2017/06/20 のログ
シトリ > 呼ばれたシトリが厨房から出てくると同時に、ひとりの客が入り口の戸を開けて入ってくる。

「……あ、い、いらっしゃいませ~」

たどたどしく尻すぼみな声で応えるシトリ。
客はそんな彼を見て一瞬ぎょっとしたような表情を見せるが、この店の性質を知った上で来ているのか、すぐに平静に戻る。
シトリの身なりを横目に見ながら、彼の心中など全く察さぬ素振りで注文を唱える。シトリも作り笑顔を浮かべ、注文を復唱する。

ウィッグやランジェリーを着けることを拒み、鏡の前を通ることを避けるシトリ。
大きなお尻やひらひらのスカートは雌のそれ、硬く張った肩やツンツンの短髪は雄のそれ。
ちぐはぐな見た目と同様に、シトリの心の中もまた、ちぐはぐのまま。

「……………………~♪」

注文を伝えるために厨房に向かうシトリの喉から、束の間、かすかな鼻歌が響く。すぐにそれは止まる。

シトリは男の子。女装なんてしたくない。男らしく、冒険者らしく生きたい。……はずなのに。
女物の衣装を纏ったシトリの心の深いところで、『うきうき』とした感情が仄かにくすぶり始めたのも、また事実。
その事実自体にもわずかに戸惑いを覚えつつ……だからこそ、このバイトを拒めなかったのかもしれない。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者の宿『両表のパリテール金貨』」からシトリさんが去りました。