなんだろ。」

切り替える様に軽口をひとつ。
自分で淹れたコーヒーのなんと苦く、なんと不味く。そして冷めたコーヒーの喉に引っかかるようなエグさのある苦味で目が冴えてしまった。
意識というか、頭の中はどんよりと重いのだが。

バルベリト > いっそ単独で潜入でもしてみるか。
そんな考えが頭をよぎる。大方ろくでもない結果になるだろうが。それでも何も行動を起こさないよりは状況が動く可能性が高い。
最悪なのは命を落とす事より自分自身が催眠術に掛かる可能性、だが。
ちらり、と壁際に立てかけられている自分の愛剣。白銀の巨大な剣に目を向ける。

ただ、状況が動く。動かない。何れにしても表立って兵力を動かしている以上。
今兵を動かす理由が向こう側にはあり、そして今は本拠地に誰も足を踏み入れさせたくない、という事なのだろう。
防衛網を広げれば個々の密度は下がるが、侵入者を発見はしやすくなる。
本拠に魔法的な監視を施しているなら、騎士団による人的な防衛網を広げるという事は、交戦している間の時間稼ぎも向こう側の思惑の一つなのだから。

「えー。でもか弱い俺が一人でいってもなー。」

独りでできる事は限られている。
反面。自分単独であれば洗脳や催眠。暗示といった精神操作に属する力には無類の防護力はある。……不本意ながら白銀の剣があるのだから。
例えその前所有者が、人ならざる存在で戯れに自分にその剣を与えていたのだとしても。

バルベリト > 暫し。暫しの時間が経過した後、室内の明かりは落とされ。
部屋の主はその場から消えていた。数時間後、安居酒屋でのんだくれになっている師団長が見つかったという話はあるが、事実かどうかは定かではなく――。

ご案内:「設定自由部屋3」からバルベリトさんが去りました。