2018/07/10 のログ
■ルシアン > 「そう、それ。一宿一飯の恩、って奴。まあ、それにしては長居してるけどね。
タダ飯食べさせてもらう訳にも行かないから、こういう雑用なんかもしてるって事さ」
そっと少女の頭を撫でてみた。拒絶されないのだから、軽く触れるような、子供をあやすような手で。
少しだけフードからはみ出る銀の色の髪。それだけでない、恐らくは獣の耳の感触。
とは言え、もうそれに驚くことも無いのだけども。
「確かにそうだね。…僕もその辺、勉強が足りない。知らない事ばかりだ。
救い、なんて言葉を吐く人はそこらに山ほどいる。だけど具体的には何?とか、それはいつ?と聞くと、誰も答えてはくれない。
…結局、それが何なのかを知ってるのは…それを与えてくれるって言う、神様だけなのかもしれないね」
は、と小さくため息を一つ。「この国の神様と違って」…客観的に見て、そう言われるのもやむ無しだろう。
異邦人である身から見てもそうなのだ。当事者、それも迫害される側から見れば、何をかいわんやという話であろう。
「……それが正直な気持ちだと思うよ。すごく意地悪な事を言ったと思う。悪かった。
心の拠り所の神様と、自分の心そのものを天秤にかけるなんて、絶対にやっちゃいけない事だ。
だけどそういうのがぶつかる事もあるんだと思う。それには、自分で考えて折り合いをつけていかなきゃいけない・・そんな事は、時々思うよ」
今にも、泣き出してしまいそうな。そんな幼い子供のような気配。
ぽん、ともう一度だけ少女の頭に触れてみて。自身もそこから立ち上がる。
「だから…そうだね。とりあえず、これならどう?
君はもう、誰かから食べ物を奪ったりしない。お腹がすいたらウチの孤児院においで。その日のごはんくらいは用意できる。
代わりに、その分をその時々の仕事で返す。うちの院はどこの神様の下にあるわけでもない。純粋に、食事の礼って事になる。
どう、かな?」
提案を、一つ。繋ぎとめるのではなく、最後のセーフティのような事。
…半分は、この少女をこのままにしておけない。そんな青年自身の気持ちから出た言葉なのだけど。
「僕はルシアン…ルシアン・エヴァリーフ。君の名前、聞いても良い?」
■ツァナ > 「そりゃ、返して、また貰って、また返して、繰り返してたら。
ずっと続いちゃう。…それは、それで。良いと思う、ケド。」
そういった形で出来上がっていく繋がりも有るだろう。穏やかな繋がり。
羨ましいか、と問われれば。きっと…肯定はしないが、否定も出来なかった筈。
誰かに頭を撫でて貰える、その心地良さを。此方から断ち切る野は、少しだけ惜しかったものの。
それでも、立ち上がる事は。…此処で止まってしまう事は。自分で、自分に赦さなかった。
「多分、誰にも、解らないから。神のみぞ知るって奴、だから。
…その時が来るまでは、頑張りなさい、みたいな。…そうだね。最期の、時が来る、までは。」
実際。少女等の…彼女等の教義の中では。この国の神によって、彼女等の神は囚われ、侵され、堕とされている。
そんな相手からの篤信を、素直に受け止める事が出来無いのは、しかたない。
けれど、逆にこの国の人達からすれば。自分達の主神こそが正しい、という事になる筈で。
結局。信じる物も、信じ方も、人それぞれだ。だから、男に反論こそしたものの。言下に否定する、とまではいかずに。
「……思ってる、なら、言わないで。意地悪。
だけど。…悪い事を、悪い事って。ちゃんと、言える人は。
そういう人は、間違ってない。……それは、解ってる、から。」
けれど。間違っているから、やめる。そんな単純にはいかない。
ヒトがそんなにシンプルなら。罪は犯されない。戦も起きない。格差も貧富も生まれない。
男が立ち上がれば。最後にもう一度触れられた頭を、ゆるゆると振ってから。
告げられた提案を意識の中で咀嚼するように。何度か頷き、顔を上げ。
「――毎回、とは、言わない。
…気が向いたら、ね。もしかしたら、行く、かも。
………私も。みんなが居た、時は、やってたから。裁縫とか、子供のお世話とか、出来るよ。」
先程は、答えなかったが。何を出来るか、手伝えるか。自分なりに考えて。
ぼそりと低く小さな声で答えれば。そっと、路地の暗がりへと身を退き始め。
するりと呑み込まれてしまう……間際。
「――――ツァナ。私の、名前。」
(最後に、それだけ。)
■ルシアン > 「うん、それでいいよ。…町はずれにある院だから。僕の名前を出せば、通じる。
来てくれるのを楽しみにしてる。うちの子たちも…きっと、喜ぶ」
彼女の今の姿は、自分もどこかで歩く道を違えていたらきっと同じだったのだ。
自分の言っている事も、きれいごとが多分に含まれているのは承知の上。
だけど…それでも、少しでも。少女の気持ちが動いたなら、それが何処か嬉しくて。
「…っ! ツァナ、だね。…これはおまけ!」
路地裏へと消えていく身のこなし。やはり、只者ではないとみて撮れるのだけど。
その姿が消える前に、荷物の紙袋からもう一つ、真っ赤な林檎を取り出して其方へと。
…それを包んだ紙が、青年の世話になっている孤児院の地図だと気が付いてくれるだろうか?子供に持たせる、迷子用の地図の予備でとっさに包んで放り投げる。
「…それじゃあ…また、ね?」
少女が消えていく影へ、小さく手を振って。その気配が消えていくまで、其方を見ているだろうか。
■ツァナ > 「ホントにね。ホントに、気が、向いたら。
そんなに…何もかも、全部は、預けられないし――あんまり、巻き込みたく、」
(ない。と最後までは言い切らなかったものの。多分言いたい事は伝わった筈。
この人達のような。男と関わる子供達のような。そんな優しい、そして無関係のヒトまでは。
傷付けたい訳ではないのだから。)
「っと、ぁ。わ、う……わ。」
(今にも消えようとした影が。少しだけ、わたついた動きを見せて。
最後に飛来した紙包みを、何とか上手い事受け止めた、らしい。
それに対する返答自体は、返す事なく。何時しかすっかり更けてしまった、夜闇に紛れていくものの。
きっと、約束は守られるだろう。
…貴族等を狙った不穏な事件その物がなくなる事はない。
それでも後日言葉通り。時々だが、少女の姿が孤児院の辺りで、見掛けられるようになる筈で。)
■ルシアン > 林檎が返ってこなかったところを見れば、きっと少女が受け取ってくれたのだろうと。
――青年自身が思い浮かべるそれより、遥かに複雑な所に立っているであろう少女。
それでも、折角の出会い。それこそ、何かの導きなのだろう…などと考えつつ。
後に少女と再会したなら、それはとても喜ぶはずで。
子供たちとも顔を合わせる、そんなときが楽しみだ…などと思いながら、
重い荷物を抱えてその場を後にして行った。
ご案内:「富裕地区 路地裏」からルシアンさんが去りました。
ご案内:「富裕地区 路地裏」からツァナさんが去りました。