2020/01/26 のログ
獣魔目録 > 魔導書である獣魔目録、それ自体に意思のようなモノはない。
だが魔力を持つ者、魔力を行使する者には反応を示す。
何故ならそれは魔導書である自分の読み手となり使役する者となる可能性が非常に高いからだ。

だから誰の手に触れる事無く開かれていた魔導書から滲み広がる魔力の量は増し、波紋の様に一定のリズムで魔力の輪を広げる、同時にそれは少女がその手に握り締める魔導士の杖にも反応し、規則性のあるリズムを伴って杖を震わせる事となる。

岩壁に生えた光苔が淡い緑色に発光し、薄っすらと湖全体を淡く照らすその空間で、その光苔とは違った淡い紫色に中央の島がボワっと輝き、この場に足を踏み入れた者を怪しく誘う。

一定のリズムを刻み波紋を広げて少女に杖に反応を示し、淡く艶やかな紫色に発光し其処へと誘う魔導書【獣魔目録】であるが、それは少女と杖以外にもう一つだけ反応を示すものが居る。

――…それは魔導書が頁を開いた際に無作為に選ばれ召喚された魔獣。

感じられぬ気配は文字通り潜んでいたため、それも少女が歩く島と対岸を繋ぐつり橋のそばの浅瀬、その白い砂の中にである。

もし勇気を持ってつり橋を進めば魔獣は諦めて再び眠りに突くが、もしも躊躇ってしまえばその魔獣は重い瞼を開いて目覚め触手を伸ばすだろう。

白い砂に潜むのはその白砂に擬態した一見して軟体生物である蛸に似た魔物であるが、その足は海蛇になっている不気味なキメラ状態の魔獣である、それは獣魔目録が放つ魔力に反応してギパッと紅色の眼を砂の中より開いて、浅瀬からジィと不安と好奇心が交じり見える少女の表情を眺めている。

そして、その魔獣に気がつかず或いは逃げるためにつり橋を渡ろうとすれば、その途中にはつり橋の真ん中にある木製の柱には酷く不釣合いな俗に魔よけと言われてるガーゴイル石像がしがみ付くように柱をあしらったデザインになっている。

進むか否かは少女の不安に好奇心が勝るか否か、である。
何物にもおびえず静かな足取りでつり橋を渡りきれば、その島には少女が望む魔草と魔力を放ち続ける魔導書が台座の上にあるのが発見できるだろう。

リィナ > 地下にもかかわらず、仄かに明るいのは、周辺に繁茂する光苔が光源となっているため。
けれども、その淡い蛍光色とは異なる色合いの輝きが広がる。
その発生源は、湖に浮かぶ島。まさに魔力が溢れているその場所で。

「危険なのは、間違いないけど……」

これだけの魔力を生み出すものが何なのか。
対岸のこの位置からでは台座がどうにか見えるだけ。
その台座にしても、高い金を払って手に入れた地図には、価値のあるものではないと書かれている。
存在するはずのないそれは、アーティファクトか、高純度の魔晶石か。
少女の専門分野からすれば、そんな想像が浮かんでくる。

どちらにしても、この場からでは窺い知ることはできない。
不安定そうなつり橋に手を掛けると、強度を確かめるように揺らしてみる。
さすがに年数を経て老朽化しているとは言え、しっかりと結ばれたそれは少女がひとり揺らしたくらいではビクともしない。
このくらいで躊躇するなら、いくら借金返済のためとはいえ、ひとりでこんな遺跡に来るはずもない。
ギシリと軋む音を響かせながらも、問題なさそうなつり橋を慎重に進んでいく。

もしも少女が冒険者だったなら、砂の中に潜んだ魔物の気配にも気づいたかもしれない。
けれども、魔法が使えるといっても、少女の本業はただの学生で。
多少の知識はあれど、魔物の相手をした経験などほぼ皆無
その気配には気づかないまま。
そして魔除けの石像にも特に警戒することなく、そのそばを通り過ぎようとして。

獣魔目録 > まるで純度の高いルビーのような魔獣の眼は白砂の中で瞬きを見せるが、少女がつり橋の方へと足を進めれば、瞬きを見せた眼は静かに閉じて白砂に紛れて見えなくなるだろう、最後にぽふりと浅瀬の砂を叩いて小さく砂煙を巻き起こして、魔獣の1匹は再び眠りへと落ちる。

ぺらり

偶然ではなく必然。
獣魔目録が開いていた魔獣の記述された頁の1枚が風もないのに揺れる、揺れて捲れて次なる頁へと移る。

そして新たに開かれた頁は【ガーゴイルの石像】と名が記された頁であった。

【ガーゴイル石像】
魔よけとして城や屋敷の門などに飾られる悪魔を模した像である、だが稀に周囲の魔力を吸い上げてか、それとも創り手の魂が宿ったか動き出す事がある。
大理石の如き肌は剥離し、中から生々しい黒色の肌が露出すると同時に背中の翼を広げて通りかかる人間を襲う姿はその石像の中から同じ姿の魔獣が生まれたように見えるだろう。
しかしそれは間違いである。
彼らは大理石や岩で出来た肌を守る鎧を自ら放棄し、獲物を襲うために機動力を得るのである。

そして襲った獲物が気に入ると、その身体を抱きかかえ、再び石化を始め、獲物の後とまた飾りへと戻るのである。

――…そういう魔獣なのだ。

特に警戒もなく傍を通り過ぎようとすれば、獣魔目録より魔力を得てガーゴイル石像の片方が眼を覚ます。
パラパラと石像の瞼の周辺から砂のような破片が落ちると、その奥で黒曜石に良く似た瞳がギョロリと動き、視線は傍を通り過ぎる少女へと向けられる。

その前を通り過ぎようとする少女に向けてガガガガガガと岩同士が擦れ削りあう音を奏でながら、ガーゴイル石像は腕を伸ばし、その鋭い爪先が目立つ指先で少女のまとう制服のマントを掴んで引きとめようとする。

(――コノ先ニ行クには、対価ヲ置イテイケ。モシ拒ムなら試練ヲ。もし置クナラ、案内シヨウ。)

そうしてそれと同時に少女の頭の中に直接声を叩き込む。
感情などまるでない、素人が台本を読見上げるような平坦な声、それはガーゴイル像の声であり獣魔目録が魔獣に刻んだのろいである――…ヒトには一度交渉をせよと。

その結果、従属するもよし、気に入らなければ喰うもよし、だが交渉なくして喰うこと許されない、と。

リィナ > つり橋の半ばほどを通り過ぎようとした、その刹那に奇妙な音が響く。
つり橋の音とは違う、岩が軋むような音。
次いで、水の中に何かが落ちる音が重なる。

「―――え?」

突如、ぐいっとマントが引っ張られた。
何かが引っかかったのか。振り返って見れば、そこには大きな鉤爪を伸ばした魔獣の姿。
先ほどまではいなかったはずのそれに、悲鳴を上げそうになる。

「……た、対価って……」

けれど、悲鳴が漏れるよりも先に、頭の中に声が響いた。
一瞬、何を言われているの分からなかったけれど。
それでも少し冷静になれば、そういう防衛機能のひとつなのだろうと想像がつく。
ただ問題があるとすれば、差し出せる対価などがあるなら、こんなところにひとりで来たりはしないということくらい。
引き返すにしても、試練を課されるのであれば、素人の少女が逃げ切れるはずもないだろう。
慌てたように、何か差し出せるものはないかと荷物の中を漁ってはみるけれど、結果は変わることはない。

「―――えっと、このマントを差し上げますから……ダメですか?」

杖を出しだすのは論外。となれば、他に差し出せるようなものは他に思いつかず。
恐る恐るといった様子で、留め金を外したマントを石像へと掲げて見せる。
それが対価と成り得るかは相手のみが知ることで―――

ご案内:「無名遺跡/温水湖」からリィナさんが去りました。
ご案内:「無名遺跡/温水湖」から獣魔目録さんが去りました。