2019/07/08 のログ
■ベルモット > 応援されるなら腕を振り上げて応じてみせるけれど、笑い方を真似されると、不思議と照れ臭くてトーンが落ちる。
とはいえアルキダケ集めは無事に終わって、今は熾きた炎の前で焼かれる肉を見るばかり。
「普通の定義を考えたくなりそうだわ……ん?なぁに、どうしたの?」
横に置いた背嚢から紙袋を取り出し、中から丸いパンと桃のジャムの小瓶を取り出したり、
簡易で簡便に使える木の皿にフォークやスプーン、敷布等を取り出しているとラファルが何かを思い出したらしい。
あたしの視線がそちらに向くと、丁度カードを広げるように扇状に提示される緑色の鱗。
「……え、いやあげるって。鱗?あなたの?」
緑色の鱗。但しその表面は炎の輝きとは違うものを纏い、自体が強い威圧感を持っている。
手に取るとそれ自体が刃物のように鋭く、しなやかな粘りを持って、硬い。上質の金属のような感覚だ。
「……えっと。これ、多分……竜鱗……よね。凄く貴重な物……なんだけど、飴玉の御礼には過ぎたものよ?」
竜、ドラゴン。生物の頂点。
そういった生物の血肉や骨、鱗は錬金術師ならば誰しもが欲しがる代物だ。
入手難易度は推して知るもので、少なくとも飴玉と等価とは言えない。
だから、あたしは少し困って、ラファルに断ろうとするのだけど、
その時奥の茂みから物音がして言葉は途切れる事となる。
「な………何あれ!?」
茂みの奥からうっそりとした足取りで現れたのは紫色の茸だ。
但しその大きさは2m程はあって手と足が生えている。
顔こそ無いけれど、そういったモノが静かに、緩慢に、確かにあたし達に向かって歩いて来る。
「ね、ねえ……どうみても危なそうなんだけど……何かしらあれ……」
通常、生物は炎を恐れる。それなのに近づいて来るという事は敵意があると思って良い。
ラファルの知識に期待しながら、あたしは杖を携えて彼女の前に立ち、その先に炎を灯して紫茸へと向ける。
茸の歩みは、止まる気配がない。
■ラファル > 「はいっ、どーぞ!
ちょうどよく焼けてるよ!塩振ってもいいし、果物汁を振ってもおいしいよ!」
カバンの中から、果汁の多いリンゴとかオレンジとか、レモンとかそういった果物を取り出して見せる。
後、お皿も忘れずに、と木で作られたお皿を並べていくのだ。
そこで、彼女が出しているおしゃれな桃のジャムの小瓶とか、あ、そういうの良いなぁ、とか。
「うん。ボクの。」
質問に対して、こくんと頷いて見せる。
多分、あなたのという意味が少しずれていることに気が付いてない。
少女の体の一部の鱗という意味での、ボクの。
少女の所持品という意味での、あなたの。
だから、価値のずれが生じるのだろう。
それを説明する前に、珍客が現れる。
「あれ、マタンゴだとおもう。
多分……変種なのかなぁ?あんなに大きいの、見たこと、ないよ。」
手も、足もある、ビリビリと張り付く敵意がこちらに向けられているのが判るのだ。
大きな大きな、キノコ。
「ベルモット、ボクが、やるよ。
その炎の、振り回したら、周囲が焼けちゃうよ。」
彼女の炎の杖は素晴らしい力を持っているのは解るが、森の中でその火は強すぎる。
怯えもあるから、制御もきっと甘くなるのだろう。
だから、ボクが前に出ると。
「ボクは、強いから。」
少女は、彼女の目の前でそれを見る。
別に、脅威には見えないが―――後ろの彼女を納得させるために。
敢えて、『翼』を広げる。緑の鱗に包まれた、竜の翼。
敢えて、地面をたたく、緑の鱗に包まれた、竜の尾。
その両手も、肘から先が竜の鱗に包まれ指の先の爪は竜のそれになり。
その両足も、脛から下が竜の鱗に包まれて、爪が伸びる。
「ボクはrafale[突風]
風の竜、ラファル・トゥルネソル、だよ。」
だから、大丈夫。
紫の茸に少女は、踏み出した。
残像を残す速度、で。
■ベルモット > 見た事の無い魔物だ。炎に怯まない所を見るに、もしかしたら耐性があるのかもしれない。
それでも退く事は憚られた。幾らラファルに天賦の才能があろうと彼女はあたしよりもずうっと子供で、小さいのだから。
「マタンゴ……マタンゴってあんなに大きかったっけ……ええ、ええ。でも」
意識を杖先に傾けて呼吸を整える。
吸って
吐いて
吐いて
吐いて
余計を身体から掃いて、理力を佩いて、意識を刷いて、重ねて想像す。
吸って
掃いて
佩いて
刷いて
「だ、大丈夫よ。あたしは天才だもの。出力の調整だって──」
やれる。そう決めた所で緩やかに動いていた紫茸が緩やかなままに両腕を上げる。まるで拳闘士が己の顔を腕でカバーする構えみたい。
何かを警戒するかのようだと思った。
「───へえっ!?」
その何かが、前に出たラファルだとは思いもしなかったのだけど。
竜だ。其処に居るだけで周囲の気温を下げる程の圧倒的な威圧感を持った竜。
鮮やかな碧鱗を眩く煌めかせ、光跡を曳いて突風が如く突撃する様はあたしの目を奪う程に美しい。
一方でマタンゴもまた先程までの緩やかさが嘘であるかのようだった。
俊敏にステップインをし、ラファルにその拳を見舞おうとする動きは、相手が生半の冒険者であったなら通用したに違いない。
でも、ラファルは生半では無かったのだから、哀れにも斃される事になる。
「……………えぇっと……」
一先ずのピンチは去った。
去ったけれど、人に化けていた竜の正体を知ってしまった。
もしかしたら凄いピンチなのではなかろうか。
何しろ相手は竜だもの。その爪が触れるだけであたしの四肢はたちまちにばらけてしまうに違いないのだもの。
「……あ、ありがとう?」
人ではない者の感情は当然と人と違う筈。竜の云う『友達』を人の尺度で容易に推し測るのは、危険だ。
あたしはラファルに声をかけ、彼女の反応を見ようと思った。
思考の隅で馬が駆けだそうとしているのを懸命に抑えながら。
■ラファル > 「あは。」
遅かった、確かに茸にしては俊敏であり、攻撃も正確無比であったのだろう。
しかし、幼女にとっては、止まる程に遅いそくどであったのだ。
大きな腕を掻い潜りながら、尻尾を腕に叩き付ければ、その重圧に、威力に腕が折れてしまう。
爪を使うまでもない、擦り抜けざまに手刀を叩き込むのだが、その速度は風圧を孕み、風圧は刃と化す。
風の刃で十重二十重に切り刻み、茸は直ぐに小さな細切れに。
したっ、と。幼女は地面に立つのだ。
――――人の姿、幼い幼女の姿で。
「あは、破っちゃった。」
竜の翼も、尻尾も出したのだ、人の姿であんなに薄着だったのは、服を着ても姿を変えれば、破けてしまう。
だから、服を着るのに意味があまり見いだせないのだ。裸族でもあるし。
幼女は、全裸で、人の姿で、てへー。と笑ってみる。
恥ずかしいというよりも、服を破っちまったZE!的な。
「ぶい!」
もしくは、いぇい。
ありがとうの言葉に対してちっちゃなおててがブイサイン。
それは、最初にであったままの、幼くて、快活で。
それでいて人懐っこい子供のままだった。
■ベルモット > ボクがやる。という言葉も、もしかしたら獲物を傷つけさせない為ではなかろうか。
とか、そんな事が浮かんでしまって、振り払うように頭を振った。
「……ぶい!じゃないってばあ~……」
幸いそうではないらしい事に大きく、大きく息を吐いて脱力しちゃった。
杖を支えにずるずると地面にへたり込むような、10人が視るなら12人くらいが脱力したって判断するような具合。
「成程ねえ、お母さんからってそういう事ねえ……お洋服が嫌いというのも納得だわ……」
初めて会った時の子供らしい笑顔に心から安心する。するけれど立ち上がれない。
どうも腰が抜けてしまったみたいで、緊張が満ちた膝だって愉快に笑っている。
「……い、一応言っておくけど、あたしは食べても美味しくないからね?
駄目よ?冗談でも齧ったりしたら。ちょっとだけ、とかもダメだからね?」
もしかしたら二人のお姉さんも竜なのだろうか。
そんな事も気になったけど、今はそれよりも念を押す方が優先されて
「……で、貴方のお洋服どうにかしないとだわ……」
それが済んだらラファルの恰好に眉根を顰めてこれでもか、と渋い顔を見せてやるんだから。
流石に全裸で返す訳にはいかないもの。破れた衣類を錬金術で修復出来ないものか、と這った姿勢で破片を回収し始めるわ。
■ラファル > 「じゃ、ぴーす?」
ブイサインを自分の方に向けてみせたり、自分の目の前に持って逝って、ウインクしながらキラッ☆彡とか、してみたり。
脱力する彼女の所に、とてててーっと近づいて見せるのだ。
そして、かがんで視線を合わせて大丈夫?と」首を傾ぐ。
「とりあえず、お肉食べて落ち着くといいよ!
ボク、人も食べられるけど、食べちゃいけないのぐらい知ってるよ。
だって……。
人を食べたら、人は襲ってくるもの。
竜を殺すのも、神を殺すのも、人、なんだもの。」
一応、という彼女に、ぷく、と頬を膨らませて言葉を放つ。
判っているのだ、人が、弱くても、一番強い存在だと。
神殺しも、竜殺しも、人の手で行われるものだ、というのが。
だから、食べないよ、と。
「大丈夫だよ、お家に帰ればあるし。
それとも、ベルモット、むらむらしちゃう?交尾したくなっちゃう?」
渋い顔になる彼女に、にひー。と笑って見せる。
したいなら、してもいいんだよ?ボク、そういうのも大好き、と。
■ベルモット > 「はぁ~寿命が縮むかと思った……でも、そうよね。竜なら人より優れてて当然よね。
そりゃあ魔法だって使えるし、身体能力だって比べるべくもない……うん、ちょっと自信回復」
10歳の子供に負けていた。という前提が無くなったあたしの表情は明るい。
四つん這い移動で衣類の破片を集めている。という様はともすれば間抜けだけれど、
幸いにして見るものはラファルだけだし問題は無い。
「ええ、ええこれが済んだらお肉を食べて落ち着くわ……ああ、もうそんな風に頬を膨らませないで頂戴。あたしが悪かったってば~」
それよりも目の前に来て、稚気を感じさせる怒り方をする彼女がおかしくって、あたしはついついと膝立ちの姿勢になって、
ラファルの小さくて柔らかい両頬を手で挟むようにしてぶしゅうと脱気させてしまうの。
「こっ……!?」
そして別の問題が花火のように撃ちあがった。
新しいお洋服が家にある。だからといって全裸で帰す訳にも行かないけど今はそっちが問題じゃあない。
臆面もなく、向日葵のように笑ってトンデモナイ事を言われてあたしの顔に火が灯る様になった。
「なななな何言ってるのよ貴方!?貴方まだ子供だし、そもそも女同士……あ、でも竜ってそういうのどうなんだろう……
じゃなくて!そういうのじゃないから!いえ、愛があれば性別は些細な問題だとは思うけど!」
後ろに仰け反って倒れそうになって踏ん張って、両手を振り上げて色々と力説だってしようもの。
森に騒めく動物達の声にも負けじと声を張り上げ、それが済んだら大きく深呼吸をした。
「……と、とりあえずそういうのは大丈夫だから」
深呼吸をして、誤魔化さずにきちんと答えようと思ったから、そうしたの。
■ラファル > 「えっへん。
……という事で、これ、ボクのウロコだから。ベルモットにあげるよ。」
明るくなった表情、うん、よかったよかった、と笑いながら、服を集める彼女。
というよりも、上はベルトだけなのである、そして、下は短パン。
服というレベルのモノじゃなかったりするのだ。
「ぷふー。
むー。わかったよっ。」
ほほに手を添えられて、息を吐き出させられれば、変な声が漏れるのはよくある話なのだろう。
そもそも、見た目通りの精神年齢な幼女は、彼女の動きにニコニコ笑う。
「こっ……?」
すごく、まっかっかである。
トマトの様に真っ赤である、すごくすごく、赤くなっている。
そこに燃えている炎のようにも見える。
かわいーなんて思ってしまうのだった。
「うん、竜でも普通は雄と雌が交尾するよ。
雌と雌は、ないんじゃないかな?
そういう意味では、人間ぐらいだと思うよ、オス同士とか雌同士、とか。」
人間ってすごいよねーとか、うんうんと、同意するように頷いて見せてから。
「うん、判った。
じゃあ、服は……こうしよっか。」
カバンの中から、大きめのタオル。
それを二枚出して、胸と腰に巻き付ける。
普段が普段なので、大差ない状態に戻った。
これならどー?
服装よりも、おなかがすいてるし、焼けているお肉に視線がちらちら。
■ベルモット > 力説をしている間に手には鱗が握られていて、ラファルが衣服の回収を終えていた。
人間の凄さをあっけらと語る様は、神や竜を殺す存在であると語った時と変わらないようにも見えた。
それでいいのか人間。
多分いいのよ人間。
あたしは自問自答し、竜の性交渉が健全?である事に頷き、そしてラファルの傾向が人間寄りな事に安心……していいのかしら?
「そう云うって事はあたしの事を揶揄ったわね……もう、意地悪な竜も居たものだわ。また一つ賢くなってしまったわね」
鞄からタオル地の布を取り出して、まるでお風呂上がりのような恰好のラファルを見ると安心していい気がした。
あたしはやれやれと肩を竦めるようにして、漸く笑わなくなった膝を立ち上がらせて焼けているお肉の元へと戻った。
「それじゃ、ええとご飯にしましょ?あたしの作った桃のジャムは人間よりも美味しいって事、教えてあげるんだから!」
唇を歪めて破顔一笑し、人と竜の奇妙な食事はきっと愉快な会話に彩られるに違いない。
そして貰った竜鱗は錬金術の触媒にすればきっと素晴らしい品物が作れるに違いなく、
然るべき商店に売却すれば一財産になるに違いないのだけど、
そうした事をする気にはなれず、栞のように紙束に閉じてあたしの思い出の一幕となる。
いつか、自分の工房を作った時にでも額に入れて飾ってみよう。そんな事だって想うのでした。
■ラファル > 良いのです人間というものは可能性を体現しているのですから。
可能性というものは、それこそなんにでもあるものなのですから。
「ふふーん。ボクは、賢いので爪を隠すのであーる!」
能ある鷹はなんとやら、何か、さっき思いっきり爪を出しまくっていた系の幼女は。
三分前の何某を忘れたかのようにタオルに包まれた胸を張るのでした。
そして、お肉のもとに戻ってくる彼女の隣に腰を掛けて、見上げるのです。
同じ色の、同じ髪型の、少し大人の女性。
「わーい!桃ジャム桃ジャムっ!
ボク、甘いのだーい好きー!」
餌付け成功。
そもそも、餌に対しての態勢が一切ない幼女。
それと、少しだけ驚かせるのだろう、イノシシ一頭丸々。
二人で食べるには少し大きすぎるだろう其れ、彼女が残したら全部一人で食べてしまうのだった。
人と、竜の奇妙なお友達関係、これが終わりではなく始まりで。
きっとまた、暇になったときに、人の元に遊びに来るのだろう。
こう、色々と規格外な何某をもって――――。
ご案内:「森の中」からベルモットさんが去りました。
ご案内:「森の中」からラファルさんが去りました。