2018/01/16 のログ
ヴェルム > 「そ、そうか…これに相応しい紅茶とか、あったかなぁ…」

貧乏師団、というほどでもないがそれほど贅沢も言っていられない組織。
手間隙掛けて作られたクッキーに合う、旨い紅茶がはたしてここにあるだろうか。
彼女を見れば、危ういほどまでに心優しく、純真無垢であることがよくわかる。
そんな彼女の優しさを無碍にすることはできない。無碍にしたら良心の呵責とか凄いことになりそうだ。

クッキー入りのバスケットを団員の一人に渡し、後々の食堂にてみんなに配るよう指示をしてから彼女をつれての拠点の案内。
予定としては、一通り団員たちの訓練や仕事を見学してもらい、実際に彼女にも体験してもらおうか、そう考えていた。

「うぉっ!?━━だ、大丈夫?」

不意な悲鳴とともに背中にしがみつかれてしまうと、びくりと足を止めてしがみ付かれたまま身体を固定。
転びかけたのだとすぐにわかるが、きちんと踏み固められた地面でどうやって…。
先が思いやられるような、そんな不安を胸に抱きながら、心配そうに横顔を向けて彼女の様子を見よう。

マリアージュ >  
「・・・わたくし、お茶も淹れられますわ?」

顎に人差し指を軽くあてながら、軽く首を傾げさせるのです。
後ろについていけば、出会う方にわざわざ丁寧なご挨拶を致しまして。
ただでさえゆっくりした歩みなのに、余計に遅くなるのです。
団長様を慌てて追いかけまして転びかけまして。

「~~~・・・ら、らいひょうぶです・・・」

ひーんと、目じりに涙が浮かびかけていまして。
小さなお鼻を片手の指の腹で少し撫でるのです。
ヴェルム様の背中に鼻をぶつけてしまったのですが、軽くだけです。
様子を見られているのに気づきますと、頬を少し桜色にしまして。
掌でお鼻を隠します。
――もう片手は、ヴェルム様の服の裾を、ちょんっと摘まむようにつまんでいるのです。
少し恥ずかしそうな様子で、澄んだ菫色の瞳を上目でヴェルム様を見まして。

「――大丈夫ですわ?」

きりっとした表情のつもりの顔。
はた目には、少し恥ずかしそうに、それを隠そうとしているにしか見えない表情なのですが。

ヴェルム > 「…足元に気をつけてね…」

それ以外にどう言えばいいのかと、涙目な彼女に苦笑いしてしまう。
ここまでで、騎士としてはなんと評価していいかと頭を抱えるような状態。
だがそれだけで不適格とか判断したりはしない、普段の振る舞いに問題があっても、剣を握れば戦士として覚醒するようなタイプの人間はまれにいる。
彼女もそうかもしれない…かも…。
とりあえず、彼女が大丈夫と言い切るのであれば、それ以上は何も言わず。

「ええと、ここがウチの訓練場…見ての通りだね」

木製人形相手に剣を振るう者もいれば、模造剣を用いて実戦形式の試合を行う者、弓を持ち的に向かい矢を放つ者、魔法を放つ者もいる。
さらに言えば、十三師団の団員たちは種族に囚われることなく、人間以外にもミレー族や魔族など、様々な種族が切磋琢磨している。
それはある意味、種族差別の存在しない理想的な人々の姿なのかもしれない。
だが、訓練場の傍には馬舎があり、そこには師団の逞しい馬達の他、入り込んだらしい野良猫が丸くなっていたりする。
そっちのほうに視線を奪われてしまうだろうか。

マリアージュ >  
「――う、うん・・・」

苦笑いを見てしまいますと、耳を桜色に染めて。
子供っぽく返事をして、おずおずと頷くのです。
ヴェルム様の服をつまんで持ちながら、次は足元をしっかりと見て歩くのです。
訓練場、と言われますと。
ひょこっと、ヴェルム様の体の影から顔を覗かせます。

「・・・あっ、あぶな・・・きゃっ・・・。
 あっ、怪我をしましたら・・・」

見ているだけで、ちょっとびくびくしまして。
心配げな声が出てしまっているのです。
こわごわときょろきょろとしますと・・・見つけてしまう馬や猫の姿。
あっ、と。視線がそちらに囚われますと。
ヴェルム様の服から手が離れて、ふらふら~っと。
訓練している方のすぐ近くを通るのも気にせずにまっすぐに馬舎にと足が動いてしまうのです。

「また、知らない子がおりますわ・・・」

さっきまで、びくびくしていたのが嘘な様に、澄んだ目を嬉しそうにきらきらさせて、
にゃんこさんにご挨拶しようと近づいていくのです。

ヴェルム > 「はは、訓練に怪我は付き物だよ。
それに相手に怪我をさせないように剣を振るうことも、精度や判断力を鍛える立派な訓れ…って」

団員たちが訓練を行っている様子を、やたらと心配そうに眺めびくついている彼女。
実戦経験が無いからとはいえ、ここまでのビビリようでは、戦闘体験も人形相手のものになりそうではあった。
彼女にいらぬ心配を掛けぬよう、訓練の様子について具体的な説明をしようとしていたら、後ろにいたはずの彼女はふらふらとどこかへ。
馬舎の方へと向かう足取りは、拠点に入り込んだ珍客の猫に向かっている。

「危なっかしいのはどっちなんだか…」

やれやれ、と言いたくなってしまう状況ではある。
ふらふらと猫を求めて歩く彼女の後に付いていくのは、また何も無いところで怪我でもされたらよくないから。
まさに落ち着きの無い子供のような彼女が近づいてくると、丸くなっていた猫はすくっと立ち上がり、マリアージュの様子を見ながらじりじりと後退り。
野良はそう簡単に人間を信用しないらしい。

マリアージュ >  
小さくふるふると顔を横に振るのです。

「・・・剣とかもったら、先生やクラスの人たちが。
 周りの人に怪我させるからダメだって・・・」

少し震える小さな声で、またヴェルム様に隠れるようになりますが。
猫を見つけると、それだけが見えているように。
剣を振り下ろそうとするその下さえも通り抜けようとするのです。
猫と少し離れた位置で足を止めますと、スカートの裾を抑えながらゆっくりしゃがんで視線をさげまして。
春の日差しを感じさせます温かい微笑みを浮かびまして。
低い位置に白魚のような細く繊細な指を伸ばしまして。

「・・・お友達になりましょ?」

優しい鈴音の声で猫に話しかけるのです。

ヴェルム > 「そ、そうなんだ…」

騎士なのにそんなことを言われる者がいるのか。
というか退学を勧めたりしないのか、もしくはそういったことができないということ。
彼女はその振る舞い以上に、高貴で自由の無い存在なのかもしれない。
ここにいるのも自分から望んだわけではなく、言われたから来ただけということか。

猫を求めてひたひたと歩く彼女に気づく団員たちは、寸でのところで剣を止めてその乱入者にきょとんとしてしまっている。
訓練を中断された団員たちにヴェルムが苦笑いして「悪い」と彼女の代わりに侘びを入れていくことになった。
それは別に構わないし、団員たちも気にしている者はいないのだが、彼女はそんなことすら気にしないというか、視界にも入っていないのだろう。

警戒しきりの猫は、彼女の無防備な立ち振る舞いに少しずつだが近づいて、その細い指に鼻先を近づけすんすんと匂いを嗅ぐ。
どうやら、不思議な気配の人間に興味を持ち始めたようだ。

「…ケイン…だっけ、何故騎士になろうと思ったんだい?」

彼女の後ろで膝に手を付いて、猫と戯れようとする彼女を眺めてみる。
そうしてつい言葉に出たのは、騎士らしくない彼女に対する自然な疑問。
そう言われたからかもしれないが、彼女自身がどう思っているのかは気になった。

マリアージュ >  
こくん、と。
とても素直そうに頷くのです。

「だから、いつも訓練とかだと体操とかしてますの。
 この前、もう少しで最後まで一人でできるってほめられましたわ♪」

この時ばかりは、ちょっとはにかんだ笑顔なのですけれど。

猫だけを求めるマリアージュに、もちろん、周囲の人たちなど見えていないのです。
しゃがんで、猫が指先を嗅ぐようすに、ほころんだ笑顔で。
暫く猫の好きなようにさせて身体をこすりつけてくると。
優しく頭やのど元を撫でまして、次第に身体も撫でて抱きかかえ始めるのです。
ケイン、と呼ばれても暫く反応を示さず。
ごろごろ喉を鳴らす猫を可愛がっていますと。
ふと気づいて、顔をあげて振り返りまして、まっすぐな菫色の瞳を向けてきます。

「騎士になった理由、ですか?。
 わたくし、立派なオトナのオトコの子の騎士になりまして・・・。
 あの、お父様とかお母様に・・・あれ?。
 お父様やお母様はいつ帰ってこられますのかしら?」

少し話すのですが、途中からきょとんとしますと、首を傾げさせまして。
目をぱちぱちとさせますと、迷子の様な声でヴェルム様に尋ねるのです。

ヴェルム > 「はは、その先生のほうが君のことをよくわかってるんだろうね」

はにかんで答える彼女は、騎士に相応しくないと思えるほどに愛嬌がある。
彼女に対し、投げた人間は多いらしい。先生やクラスメイトもまた彼女をそう見ているのだろう。
だが、彼女の両親もだろうか。

ケイン、そう名乗ったはずなのに呼ばれても反応が無かったのは、猫に夢中だったからというわけではないらしい。
案の定ではあるが、やはり偽名。
男の騎士となるために、男性名を名乗っているのであろうが、別に女騎士でも変わらないはず。
すっかり慣れた様子の猫を抱き抱え、こちらに振り返る彼女には、知らないことどころかわからないことが多すぎた。

「いや、ご両親のことは知らないけれど…。
大丈夫かい?」

なんだか、ちょっと…というか、完全におかしかったような気がする。
今の彼女の言葉は、はたして彼女のものだったのだろうか。
自身の両親についてすらはっきりとしていないその様子に、不穏なものを感じ取り、不安げな声になる彼女を心配そうに見つめる。
そして、彼女の髪を手の平で撫でてみようと。

マリアージュ >  
「でも、きちんとこっそり練習してますの。
 枝を、飛ばさず3回も振れるようになりましたのよ?」

少し自慢げに話す言葉。
それでも、精いっぱい・・・包丁ならきちんと扱えるのですけれど。
振り回す、というのはマリアージュからすると乱暴な行為で。
身体も心もついて来なくて。
握りは緩み、目を瞑ってしまうのです。

猫の体を撫でてあげながら抱きかかえたままで。
心に・・・つながらない、何かの隙間。
何故か胸が、心がギザギザの杭を埋め込まれたように痛い感じで、
抱きかかえた猫を抱える腕に力が入れば、猫が不満げな声。
痛がる声ではないのですが。

「――お兄様なら、なんでも知っていますの・・・」

そう言いながら、なぜか、心が軋み、透明な涙がぽろぽろと両の目から零れて、
猫に、地面に落ちるのです。
髪を撫でられれば、少し落ち着く気配を見せるのですが。
――さらりと動いた髪の下に、赤いチョーカーが。
何か目立つように文字が浮かんだ、首輪の様なチョーカーが見えるでしょうか。

ヴェルム > 枝すらまともに振ることもできない。
にもかかわらず騎士を目指そうとするその理由は、彼女の言葉ではないように思える。
乱暴な行為ができない、それどころかまともに見ることすらできない。
彼女の心身と言動が、全く一致していないのだ。

猫を抱いたまま、彼女もまた違和感を感じ始めている。
ぽろぽろと涙を流す彼女の姿は、まるで迷子のようでもあった。
そんな彼女の安心させるよう、髪を撫でて視線を合わせる。
お兄様、恐らくケインという名前はその兄から借りたもの、だとすればコンラートは間違いなく正しい姓。
そこから調べていくことはできるだろう。
そう考えていると目に付いた、まるで首輪のような赤のチョーカー。
貴族が付けるものにしてはいやに奴隷めいたそれに浮かぶ文字は、驚くべきもの。

「公爵令嬢マリアージュ…この者、公共の……なんだこれは…。
それに…ナルラとは…」

ナルラ…かつてオリアーブ島にて、ティルヒアの元へ向かうために共闘した王国の王子。彼以外にこの名を持つ者を知らない。
彼女の本名、首輪の破廉恥な言葉、そして共に戦った男の名前。
それらが目の前にあるとき、激しい動揺と共に、目の前がくらくらとする。
彼はいったい何をしているのだ、こんな子を…。

マリアージュ >  
成績などを取り寄せれば、騎士などに到底向かない。
深窓の令嬢然とした、運動神経は壊滅的で、家事や芸事には秀でた成績が見れることでしょう。
それどころか評価を付けられるはずの成績に、花丸などの、騎士の成績とは思えない評価が、
指導する騎士が匙を投げた成績もあるのです。

身体が、心が、なぜか軋むのです。
――無垢な心を弄ぶような凌辱。
その心や魂、そして体を守ろうとする祝福された力。
それが何故かはまるで判りませんが、自然と涙がこぼれ、澄んだ菫色の瞳が濡れて揺らぐのです。
少し心配そうに啼く猫のお腹に、ふかっと、濡れる顔を隠すのです。

「――大事な人、わたくしを助けてくださいますの・・・」

名前に、ぴくっと身体を反応させて。
ゆっくりと涙で濡れた顔をあげます。
今にもマリアージュの存在が消えてしまいそうな、儚いですが澄んだ笑顔で。
ヴェルム様も慈しむような笑顔を見せるのです。

ヴェルム > 「はぁっ…こんな首輪、外してやりたいところだけど…」

首輪の文字は、ヴェルムの心をかき乱すのに十分だった。
大きく息を整え、首を振って考えを切り替える。
自分が怒っていても仕方がない。
それに文字の浮かび上がる首輪、何かしらの術が仕込まれていても不思議ではないか。
無理に外そうとするのはかえって危険かもしれなかった。

彼女が猫のお腹に顔を隠せば、猫は彼女の髪や額を、その柔らかな肉乳でぷにぷにと押す。
離せと言っているわけではないらしいが、なんだか抱きしめられて、猫に慰められているかのような気分になるだろうか。

「…何ができるかわからないけど、君が望むなら助けよう…マリアージュ」

改めて、彼女の本名を口にしながら、支えるように彼女の背に腕を回していく。
彼女は本当に優しい心を持っている、だからこそ首輪に書かれている言葉は許せなかった。
だからこそ、彼女の手を取る。
彼女についてはまだ知らないことが多いが、研修が長引いていると理由をつければ、この師団にかくまい続けることができるかもしれない…。

マリアージュ >  
「――だめっ。大事なものですのっ
 ・・・わたくしが帰れる場所、ですから・・・」

少し悲壮な悲しそうな顔で、少し高くなる声で。顔を横に何度もゆっくりと振ります。
お腹をすりつけられた猫の優しい肉球。
ざわざわとさざ波に襲われた心を、落ち着かせてくれます。

名前を呼ばれますと、ぴくっと、すぐに反応しまして。
なんで、というお顔をみせましてから。
あっ、と。軽く首輪の迷子タグに触れます。
そして、少し顔を桜色にして、こくん、と頷けるのですけれど。
抱きしめられますと、お兄様みたい、という感想を抱き、身体の力を少し抜くのですが。
間に入る猫は迷惑そうでしょうか。

この後は、元気を取り戻すと。
拠点の掃除と夕食に、力をふるうことでしょう。
――それが騎士の立派なお仕事、と誇らしげになるのですが。
他の人から見れば、まったく違うことでしょう・・・。

ご案内:「王国軍第十三師団拠点」からマリアージュさんが去りました。
ご案内:「王国軍第十三師団拠点」からヴェルムさんが去りました。