2017/01/01 のログ
アルス > 財布の心配のなくなった客たちの注文の嵐に大忙しとなる店員に同乗の視線をわずかに向け。
そしてすぐ近くで哀惜の誘いに悩んでいるような少年に視線を向ける。
周辺ではこの少年をたたえて誘う声が時折に聞こえるがどうするのだろうかと見ていれば。

「そうか、ならば遠慮せずに座るといい」

隣に座る様子にわずかに奥に詰めて座れるように場所を開け、軽く飛び座る少年が思っていたよりもコンパクトな体型で席に納まり。
少年がグラスを掲げれば自らもグラスを手に軽く少年の降らすに打ち合わせて乾杯として。

「あぁ、そうだよ。アルコールは少し苦手でね。ほかの子は飲むとは思うよ」

今日は少年が代金持ちだと思えば隠すのも失礼だと思い、正直に苦手だという事を告げて。
少年が注文をするのを横目にサラダに口を付ける。

ホウセン > お代は全額己が持つと宣言したのだ。この期に及んでの遠慮は美徳ではないと考える妖仙にとって、娘が飲み物や食事に手をつけたことは喜ばしい事でもある。そこはかとなく満足気に頷くと、頭蓋の動きに一拍遅れて、柔らかそうな黒髪がサラリと揺れる。自分が注文した品が届くまでの間繋ぎに、乾杯後の葡萄酒を口に含んでコクリと飲み下すのだけれど、それを示す喉仏はまだ目立っていない。

「ふむふむ。儂から見ると何かと禁欲的な決まりごとの多い国じゃからのぅ。一人一人の好き嫌いならばとやかく言うだけ野暮というものじゃが、良く分からぬ決まりとやらで禁止され、酒精という人生の一割を担う愉しみを味わえぬというのでは不憫で不憫で涙で袖を濡らす所じゃった。」

まるっと哀愁という要素が抜け落ちているのに、口先だけは良く回るものである。そうこうしている内に、邪仙とは対照的に、千鳥足の客人が、残りの少なくなった葡萄酒の杯に並々と赤紫色の液体を継ぎ足す。ケチケチしない豪快な所業ではあるけれども、原資が何処にあるかを鑑みると、聊か以上にシュールではある。

「苦手…と言うたが、何というか。味が云々というよりも、目が回ってしまうだとか、翌日の二日酔いでこっ酷い目に遭うたとかかのぅ?」

漸く手元に届いた、白黴を用いて熟成させたチーズを口に含み、塩気と何とも言いがたい臭気とを楽しんだ上で、葡萄酒を口に。どちらも極上の逸品という訳ではないけれど、組み合わせの妙味に口元が緩む。

アルス > 自分の財布が痛まないと人はここまで注文して飲み食いをするのかという酒場内の光景に凄いものだと驚きと呆れの視線を向け。
だが自分もその一端を担っているので流石に何も言わずに少年の驕りのご相伴に。
サラダに口をつけては甘いミルクを飲み。

「そういう国も多いと聞くな。私の国では年明けは静かに過ごすものだったな。この国はどうやらそうではない様で新鮮に見えるよ。
私は酒の味はわからないが飲みなれたものには辛いんだろうね」

よく話す少年だと笑みを撃兼ねてその話を聞き、酔いが回り足がはっきりとしない客が少なくなった酒を姿を見たりして。

「そうだね、味はよくわからないが嫌いではないよ。こうね、すぐに酔ってしまうという訳だ。家族が言うには眠っているようなんだが…」

もちろん寝ているので記憶に残るはずがなく肩をすくめ。
少年に運ばれてきたチーズを見てそういうのもあるのかと興味深そうに見てる。

ホウセン > 店を訪れている客層というのも勿論あるのだろうが、仮に利害関係の深い者同士であれば、こうはならないだろう。偶々居合わせた幸運に浴しているという気軽さが、彼ら彼女らの背中を後押ししている面は否めない。が、それもこれも織り込み済みで、賑わいの為ならば厭わぬ妖仙の目論見には合致している。己のように、服装や目の色により、一目で異国出身者と分かる訳ではない娘の台詞に、大きな目をパチクリと。踏み込むのは尚早かと線引きし、台詞の後段だけを拾い上げる。

「くくく、禁酒を強いられることが落涙を強いられる哀れさというわけではないのじゃ。どちらかと言えば、その愉悦を知らぬという事が、人の生という限りのある時間の中で勿体無く思えてのぅ。成程、故に、”嫌い”ではなく、”苦手”なのじゃな。」

知ってから取捨選択するのは良い。だが、知る機会さえも奪われるというのは物悲しい。生きる事を遊興と結び付けている妖仙にとっては、我慢ならぬのだろう。こんな至近距離で対峙しているのだから、当然のように己の手元へ注がれている視線を看取できぬ筈もない。チーズの置かれた皿と、女の顔とを視線に往復させる事、二度。

「興味があるならば摘むと良い。これ単品では聊か以上に個性がある故、美味と思えるかは分からぬ所じゃが…」

平たい皿の上に、元の円形を八等分にし、其々に楊枝の突き刺さっているチーズが七つ残っている。表面は熟成の為に植え付けた白黴が覆い、漂白されたかのように真っ白な層になっている。断面を覗けば、牛乳由来と思われるクリーム色をした部位が見えよう。実際に口にすると、表側の白い層がやや硬く、内側の層は所によりトロリとした柔らかさを残している事や、思いの外塩気が強い事も分かるだろう。

アルス > 驕りの空気に酔った客達がお互いの背を押しあって飲めや食えとの大騒ぎになっている酒場内。
勢いのままに飲み食いをする客もいれば、酔い潰れた姿など様々で。
そんな中で比較的平穏にミルクとサラダを口にして少年と自分では楽しいと思いながら話をして。

「それは私にもわかっているよ、それを知らないで禁止されているなら楽しみも知らないから哀れという訳ではないしね。
知った上での禁止がそうなるだけだね。
そういう事だね、嫌いではなく苦手だ」

知る機会がないのは悲しいね、と肩をすくめて見せ。楽しみは余裕があるときにと決めている自分にはこうしてサラダとミルクだけでも十分な楽しみで。
少年のチーズを見ていれば流石に近いだけに気が付かれてしまい。

「いいのかい?それなら一つ頂くよ。……触感は悪くはないが少し辛いね」

楊枝の刺さった白いチーズを見つめていたが少年の言葉に手を伸ばし。
一つを手に口へと運べば表面の硬さと内の柔らかさに触感は悪くないと食べ進める。
だが食べ終わってからの塩気の強さに思わずミルクを口にして。

ホウセン > 賑わってはいるけれど、乱痴気騒ぎと呼ぶまでにはまだまだ多くのハードルを残している健全な騒ぎ方だ。これが歓楽都市やら奴隷市場都市なら、こうも落ち着いて会話をできる状況かさえも怪しいところではある。馴染みの無い食物に手を出し、その洗礼を浴びたらしい娘の様子に背中を丸っこくして相好を崩す。目新しい物や知らぬ土地に触れた折に引き起こされるこの手のカルチャーショックは、己の経験の内にも間々見受けられる事であったから、共感する部分があったのだろう。そんな光景を肴に、もう一口。ビロード色という表現を、もう少し安っぽくした色彩の、リーズナブルな価格帯の酒を喉に流し入れる。

「呵々!儂が予め心しておくよう忠告しておいて正解じゃろう?塩気には牛の乳というのは常道じゃし、それも元を辿れば其処な液体に辿り付く故に、偶然と言え妙手じゃな。」

声には、まだ笑いの響きが残っている。居住まいを正して、呼吸を深く。残った笑気の残滓を追い払う。少しの思案の後、チーズを置いた皿に引き続き、注ぎ足されてから早々に、中身の半分を妖仙の腹に姿を消した酒盃を、娘の手の届く距離になるまでテーブルの上で押し遣る。

「然し、毛色の違うものと組み合わせる事でこそ、双方の個性が引き立てられ、新しい調和を生み出す事がある…というのもあるのでな。これに限った話でもないが、分かり易い例の一つじゃろうとは思うがのぅ。」

苦手と言われたものの、味や匂いが受け入れ難いものだと言われた訳でもなければ、試に己の飲んでいる酒精と合わせてみよとでも言いたげに。自宅でも定宿でもない場所で、直ぐに眠くなってしまうという体質を加味して、口をつけるかは分からぬ所ではあるけれど。女の自由意志に委ねている辺り、まだしも酒品の悪い部類には入らずにすもうか。

アルス > 騒がしくも暴力などがないだけに落ち着いて食事が出来て。
こうして会話ができるのならばまだ静かな方なのだろうと。
こちらに来てそれなりではあるがまだまだ慣れないことも多いと驚きを隠せずに。

「全くその通りだね。忠告を聞いてい置いて正解だったよ。合うものを辿ればそこに行きつくか。面白い偶然だね」

本当に楽し気に笑い、居住まいをただす姿を楽し気に見て。
チーズの乗った皿を引かれ、酒盃を手の届く場所に置かれれば少年と交互にと見て。

「一見合わない様でもあうという事かい?そういう事はよくあるというね、実に興味深いんだけどね…」

少年の言いたいことはわかりがするがここから宿までは少し距離があるだけに悩み。
だがせっかくの勧めを断るのも悪い、それに一口だけなら大丈夫と考えて。
チーズを一口、そして酒盃に一口と口に運ぶ。これは悪くないとその組み合わせに納得をするが…やはり酒に負けたか白い肌に紅がさし、ふらりとしてしまって。

ホウセン > アルコールで理性の頚木から解き放たれた獣性を、手近な客同士で発散させるような施設も、件の都市には間々見受けられるのだろうけれども、住み分けとでも言うべきか、この酒場にありながら、その様な不埒な振る舞いに及ぼうという不届き者はいないらしい。口説く口説かれるといった鞘当ぐらいはあるのだろうけれども、其処まで口を差し挟む趣味は無い。それはさて置き――

「少し違うかのぅ。癖があるからこそ、別の癖のあるものとぶつけた時に映えることもあるという事じゃな。無論、ぶつけ合った結果、手酷い結果に辿り着くというのも…いや、辿り付く方が多かろうが。定石とされる組み合わせは、先人達の試行錯誤の上に成立しておるものじゃから、その辺りは安心ということでもある。…ふむ、先程の苦手という言葉、誇張はないようじゃな。」

身体の軸がぶれるのを見咎めて、得心がいったと悠長に手を打つ。少なくとも前後不覚に至るまでは猶予があるように見受けられるけれども、葡萄酒を勧めた手前、放置するのも気が引ける心地が、僅かながらにしない訳でもない。

「どれ、水でも飲んで少し休むかのぅ?幸か不幸か年越しの祭りじゃ。閉店時間を気にせずとも良かろうし。如何しても帰るというならば、人を付けてやるぐらいの手配は請け負ってやってもよいぞ。」

座したままでは、酔いが身体に及ぼしている影響の程度の全容は窺えないが、一人で帰すのも危なっかしいかも知れず。夜を明かすなり、店員にチップを握らせて送り届けるなり、対応策を提示する。

アルス > 不埒な事を求めるものはそういう店に、そうでないものは見続けるもしくは口説いたりと様々であって。

「なるほど、そういう事か。癖があるからこそね…それは失敗も怖いがしなければ楽しめるね。先人が成功させたこと安心できるものだね。
あぁ…見ての通りだね」

このまま眠るや歩けないほどではないが肌を紅に染めてふらりとして。

「休んでもいいんだが……申し開けないが帰っておくよ。もし寝てしまって起きたら知らない男の傍という事はなしにしたいからね」

少年の言葉に少し考え帰ると告げて。立ち上がろうとするが二人と身体を揺らして危なげで。

ホウセン > 娘の挙動は、妖仙が予想していたよりも聊か深刻なようで、整った眉根を寄せる。嘆息を一つ漏らし、座席から床へ下り、女の傍らに。手には酒盃の代わりに、黒漆と銀で出来た細工物の煙管。その先で、軽く軽くコツンと娘の額を叩く。

「戯け。その様子では、寝る寝ない以前に、路上でかどわかされても文句は言えぬじゃろう。どうせ傷物にされるのならば、寝ている間ではなく意識がある時の方が好ましい…等という、奇特な性癖を吐露するのなら別じゃがのぅ。」

苦手と言っていたぐらいだ。酒精との付き合い方も良く分かっていないのだろうと踏み、見た目は娘よりも数段年下の風体だというのに先輩風を吹かせる。妖仙自身が護衛として立ち回れば、凡その害意から無縁でいられるだろうが、この店での手付金を上回りそうな注文の殺到具合を鑑みるに、清算が必要になることは火を見るより明らかであり、それまで離れられない。それより何より、この放蕩邪仙がそこまで甲斐甲斐しく手配するのを面倒と一刀両断する性分であることが大きい。

「えぇい、店員よ。とりあえず冷水を浸した手拭を持てい。」

何にしろ、少しばかりの酔い覚ましは必要だろうと。その後、娘が如何な決断をしたかは――

ご案内:「平民地区 酒場」からホウセンさんが去りました。
アルス > 「む……それは困るが…ここで眠っても変わるまい。私も見ず知らずのものとそういう趣味はない」

煙管で額を叩かれれば椅子にと座り直し赤い顔で少年を見て。
本当に久しぶりに口にした酒は思いのほかよく回り、先輩風を吹かせる少年の言い分に素直に頷いて。
戻ろうとは思うのだがこの酒場の騒ぎでは果たして店を無事に出る以前に巻き込まれるか、手癖の悪い客に捕まるかで。

少年が店員に手配を舌冷たい手拭きで酔いを覚まし、マシにとなれば宿へと戻っていくはずで…

ご案内:「平民地区 酒場」からアルスさんが去りました。