2016/12/31 のログ
ご案内:「平民地区 酒場」にホウセンさんが現れました。
ホウセン > 国や地方によって年越しに向けての習慣は違うのだろうけれども、この国では年越しの祭りとして何かと賑わい、騒がしいものと相場が決まっているらしい。郷に入っては郷に従えという信条を大事に抱えている訳ではない捻くれ者の妖仙ではあったが、この事にはさして異を挟む事も無く、周辺の流れに身を委ねている。と、いえば協調性があるかのように聞こえるのだけれど、単にお祭り騒ぎが好きなだけで、口実が転がり込んできたからそれに便乗しているだけだ。そんな賑わう街の一角で、己の商館で働いている奉公人を労う為の催しを開いたのは、今日の夜の早めの時間。滞りなく、アットホームな宴会が中締めを経て、二次会三次会と徐々にばらけながら回数を重ねるのは、お約束というヤツだ。

「呵々…!善いぞ、者共。今宵、儂と同席できた事を、其々の神に感謝するが良いわ…!」

そして、当初の目的も霧散して、上機嫌な妖仙が足を踏み入れた何件目か数えるのも億劫な酒場。洗練には程遠い、雑然とした雰囲気を多分に残した店内だったが、既に出来上がっている客も多く、殆どが初対面の者同士ながらにさらっとその場の空気に馴染めるという利点もある。而して、カウンター席の椅子の上にちっこい体を仁王立ちさせて、赤い葡萄酒の入ったガラス杯を突き上げる。

「女将よ、今日の払いは全て儂につけるのじゃ…!」

この店での飲食は只。高級店ではないことから、妖仙の財布へのダメージもたかが知れているのだけれども、年の最後に福が来たとばかりに、同席する酔漢達が、怒号のような歓喜の唸り声を上げる。

ご案内:「平民地区 酒場」にアルスさんが現れました。
ホウセン > 果たして、子供にしか見えない存在が、深夜に飲酒に耽っているという光景が道徳的か否かは、きっと客達には瑣末な問題なのだろう。店の者としては、大見得を切ったくせに支払い能力がないという危惧さえ解消できれば良いという利益追求型のスタンスである。業態は違うが、商売人としての心情を汲むのは容易く、手付金としてずっしりとした革袋を、カウンターの上を滑らせて。三十から四十人の貸切宴会を催せるだけの金額が中に詰まっており、後刻足りなければ精算と言う具合。こういう時、近隣の商館のお偉いさんという肩書きは効力を発するようで、悶着は起きずに。

「くははっ…!儂の酒が呑めぬという輩はおらぬじゃろうなぁ…!」

すとんっと、仁王立ちから椅子に腰掛け直し、手にした葡萄酒を危なげ無い手付きで口元に運ぶ。故郷には無い味で、最初は葡萄の皮に由来する渋みに中々馴染めなかったが、慣れてしまえば如何にかなるものだ。正体をなくしたり、悪酔いする様子は無いけれど、仄かに色の薄い頬が赤みを帯びている辺り、完全な笊ではないらしい。平素よりも潤った黒い瞳で、酒場の中を睥睨する。石造りの店内に、木製のテーブル席と、カウンター席が幾つか。客は時間帯も遅い事で男が多いようだが、女の姿もちらほらと。何処にでもある、ありふれた酒場の夜の光景が広がっている。

アルス > 年越しまであと少しという時間。
宿に戻る前に軽く何かを腹に入れて帰ろうとにぎわう酒場をいくつか眺めて歩き。
そのうちの一つにと入れば雑然とした雰囲気ではあるがこの店で、もしくは何軒か梯子をして出来上がった客が多く見えて。
この店ならば楽しく食事ができるだろうと眺める。
店内を眺める視線にカウンター席の椅子に立って威勢のいい事を話す小さな影を見つけて。

「これはついているな。ご相伴に預かるか」

どうやらあの少年の支払いとなる様子に便乗しようと考え。
辛うじて人気の少なかった隅の席に腰を下ろしてノンアルコールの飲み物と軽い食事を頼む。

ホウセン > ギィ…と、年代物の扉が開く音がする。表面に現れている程には酩酊していない妖仙の耳に届いたのなら、ゆらりと視線を向ける。人の顔を見分けるのは商売上必須の能力であり、少し前まで見かけなかった新顔の存在を見つけ出すのは、至極簡単な事だった。提供される物が物だけに、どうしても大人用の作りになっている椅子のせいで、確り腰掛けてもプラプラと所在なさげに揺れる足を、勢いをつけて前方に蹴り出し、その勢いで床に飛び下りる。

「どうじゃ、良い夜を過ごしておるかのぅ?」

目敏く見つけた端の席へ、滑るように歩を進める。道すがら、太っ腹具合を称揚する厳つい職人らしき男とハイタッチなんぞを決めつつ、足取りは重心のブレも無い落ち着いたもの。これが千鳥足ならば可愛げもあるのだろうに。相席の許可を求める事はせず、今の所は傍らに佇み、中身が半分程になったガラス杯を掲げて。諸事気安い店故に、手の込んだ料理がメニューにない分、配膳までが兎に角早い。小さな影が声をかけるのに前後して、テーブルの上には注文した品が並べられている事だろう。

アルス > 「あぁ、それなりにね。でもキミのお陰でもっといい夜になったよ」

注文を終えればそれが届くまでは手持ちぶさ。
賑やかに飲んで食べる酒場の先客を眺めていれば人込みの先で足を揺らしていた少年が床に降りるのが見える。
客たちの間を抜け、時折にハイタッチや言葉を交わしている姿に見た目に似合わない人望のようなものを見てしまい、凄いものだと頬を緩ませて。
そんな姿を見ていれば気が付けば席のそばに居る少年に驚きの目をむけ、問われた事にそれなりに良いよと笑って答え。

「よければ座るかい?前と隣…好きな方に座ると良いよ」

隣は詰めれば二人ぐらいは何とか、正面は客の荷物があるだけなので退ければ座れるだろう、だからどちらでもと進めて。
そうする間に注文が届くが少年が座るのならばそれを待とうと手を付けずに笑みを少年に向けて。

ホウセン > 店員達は、注文する度に自分達自身の財布の中身と相談せずとも良くなった客達の、俄かに増加する矢継ぎ早の注文に引っ掻き回されて、慌しくフロアを右往左往。その遠因を作った犯人は、図らずも与えられた相席の許可に、ふむ…と、考える素振りを一つ。相席するのなら、筋肉達磨な酔っ払い中年等とするよりは、この娘と座した方がきっと精神衛生上宜しい。逡巡は許可に乗るかどうかというより、席のポディショニングなのだろう。サラリと観察の視線を走らせ、娘が後三歳なり四歳なり年齢を重ねた風体ならば、躊躇も衒いもなく、”お主の膝の上が良い”等と、ふざけた台詞を大真面目に言うところだろうが。

「そうじゃなぁ。ならば、言葉に甘えて…」

隣の席に。やはり普通に腰掛けるには高い位置らしく、ぴょんと軽く飛んで。良くも悪くもコンパクトな体型は、狭い席であっても収まりが良い。女の手元を見て、まだ手をつけていない意図を汲み、右手に持ったままのグラスを軽く掲げた。乾杯を促す所作だが、呼応するかは相手次第。

「ふむ、見た所…酒精の入ったものではないようじゃな。お主のような年頃では、そういうのがこの辺りの主流なのかのぅ?」

土地が違えば風習も規則も変わる。小首を傾げながら、それでも己の杯を傾けるのを止めようとはせず、脇を通りがかった店員に、癖の強いチーズを一つ注文する。