2021/12/28 のログ
ご案内:「郊外の洋館」にジギィさんが現れました。
■ジギィ > 【お待ち合わせ中です】
ご案内:「郊外の洋館」に影時さんが現れました。
■ジギィ > 蠢く触手は彼の足さえ捉えんと魔手を伸ばすが、閃く刃によってあえなく薙ぎ払われていく。薄暗い灯の中で蔓延るそれの色は定かではないが、手ごたえは正に植物の『蔦』であるのに、飛沫は薄闇でも解る赤黒で―――嗅ぎ慣れているだろうなまぐさい鉄錆の香りをつよく撒き散らす。
連れのエルフが放り込まれた扉。一見普通の木製であるそれは、苦無の一撃によって蠢く蔦の苗床に変化するだろう。
扉に触れるのなら当然の如く、彼をも取り込もうとするかに足元からも扉からも巻き付いて来る。
扉を壊さんと振り上げたその手にも足元にも、生暖かいものがぞろりと這う。もとより蔦に覆われた扉を破壊するにも時間が掛ったろう。
―――彼が振り上げた苦無がまた赤黒い飛沫を舞わせて、数度もせずに
『何をしている!?』
叫び声。
男の声だ。
同時に駆け寄ってきた人物―――身なりの良い初老の男は、彼を止めようと羽交い絞めにしようと掛るだろう。
『不法侵入の上になんて無礼な…!』
一瞬でもその男に気を取られたなら―――いや次に瞬きをして瞼を上げた時には
目の前の景色はすっかり変わってしまっている。
こじ開けようとしていた扉は凝った作りではあるがごくふつうの木のドアに
足元は朱色のカーペットに
何より…不穏な香りはすべて消え去り、鼻腔に届くのは古い家屋のかおり。
『ええい、壊さずとも開けてやる、無礼者の野党め。
金目の物などないわ!』
言うが早いか、初老の男はドアノブに手をかけ、ごくふつうに扉を開く。
中は…ごくふつうの書斎のようだ。
灯りは無いが、窓から時折差し込む稲光で部屋の様子は解る。片方の壁が書棚になっていて、反対側に書机と簡素なベッド。
そのベットの上に…先ほど叫び声を上げていたはずのエルフが。近付けば、寝息を立てているのがわかるだろう。
窓を強く雨が叩く音。時折稲光。
何もかも、ごくふつうの部屋の佇まい。
…水仙の香りさえ、もう届いてこない。
■影時 > 奮う刃は龍殺しの刃である――と同時に、名も知れぬ刀匠に鍛えられた業物だ。
然るべき使い手の技が乗れば、骨も通らぬ蔦のようなものを薙ぐのは至極容易い。造作もない。
ただ、僅かに顔を顰めるのみだ。
それは不意が過ぎる状況に対する感情の発露であり、何より嗅ぎ慣れた生臭さ故だ。
薙いだ蔦の切り口から飛沫く赤黒のかおり。ひとはそれを血の臭い、とでも例えるだろう。
「――ええい、埒があかん。ここは……、ッ」
黒い刃の苦無で扉を穿てば、あら不思議。まるで足が深い絨毯が立ち上がったかのように蔦の苗床めいたものが正面に出る。
巻き付いてくるものから、少しでも離れんとする身のこなしこそ死地に何度も臨んだ歴戦の戦士そのもの。
刃を振るうだけでは、埒が明かないと即決。戻した苦無の柄を唇で加え、自由にした両手で印を組もうとした刹那に。
「……――おいおい」
羽交い締めにしようとする初老の男の声と動きに、咄嗟にその場から飛び退く。
まずはするりと後ろに回り、手刀のひとつでも落として気絶でもさせようかと思った瞬間に、がらりと。そう、がらりと情景が変わる。
先程まであった酸鼻と云える情景は、かけらもない。微塵もない。
ともすれば、旅塵に塗れ雨が変わり切らない己が装束が不似合いなとも思える位の、この土地らしい古い家屋のありようがそこにある。
「いやァ、すまんね。
別段金目のものなぞどうこうに用は無いンだが、そこの連れが変なのに引きずり込まれてな。
あんた、何か知らねぇかな。」
夢か幻か。だが、数刻前の臭いと香りはよく覚えている。其れが誤った認識であるとは思えない。
そうでなければ開けられた扉の向こう、部屋の寝台の上に寝転がっているエルフの姿が説明できない。
失礼する、と顎を引くように部屋の主と思しい姿に会釈し、足裏の土を払っては部屋の中に踏み込む。
寝台に転がっている姿に近づけば、起きろとばかりに肩を揺すってみようか。
■ジギィ > 背後を取られた初老の男。先ずは息を飲んで、慌てて相手を視認し直すのがせいぜい。身なりはどうあれどう見ても市井の人間の域を出ない。
ドアを開け放ち、相手が粗暴な素振りを見せないのであればこほんとひとつ、咳払いが聞こえてくるだろう。
『…連れとやらも随分図々しい。
人の部屋に忍び込んで寝ているとは…』
礼儀をわきまえた仕草で以て室内へ進む姿にはもう、文句のつけようも無いのだろう。忌々しげな声ではあるが、そう声を掛けるだけで初老の男はゆく手を阻もうとはしない。
古い書物の香りが充満した部屋の、その寝台のうえで銅色の肌のエルフは呑気に寝息を立てている。肩を揺すれられるとうっすらと瞼を上げ、若草色の瞳を覗かせるが
「……うふん …… もうすこしい……」
彼を見止めてにまあ、と笑うと反対側へごろんと寝返りをうつ。
女の頬を見れば何とか見分けられる朱色。眠気の故というより、酔っぱらっている様子だ。
それを機としてか、またこほんと咳払いがする。
『引きずり込まれたとは言うが、私からすれば忍び込んだ挙句に酔っぱらっている無礼者でしかないな。
…とは思うが、わたしの主人はどんな来客でももてなせと仰せだ。連れが正気付いたら階下のホールへ来ると良い』
初老の男はそう言い置くと、部屋のドアを開け放ったまま去っていく。カーペット敷きの廊下を遠ざかって行く音が、窓を叩く雨の音よりは微かに届いて来るだろう。
「カゲトキさあん…
酔い止め……酔い止めちょうだい……あとおんぶ……」
寝転がったままのエルフは後ろ手で彼の羽織を引っ張る。灯りのない部屋で取り残されてはいるが、やはり屋敷はごく普通にみえる…
■影時 > 征く先々の礼儀というのは、通用する言語を覚えるのとセットで押さえておくに越したことはない事項だ。
何せ、単なる仕草が場所が違えば相手を挑発するコトになりかねない、ということだってあり得る。
ただ、問題がある。
・・・・・・・・・
随分放置されていたはずの館だ。
そうであるなら、そうであるはずならば、何故斯様な人が居るのか。
――まるでこの男は、館の主である、あるいはそれに近しい立場の者である風に思えるのだ。
「そう云われると、ああ。確かに返す言葉が無ぇやな。
ほら、起きろ起きろ。とっくに朝は過ぎてンだぞ。起きねえと揉むぞ、擽るぞ。」
一先ずは言葉を合わせながら、邪魔をされないとなれば呑気に寝息を立てる姿に寄る。
寝惚けているというには、少し違う。酩酊している、酔っているような風情だろうか。
冗句通りに胸元に手を遣ろうとして、頬に差す色の風情に目を細める。
先程の蔦に運ばれて乗り物酔いを起こした、と診断するのも恐らく違うだろう。
「そいつはどうも。……連れが覚めたら、そうさせてもらうとしようか」
そうとなると、この初老の男(に見えるもの)は家令に当たるものだろうか。
ドアを開け放ったまま去りゆく姿の気配を追おうとして、僅かに目を細める。足音は確かに響く。遠ざかってゆく風情と共に。
思考、思案は置いておくとして、ひとまず、寝転がった彼女をどうにかしなければならないだろう。
羽織を引っ張る手に、仕方がないなという風情で腰裏の雑嚢を漁る。
薄い紙の薬包は、酔い止めに効果覿面な紛薬だ。其れを水袋ともども差しだそう。
「良くなったら、おぶってやる。あと、ほれ。こいつも羽織ってろ」
毛布代わりとするには心もとないが、ないよりはましだろう。そう思い、脱いだ羽織を寝転がったエルフにぱさっと広げて落とそう。
人心地ついたのであれば、背負って先程の初老を追うように階下のホールへと移動しよう。
■ジギィ > 「いやん、えっちい」
異様、と思える状況が異様の空間の中、女エルフは連れの伸ばした手にじゃれるように手を伸ばす。一見。
実のところ、じゃれるというよりはしっかと彼の手を握って
それに気づいた彼と視線を合わせたならば
(何か、おかしい)
と唇の動きだけで伝える。瞼は重たげで頬は火照らせているものの、その模った言葉を見分けられない彼ではないだろう。
家令だという男の足音が遠のくのをぼんやりと認識しながら億劫そうに上体を起こして、彼が寄越してくれた羽織の前を掻き合わせつつ水袋と粉薬をうけとる。一度水を口に含んで唇を湿してから粉役をぐっと煽って、再度水を飲む。
「―――ありがと。
…カゲトキさんも、飲んでおいた方が良いかも」
水袋を返そうとしながら、どく、とエルフの唇が模る。
同時に少し首を傾げて見せる。―――その首筋に、小さな小さな傷。
そのあと素早く、自分の腰裏のポーチから滑るように取り出した薬包紙を彼に押し付ける。
……何の毒かはわからないけど、心臓へいたる流れを守るための薬。
「…飲むかは任せるけど」
ぼそ、とこぼしてからエルフはにへらと笑って、おんぶー、といって両腕を差し出す。壁に耳あり、とでもいうのか、用心に越したことは無い。下手したら屋敷ごとおかしくなっているのかもしれない。
(…さっきの蔦のこともあるし)
一応真面目な顔でおぶわれて、階下へ連れだって向かう。
――――その、ホールに居たのは。
『…ようこそ、いらっしゃいました。
……すみません、私の夫から依頼されて来たのでしょう?』
家令を背後に従え、待ち構えていたのは青白い肌の華奢な女性。上質なドレスと身ごなしから、貴族であることは想像に難くない。
彼女曰く、別れを切り出した先から夫から嫌がらせを受けるようになり、こうして『空き家だ』といって人を遣るのもその手の内だとか……
『…みなさんに、罪はありません。
……それに本日はあいにくの天気ですし……宜しければ泊って行ってください』
そこまで言うと、女は具合が悪いのだと断って、今や豪華なシャンデリアが天井に煌々と輝くホールを去っていく。
――――それは、屋敷に入った際彼が不気味な靄が消え行ったと認識した方だった、ような。
彼女が去ると、家令や嫌々そうに―――
否、今や妙ににこやかに、二人を1階の、女主人が消えたほうとは逆側の出口へと案内する。二つ並んだ扉は、どちらも同じくらいの広さの部屋のようだった。
『ごゆっくりお休みください。
お食事が要り様でしたら、お作りして後ほどお呼びしましょう』
打って変わって恭しい態度。似つかわしいと言えば似つかわしいのだが……
ちなみに、女エルフはずっとおぶわれたままである。薬が功を奏したのか、吐息が酒臭くはなかったことが、唯一の彼の救いだったかもしれない。