2020/09/02 のログ
エレイ > そうして温泉宿の夜は更けてゆき──
ご案内:「九頭竜山脈 山中の温泉宿」からエレイさんが去りました。
ご案内:「山中の廃村」にアムネジアさんが現れました。
アムネジア > 歌が聞こえる。
何処の言葉かも定かではない。微かな、けれどもよく通る声で紡がれる歌。
ほんの僅かだけ、とろりと甘い声で紡がれる、少し物悲しい歌。

響く場所は、九頭龍山中の一角にある村。
正確には、昔は村だった場所だ。打ち捨てられ、朽ち果てかけた家々。
飢えから逃れたか、それとも疫病か何かで滅んだか。
あるいは、此処を根城にしていた盗賊団に奪われたか。
知る者はいないし、興味のあるものさえいるかどうか。
ただ、わかるのはいずれ風雪に朽ちるだろう残骸だけが並んでいるということ。

そんな場所の中心にある井戸。
もう水が枯れて久しいだろう縁に腰を下ろして、彼女は歌う。
瞳の中に紅を散らした蒼い瞳はどこを見ているのか。
こんな場所に似つかわしくない男装に身を包んで、歌う。
そんな姿を、薄曇りの雲に喘ぎながら、月明かりだけが見下ろしていた。