2022/03/29 のログ
ご案内:「王都近郊/平原」にラバスさんが現れました。
■ラバス > 事の起こりは、依頼を受けに来る人々がある程度捌けた、とある冒険者ギルド。
元は文字通り、遺跡や秘境を冒険する者への支援や、情報交換のための場所だったのだろうが。
そういった一攫千金の地は、いつしか管理されてゆき、人の手の入らない場所となれば
それこそ『冒険』しなければ見つけられなくもなってゆき。
危険を冒す場所が管理されれば、危険を冒す者も管理される。
セーフティネットといえばそうだが、やれペット探しだの、やれキノコ採りだの。
かつて少年少女の焦がれた『冒険』とは、かくあるものだったろうか。
「……そして私はぺーぺーのお守りときた。いや良いのだけれども」
懇意にしているギルドで、今日は冷やかしとばかりに顔見知りの受付と話していれば。
其処のギルドを切り盛りする、未亡人ながらバイタリティ溢れるギルド長に捕まって。
あれよあれよというまに、押し付けられた、新人の引率。
曰く『お人形さんにやらせて、貴女は見ているだけで終わるでしょう?』と、
いやお人形さんはそりゃ自律もするが起動や命令は私がするのだ。
そう言いたいが権力に弱いし相手が此方より立場が下か、自分を上にと置いてくれなければ強くは出れない性質。
結局は、未亡人ギルド長の豊満な胸部の如くに重い(触れたことはない。主観の感想である)視線に負けて。
近郊での薬草採取を引率するために、王都の東門で、灯を着けていないリトルシガーを噛みながら。
本日のクソ生意気な(人となりは聞いていない。重ねてラバスの主観である)新人を待つ。
此方の特徴は伝えられているはず。相手の特徴も、聞いていた。確か、何と言っていたか――……
ご案内:「王都近郊/平原」にジーゴさんが現れました。
■ジーゴ > 東の門には近づいたことさえないから、緊張気味に。まだ門が遠いうちから、ちらりちらりと門の方を見ながら近づいてくる少年が一人。
今日は黒いキャスケット帽を深く被っているからその狼耳は見えないけれど、帽子の下では大きな耳が緊張してぴこぴこと動いているから、帽子をよく見れば耳の先が内側から帽子に当たって、帽子の布地が少し動いていることがわかるかもしれない。
お世話になっているギルドの人が紹介してくれた『街の外に一緒に行ってくれる人』を探してきょろきょろ。
「あ!」
聞いていた背格好の人はそんなに苦労することなく見つけることができた。
初対面の相手にも人懐っこく、ぱたぱたと駆け寄る。近寄ると自分と同じくらいか少し大きな相手の方を見て首を傾げながら尋ねる。
「えっと…ラバス……さんですか?」
「オレ、あんま街のそとに行ったことなくて。だから、よろしく!…じゃない、よろしくおねがいします」
思い出したように付け加えられた丁寧語。頭を小さく下げて。
「あ、なんかあまいもん食ってる?」
リトルシガーから漂う甘い香りを察知して、鼻をすんすんとさせる。
体格の割に幼い顔つきの少年は甘い匂いに明らかに期待しているけれど、初対面の相手に遠慮することは最近少しだけ覚えたらしい。
ほしいんじゃないです。と口の中でもごもご言うと誤魔化すように、おもむろに下げている肩掛け鞄から紙を取り出すと広げてラバスに見せようとして。
「あ、今日はこのやくそうをとりにいきます。このやくそうってみわけられますか?」
一応、依頼書には詳細が書いてあり絵も添えられているが、難しい単語は読めない獣にはいまいちわからずに、相手に問いかけた。
■ラバス > そう、思い出した。確か、若いミレー族だと言っていた。
『物怖じしない子で、ちょっと常識に疎いところもあるけれど、良い子』と。
個人的経験からやはりクソ生意気なのではないかと、思っていたところ。
「!?」
此方に向けて、声をあげられるものだから、え、何かした?と、言わんばかりに身を竦め。
それでも声の方に向かないのは、反応したら因縁を付けられる系の流れかもしれないからだ。
そうやっていたのに、近づく足音。首を傾げ、緋色をのぞき込んでくる、琥珀色の瞳。
三白眼を細めて、睨むようにするも、内心は『ワタシがなにかしたのか』と繰り返されている。
が、名を呼ばれて。相手の名も告げられない間に、突然、よろしく、お願いされた。
そうして漸く、自分が其処に居た理由を思い出して。
「……ん。ああ、ラバスは私だよ。……ジーゴ君、だったかな?
次から、特に害意のない初対面の相手には、自分から名前を告げるようにね」
さも、相手が待ち人と確信した出来る女が自分であるというように、取り繕った言葉を吐く。
良かった、生意気というよりは天真爛漫系だ、と。
安心して口元が緩むから、彼の眼には余裕をもって笑顔で新人に対応する先輩、に、見えたかも、しれない。
「ぇ、いやこれは食べ物では……あ、ああ。薬草か。
此れなら、ほら、この絵の通り、根元が赤み掛かっているだろう?
葉の形も、えーっと、なんだ。……つんつんしているだろう。それで探して、根元を確認するといい」
ころころと変わる話題に、気心知れない相手とのコミュニケーションが苦手な女は必死でついていく。
無論、出来る先輩の恰好を取り繕うのも忘れない。
■ジーゴ > 彼のことを「クソ生意気」と思うのはきっともっと慣れて彼が本領発揮してからだ。
それはともかく
「あ、そっか。ごめんなさい。ジーゴだよ」
自分が常識がないこともわかっているから言われたこと素直に頭を下げる。それでも悪意なく丁寧語は忘れる。
相手が、余裕を持っている先輩ぶっていることには気がついていない。文字通り自信のある先輩であると思っているし、今日頼ることができる唯一の相手だ。
「赤みがかって、つんつん…」
彼が『そんだけの説明ではわからなくない?』と真顔になったのは一瞬。
どの薬草かを知っている相手であれば、実物を見たときにもう一度教えてもらえれば間違うことはないだろうと自分を納得させて。
「ええっと、じゃぁいきますか?」
まだほんの数回しか街の外に出たことがないし、ギルドの仕事で街の外に出るのは始めて。
どこか不安げな顔がラバスの方を見上げる。
そして、思い出したようにまた鞄を漁ると、ギルドの登録証を出して大切そうに握りしめる。
戦時中でもないし、比較的人の出入りも多い王都だから門を通るのは難しくないし、ギルドの登録証がなくても普通の冒険者は通れるだろうけれど、
彼はミレー族で身分は奴隷だから、門を守る憲兵のチェックも厳しい。
今日は帽子をかぶってミレー族であることは分かりにくくしているけれど、獣の目を見咎められたらちゃんと説明できるようにギルドの登録証は忘れずに持ってきた。
■ラバス > 此方の言葉に素直に謝意を示し、きちんと名乗りを上げる相手に好感度プラス。
口調が素のそれであるらしい、ぶっきらぼうなものになればそれはそれで似合って見えるので咎めなかった。
なんなら、しっかりと敬意を感じる視線に、機嫌をいくらか好くしているくらいで。
「ん、む。こればっかりは、その、実物を幾度か見て、憶えていくものでもあるしなぁ」
此方の言葉を繰り返し、表情を一瞬消した相手に、言い訳するように口を開く。
すでに剥がれ始めている、出来る女のガワ。
「ああ、行こうか」
頷き、歩き始めようとすれば、向けられるのは迷い犬のような視線。
そうして、ギルドの登録証をぱたぱたと鞄を漁って取り出し、しっかと握る所作。
なんだこいつ。かわいいかよ。
思わず、視線をそらして、口元を抑えた。シガーを落とさないように、咥え直しながら。
今のところ生意気さは見えず、細身とはいえ其れなりに育った体躯ながら、幼子のような仕草。
ふー、と。一つ息を吐いて、彼に先導するように門の方へと歩いて行く。
落ち着こうとするからか、歩く姿は意外に背筋が伸び、凛としたふうで。
野外活動であるのに、引率だからとタイトスカート姿のまま。
コートの裾を颯爽と揺らし、眼鏡越しの視線も、元の眼付きの悪さもあって鋭く。
そんなふうな様子のおかげか、憲兵も彼女のことは特に見咎める様子もない。
ちら、と、後ろについてきているだろう少年を見遣るも。
「連れだ。何かあったら、責任は取る」
しれっと、告げて。
首尾よく相手が納得したなら、二人でとりあえず、平原の方へと進んでいくだろうか。
■ジーゴ > 門を通るときはやっぱり緊張する。登録証もあるし、登録証の裏にはご主人様の一筆(たぶん、街の出入りを許すと言う内容のもの)もあるし、きっと大丈夫なんだけど脱走奴隷と間違われて町から出入りするための門のところで捕まる、なんてことはどうしても避けたい。
緊張して、相手の様子なんて見ている余裕のないミレーは相手が彼のことを可愛い、なんて誤解しているのに気がつくこともできないまま。
門の方に歩いていく姿を追いかけた。
「ち…」
ちょっとまって、と言いかけて止まった言葉。
思わず相手の服でも掴もうと伸ばした手が、ちょうどこちらを見た相手を前にそのまま止まった。
力強く、責任は取ると言ってくれている様子を見て少し安心した獣は足速に相手について門をくぐり抜けようとして。
「えっと…どっちですか……?」
門をくぐると、今までの街中の風景とは変わって整備されている道とその向こうに広がる建物のない自然のままの世界。
その道を左右どちらに行ったらいいかさえ見当がつかない。
普段、街の中だけで過ごしているミレーは目の前に広がる風景にのまれて、ぽかんと周囲を眺めている彼が冒険者初心者なことは簡単に相手に伝わってしまうだろう。
■ラバス > 此方に手を伸ばしかけているのを視界の端に見つけるも、特に何も言わないでいる。
ふいっ、と、憲兵の方へ向き直し、言葉と視線で制してスマートにジーゴを先導していく。
……ふうでいて、一々の仕草が、冒険者見習いなんてレベルではなく、初めてのお出かけのような彼。
普段胸やら腿やら尻やらに視線を向けてくる連中には感じない感覚を覚えて。
心の中では勝手に、ジーゴきゅん、と呼び始めている。
彼が、門の外を見て驚いている風には、ただ、初めての野外で行う依頼に緊張しているのだろう、くらいにしか思っておらず。
キャスケットが、その下の身体の部位のために動くのも、なんとか直に見れないかな、と、緋色の瞳を細めて。
「先ほどの薬草なら、どちら方面にでもあるけれど、平原のほうを探そうか……ルプス!」
すっと、伸ばした指先、しゅる、と、空気を巻き込むような音を立てて召喚の術式を遣う。
そうして、何もないはずの中空から、すとん、と。
真白い狼の姿を模ったゴーレムが、軽やかに着地する。
毛並みなどは本物のように仕上げてあるが、眼球は硝子玉をはめ込んだような一色に染まったもの。
警戒のために呼び出した狼型のゴーレムは、数歩、歩いて、二人の前で座って見せた。
■ジーゴ > 街の外の街道を行き交う人は彼が想定していたよりも多くて、そわそわそわそわしっぱなしだ。
冒険者、商人、乗合馬車、売られていく奴隷、裕福そうな早い馬車。
広い空、大きな雲、爽やかな風。
嗅いだことのない透き通った草花の匂い。
「オオカミ!」
目の前に突然現れた狼にも驚いたと言うよりは歓喜の声をあげる。
狼に目線を合わせるようにしゃがみ込むと狼にも挨拶しようと試みて。
「ルプスくん?」
犬同士の挨拶でするようにやたらと顔を近づけて相手の匂いを嗅ごうとして、思い出したように帽子をとる。白から黒までのグレーのグラデーションの獣毛と隠していた大きなオオカミの耳が露わになる。
「オレもね、オオカミ!一緒!」
目の前のオオカミがゴーレムであるとは思いもつかずに、一緒だ!と目を輝かせて。
普段見ることができない仲間だと興奮して、当初の目的は完全に忘れさられている。もはや彼の中ではクライマックス!
■ラバス > 全身跳ねさせて今にも飛び出しそうな風の少年の仕草に、思わず、くふ、と。
喉奥から思わず漏れたというような笑いを漏らしてしまいながら。
呼び出した自身の弟妹たるゴーレム。
それを、素直に狼と呼び、嬉し気に駆け寄ってその顔を覗き込む、彼。
「……いや、無垢か」
ゴーレムと解ってか解らずか、挨拶しようとしている仕草に思わず突っ込みながら。
咥えたシガーをポケットに仕舞い、彼がルプスにじゃれつこうとしているのを、
それは作り物だと、教えようとした矢先。
帽子を取って耳を露わにし、一緒、と。叫ぶ様子に、思わず口元を歪める。
頬が緩み、思い切りにやけた顔をしてしまいそうになったのを、堪えたが故に。
「……ッ、そ、ぅな。ンンっ。あー、ジーゴきゅ……君。それは、ゴーレムだよ。
作り物だ。狼の形を真似て、同じような動きをさせているんだ」
がっかりはさせるかもしれないが、自身の能力の一端を、彼の同族を操るものと思われるのも心苦しい。
彼の隣にしゃがみ込み、ルプスを撫でて見せる。
作り物だが、それを弟妹と呼んでいるのは其れなりに愛情をこめてもいるからで。
■ジーゴ > 「きゅ?」
可愛いあだ名をつけられていることには気がつかないから、とりあえず一番疑問に思った部分を繰り返しておいた。
「作り物…?でも、オオカミだよ?だったらいっしょ!」
『ゴーレム』が何かを理解しているのかいないのか、彼は狼の毛並みを確かめるようにルプスを撫でる。
「でも目だけちょっとちがうね」
衣服では誤魔化せずにいつもミレーであることがバレてしまう原因になる獣の瞳。
自分のものは瞳孔が縦に広がっていて、深く色が重なっているのに、ルプスのものはそうではなかった。
門をくぐった直後の道端で、ひとしきり撫でて撫でて撫でて。
ゴーレムの狼は、撫でられ続けると嫌な顔をするのだろうか、ともかく生き物の狼であればもう完全に飽き飽きした顔をしているであろう時間、撫で続けた後に唐突に思い出す。
「やくそう!」
突然今日の目的を思い出して、ぴょんと軽やかに立ち上がった。
「あ、ごめんなさい。えっとへいげん?」
平原がどっちなのか、もとより平原が何なのかわからずに問いかけるしかなかった。
■ラバス > 「忘れなさい」
此方の失言を聡く拾い上げ、疑問形で繰り返す相手に、短く命令形で指摘する。
特段、目の前の少年が外敵であるとの指示も無いため、大人しく撫でられるがままのルプス。
けれど、触れれば体温が無いこと、毛並みはともかく、その下は体皮というものでなく、硬い感触であることも解るだろうか。
瞳孔がない硝子玉は、彼が覗き込んでも視線が合うようなことはなく。
ただただみられるまま、艶やかな丸みに光を反射するだけ。
ラバスから言葉でも、術式でも、共感の魔力によるものでも、何の指示も与えられない狼型のゴーレムは、
ジーゴがいくら撫でようと、身じろぎ一つもしないでいて。
「もっと狼の形にだけ似せた無機質な感じのほうがよいものなのかな……
いやでも折角作り込むのも愉しいのに、ああ、ジレンマだなぁ、こういう悩みは贅沢だけどやくそう!?」
少年がルプスに構っている間、彼が狼だから一緒と発言したことで、実と虚について考え込んだらしく。
一人でモチーフに寄せることと、ゴーレムとしての存在を誇示することと、
どう両立するべきか、むしろしないべきなのかとブツブツと自分の世界に入り込んでいたところ。
直ぐ傍で叫ばれた言葉に、びくん、と。体を跳ねさせて。
緋色の瞳を見開いて、自身の両腕を抱くようなふうにすれば、視線をジーゴに向けて……
こほん、と。一つ咳払いをして、居住まいを正す。出来る先輩ポーズに。
「んんんっ。平原というのは、起伏の少ない平らな野原のことだよ。道が伸びていないままの場所だ」
街道が伸びている方から、逸れた方向。
緑草の絨毯が広がる其方を指で示してやって。
■ジーゴ > 「きゅ?」
きゅが何かわからないけれど、忘れろと言われたことが面白くて繰り返した。
鋭い歯を見せて笑っている姿はいたずらっ子の片鱗を既に見せ始めている。
「うごかない…つめたい。」
毛並みも体格も座っている様子も狼そのものなのに。
温もりもなければ、反応もない。
ちょっと悲しそうな声を出した。
「いきてない?ゴーレムだから?」
しゃがんだままラバスを見上げて問いかけた。
ゴーレムが何かはわからないけれど、生きていないということはわかった。
「やくそう!!のはら?とりあえず、へーげんいこう!」
突然発した自分の声が相手を驚かせたことには気がつけていない。まだ、尊敬できる先輩と思っている狼。
キフクノスクナイタイラナノハラが何かは聞いてもわからなかったけど、とにかく相手が指差した先にあるのだろうと視線を遠くにやった。
何よりまだ門を出てほんの数歩目なのだ。
■ラバス > イラっと。
は。
しなかった。きゅ、と繰り返すときに真正面から見えた、犬歯を見せながらの笑みが尊い。
思わず顔を背けて仕舞う仕草。彼には、怒って視線をそらせたようにも見えたかもしれない。
実際は口と鼻を覆って、瞳を閉じ、落ち着こうとして。
しっかりと、目の前のそれが狼なのに、狼とは違うことを確認していっている少年。
これはこれで教育になろうかと思っていれば。
生きてないのかと。
問われ、頷いて見せる。生きる、の定義にも寄る質問だが、彼の問いに返すなら、やはり否だろう。
そこらに言及すると、今度は生死の概念について、少年の知識内で理解できるよう説明を始めないといけない。
さすがにそれは、機会を新たに設けないと、依頼が終わらない。
「うん、そうだね。薬草。……野原も解らないのか……」
薬草の採取依頼は、きっと、ギルドが彼に特別に用意したものだろう。
そこまで遠くに行かなくても採取できる、野草にも近しい種であったから。
街道を少し進んでから、林野に入り込まない程度の手前の平原で採れればいいかと。
道に沿い、脚を進めていく。
とことこと、歩く彼女の横を狼型のゴーレムも追随して。
■ジーゴ > いたずらで『きゅ』っと言った後に相手が顔を背けたから、おこらせちゃったかな…?と小さく首を傾げた。
でも、表情がすぐに元に戻ったから、きっと怒ってはいない。と内心結論づけて。
「うごいた!生きてないのに…」
歩きながらも、うーんと少し小難しい顔をしているのは、生きているとか死んでいるとかゴーレムとは何なのか、とかを彼なりに考え込んでいるから。
オオカミなのに、生きていなくて、生きていないのに動く。
死んだら動かなくなっていなくなる、くらいの死生観しか持たない彼にはなかなか難しい。
彼がギルドの依頼の説明の紙を貼り付けられた掲示板を長い時間をかけて眺めてたどたどしく音読した後に「ちかくでとれるやくそうの依頼はありませんか?」って毎日受付に聞きにいくから、不便がったギルドの職員がわざわざ依頼してくれたなんてことは、少年は気がついていない。
はじめてのお使い、ならぬ初めての薬草とりに心を膨らませているのだ。
「キフクノスクナイタイラナノハラ?」
しばらく街道を2人と1頭?で連れ立って歩くと、さっき指差してもらったあたりに着いた気がする。
きっとこれがキフクノスクナイタイラナノハラだ。
道をそれた先にたくさんの野草が生えているのを見て立ち止まった。
相手が肯定すれば、赤みがかったツンツンした植物を探そうと無警戒にしゃがみ込んで。
■ラバス > そう、怒っていないのである。
スン、と。澄ました顔を必死で維持しているが。
動いた、と。生きていないのに、と。
此方が教えたことを、きちんと咀嚼しようとしている様子に、地頭は良いのだろうと考える。
機会があればゴーレムとは何かから、疑問に答えながら説明していけば、普通に理解してくれるのではないか。
それはそれとして考え込む少年の獣耳が動いたりするのには、彼が思案に耽っているのをいいことにガン見である。
そりゃあ、こんないろんな意味で危なっかしい少年がギルドに日参すれば、
あの腹黒未亡人ギルド長も絆されるというものだろう。いい年して。
「キフク、は、起きたり、伏せったり、という意味だ。
でこぼこしていない、というか……難しいなぁ。
タイラ、はわかるか? 平べったい、という意味。
野原、は、人の手の入っていない自然な原っぱ、だが、うーん」
ジーゴきゅんにどう説明すればわかるんだろうなぁと一人で首を捻りながら。
唐突にしゃがみ込む相手の様子に、視線を向けて。
ルプスに周辺警戒をするように指示を出しつつ、少年がどうするものかと。
興味深そうに眼鏡越しの緋色で眺める。
■ジーゴ > 「生きてないけど、うごく。うごいたら、生きてる?うごかなかったらしんでる。」
考えながら頭の中に浮かんでいる言葉をそのまま発する。相手に目線をやってはおらず、どちらかというとルプスの方を眺めて、考えながら歩き。
「そのままのまっすぐの原っぱ?」
理解したとばかりに、大きな獣耳がより一層上に伸びて、獣の瞳がますます輝く。
テーマの大きな考え事は、とりあえず生きてなくても動く狼がいるらしい。というところで着地させて。
目の前の原っぱに集中する。
「これじゃない…これでもない…」
集中する言っても、自然の中にやってきた回数だって数えるほどの少年には、正直なところ目の前の平原に広がっている様々な種類の野草の区別はかなり難しい。全て、「みどりいろのくさ」にしか見えない。
無造作に目についた野草を根っこから引っこ抜いて、根元が赤っぽいかどうか、葉っぱがツンツンしているかどうかを確認しては、違うと判断したものを足下に捨てていく。