2020/05/19 のログ
■クレス・ローベルク > 成程、水も一緒に飲んだほうが良いよな、と感心する。
医療系の知識はあるが、聞きかじりの物だ。
専門家の意見を第一にした方が良いだろう。
とはいえ、あちらも割と遠慮が砕けたのか、こちらをからかう感じになってきたので、
「……OK。君相手に気遣いとか、やるだけ損だという事は理解した。
ついでに言うと二位は夜のデートで一位は仕事」
本当は二位と一位は逆転させたいが、流石に生活がかかってるので恐らくこれからも一位は不動だろう。悲しい。
「あー、家の事か。んー、まあ俺の愚痴とも無関係じゃないからね。絡めて話すか」
とはいえ、話し始めると割と重さが付きまとうのが男の過去だ。
出来るだけ、ライトに話そうと思い、
「まあ、俺の実家……ローベルク家って、魔物退治とかで功績を挙げてる家なんだけどね。
俺はそこの家出息子なのさ」
ただ、と少し顔を顰める。
実際に起った訳ではなく、所謂オーバーリアクションの一種として、だが。
「まあ、そこの家が有り体に言ってクソでね。
『ローベルクの家を継ぐ者は英雄でなければならない』って家訓のせいで、一人息子の俺は虐待に近い訓練漬けに晒されていたのさ」
酷い言い草であるが、真実なので仕方ない。
少なくとも、二度と戻りたくはないと思うぐらいには、あの家は常軌を逸している。
「まあ、例えば今みたいなのを十五歳の俺にやらせた後、回復魔法で無理矢理超回復させてもう五セットとか、夢系の魔法で睡眠時間=勉強時間に変換とか、魅了耐性付ける為に媚薬投与してから貞操帯付けさせて、サキュバスの入った檻に放り込むとか……」
例を挙げるたびに目が死んでいく男。
非人道的過ぎるというか、よく自殺とかしなかったな自分とそう思う。
もしかしたら、教育心理学的な方法で、自分を縛り付けていたのかもしれない。
だが、それにも限界は来た。
「まあ、それでちょっとした事件もあって、『こんな所に居られるか!俺は家から逃げる!』ってなって、逃げてきたのさ。
……だから、俺の戦闘能力って、殆ど実家で鍛えたものなんだよね」
はぁ、と溜息をつく。
軽いポーズのつもりで居たが、意外と重い物が出た。
それだけ、やっぱ気にしてるんだろうなあと思うが、今更口を噤む訳にも行かない。
「だから、さ。敗けるとどうしても思ってしまうんだよ。
俺は結局、どんなに頑張っても"ローベルク家の英雄"の劣化でしかないんじゃないか、とか。
あのまま耐えていたら、今よりずっと強くて、皆に誇れる様な英雄になれたんじゃないかなって、さ」
勿論、それはただの未練だと、断ち切れない程子供ではない。
ただ、敗けて、『弱さ』を突きつけられるとその度に揺らぐのも、また事実だった。
■ティアフェル > 甘い酸っぱいしょっぱい、身体が求める味を摂取すればそれは必要な成分であり、筋肉を鍛える場合は無茶をすると倒れてしまったり逆に筋肉を削ってしまう結果になってしまうので、お節介焼きはお腹空いてる時にやると筋肉を削って身体動かそうとしちゃうからね、と人差し指を立てて。
「うふふっ、まあそんな感じでいーですよ。気ぃ遣ってちゃしんどいっしょ。
予期していたお答えありがとう。仕事人間だよねー」
お気遣い無用、と軽く笑って見せるが、見事に予想が当たった答えにやっぱりなぁーとさらに肩を揺らして笑声を零しては、移行する話題には真面目に時折相槌を打ちつつ耳を傾けた。
「うん、わたしそういうところには疎いけど、時々噂に聞くぐらいは有名。
ローベルグ家って。大体ドラゴンとかバハムートとかそんなの討伐したって云えば名前が出て来ちゃうもんね」
自分はケルベロス退治の武勲が響き渡って来た時に認識して覚えた。ケルベロスを倒してくれるなんて英雄過ぎて。ふむ、とそのご高名に関しては存じておりますと首を縦にして。
しかし、続いた完全に拷問でしかない教育方法には、ちょっとヒき気味に表情を強張らせて、化け物を制するには化け物を作り出すっていう寸法か……と冷たい汗を滲ませ。
「虐待というか……完全に拷問漬けだよねそれ……。聞いちゃった分際でなんだけど、聞いちゃって良かったのかな……。あ、もちろん、云い触らしたりしないから。
でも、なんか、ごめんね言葉悪いけど……そういう家に生まれた割にはクレスさんって常識的な感覚の持ち主だったんだね?
だって、そんな環境で育ってたらそれに合わせておかしくなっちゃいそうだもの。
心強いね。ちゃんと自分で判断して決断して行動した訳なら」
奴隷だってもう少しマシな扱いを受けているとは思う。よくもある程度耐えてこれたなと感心する。それは、きっとその家系に生まれた者の資質か。
そして、やがては溜息を吐き出して英雄になれたのでは、と語る声に少し考えるように、相手の顔を観察するようにじいっと見つめてから、また首を傾げて見せて。
「―――クレスさんは、英雄になりたかったの?」
一言だけ、視座を据えたままに尋ねた。
愚痴、として語られた内容はそうとも思えなかったが、なんらかのジレンマを抱えて闘技場に立っている闘士の姿。英雄になり損ねたらしい人を眺めて、内情を窺うように静かな声を響かせ。
■クレス・ローベルク > 「まあ、ある程度稼げてる職業人なんて、多かれ少なかれ仕事と生活が同化しちゃうもんだと思うけどね。君が今、俺を心配してくれてるのと、同じと言えば同じだよ」
別にティアフェルが仕事のつもりで話に付き合ってると言いたい訳ではないが。
しかし、逆にこういうお節介な部分がヒーラーとして活かされたり、ヒーラーとしての仕事の内にお節介な部分が強まったりもするだろうと思う。
「あー、多分俺の親父だなあ、ソレ。
まあ、君が助かったのなら、ローベルク家をほんの少し見直してもいいかな。針の先ぐらい。
っていうか、君犬系の魔物全般が嫌いか。もしかして」
ケルベロスは流石に単体では討伐できないので、そういう意味では存在価値を認めてやってもいいかと思う。
しかし、珍しい魔物の嫌い方だなあとは思うが。
犬嫌いは割と見るが、犬の魔物嫌いとなると、中々居ない。
ともあれ、割と引かれてしまったが、とりあえず聞いてよかったのかと言うのには『今はまあ、トラウマって程でもないから。ああ、聞いたら消される系の知識って訳でもないよ。あの人ら英雄作ることしか興味ないから』と一応フォローしておき。
「まあ、あそこ出たのも割と若かったしね。
……後、教育漬けの反動でメッチャ遊んで、家出た時に盗んだ金使い果たして適応しないと餓死しそうだったのも……うん……」
遠い目で語ってしまったが、まあそれなりに大変だった。
そして、じぃっと見られると、少しばかりたじろぐ。
先程、暗い話をしてしまった所だ。もしかしたら、本格的に引かれてしまったかもしれない、と思ったが。
来たのは思っていたのとは違う、こちらを確かめるような問い。
男は、その問いに少し悩んだ後、答えると言うよりは、呟く様に言う。
「……どうかな。俺は、今の俺が好きではある。仕事への誇りもある。でも、やっぱり剣闘士は剣闘士。
挑戦者を犯し、奴隷を甚振る。そういう仕事だ」
勿論、男は対戦相手に敬意を払っているし、犯す時はそれなりに気を使っているけれど。
でも、そんなのは、犯される側からすればただの言い訳に過ぎない。
「だから、何だろうな。剣闘士ってそういう後ろ暗い面があるけど、英雄はただ純粋に"強くて正しい"から――そういうのに、劣等感を感じてしまうんだろうな」
誰にでもなくそう呟く男。
純粋さ、心の清らかさ。そして、強さ。
今の自分には、無いものばかりだ。
『まるで無い物ねだりの子供みたいだな』と自嘲を落としつつ。
■ティアフェル > 「あーね。分からないでもない……。
まあ。わたしゃ根っからのお節介なだけですけどね。お節介の餌食で職業病のクレスさん」
仕事の延長線上というか単純な性分故に勝手に人の鍛錬に茶々を入れて話を聞かせてもらっている。
なかなかに聞けない話ではあるので思わずじっくりと耳を傾けてもしまい。
「お父さんやばいねー。化け物を倒せるのは化け物を凌駕する力を持った者なんだなあとつくづく思い知ったよ。
犬系の魔物っていうか……犬が駄目。犬が怖すぎて犬の魔物がめちゃくちゃ怖い」
犬系の魔物ではなく、犬恐怖症。どんよりとした表情で唸った。
そういえばケルベロスを倒してくれた人の息子にヘルハウンドを倒してもらった。ありがたい。崇めてもいい。
結構人さまのお家の教育方針をがっつり聞いてしまった。胸に仕舞っておくべきかと思ったが、ドローを頂いたので少しほっとしながら肯いた。だからって吹聴するつもりはないけれど。
「はは、若気が至りまくっちゃったのねえ。そこまで素直にぶっちゃけなくってもいいのに。
案外嘘がつけない人なのかな」
遠目で家からお金を持ち逃げしただの餓死しそうだっただのまで語る声に小さく肩を揺らして。
じーっと見据えていたら、逆に引くようなたじろぎ方をされたが、気にせずそのままの目線で反らさず待っていると、呟くように響いた答えを耳にして小さく肯き。
「そっか、それじゃあ――クレスさんは、闘技場の英雄であればいいじゃない。
魔物を倒す英雄もいれば、政界での英雄もいるし、裏社会の英雄だっているでしょ。
民衆の正義があれば悪党には悪党の正義があって、剣闘士の正義だってあると思う」
それはアケローン闘技場の正義だってあって、その上に君臨する英雄として立ってるのではないかと。
犯して甚振ることだってそれはここのルールで正義なのだから。それは肯定されるべきことの筈だ。
劣等感を感じてしまうと云うのはもしかするとこの先もつきまとうことかも知れないが――。
「クレスさんだって充分ここの英雄だよ、胸張って身体傷めないように明日も頑張って!」
ぽん、と最後にひとつ軽く背中を叩いてそう告げようか。にこ、と笑顔を添えて。
そして、休憩にしては長すぎる休憩を取らせてしまったことに遅れて気づくと。
「――それじゃあ、お邪魔しました。まだ続けるならあんまり無茶しないでね」
お邪魔の下りで軽く頭を下げて立ち上がると、空のカップを片づけてようやく退室していった。ぱたん、と静かに締まる訓練室の扉。それで、剣闘士の訓練を邪魔する者は今日はもういない――。
ご案内:「闘技場訓練室」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「闘技場訓練室」からクレス・ローベルクさんが去りました。