2019/03/31 のログ
> 喜食館。

貧しい客には、破格の値段で心身を満たす量と滋養の食事を。
一般の客には、安い早い美味い大衆食から、奮発した贅沢なディナーまで。
富裕層客には、舌と品格に相応しい、豪勢な晩餐を。

いつでも、誰でもが楽しめるレストランとして、密やかに話題となりつつなる店を取り仕切るオーナーの青年は、
いつもの半分に満たない客入りにものんびりと構えて、
この日最後の客を見送ると、悠々と厨房に踵を返した。

「ふ~、終わった、終わった! たまにはゆったりした営業日も、悪くないもんだな。
…俺も祭りの日くらい、遊びに行こうかな。」

王国王族への帝国公主降嫁に伴い、王城では公主達を歓迎する祝宴が開かれているという。
富裕地区などでは出店も開かれているお祭り騒ぎで、その喧騒や催しは平民地区の賑わいや、
今日の客たちの色めき立った様子からも伝わってきた。

今の所、富裕地区に出見せ出張や、貴族たちのパーティにシェフとして立つつもりは無いが、
いち参加者として、祭りの賑わいのひとつとなってみるのも、面白いのかもしれない。

明日のためにとろとろに煮込まねばならない、牛すじのシチューが蕩けるまでを見守りながら、
緩やかな深夜の時間を過ごす。

うっかり、店の看板を「本日営業終了」にするのを忘れたまま。

> 鍋に蓋を落とし、ほんの少しだけずらして、
圧力や臭みを含んだ蒸気を飛ばす。

火力を弱火にして、ここから数時間ごとにかき混ぜ、水分を継ぎ足ししていく工程に入る。

ほぼ丸一日煮込み続けたというと大げさに聞こえるが、
火力に気をつけて、青年の聴覚や嗅覚で鍋の状態を把握できるのなら、
片手間に新聞に目を通したり、うとうとと仮眠を取ることも可能。

この日のオーナーは、軽い寝酒に港町から取り寄せた、
ほとんどアルコールの含まれない子供でも飲めそうな、
りんごの微発泡酒を嗜んでいた。

「…強すぎないのも、いいもんだ。」

強烈な酒よりも、もしかすると安らぎで眠ってしまうかもしれないほど優しい口当たりに、
穏やかに目を細めて。

> 「~~~~っ、 っは、 ねんむ。」

くぁ、と、穏やかな時間を象徴するような、間の抜けたあくび。
薪にくべる火を調整して、明け方にもうひと工夫すれば、
貴族階級にお出ししても何ら問題のないスープが出来上がる。

牛のすじ肉等は、本来は上層の人々が口にすることがない部位の庶民の味だが、
すくなくとも、喜食館と知ってそれを味わおうとする、奇特かつ話の合いそうな誰かのために、丁寧に仕込む。

あとはもう、一眠りしてしまっても、余熱がすべてを終わらせてくれるまで。

ご案内:「夜のレストラン」からさんが去りました。
ご案内:「トゥルネソル商会 王都・マグメール店」にリスさんが現れました。
リス > マグメールの、富裕地区と、平民地区の中間にある4階建てのレンガ造りの商店。
 トゥルネソル商会。
 そこの店長をしている少女は、今宵も、商店の中でお客様の対応をしていた。
 が、ある程度捌けてきたところで、少女は事務室へと移動するのだった。
 そして、最近賑やかになっている状況――――掲示板にあった張り出しの張り紙を思い出す。

「―――何はともあれ、まずはシェンヤン方面の品物の確保、ね。」

 シェンヤンの人間がこちらに来るとするなら、商売人なら誰でも考えるだろう。
 既に、そのために動き出しているし、店の一角をシェンヤンの品物で埋めている。
 需要が見込まれるなら、供給するだけである。
 少女は、この状況でどれだけ稼ぐことが出来るのか、それを考える。

リス > とは、いえども……シェンヤン自体にコネがある訳ではない。
 そういう意味では、特上のものを手に入れることは難しいだろうが、少女は慌てることはなかった。
 別に、特上のものである必要はなくて、シェンヤンのものでも一般的に普及している物を中心にするつもりであった。
 理由は普及しているものの方が需要が多いからであり、普及しているものは手に入りやすいから、である。

「……シェンヤンの方にも手を伸ばすのかしらね、パパは。」

 そういった話は聞いていない、ただ、商会の動きとしては、先を見越すならそれもありだとは思うのであろう。
 文化が違いすぎる異国であること、国同士で戦争状態であることを考えて、今はもう少し様子見をするのであろうか。
 今は、向こうの偉い人がこちらの偉い人と結婚するために来ているし、そのために向こうの人が増えてくるだろう。
 食事とか、日用品……そういったものを求めやすくするのが商売人としての役割。
 さあ、頑張りますか、と少女は書類に向き直るのだ。

リス > まずは、情報である。
 シェンヤンではどういったものが日常的に使われているのか、日常的に食べられているのか。
 食料とかは大きいだろう、異国で自国の食料ほど安心するものはないのだから。
 料理とかは――――まあ、料理人に任せるが、お菓子とか食材とかは準備が出来るはずだ。
 その辺を調べて用意をしておこう、少女はそんなふうに思った。

「知り合いに、そっちの方の出身の人とか、詳しい人がいればなぁ……。」

 うーん、少女は軽く唸る。
 考えてみるものの、自分は別に外に出るようなタイプでもない。
 ほかの国の知り合いがいないのは痛いわぁ、と、軽く苦笑をこぼす。
 今からでも……遅いかしらと。