2019/07/03 のログ
ご案内:「小高い丘」にベルモットさんが現れました。
ベルモット > 王都から少し離れた場所。人の足では一日歩き続けて届く所に小高い丘が在った。
だから、あたしが到着する頃には空が綺麗なグラデーションを顕していて、その頂きには煌めく星々だって見えた。

「お爺さんの話ではこの辺に生えているそうだけど……」

新緑の香りを含んだ風に髪を揺らしながらに周囲を見渡す。
緑に覆われた丘は背の高い草がある訳でも無いけれど、目を惹くものもまた無かった。

「う~ん……まだ時間が早かったかなあ?丁度いいかと思ったけれど、あたしの健脚も中々ね」

手ごろな岩に休憩がてらに座り込んで溜息を吐く。
今日あたしが此処に来たのは日忘草という薬草を求めての事だ。
曰く、日の光に咲かず月の煌めきに姿を現す神秘の花。
満月の夜に摘まれたものが最上とされ、その香りと成分は精神に安らぎを齎し、陽光を妨げるのだと云う。
火傷の治療に赴いた患家の家人から、そういった話を聞いたものだから早速と足を運んだ。という訳。
何しろ今日は満月の夜なんですもの。

ベルモット > 見上げるばかりの綺麗な色彩の波は次第に静まり、風に揺れる草の音だけがする丘に夜が訪れる。
角灯の明りを頼りに足を揉み解し、鼻歌を諳んじていたあたしが異変に気付いたのは、視界に煌めく何かを視たからだ。

「──うわあ……」

顔を上げると視界には一変した世界。
中天に満月を頂いた草原は青白の煌めきに包まれていた。
先程までは蕾すら視認出来ず、ただの草原でしかなかった筈なのに今は一面の花畑。
咲き誇る草花は悉くが月光を受けて輝き、風に花弁を散らして宙空を彩っている。
その明るさたるや角灯など無くとも丘を見渡せる程で、幻想的な光景は余人であれば言葉を失うに違いなかった。

「これだけ咲いているなら、用意した籠一杯に採っても問題なさそうね……よし」

ただ、あたしは余人では無く錬金術師だったから、花にも負けじと瞳を煌めかせて立ち上がるのだけど。