2018/06/27 のログ
ご案内:「街道沿いの街」にレナーテさんが現れました。
レナーテ > 第七師団が蹴り出した町長が泣きついたのは、街外れでキャンプをしていた自分達だった。
農作物の販売を請け負っているため、夏野菜の収穫予想と状況を確かめにやってきたものの、今宵はどうしても宿が取れぬと言われ、町の外で野宿をしていた。
見張りと言い争う声に気づき、その場に駆けつけた後、町長から状況を聞いて実働に移れたのは翌朝の事。
装甲馬車を数台。
その中には、集落の医療担当から給仕班、補給輸送班等など、召集されたのは後方で動く仲間達だ。
昨日から待機していた自身と仲間の少女達が馬車を誘導する中、馬車は広場に止められていく。

「農作業の方はそちらへ、内勤のお仕事の方はそっちへ。医療担当さんはここで手当の準備を」

乱暴され、心身を傷つけられた少女や女達にも、本当なら今日すべき事があった。
欲望の全て踏みにじられた結末と、穢れたゴルドだけでなく、陰鬱とした空気が立ち込める。
空には数羽のベニマシコ達が飛び回り、広場にも羽を休める彼らの姿も見える。
傷ついた街を狙う賊が居ないこともないだろうという用心といったところか。
輸送用に大きなエナガの姿も1羽あり、宛ら戦場の後方拠点の様な様相を構えながらも、あまり街の人間に怯えは見えない。
大体がミレーの少女であり、男性の姿一人もない。
鈴の音のような心地よい高音だけが響くだけでも、あの夜が終わったのだと人々に小さな安堵を届けていく。

(「珍しい声でしたね、本当に」)

珍しいと脳裏で呟いたのは、念話を通じて組合長に報告したときのことだ。
もしかしたら、ミレーの里を奴隷商が執拗に襲った際の弔い合戦の時よりも、憤っていた筈。
する必要のない暴力、乱暴、そして身勝手な欲望を叶えるための進軍の結末。
冗談で、背後から総攻撃しましょうか? と呟いた時に、今直ぐそうしてやりたいところだと宣った声が、嘘に聞こえなかったのは洒落にならなかった。
ぼぅっと昨夜の思い出に浸っていると、馬車から降りてきた少女の一人が、ガラス瓶を取り出し自身へと差し出してくる。
リーゼさんから預かってきたと渡されたのは、青み掛かった一枚の羽。
瓶のコルクを引き抜くと、中から取り出したそれは薄っすらと青白い光を零す。
それを胸元の紋章へと押し当てていくと、溶け込むようにそれは吸い込まれて赤い印の回りに月光のような青が宿っていった。

レナーテ > 人によっては辱めだけに終わらず、欲望のままに力を振るわれた身体には裂傷や四肢への打撲痕が残っている。
幾つも並んだ小さな医療用のテントの中では、その治療が行われていく。
たかが傷と傲れば、そこから感染症も起こしやすいのが性器などの粘膜の脆さ。
集落で衛生も確りと管理しているのも、病気を防ぐためだ。
そして奇しくもこうした自体に対処できるようになったわけだが、喜ばしいことではなかった。
特に深い傷もなく、心だけがズタズタにされた女達は、その傍にある大きいテントの中へと招かれる。

「どうぞ……こちらに」

椅子に腰を下ろしたまま、入ってきた女性を向かいの椅子へ座るように掌で促す。
薄っすらと指の食い込んだ赤い跡が残る肩や手首、泣きはらした目元は充血してやつれたようにも見える。
座ったまま無言になる女性の前へと立つと、掌に借り受けた青白い光を宿していく。
その光に一瞬ビクッと怯える様子が見えるが、大丈夫というように自身の掌を光にかざし、何も起きないのを見せつけていった。

「ちょっとした精神治療です、目を閉じてください。痛くないですから……」

本当に? と、問いかけるような視線に、柔らかに微笑みながら頷くと、恐る恐る女性は瞳を閉ざしていく。
そして、掌の光を彼女の胸元へと押し当てれば光は心の奥へと入り込むように身体へ吸い込まれていった。
同時に、逆流するのは昨夜の出来事。
酒場のウェイトレスをしていた彼女は、しつこく迫るならず者じみた兵士に無理矢理外に連れ出され、茂みの中へ組み伏せられていく。
素朴なながら愛らしさのある仕事着が剥ぎ取られ、エプロンを引き裂かれ、濡れもしない肉裂を無理矢理雄の欲望がおそ広げる。
激痛に瞳孔がきゅぅと窄まりながら、身体を小刻みに震わせながら赦しを乞うも、兵士の劣情を煽るばかり。
止めて、赦して、もうしないで と繰り返される悲鳴が、鮮明に叩きつけられると、喉が小さく引き攣る。
多分、自分ぐらいにしか力を預けられないと師である彼女が告げたのも、このせいだろうと理解に至れば、その思い出に光を翳す。
穢れていく、人ではなくなる、壊れてしまう。
絶望の言葉を月光の様な光が焼き消していくと、ゆっくりと唇を開いた。

「……それでも、貴方を大切に…求めてくれる人は、ちゃんといますよ?」

その声に女性の記憶が蘇るなら、回りの雑念を光で抑え込む。
遠くに出稼ぎに出てしまった恋人との思い出、戻ってきた時の後ろめたさに消えてしまいそうだったのだろう。
春陽の様に思い出を暖かく強めることはできないが、夜空に浮かぶ月のように、それだけをくっきりと意識させることは出来る。
徐々に痛みの声が消えていくと、緊張の糸が途切れた女性の体が前へと崩れていった。

「っ……本当に、酷いですね」

こんな乱暴の先に未来があるとでもいうのか。
結局は他者を食いつぶして作り上げる、略奪の世界であり、今と何も変わらない。
主義主張、願望、それが異なるだけで結局は回りなどどうでもいいのだろう。
これだけの乱暴を許したという師団長に、憤りを感じれば、ぎりっと奥歯を噛み締めて愛らしい顔がゆがむ。

「……ベッドに、運ぶ人が必要かも…ですね」

治療して運んでと繰り返してたら時間がかかってしまう。
とりあえず、この女性は自分が運ぶことにすると、その身体を横抱きに抱えていった。
自分よりも少し背丈があり、重たさもある身体を細腕だけで支えていくと、ゆっくりとテントから外へ抜け出す。
外で待つ女性たちが一様に驚いてこちらを見やるも、困ったように眉を顰めて笑い、別のテントへと向かう。

「安心したら寝ちゃったみたいです」

小声で呟けば、何人かが抱えた女性の顔を覗き込んだ。
涙に濡れた頬は見えども、表情は安らかであり、緩やかに胸を上下させる様子に納得したように顔を引っ込めていく。
そうしてテントへ運び、担架のようなベッドの上へ横たえると、手の空いている少女へ声をかけて先程のテントへと戻っていく。
今日一日は、この作業に時間を全て取られていくのだろう。

ご案内:「街道沿いの街」からレナーテさんが去りました。