2020/07/31 のログ
ご案内:「裏通り」に獣魔目録さんが現れました。
獣魔目録 > 平民地区のとある裏通り。
通りから通り、通りから酒場や宿や冒険者ギルドのある区画へ、富裕地区から平民地区へとを結ぶ細い通り道である。

その裏通りは確かに各方面に移動するには近道となる通りなのだが、その呼び名の通り【裏】酒場や宿屋諸々の店の裏手を通るからなのか、薄暗く、人通りは殆ど無い治安的にもあまり宜しくない通りなのだが、今宵は不思議な事に一つポツンと人影がある。

その人影は人通りなんて殆ど無い裏通りなのに、敷物も敷かず地面に直接正座をして座り、代わりに自分の前に小さな敷物を敷いて其処に商品を並べて、客を待っている……。

灯りを照らすなら、その人影は酷く小柄で少年少女あるいはドワーフなどの背の低い亜人のように見えるが、全身を襤褸切れのように穴の開いたローブを身にまといフードを被り口元以外をすっぽりと隠し覆っている。

「……導書ニ……絵………スイ………カガ………。」

その人影が置物でも既に街の洗礼を受けたあとの亡骸ではない証拠にか細く路地に吹き込む風に簡単に掻き消されてしまうような小さな声で商品をアピールしている。

聞けば声色もまた若いが男女の性別の判別が難しい声であり、人の声よりもその手の知識が有ればゴーレムや魔導人形が人の声帯を真似して発するような声に近しい。

扱い商品は数冊の本。

可愛らしい絵柄の童話の本
如何にもな本格的な小説
タイトルの何もない怪しげな本
それと魔獣の皮で装丁された魔導書
他にも数冊の本が並べられている。

もし、通りかかった人間が本を手に取り中身が読みたいと言えば、人影は喜んで本を頷くだろう。

もし、ほしいと言えば喜んで人影はその本を売るだろう。

どの本を選んでもそれはもう嬉しそうに……。

獣魔目録 > ローブを被った人影などは怪しくはあれど見慣れているだろうか、時折路地を覗く人間は居るが人影に近づこうとか、人影の扱う商品を眺めようとか冷やかそうとか、そんな人間は不思議と出てこない。

出てこないし、本を売る人影も他者の視線に何ら反応する事無く、病んだ鸚鵡の様に

「……魔…書ニ……本………イ………ガ……デス…。」

と、客を呼び商品を進める言葉をくり返す。
赤い敷布におかれた数冊の本はどれも汚れ一つない、こんな場所で販売していると言うのに砂埃一つついていない、価格も特についていない。

路地に木霊するそんな声色。
路地で売られている怪しげな本。

怪しく、好奇心を誘う筈がやはり何かあるのか誰も覗くだけで近づかない、そんな状況が続くのである。