2017/09/15 のログ
エアルナ > 「ええ、…ひどい目にあったことも、覚えてます」

以前。同じ個体ではないけれど、ヒュドラに遭遇したことはあるのだ。
その時は主に自分の魔法の威力も狙いも下手で、撤退せざるをえなかったーー苦い経験。

「…貫通しないほうがより効果的、ですか。」

そして動きが少ない場所を標的、に。
ふむ、と一つ頷き、8つの頭のうち5つがダウンしたヒュドラをみれば…
残る三つの頭から吐かれるのは、毒ブレス。

師匠のほうと自分のほうと両方にくるのは、痛い思いをさせたのを思えば、当然だろう。
身軽に飛びのく狼の背中で、次の狙いをどこにつけるか、瞬時考えて…

「聖なる水よ、もう一度ーー来りて力となれ

「凍結」「圧縮」「回転」「加速」「収束」

 撃つ!」

 内部にその魔法を届かせるには、いま、ちょうどよい標的がみえている。
 師匠がとばした首の断面ーーそこは鱗がなく、そして、胴体に近い柔らかい場所。
 再び生み出した凍結の弾丸二発を、同じ断面からその奥。
心臓があるだろう方向を狙い、叩き込もうと解き放つ!

マティアス > 「結構。では、教訓を活かそうじゃないか。
 
 ――そうとも。勢いをつけすぎて、貫通させても折角の魔力も台無しだよ。
 奥義を以て紡ぎ出すその威力を内部に封じて、一気にぱっと解き放つのだって妙技の一つさ」

この手の貫通性の高い魔術は難しい。普段使いには向かず、大物狙いか密集した相手を撃ち抜くが主と言っていい。
だから、よく考えるべきである。どんな小さな魔法でも、上手く使えばそれだけで大きな威力を導き出せる。
匙加減次第だ。その意味では、早々に首の大半を奪ったヒュドラの類とは、いい鍛錬になるだろう。

仕損じれば死す。当然だ。向こうは命を張って、自分達に教訓を与えてくれる。
だが、勝てば少なからずそれは新たな経験、教訓として有意義だ。

――新たに撃ち込まれる魔法の着弾に、ヒュドラが戦慄く。

丁度、氷で封じされた切断面に氷結の弾丸が新たに叩き込まれたのだ。
傷口から漏れる体液を凍らせて封じつつ、体内に侵入する弾丸がより筋骨を凍らせて動きを鈍らせ、心臓に至る。
されども、まだだ。巨大な体躯は運動することで、体液を循環させる機能も作用もある。

「……ふむ。こういう手を、見せようか」

毒気がまだ残る大気を風で払い、剣の切先を向ける。形成するのは一抱えもある巨大な矢玉。
剣を振り上げて撃ち込めば、今度は鋭くではなく、鈍く。不気味な音と共にヒュドラの皮膚に埋まり、肉に食い込む。
指を鳴らす。低く籠った音とともに氷が爆ぜ、水分を凝固させつつ内部で破裂する。

悪食なる臓腑を壊し、かき混ぜるのだ。貫通力そのものではなく、最低限の貫通力を持たせつつ他の威力を破壊に振り向けた結果。

エアルナ > 「…内側に爆弾を叩き込む、ようなイメージですか」

なるほど、と頷きながら意味をかみしめる。
そして、ヒュドラはまだ倒れない…さすがは巨体を誇る亜種の竜。
以前はその鱗に阻まれて攻撃もろくに通らなかったことを思えば、まだ、先へ進んだ感はあるが。

「…なるほ、ど。それならーー」

そして、師匠の見せる妙技。貫通した内部ではぜる音。
さすがにのたうつ仕草は、有効な証だ。
ならば、とロッドをふりかぶり、唱える

「凍結」「圧縮」「回転」「回転」「爆発」「加速」

作り出すのは、弾丸、否、氷の苦無。細長い形のそれを、再度、二発一度に…
別の首の切断面から、体内へと食い込ませる。

そして…そこで、爆ぜる!肺、のあたりへの衝撃のつもりだ。
体表からも呼吸はあるとしても、肺をやられれば、ダメージは軽くないだろうと狙って

マティアス > 「――然り。威力を余さず、漏らさず、出し尽くすなら、そうなる」

そう、いい想像のセンスだ。今やっていることは、いわば太い針で肉の塊を刺しているのと同じだ。
普通の人間や動物程度ならばまだいい。やがて、失血して死に至る。
しかし、このような痛覚も鈍い巨大な怪異だとそうもいかないのだ。故により、直接的な破壊が要る。
その意味では爆弾の如くという表現はとてもいい。切断よりも明確に、体組織を破壊する。

「――……ふむ」

此処までして見せるならば、あとは自分がわざわざトドメを出す由縁は薄い。
弟子が紡ぎあげる術式の構成を見遣りつつ、別途取り出す小さなガラスの小瓶の中身を確かめる。
浄化の炎を生み出す術式のための触媒である。此れは最後に、この沼地を正常化するために使おう。

そして、だ。今度は別角度から氷結した刃が体内に侵入し、炸裂すれば、流石の強靭な怪物もダメージの限界も迎えよう。
まだ生きている口腔から、毒ではなく血を吐き出して痙攣するように巨体を揺らし、どぅ、とついには倒れ込む。

完全に死んだわけではない。再生も追いつかない程の創傷だが、もともとの生命力故に死にきれない。

エアルナ > 「…まだ、息はありますねーー焼き尽くし、ますか?」

たくましいというか、しぶといというか、さすがの生命力である。
このまま凍結して氷漬けにしたとしても、氷が揺るげば蘇ってしまうだろう。
ヒュドラが無害な生物とは…到底言えない。

この遺跡を覆う沼も瘴気も、もとはこのヒュドラだ。
むしろ、瘴気ごと浄化したほうが…この土地のためにもいいかもしれないと、師匠でもある青年のほうを見る。

まだ、用心ぶかく。ヒュドラの近くへは、よらないまま。
ほかに怪しい気配はないか、探索の魔法を飛ばして確認する。

マティアス > 「――……あとで、そうしよう。その前に幾つかやるべきことがある」

原初の生命力に満ち溢れている、ともいうべきか。ただ、殺すだけでは死なないのがこれだけの怪異の特徴だ。
手にする剣を確かめ、その両手に付けた手袋の具合も確かめる。
破れの類はない。手の甲に描き込んだ防護の術式も問題なし。それらを確かめ、離れて転がった首の一つに歩み寄る。

「は、ッ!」

気合一閃。振るう刃で虚ろに開かれた口の牙のうち、上顎側の一つを切り落とす。
そうすれば黒に近い紫色の毒液が滲む。非常に強い毒である。下手な防護も容易く抜いてしまう。
だから、しっかりと防護を固めた上で回収し、腰に付けた雑嚢から密閉できる金属容器に納め、徹底的に封印を施す。

ほ、と注意が必要な作業を終えれば、別途符を取り出す。遠隔起動のできるものだ。触れた対象に向かって魔力刃を放つ。

「残った首にこれを貼って、後は浄炎の術の触媒を仕掛けたのちに離れ、首を落としてから起爆するよ。
 少なからず、強い瘴気と毒気が漏れるから、結界術の敷設も忘れずに。……いいね?」

注意と共に刃に付着した毒をボロ布で拭い、あっというまに腐食するそれを捨てよう。
腰の鞘に剣を収め、説明したとおりの行動に移る。札の貼り付けと、赤燐にも似た触媒を仕掛けていく作業だ。
 

エアルナ > 「ヒュドラの毒…研究用ですか?」

いかにも毒々しい色の紫の液体。思わずマスクの上から口を覆い、慎重な手順の邪魔をしないようみていたが。
次の手順を聞けば、わかりました、と頷いて。

「では、沼の周囲への結界術のほう、準備してきますーー外側に影響が出ないよう、二重…いえ、三重にして。」

札を使う術式は、師匠の彼のほうがはるかにうえだし、慣れている。
それならばと、倒れたヒュドラを中心にして…半円形の魔法により結界、光と風の二重に編み込んだ内外を遮断するそれの軌道を準備しよう。
ロッドとアミュレットを動員し、起動後の土台というべき魔方陣を仕掛けていく。
念のため、三重に。

そして、師匠の準備が終わるのを狼と待とう。

マティアス > 「そういうこと、にしとこうか。」

こんな物騒な物――そうそう使うものではない。
血清の類を作るにも、如何せん相応の施設でなければ安全マージンも確保できないのだ。
どちらかと言えば、コレクションとしての用途が大きい。

響く声が示す内容に、頼むと頷いて。

「……頼むよ。徹底的に頼む。僕が沼を出たら、直ぐに完全密閉すること。いいね?」

行動に移る。タイミングを合わせる必要がある。
札を貼り付け終えれば、瓶の中に残る大きい結晶体をヒュドラの胴に仕掛けて火種を灯し、呼び水とする。
招かれるのは、文字通りの紅蓮の炎である。だが、透明に揺らめく炎は純粋であると同時にこの場の邪気を喰らい、糧とするのだ。
――焼き清める。其れに巻き込まれないように背を向けて、全速力で走り出しながら手を打ち鳴らし、札を起動する。

そうすれば、斧で肉を断つような音ともに残る首が断裂し、断たれる。
忽ち零れる体液も、炎が舐めて、籠る瘴気を食らって炎は踊り、沼のあらゆるものを溶かし、焼いて、灰とする。

焦りの色濃く、沼から出れば――結界を閉じてくれることだろう。あとは、待つだけだ。

およそ、一昼夜。炎は踊って、満足しきったように消えて――その場に本来あったものを取り戻す。

その後、如何にしたかは――また別の話にて。

ご案内:「遺跡」からエアルナさんが去りました。
ご案内:「遺跡」からマティアスさんが去りました。