2022/08/12 のログ
ご案内:「腐海沿いの翳りの森」に影時さんが現れました。
ご案内:「腐海沿いの翳りの森」にジギィさんが現れました。
■影時 > 「生憎とそっちと似てンのかは分からんが、まぁ、あれだ。
自然に感謝の意と――今からやることを赦し給え、と。そんなことを述べてから遣る訳だ」
存外似ているのかもしれない。故郷のものの考え方では、あらゆるものに神が宿るとされる。
洋の東西、文化は違えども、同じことを遣る際に祈りを捧げるものもまた、同じでないとどうして云えるか。
さて、問題は現出してきた木霊、精霊か。
視線の力、そして覆面の布地を透過して鼻腔を擽る芳香――成程。姿態も相まって、虜にされるものが出てもおかしくない。
精神が弱いもの、もっと言えば女慣れしていないものであれば、魅入られるのも無理はない。
だが、それにも増して事情があるようだ。訝しげなエルフが見る先に見える異常が、もしかすると原因でもあろうか。
作物を育てていると、虫害や病害に悩まされることがある。木霊の肌に見える斑点は、さながら葉に生じた病害のそれを想起させる。
「……――ああ、ったく。こういう時でなけりゃぁ、なぁ。手ェ出したり何だりとか考えンだがな……」
その代わり一発させろ―― ……、とか何だとか。
下世話な要求の台詞が脳裏に過れば、くしゃくしゃと髪を掻いて覆面の下で苦笑を滲ませる。
事情とかは兎も角、男好きのする肢体というのは、むしゃぶりつきたくなる衝動にかられる。その辺りも含めて魅了の所以だろう。
わざわざ声に出すのは、連れから突っ込みを受けることは必至のうえで。
「是非もねえなぁ、全く。良いだろう。
頼むなら、然るべきものを出せ――ってのも無しだ。そこまで言うと、俺は連れから射殺されかねん」
感じる目線に両肩をわざとらしく上下させ、足元に斧を置きながら頷こう。心得た、と。
羽織の下、腰裏の雑嚢を漁って取り出すのは、繊細な採取物を保護するために用意していた柔らかい布地だ。
目的達成の経過事項としても、ぞんざいに扱えない事項である。件の種を出す、渡すならば此れで包んで運ぼう。
植える場所については、思案と探索の余地があるだろうが、そこはエルフに尋ねる方が正解か。
■ジギィ > 彼の方を視線で伺っていると、何やら喜怒哀楽が過ぎったように思える。
それはきっと『彼女』の性質に何ら関りが無いわけではないだろう。その様子をじいーと見つめるエルフのどんぐりまなこがすうと細くなって、ふうんと吐息がエルフの口元を覆うスカーフを揺らす。
あらやだ、この人男色だとばかり思っていたけど、ソッチもいける口だったのかしら。
「然るべきものなら、この立派な樹で十分じゃない?このコの加護があったからこそのこの樹なんだから。
もしそれでも対価というなら、私は手を下さないけど、そうねえ……代わりに今後一生森に出入できないくらいの呪いはもらえるんじゃない?」
頷いた彼にあっけらかんと言葉を掛けて、瞳までにまっと笑うとエルフは胸の前で組んでいた腕組みを解く。
それから視線の端で彼が布地を出しているのを捉えつつ、地面を見分しながら少し離れた場所の土を幾らか手に取った。
「流石、用意が良いねー
…ちょっと貸して?」
彼の元へと戻りつつ、布地を渡して貰えるなら、手にした土をその中へ包むようにする。
不安げに此方を見ていたドライアドは、ほっとしたような切ないような眼で様子を眺めていて、やがてエルフがその包みを手に近寄ってくれば、依代たる樹を見上げる。
「――――…大丈夫。 任せておいて。」
その様を見るエルフの表情が苦痛にも似た形に歪むのを、彼の方からでは見えなかったろう。ただドライアドに向けた口調だけ、いつものお調子者めいたものではなく、比べれば驚くほどに優しいものだということは知れたかもしれない。
ドライアドはエルフを振り返ると切なげに笑って―――現れた時と同様、樹に埋まるように姿を溶かした。
エルフは構うことなくそのまま屈み込むと、足元で何かを拾って包みへと入れて、漸く彼を振り返った。
「さって、義理は後で果たすことにして。
伐る前に上の枝落としたりしなくていい?
大丈夫なら―――そうだな、倒れる方向は向こうにした方が良いかも」
エルフはごそごそと包みを作ってそれをちゃっかり地面に置かれた彼の荷物に括りつけ
立ち上がると向こう、と斜面の斜め下方向を指さした。
■影時 > ――――何かよからぬことでも思われていた気がする。
男色趣味はない。微塵もない。これっぽっちもない。夜に誰かを抱いて眠るなら、女に限る。
ぢぃぃぃ、と見つめるエルフの眼差しを感じれば、横目に顔を向ける。
何か意外がな風情が過っているように見えたのは、感じたのは気のせいだろうか。そう思いたい。思わせてほしい。
「だから、そういうのはナシと言ったろ?
泣き落としの手管があったら、道中のあり様も相まって――、いっそう効いたろうよ」
呪いは勘弁してもらいてえな、と。両肩を竦め、降参と言わんばかりに両手を挙げてみせよう。
呪詛の身代わりの護符の用意がないわけではないが、そんな備えがチャチになりそうな重さの呪いは御免被りたいもの。
昔の仕事は義理人情もへったくれもないものさえあったが、今は好んで請けた仕事だ。
依頼人からの用事さえ達成ができるなら、道中の過程やあれこれは自己裁量に任せることができる。
もとより、目的の樹を維持してくれたのがこのドライアドであるなら、これ以上のあれこれを強請るのは酷が過ぎる。
「この位はな。――頼む。
俺がやるより、ジギィ。お前さんに任せとくほうが向こうにとっても良さそうだ」
取り出した布地をエルフに渡し、それに取り上げられた土が包まれるのを見る。
種をそのまま受け取るよりも、きっと良いことだろう。そうして不安げにしていたドライアドに向かう背を見れば、聞こえてくる声に耳を傾ける。
どんな顔をして向き合っているのか、それは分からない。だが、かける声は優しい。
やがて、ドライアドの姿が樹に溶けるように消える。その足元に残ったのが、例の種であろう。
「そっちは依頼主に任せておこう。……だが、向こうに送る前に書置きするか。枝葉で良い部位があれば、残してほしいと。
あっちの方角、だな。じゃあ、まずは切り込みを入れておくか……」
運び役は己か。地面に置いた己が荷物に包みを括り付けるさまに笑って、足元に置いた斧を取り上げ直す。
エルフが指さす方角を眺めれば、伐採の手順を脳裏に浮かべる。
まずは、最終的に伐った樹が倒れる際の方向を決める切り口を作るのだ。改めて木霊が宿る樹を仰ぎ、目礼ののちに目星をつけた位置に立つ。
振り上げた斧をまずは一撃。そして二撃。水平にではなく、斜めになるように切り口をつけるのがコツだ。
■ジギィ > 「あらん、泣き落としが効くなんてカゲトキさん、カワイイとこあるじゃなーい。
今度適当な精霊がいたら告げ口しておいてあげる」
もし本当に実行したら、精霊同士の中で恐ろしい速さで、それこそ風に乗る勢いで広まるだろう。ついでに全世界の精霊使いにさえも広まるかもしれない。
エルフはそんな事はおくびにも出さず、いつもの軽口の調子で返しつつ種を回収していく。
「枝を継げれば、また良い樹が出来ると思うよ。
その代わり誰かが虜にされる可能性もあるけど…まあ、ヒトとどっちが上手かの勝負になるのかなー」
宿ったドライアドを娼婦よろしく働かせたという猛者のことを聞いたことがある。ドライアドに取っては樹が護ることが全てであるから、案外良い取引だったのかもしれないが、残念ながら顛末は聞いていない。
エルフはそんなエピソードを語りつつ、伐る場所を見分する彼から距離を取って行く。彼一人置いて逃げるわけではない、不慮の事故を避けるためと、伐られる樹が揺らぐ方向を見定めるためだ。
「…じつは、直接樹が伐られるところを見るの初めてなんだよね。
里だと自分から倒れているやつを使うくらいだったから」
樹の天辺のほうを見ながらエルフはぼやく。続けて唇が紡ぐのは一種の鎮魂歌だ。歌いながら、これも彼がやっていた伐る前の儀式に似たものかもな、等と思っている。
晴れた空の下、森の中に遠く高く斧を振るう音が響く。同時にこの樹特有の香りも辺りへ広まっていく。聞きなれない音に鳥が遠くで飛び立って、エルフには今までこの樹に世話になったのであろう動物たちが、遠回りに囲んでいるのまで感じる。静かに取り囲んだまま、近付く様子はなく―――きっと、看取りに来たのだろう。
(このドライアドが森を守って生きた証ってことかな。
…ひきかえ――――わたしは)
「――――あ――、そろそろかも!」
切り込みのあと、倒すための斧が振るわれて数度。
エルフが声を掛けるまでもなく、彼の方でも気づいていたであろう。
ぐらり、幹が揺らいで傾いでいく様はごくゆっくりに思えたが、地響きを足裏に感じれば、それは気のせいだったのかもしれない。
■影時 > 「時と場合と相手による――が、待て。待て待て。告げ口すると何がどうなンだ。おい?」
流石に常にではない。
今回の場合はそういう気持ちになれた、かつ、同行者の目もあったというだけのことだ。
しかし、精霊に告げ口にすると何がどうなるのか。噂でも流布されてしまうのか?
精霊使いにしか分からぬ、知りえぬことは如何に優れた忍びであろうとも、分かりようがなく――。
「枝を植木鉢に植えたら、さっきの木霊が生える……はない、か。
流石にその辺りの駆け引きは自信は無ェわな。
だが、手頃な個所があるなら、笛でも用立ててもらうのはどうか、とか思ったのさ」
接ぎ木できそうな樹は、宿暮らしだと当てがない。盆栽などのような鉢植えがせいぜいだろう。
鉢植えで育てられる木霊、ドライアドというのはどんな有様になるのか。そもそも育つのか。考えると未知数が過ぎる。
だから、考えたのは記念品というわけではないが、手元に残しやすいものだ。
エルフが距離が取る理由は明確だ。伐採時の事故防止というのは、考えるまでもなく重要事項である。
「……倒木の利用って奴か。森と身近い暮らしなら、一番手っ取り早いわな」
倒木は時間が経過していると、朽ちて使い物にならないことがざらである。
エルフと精霊が住まう森の倒木は樵がわざわざ倒しに行くのではなく、自然の自浄作用、新陳代謝の如くおのずと倒れるものか。
最終的に樹が倒れる方角を定める初回の切りこみを入れれば、反対側に回って斧を振るう。
この作業は軽いものではない。経験があってもなお、重労働だ。忍術を使えばいい? それをやっても、疲弊を考えると釣り合い難い。
高く、高く。斧の音が響き、続く。鳥の羽音が生まれ、動物らしい気配も複数生じている。
看取りに来たのか。さながら、と或る街中で死刑を行う執行人のような、己がそうであるような印象が脳裏に過る。
(……恨んでくれるな)
「――と、心得た」
そう思いつつ斧を振るい、打ち込めば、其れが頃合いであったか。
いよいよ幹が揺らぎ、震えてゆく。最初に己が切り込みを入れた方角に少しずつ倒れ込みだす様を見れば、斧を引き戻し、離れよう。
地響きめいた音とともに、続くのは繊維質のものが爆ぜ、割れてゆく音の連なりとともに、巨木が倒れてゆく。
■ジギィ > 「すてきなことがあるよ」
エルフは語尾にハートマークでもつきそうな口調でいうとウインク。
勿論口の堅い、と言うか重い精霊もいるが、軽い方の精霊の方が圧倒的大多数だ。お陰で虚実ないまぜになって噂は流布されるから、実際に起こることはもっと悲惨だったりもする。ちなみにこれは、精霊使い仲間の間で一種の『私刑』だったりもする。
「おんなじあの子はもう無理だね。まあでも兄弟姉妹みたいな子が生まれる可能性はあるよ。
…そっか、ありがと。でも大丈夫。
樹たちの願いは、留まるよりも広がって、円環を成すことだから…えーと
『一度ここはお別れするけど、いつかまた会えたらいいね!』
が信条というか…まあ、そんなカンジ?」
エルフは前半すこし、痛みをこらえるような顔で語る。視線は彼を直視できず、落ちた枯葉をじっと見つめている。
それから続けた言葉が説明になっていないと解っていたから、最後は正面から彼を見て満面の笑みで語って〆た。
ちなみに鉢植えドライアドは可能だが、ほぼ200%持ち主は養分にされる。
「倒木の利用っていうか、お願いするのよ。これこれこういう用途で樹がほしいですって。
するとある日倒木があるわけ。原因は獣に倒されたり雷に打たれたりとかまあ色々なんだけど…もらえない時もあるから、手早くってカンジではないかなー」
他の部族はいざ知らず、このエルフの部族は蓄財などと言う事を何もかもに対してしなかった。
常にあるだけを精いっぱい生かして、余るなら分ける、還す。そういう暮らしだった。
そんな話を、彼が時間をかけて斧を振るっている間にエルフは話す。
本人としては彼が少しでも気を紛らわせてくれたらいい、くらいのお喋りではあったが、彼に取っては果たしてどうだったか。
地響きと共にまた香りが広がって行く。
集まっていた獣たちの気配が、すこしずつ散っていくのを感じつつ、エルフは樹の先端のほうへと、途中枝葉を飛び越えたりしつつ行って屈み込んだ。
「ン―――…ここから先は無理なんじゃないかな。
だから、ここから下?」
樹の表皮と確認してから立ち上がって、どう?と言うように彼に示す。
長さは凡そ彼の身の丈2.5倍くらい、太さと言うと一番太い所でエルフの胸周りくらいだろうか。
エルフはそれを目端で確認しつつ、彼の元へとまた枝葉を飛び越えて戻って来る。
「―――で? どうやって運ぶんだっけ?」
確か彼が、何か術を持たされていたのではなかったろうか。
エルフは重労働を終えた彼に相対して、両手を腰に当てて顔を覗き込む。
疲労の色が見えるなら一旦休憩か、術を聞けたなら自分が請け負うつもりだ。
■影時 > 「素敵なコト、ねぇ……」
すてきなこと。かっこ。はぁと。かっことじる。という書き方でいいのだろうか。
エルフがやって見せる仕草自体はかわいいのだが、そこはかとなく不安が拭えないのはどうしたものだろう。
人間でも口が軽い、口さがないのに精霊というのは、いっそう無邪気で虚実交えた諸々が流布されそうで困る。
「左様か。……可能性はあるにしても、育てきれる気がしねェな。
ん、分かった。まあ、さっきのあれこれは単なる思い付きだ。
種だったか。それから新しく芽吹いて生まれたのと会えることがあれば、それはそれで、きっと好いコトだろう」
鉢植えドライアドのご飯は何か。考えると――成程。餌食になること必至か。
夜のあれこれならばそうそう力尽きはしないにしても、問題がないのかどうかは、怪しい。
そも、育てた子と致すというのは、人倫的に良いのか悪いのか。そんな価値観で考えてもいいのかどうか。
声色からどんな顔をしていたのかは想像することしかできないが、顔を向けてくる姿を見れば、顎を引いて頷こう。
「人はそれを神頼みと言ったりすンだが、なるほど。
必要な分を結果的に用意してくれる塩梅か。……そうとなると、あとは運んで加工する手間くらいか」
そんな風に物が調達できるのであれば、成程。森から出ずに暮らせるというのは、あながち嘘ではない。
いわば一種の閉鎖環境で生活を持続できる。
余分に取り過ぎて貯めるということもなく、仮に余れば分配、もしくは保存ができないなら動物の餌にするなどで処分といった具合か。
故郷でそういった山の民も居たとかいなかった、という話は小耳に挟むことがある。だが、それもまたある種の伝説の彼方のこと。
伐採というのは考えなしに斧や鋸を使うのではなく、考えながら調節する必要がある。合間の対話は、緊張を紛らわせるに良い。
「……、ふむ。んじゃァ、その辺り含めて書き置くか。
運搬のための術符を預かってる。貼れば、予め指定された場所に魔術で運ばれるってワケだな」
紙と筆記用具の類もまた、この手の仕事をやる際には欠かせない。忘れてはいけない。
ついに倒れた樹と散ってゆく獣の気配を感じ、確かめながら状態を見分する。
何分健全な状態ではなく、悪い処があるという話だ。最終的に製材の際に確かめるにしても、事前の情報は伝えておくに越したことはない。
取り出す紙を樹皮に押し付け、其処に矢立を取り出す。矢立に備え付けた筆を抜き出し、聞いた内容を書き記す。
製材の際、……のように記した件を踏まえて遣ってくれ、と。そういった事項を印し、懐から取り出す手裏剣をピン代わりに刺して、張り紙を拵える。
だが、流石にいよいよ疲労も募る。筆記用具を仕舞って座り込めば、さらに懐から一つ。一枚の符を取り出し、エルフに差しだそう。
予め座標を指定、定義された転送の術を込めた札だ。
貼り付ければ、即座に術が発動し、伐り倒した樹は王都のある場所へと転移する。