2021/09/25 のログ
■スピサ > 鉄を打っていると、槌の手応えで形を変えられる部分がわかる
何処を打てば、まだ鉄の方向性が真っ直ぐになっていないのかがわかる
相槌もなく一人で打ち続けるそれは、人間とは違う
ドワーフやサイクロプスの腕の力が物を言うからこそ、形を変える作業も 整える作業も
総て一人きり
両刃の貫く形よりも、斬撃や大振りが驚異的な形
戦場に行く機会が多い者ならば、シェンヤンでよく見る形を作り終えると、一端其処までにした。
最後の仕上げと研ぎを、暗くなった夜に行う為だ。
暗い中で見える本物の火熱を纏う色の中で、純鋼の刃が出来上がる
「ふーっ……。」
立ち上がり、傍の手ぬぐいで額や首筋を拭うと、鉄に集中していたせいか
今さらに感じる視線を強く感じる感覚 ゾワッときたのは、まだ裸眼だったせい
コミュ力の少ないスピサは、すぐに手ぬぐいを首に掛けるとこそこそと眼帯を目元に蒔いた
紫色革のバイザーのように目元総てを隠すそれは、魔鏡のように内側からは見えるもの。
「……。」
そしてそーっと後ろを向くと、ドアノックもないままに工房の扉で作業を黙って居ていた革鎧の男を確認する
手元にあった槌を、作業用ツールにもなるベルトにストンと差し込むと、おそるおそると近づいていくだろうか。
「あの……何か か、鍛冶のご依頼でしょうか。」
腹部でグローブハンドを繋いでギュッとしたまま、そう聞いてみるスピサ
スピサは 馴染みの客らは半分ほど黙ってみていたり後ろからポンと繰る者ばかりなんで多いのだろうと
もじもじとしながらも、不意打ちが多いのには少しあれながら、確かめてみる。
■コルボ > その男の瞳、視線は猛禽というには一点でなく全体を見るような、
全てを見取ろうというようなそれ。
まるで、獲物を観察し追い求める烏のような鋭くも鈍い眼光を宿していて。
「あー、わりい。あんたの仕事ぶり見てたら声出なくなっちまった。
細工頼む絡みでドワーフの髭共のは見慣れてたつもりだったが……。
……金属と対話するっつうのは、別方面で理屈で理解できるが、
目の前で、最適な形に鍛え抜かれると声かけるどころじゃねえだろうよ。」
貴女が視線を隠す素振りどころか、バイザーまでかけて保護していると目を反らす。
「防具を造ってくれる奴を探してたんだがな。
最近はやれ魔術付与だ、超金属だ、小手先の技術やらで補う奴が多くてなかなか見つけられなくてな。
……最近、ちょっと様子が変わった知り合いと話してたら、
あんたに武具造ってもらったのがきっかけだって聞いたからな。」
そう言うと男はカバンをどこかテーブルに置いてよいかと問いながら。
「あんたのことは”豪宕”の旦那から聞いた。
ほんと、とんでもねえもんをあの人にこさえちまったなあんた。
俺の名前はコルボ。スカウトだが、情報屋のほうがメインだな。
俺が命を預ける防具、作ってくれないか?」
グランツ・ウィラクィス。平民上がりの貴族であり研究者。
かつて、貴女に出会い、豪宕の二つ名の始まりとなった武具をきっかけに、
価値観を変えられた男の名が”烏”の口から紡がれて。
■スピサ > 鍛冶場の作業は 見ていて楽しいという童のような言葉
邪魔をするのも悪いからと一区切りまでと気遣うもの
そして後ろから驚かしてやろうという友人
様々な中で、目の前の革鎧の男の視線は決していいモノではない
値踏み 鑑定 観察 知れる処を全部知ろうとする目だ
出来上がった代物を、武器屋の主人や鑑定士が出来を見る為に眺めるあれと似て非なる、同じものだ
ただし言葉に嘘はなかった
コミュ力の少なさもそうながら、金属の良し悪しや、銀メッキの粗悪品など
中身は屑を、錬金術師や鍛冶師は何度も見ることがあるからだろうか
「防具……。」
そして防具が欲しいのだと言う相手を、スピサも眺めている
革鎧や身軽そうな足腰を。それらは初心者の揃えではない 敢えて愛用しているのだとわかる
革は使えば使うほど馴染んでいくものだからなおさらだろう。
「あ……こ、こっちにどうぞ。」
そう言って話し合いや食事に使う、工房とは違うリビング系へ。
ドサリと荷を置く相手が、この切っ掛けを持ち込んだのは、少し懐かしい名前だった
「……グランツ様の?」
海に生息する大型の鰐で拵えた表皮がメインのガントレットを思い出す
ラバリィ・ダイルを甚く気に入ってくれたものだったな、と。
豪宕という名前は後々で使われた銘と同じ二つ名だ。
ほんのわずかに笑みをこぼすのは、稀に手入れに来る常連の一人だからだろう
スピサが愛用する、遮光アイテムの送り主でもある
そして情報屋と明け透けに話す
普通、情報屋といえば立場が重要な者ほど身を隠すものながら
紹介主であるグランツとのイザコザを免れる為か、正直に話している素振り
それは先ほどの視線と紐付けれる為、スピサも納得がいっていた。
男の名前はコルボと名乗っている。
「……あの人が紹介を。」
体格に見合う、革のガントレットをコルボも認めてくれたのだなと
スピサは嬉しくもあるものの、欲しがっている種類は全く別物だろう
このコルボ グランツとはまったく別のタイプだ。
「よ、宜しくお願いします。
工房の主の ス、スピサです。」
そう言って、互いに紹介が終われば、まずは受け入れる前に
どんな防具が欲しいのか、それの話に入るだろう
防具はリクエストがあってこそ造られるものだからだ。
故に互いに、食事用のテーブルに腰を下ろせば 目の前に黒エールの入ったジョッキを手渡すだろうか
後で飲もうと用意していた水漬けにしていた黒エールである。
多少冷えているそれをお互いに呑みながらも、望む防具 その条件を聞きつつ
線引き用の黒炭ペンをツールから抜き、羊皮紙も用意するだろう。
■コルボ > 冒険者にとって防具は命を預けるもの。
駆け出しほど武器を重視し、伝説の業物に思いを馳せる。
目の前の男はその対極。
「と、くつろぐならこれ脱いでいいか?
気になるなら見ても構わねえよ。あんたは壊さないだろうし」
そう言うとレザーアーマーを脱いで、床に置く。
……もし手に取るなら胴体部分はもちろん、肩当の内側に薄手の金属のプレート、
それもバネのようにしなやかに曲がるものが仕込まれている。
レザーアーマーを補強する。けれど阻害しない。
その上で、手練れから体捌きで補強されていると看破された上で致命傷を免れる。
ギリギリのバランスを取り、肩のバネ板に至っては体捌きで通常より早く踵を返す為、
迅速な重心移動をもたらすもので。
革も良く手入れされているどころか試行錯誤が多くみられて。
「ああ。俺ぁあの人から魔物の生息分布の調査を定期的に頼まれててな。
今までは情報と報酬のやり取りだけだったんだけどよ、
ある時急に少し話さないかってあっちから切り出してな。」
頭を掻いて、肩を竦める仕草をしながら。
「俺があんだけ焦んなよっつっても聞きやしなかった旦那が、
今やきちんと立ち止まって周りを見て視野を広げちまった。
……あんたのおかげでな。
んで、この間、そろそろ別の防具の仕込みもしたいって話してたら、
腕で言えばスピサさん、あんただろうって真っ先に言ってたんだ。」
エールを受け取り、軽く礼を言ってから一口飲んで。
「依頼したい防具は、要は腕、脛にふくらはぎを保護する当て物だ。 」
ただし、と付け足して
「身に着けるのは素肌、服の袖の下やズボンの裾の中だ。
用途は白兵戦じゃない、そんなものそもそもしないからな。
想定は未開の地の部族や暗部が使うような、毒を塗った飛び道具や弓矢の類。
それを多くて三発耐えられる、それでいて全力で走って阻害されない。
……後は出来れば待ち伏せの一撃を腕は一発でも防ぎきれればいい。」
相対しながら、言葉こそ貴女へ直に投げかけても、視線は鼻の下あたりに向ける。
貴女の視線への配慮をしながら、
情報を第一の商売道具とする男は、何一つ目的を隠さず貴女へ明らかにする。
それは、言外の信頼。
紹介された貴女の仕事を全て見定めたうえで、命を預けるという男の意志表示。
■スピサ > 「……。」
唯の籠手や脛当てならば、まだどうつくろうかという話になるものの
言われた条件はなるべく軽く、内側で身に着ける隠れた防具だ
アームウォーマーのような腕衣の下に身に着けるならまだしも、此れは平常の衣の下
スピサは顎にグローブの指先を当てながら黙ってしまった。
グランツとコルボは仕事を依頼し請け負う、一定の信頼があったのだろう
でなければわざわざスピサの工房に足を運ぼうとは思わない
見てもいいぞと言われた革の鎧は、改良をしつづけたものだ
枚数を増やしたり減らしたり 重ねる厚みを増やしたり減らしたり
修繕個所は分かりやすい 色合いの深みや皴の数が違う差が多い
「……い、一番は 休みや捕らわれたりしたときです、よね。」
薄いときとか、剥がされたりとか」
余計なものを持ちたくもないし身に付けたくもない だが耐えれるものかと
スピサは、あの時グランツを見たとき、この革ならばとインスピレーションが安直に湧いたものだった
セレネルの強奪魔な海鰐の強靭な革を纏う姿は、多少蛮族的な見た目になったとしても強靭に見える
逆にコルボは見せたくていい 極限的に見せずに 身に着ける
機能も防ぐ一点かと思うと、悩ましい
「う、うーん……。」
コツコツと黒炭ペンが羊皮紙の上でキツツキをする中
「服のシルエットから隠れる厚みで……一撃防御できて……」
そして 余計な要素の無い 純粋な材料と技巧 による代物
「うーん……。」
そういうと、スピサはペンを置く
「部位は手首下から肘際、ですよ、ね?」
触らせてくださいと言いつつ、グローブを脱ぐ両腕
それは長さを測り、筋肉の凹凸を見る為のものだった
グッグッグとつかみながら、青い指先で確かめつつ、革眼帯越しの眼は、どう思い描いているのか。
「い、一週間ください」
結論はいつもと同じセリフ
製作期間に、一週間
「ほ、報酬は出来上がったときの、ぐ、具合で好いです。」
これはそちらで決めてくれということ
情報屋ならば、できるだろう?という案か
それとも……情報に興味があるのか
■コルボ > (流石に、難しいか……?)
要求するのは容易い。今まで依頼を他の職人に依頼しなかったのは、
難易度もだが兼ね合いの見極めが難しいこと。
自分の頭の中身、わずかな差異を見せられるというなら出来るかもしれない。
だが、自分も彼女もそんな特殊能力は持ち合わせていない。
それにグランツとコルボの依頼は対極にある。
豪宕の名の通り真正面から打ち据えるスタイル。
対して彼は一切の”剛”を排したスタイル。
(もっと大勢、ギルドの類に、いやそれだと隠し球とするにゃあ情報が洩れる……)
やはり絵空事だったか、と思った矢先、貴女の言葉に目を丸くする。
「あ、ああ。そうだな、範囲はそうなる。出来れば肘も別途保護はしたい。
そこを的確に射貫いて無力化しにかかる奴もいるてか、
俺なら狙うし、逸れても脇腹狙えるからな。
と、構わねえよ。腕に繋がる胸とか腹筋とかも一応見ておくか?」
どこまで視野にいれるか分からないから、と言いつつまず腕を見せる。
バンダナを巻いたレザーアーマーのスカウト。情報屋。
真正面からの戦いを避ける、といった男の腕は意外なほどに鍛えこまれていて。
それも、無駄な筋肉を、必要以上であれば重荷に過ぎないと、
最大限まで自分の体を自分の理想に絞り込んだしなやかさを併せ持っていて。
「……なあ、なんであんた、一人でここにいる?
あんたほどの腕なら引く手数多だろうに。
……この依頼、今まで三人くらいには言ったが、全員鼻で笑ったぞ?
一週間て、出来るかどうかは別として、頭の中で出来上がってるっていうのか?」
実際彼女の功績はいくらか調べている。豪宕のガントレット以外にも、
彼女の武具を愛用する者は多い。
質実にして剛健、ともすれば極限に鍛えぬいた彼女の業物が
神代の魔剣を凌駕する時が来るかもしれない。
「と、話が逸れたな。ひとまず報酬はそういうことにしとくけど、
今持ってきてるのは旦那経由で仕入れた魔物絡みの素材や、
魔力精錬された銀系統の素材とかがメインだ。
ミスリルもインゴットが四つくらい、が今のところだな」
そういってカバンを顎で指して。
「まあそれ物にもよるが前金のつもりなんだがな」
■スピサ > 腕や足を、これでもかと掴んで、触れる
素手で 脳内で その形状を記憶する
しかしこの形状が何れ廃れることも考慮する必要があった
無駄のない しかし力強い筋肉 グランツのような 砕く者ではない
飛び掛かる者 飛び超える者の筋肉だ
スカウトと情報 これは対戦よりも逃走をテーマにするのなら……。
スピサは後に一週間と告げる それはいつも言う、スピサの制作期間だ
これが全身というのならもっと伸びだろうものの
一週間と製作期間を告げると、造れるのか?と目で語るコルボ
それにスピサは革の眼帯越しに、コルボには見える単眼の視線を合わせた
「浮かびました。」
淀みない 造るときの淀みないイントネーションでそうつぶやく
そして測り終わった羊皮紙のメモを手にする
一人で何でやっているんだ、と言われると ギルドもあり得るかもしれないものの
スピサは確かに紹介や顧客からくるものが多い
ギルドから紹介されることがあるとすれば せいぜいがサイクロプスが相手がいい くらいだろう
「……ひ、一人のほうが、いいので。」
ポリと頬を掻くと、大勢の内の一人に向いていないのだと言う
グランツを含め、頼んでくれる者がいるし飢えることもないと。
鍛冶師 スピサは 鉄を打ち それを叶えるだけで十二分に役割を担えている
「えっと……。」
報酬は前金で 魔物素材 魔銀 真銀 という
随分と破格だ この世界に於いても、ミスリルとは簡単に差し出せるものではない
魔法銀とも呼ばれるそれらは、ドワーフ銀やエルフ銀とも馴染みがあるように一種の冒険者の憧れなのだ
そして、スピサは頼まれでもしない限りそれらを使わないだろう。
目の前のコルボも、スピサにそのつもりで依頼を向けている。
「み、見て決めてください。
今は、受け取れない、です。」
グランツは前金で支払ったゴルドの革袋
あれらは材料を含める準備金として受け取ったものの
今回は全く受け取らない 見て付けてから決めてくれという
そして互いに、納得してくれたのなら黒エールの杯が渇くころには別れるだろう
また大荷物を背負っていったコルボとは 一週間後 それで決定された。
―――――――――――――――そして、一週間後の昼間 コルボは訪れる。
■コルボ > それまで視線を外していた、どこか引け目のようなものを帯びていた”職人”の視線がこちらと重なる。
(……珍しいタイプだなやっぱ)
淀みなく呟く貴女のあり様に、男は目を細める。
サイクロプス全員がこう、というわけではない。
無論それは彼に紹介してきたグランツも理解している。
他の職人と違う独特の空気、独特のスイッチ、独特の思考。
「まーでもそうだな。見てて思った、お前さんは他の奴とつるんでると悪い意味で埋もれる。
多分流されちまう。
あんたがここまでなったのは、一人でやり切ったからなんだようよ。
なんかよく分かんねえけど、職人としてのとは、別の芯があって、
それがあんたの武具足りうる所以なのかもなあ。
……その、なんだ。悪かったな、嫌な質問しちまって。」
今度はこちらが目を反らす。流石に、少しばつが悪くなってきて。
「……報酬については、分かった。
けど、一つ理解してほしいのは、俺があんたに頼むのは、
世界で俺専用のオーダーメイドだ。
それに金じゃなくて素材を持ってきたのは、あんたなら腐らせることがないからだ。
……あんたは後生大事にぶら下げたままじゃない、
本物の”武具”を作るんだろう?」
情報屋は、貴女の価値を見定めた。そして、貴女の言葉をくみ取り、
しかし、貴女から感じたものをはっきりと伝えて。
「じゃあ、一週間後、今日と同じ時間帯に来るぜ。
……また気づかないでびっくりすんなよ?」
そういって、実際、一週間後に再び訪れるだろう。
■スピサ > 一週間後
スピサの目の前には完成品が四つ並んでいる
それは手首下から肘の前までを覆うサポーター上の防具が二つ
同じく足首上からふくらはぎ上まで覆う二つ
そして肘当て 膝当てが二つ これらの用途は
肘撃ち 鳩尾撃ち そして剣士によくある言葉 “角を切り落とす”
それを少しでも防ぐためのものだ
「……。」
毛抜きすらされている革は砂色一色
砂のようにほんのわずかに色の左右される砂色の革
濡れても石のように明暗が分かれないようにされている
そして砂色という 獣から魚まで多くが潜んでいることが見えにくいという概念
それに左右されているように 内側に仕込まれたそれはなぞれは蛇の背骨と肋骨めいた凹凸がびっしりと見えるだろうか。
「……。」
故に脱いだ状態は抜け殻ではない ある程度の筒型を保ったままで編み上げのような繋ぎ目もない
腕を通し、身に着けるだけでいい仕上がりだ。
膝当てに関しては同じく砂色 ただしただ革の厚みを持たせると撃が鈍る為
此処の部分は肉抜きを施した鍛鉄肘の形で仕込んでいる。
「うん。」
元々、鞣してある革を使わなければ一か月はかかっていた
あらかじめ色々と仕込んであった革の一枚を使った甲斐がある
ギシリと椅子の上で、背もたれに寄りかかっているとドアの開く音。
訪れたコルボを前に、互いに まずはスピサから向ける表情は 待っていた という
どう評するのかだった なぜならリクエストが望むものでも、もっとこうしてほしいと言われれば一度では済まないからだ
そしてそれを見たコルボはこう思う 出来上がったんだな と。
そしてお互い、テーブルの上で臨むものを毛皮の敷かれた上に並べる。
「砂豹(サヒョウ)の革と、鍛鉄で拵えた背骨と肋骨を模した蛇胴の腕脚のサポーター
そして砂豹の肘当て、です これは中に肉抜きした鍛鉄を仕込んであります」
肘当ては角切りと肘当てなどを考慮した 軽さと強度 を担うもの
メインはやはり、依頼された腕当てと脛当てだ
「砂色にしたのは、内側に身に着けるから。
水で濡れた時や汗で、内側の肌のシルエットに紛れないのはダメだと思った。
そして、筋肉を触ったとき、私は身軽さで言えば猿よりも豹をイメージした。」
コルボを見てそういうと、目の前の道具を弄っているからか、口調に淀みはない。
「腕の外側を背中の革 これは背中の革の方が当然強い
肌につく腹部は逆に滑らかで強度が下がるけれど、馴染む。」
肌に相性や張りもいいと言う。
内側の革は帽子や楽器など、身に着けるや楽器でよく使用されるからだ。
「とっさの防御や、払う際の動作で、軽く 丈夫 ならミスリルなんだろうけど、私は鍛鉄。」
鍛鉄とは鍛造を言う 全て手で打ち込んで作っているという手間のかかりよう
逆に鋳造は型に溶かしたものを流し込んで嵌める為、安価ながら弱くなる
スピサは証拠を見せるように、鋼の型を持ってきた
それは種類は4つに分かれた肋骨を模した型だ
「熱して、鍛えて、純鋼を熱いうちに槌で型に叩き込んだから
強いけど、形になっている。」
槌で一つ一つベルト金具のように作ったのではない
強引に、サイクロプスの剛腕で叩き込んでから切り出し、削り上げた背骨と肋骨のパーツ
パーツが優に幾つになっているのか それを今度は革の内側で膠と鎖蜘蛛の漬け糸で結んだという
手間のかかり方が半端ではなかった 鎖帷子で同じ強度が得られるのでは?と言われれば
明らかに強度と経度が違うと首を振るうだろう
「付けてみてください。」
結び目もないそれは、手から差し込むと仕込まれた鋼の蛇骨が腕をフィットさせる
多少の伸び縮みなフィットは内側の革の力だとも。
「筋肉の膨張を蛇骨なら阻害せず広がる 動きも曲がる方に曲がる」
だからこそ蛇骨なのだと 全てを身に着けた相手に、こうしたのはこれが理由で
仕込んだ細さへの強度は鍛えた鉄を強引に押し込んだから
弾きも数度は耐えられるし、脛同士で蹴りつければ罅は確実にいれられるとする。
「ど、どうですか」
説明を終えると、納得がいくかどうかだった
鍛えた 鍛鉄 コルボを見て思った砂豹の革 これがスピサの回答だ。
質実剛堅 故に。
■コルボ > 期限通り、訪れた彼の前に出されたのはサポーターのような代物。
(革ぐらいは予想してたが……)
そういえば、厚手の服で補う、ぐらいのことは言ってなかったなと思い出し。
それも強い素材をよく活かすのだろうと。
彼には、ある情報が欠けていた。
グランツのガントレットを目の当たりにしても、それを用いた討伐結果の情報を耳にしても、
実際に彼が使っている瞬間、ガントレットの機構を知らなかったこと。
それだけの試行錯誤、インスピレーションを兼ね備える職人だという情報を。
「革だけなら守りは……、……なんだこれ……」
言葉で説明されたとして、それを目の当たりにして受ける理解度の大きさ。
岩石のゴーレム、金属製のゴーレム、骨製のゴーレム。
それぞれ討伐したとして手に入るのは岩石、金属、骨に過ぎない。
金属製の骨のゴーレム等、存在するはずもない。
「型にたた、お前、鋳造じゃないのかこれ!? この数だぞ!?」
だが、目の前の職人は夢想の存在を自ら創造した。
魔法も奇跡も起こさず、ただ己の発想と技量のみで。
まるで想像上の、神話の蛇から肉と内臓だけを抜き取ったような造形。
彼は、自分のことを伝説の英雄だの、神話の軍神等とは全く別の人種だという自覚はあった。
まして、自分の為にある様な武具と生涯出会うことなどないと思っていた。
手にした保護具と相対し、視線を落とし、やがて、意を決して腕を通す。
「……なあ、俺は、防具を造ってくれっていったんだぜ。」
拳を握り、腕を引き絞り、感触を確かめながらぽつりと呟いて。
「体の一部までは流石に要求しなかったはずだけどな?」
ニィ、と笑う。己の身と間断なくフィットする防具。
ともすれば、人が進化した末にこのような構造さえありうるのではと幻視さえしうる一体感。
「俺だって、ある程度の妥協はするさ、人が物を創る以上はな。
でもよ、俺の理想や想定を余裕で飛び越えちまうものを出されるとな……。」
再び持ってきたカバンを一瞥して、鍵を外し、中身を披露して。
親指で指しながら
「依頼人側からの見解をはっきり言うぞ?
絶対これだけじゃ対価にゃ足りないぞ。」
■スピサ > 鍛鉄の叩き埋めた蛇骨は好評の様子だった
肋骨の文字通り、防御と軽さとしなやかさに必要だった為数は多い
それも腕のサイズに合わせ、膨らみに敵を薄る様に背骨と肋骨は同じ型ではない
蛇は獲物を飲み込むとき顎も伸びるが肋骨も広がるのだ
それを想って作ったそれは、身に着けて満足そうにしている様子
最後の一言には ビクッ と 何が不味かったのかと思えば 上乗せな嬉しさがあったらしい
ふぅっと陰キャなスピサは肩を下ろしつつも、四つと肘当てを身に着けたコルボが多少動きながら
仕込み篭手と仕込み脛当てとしては及第をもらえるだろう
ただ文字通り 一個一個の数が多いため評価格は手持ちでは足りないという
手間賃を含めての計算に、チラッと三つの素材を眺めると。
「……。」
ポリと鼻を掻くと、情報屋っていってたなぁとスピサは思うだろう
こちらは革と鍛鉄 返しが 魔銀 魔物素材 真銀 ゴルドでは重すぎるからと
素材高で見せてきたそれは人間ならそうだ しかし相手は鉄を槌と剛腕で叩き込んだサイクロプス
「……。」
そして、立って、同じく立っているコルボの傍で手を招く
なんだ?とコルボが顔を寄せると、耳元で手を当てるなら
裸オーバーオールの青肌と凹凸が むにゅり と歪み当たる者の、気にすることもない
「ボ、ボソボソボソ」
そして本人にだけ聞こえるように、ひそひそと追加報酬は何がいいかのそれを口にした。
多少頬を染めて。
■コルボ > これだけの数、と言ったのは骨を模しているからこそ。
リングメイル等の細工に近い装備はある。
だが、骨を模しているからこそ、一つ一つ形もサイズも違う。
それ等を、彼女は一人で型から作成しての仕上げで。
「……?」
手招きされて近づく。顔を寄せれば耳元に唇が近づいてくる。
(なんだ……?)
不思議と、反応しない。単眼青肌とはいえ、巨乳で顔立ちもいい。
十分イケる。イケるはずなのだ。
なのにスピサを性的に、雌として見ることが出来ない。
というか滅茶苦茶当たってる。柔らかい。反応しない、何故。
「……」
追加報酬を聞いて滅茶苦茶悪い顔になって、それから少し思案顔で耳打ちし返す。
「もしかしてお前……」
■スピサ > 報酬は別に悪くはない
スピサの手製 そして折れてもまだ使用できる場所もある
完全に作り直しなら型がある為それも可能
故に、追加は情報でといい、ボソボソと耳打ちすると
渡した篭手脛当てを身に着けたままのコルボ 先ほどまでの驚きや嬉しさ
それらとは違うなんとも悪い笑みを浮かべている様子は 当てがあるのか?という期待
そして多少意地の悪い顔は耳打ちを返されると予想していたもので、ぼのぼの汗を少し出しながらもうなずいた。
そして、とある一言が眼帯の内側の瞳をクワッと広げ もう一言は ボンッ と顔を赤くした
スピサにとっては初耳である。
「え 、 え 、 え 、 ぇ」
間をあけて、え しか言えないまま上に向かって漫画汗は続く。
流石に主が、というか そんな目で見られていたのかと。
「んー……。」
流石にそれは いやでも と中々決断できない様子
案が浮かんだという時は全く真逆な判断力。
■コルボ > 「あー、お前さんはあそこにだいぶ気に入られてるから教えるけどさ、
あそこは形式的に主人とメイドって形にしてるけど、
実際は上下関係ないんだよ。
魔族や亜人ならともかく、全員バッキバキの出自が魔物だぜ?
だから敵意ないですよーってな感じで、形式的に旦那の”下”にいるだけでな。
お互いが対等なんだよ、あそこはな。魔物の生態調査する時、
あそこのメイド達も戦闘で魔物鎮圧していくしよ。
だからスピサと仲良くなっても、その後どうなってもプライベートなわけだな。」
基準となる”人物達” メイド達と主人の関係について
ある種の極秘情報、なのだが、スピサはどちらかというとあちら側なのだろうと
内部事情を話して。
「てか、紹介も何もそういう店なら奢るぞ? その系統なら一見さんお断りもあるしよ」
自分が専門の店の仲介役、というかこいつだいぶお世話になってるぞ。
■スピサ > 内部事情 そして戦力になっている 弱くはないだろうと思っていた者の
スピサが大斧を手に共に探索に乗り出すなどをしても、余裕でついてこれるのだろうと想像は容易い
スピサは魔族とのハーフながら、魔物がそのまま女の形をしているだけ のようなものだと言われてしまえば
自身の単眼と青肌くらいでは人間に近しいのだろうと思いつつ
「じ、じゃあ……ぐ、グランツ様には内緒、で……。」
言伝お願い、しますと まだ頬熱残るままに仲介役を頼むだろうか
もちろん、無理そうなら初め通り店で奢りでもいいのだ と伝える。
お店だとどんなの相手がいるのかなと思いもするものの、メイドさんたち
これは誰が、なのかも見当がつかない。
「ん、んん……っ」
どれくらいかかるのかなど、お店のほうが近しいかもしれないからと
手をもじらせながら相談してみたりする。
満足いってもらえた仕事の後だから、なおさらだろうか。
■コルボ > 実際、コルボは普通に貴女と接していた。
見定めるような視線も貴女の技量と、先ほど耳打ちした秘密についてのもので、
それを通り過ぎれば、一人の”知人”として接し始めていて。
あまり目を見て話していて貴女が目を反らせば”おー悪い悪い”と手をひらひらさせつつ。
「別に内緒にしなくていいのに。てか、メイド達はどうせ知ることになるだろうし……。」
と、紙に書いて六人の特徴を教えてくれる。
「ほぉ、一仕事終わったら滾るタイプか。
んじゃあ、両方で良くないか? ひとまず行こうぜ。」
仲介と奢り両方でいいと。こちらもそれだけ満足してるのだと示していて
■スピサ > 最初こそ、グランツからの紹介ということで
4人目の職人依頼として受けた仕事
認められ、評価された後は互いに間にいたのが知り、足りる関係だったせいか
コルボとスピサ 互いに仕事上の良い縁が生すべたことになる
故にコルボの態度は少し砕けたもの
それも報酬の内容がアレだったせいだろうか
普段の性格なのか意地の悪さも出しながらも、すらすらと
望むままの情報を提供してくれるだろう
最後には、グランツ在りきでしか接することがない面子故に
ガサリとメモに書き添えた簡単なプロフィール
これは恐らく、本人の経験談よりもグランツか本人とのトークで導いたのだろうか
「……。」
ゴクリと喉を鳴らして読み込んでいくメモの内容
もっと普通、外見だけかと思えば意外と濃い
しかしそれでも、一番印象が深いといえば二番目……三番目は安全圏内でいけそうでもあり
一番目は一番しやすい……4、5は未知数 でも気になる
「……ぇ?」
ジッと読みこんでいると、行こうぜと気軽に言ってくれる
前回と違い、身体も清めているし作業したばかりの身体ではない
それでも展開が速くないかと言われると、今度はコルボの仕事ぶり
それの正確さと信頼度に頼ることになるのだ
いそいそと、普段の作業着姿の上から、水馬の革ジャケットを身に突けつ
全身はコルボと同じく丈夫な革のジャケットと作業着風
それでも十分な信頼性があり、腰と左手に身に着ける片手大斧とバックラーで充分になる。
「よ、宜しくお願いします。」
報酬とされたそれらを、きちんと金庫に納めると、クローズと重く丈夫な鍵をかけた工房
互い一緒に出歩けば、男とスピサが歩いている、と馴染みの武器屋関連や冒険者の何人かが
眼を丸くするだろうか。
■コルボ > 「あーでもあれだぞ」
店へ向かいながら共に並び歩き、言葉を切って一言。
「……あそこのメイドとするなら、マジで精力つくもんたらふく食っとけ。
なんだったら薬飲んでもいい。搾り取られるぞ。」
それこそコルボを知る女性達からすれば信じられないようなことを、
絶倫の軽率なチンピラが搾り取られる、否、そんなのとかかわったから
必然的に絶倫に”なってしまった”のだと。
「つーかスピサ、同伴で店に行くとか経験ないんだったら、
今度からたまに付き合えよ。懐暖かい時は奢ってやっからさ」
多分スピサも精力強い方なのだろうなと思いつつ、そういった店が並ぶ中でも路地裏方面へと誘っていく―
ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍛冶場工房」からスピサさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍛冶場工房」からコルボさんが去りました。
ご案内:「九頭竜の水浴び場 マッサージ室」にエレイさんが現れました。
■エレイ > ──温泉旅籠内の、主に宿泊客向けに用意されたサービスの一つが、このマッサージ室である。
その施術室はいくつかの個室に分かれており、客は専用のカウンターで受付を済ませた後、各個室で待機しているスタッフと
一対一でマッサージを受けることになる。
なお、客にどのような施術を行うかは、スタッフの判断にすべて委ねる、というあたりはこの旅籠らしいといった所。
ついでに、各個室内には客に安心感を与え、施術への抵抗感を知らず知らずのうちに薄れさせてゆく効果を持った、
ほのかな香りのアロマが炊かれていたりもする。効果がどれほど出るかはその客次第なのだが。
「──はーいお疲れチャン。また来てくれたまへ」
そんな中の一室から、満足げに出ていく宿泊客を笑顔で見送る、スタッフ用の作務衣姿の金髪の男が一人。
今日も今日とて知り合いからの依頼で、臨時のマッサージ師として仕事に精を出しているのだった。
「ふぃー……こういう普通のマッサージも悪くはないのだが、そろそろ一発エロマッサージでもしたいところであるなぁ」
個室内に戻り、施術用のベッド脇の椅子に腰掛けながらそんな詮無い独り言を漏らす。
今日は現状、立て続けに男の『標的』にならない客の来訪が続いたため、男はごく普通のマッサージ師として
仕事をこなすばかりであった。
男としてはそれもそれでやりがいを感じなくはないのだが、やはり役得の一つぐらいは欲しいところであった。
「まああそれも時の運というヤツなのだが……──おっとと一息つく暇もなさそうだったな」
ボヤキを続けようとしたところで、閉じたばかりのカーテンが開く。
各個室は廊下に面しているため、稀に受付を経ていない誰かも紛れ込むこともあるようだが、それはさておいて。
現れたのは男の『標的』になりうる客か、それとも……。