2019/01/11 のログ
ご案内:「王都マグ・メール/平民地区/武具屋」に幻鏡の迷宮さんが現れました。
■幻鏡の迷宮 > 王都マグメール、比較的裕福でもないが貧民地区に堕ちる程お金にも困っていない、極普通の人々が生活する平民地区に1軒の武具屋がある。
其処は他店と比べて値段は安いが比較的性能が良いと言う事で、冒険者以外にも日常生活で色々とすり減らす事が多い一般の人間までもが買いに来る中々の評判店なのだが、今夜は少しばかり様子が違っていた。
実際にそのお店に入ると普段と同じ様にぼちぼちと買い物客がして、各々が欲しい商品や買う予定の商品を抱えて買い物を楽しんでいる極普通の光景のはずなのだが、目聡い人間が若しくは冒険者であれば気がつく点が有るだろう。
その異変とはお店の奥。
お店の外からは見づらい配置になっている試着室、その試着室の真ん中の部屋だけが誰も利用しようとしないのだ。
他は時々並ぶ人が出るくらいなのに、何故かその真ん中の一部屋だけが誰もが存在しているのに認識出来ていない、だから常に空室であり、扉が少しだけ開いていて、妙な不自然さがある。
その試着室は当たり前だが入れば無論無人であり、試着した装備や衣服を着た姿を見やすい様に設置されている大鏡にも利用者の姿しか映らない。
後は腰の高さくらいに棚があって、手荷物や試したい防具などが置けるようになって、出入り口の扉は利用者が簡単な鍵をかけられるようになっている。
誰が見ても極普通の試着室。
利用者がいないだけの狭い個室。
だが今夜は其処に違和感の元が存在している。
『彷徨いの呼鈴』
そう呼ばれる燻し銀に似た輝きのない銀色の呼鈴が、誰かの忘れ物か悪戯か、静かにでもないが棚に鎮座している。
誰が触れたわけでもないのに、時々微細ながら震動し
「キ………キ…………。」
と油の切れた歯車が軋む様な不協和音を奏で、誰かが試着室に入り込んでくるのを待ちわびているようでもあった。
■幻鏡の迷宮 > 最低限試着だけ出来ればいい、と言うコンセプトの元に創られて並ぶ試着室は長居がしたくなるようなデザインではないが、流石客足が絶えないお店だけ合って、標準的な成人の腰程度の高さの棚には良く見れば水差しが有り、其処には一切れの果実が沈んでいる。
着衣と言えど何度もくり返せば疲れるか、のどが渇くだろうというお店の配慮なのか、薄っすらと表面に水滴が浮かぶほどに冷やしてある硝子の水差しに浮かぶ果実は鮮やかな彩を見せ、同様に購入を決定した際の支払いやサイズを整える為に店員を呼ぶための呼鈴もまたガラス製で涼やかである。
でも今宵はその呼鈴が二つ、片や涼しげな硝子製、もう片方は燻した銀色の様に輝きは無いが艶やかな色合いをしていて、呼鈴が二つある事自体が不自然ではあるが、鈍い銀色の呼鈴『彷徨いの呼鈴』はガラス製の呼鈴にこそ違和感を与え、手に取り鳴らせと、手に取らなくてもいいから触れるのだと、試着室に入り込んだ客を不可思議な好奇心を煽るような力を滲ませて誘い、その燻した銀色の表面からはじんわりと魔力に良く似た力を薄煙の如く漂わせ始めるのだった。