2018/07/05 のログ
ご案内:「ドラゴンフィート 組合施設・執務室」にレナーテさんが現れました。
レナーテ > 地獄。
室内にいる少女達は梅雨空よりも鬱蒼とした表情を浮かべて、机に伏している。
先日のタナール砦での戦いで、組合での雇用を500人追加する契約を勝ち得た組合長により、仕事は爆発的に増えた。
この500人も、基本的にミレー族から引っ張ってくるという想定で告げているため、すんなり降りたところもいい。
奴隷としている種族が戦線で死ぬのと、同族が死ぬのではわけが違う。
尤も、こちらとしては一兵たりとも死なせず戦うつもりでなければ危ういところでもあるわけだが。
そうともなれば、順調に進めていた新装備の量産と輸送も急がれ、人事事務の上にそれが上乗せ。
呼びかけで集まれば御の字だが、足りなければ色々とあるきまわって掻き集める必要が出てくる。
タナールへ出立させる人員は、ティルヒア支部から一時的に呼び寄せて追加するが、その合間にも新人訓練は必須。
割り振り、スケジュール等など、細かい雑務が目白押しに執務室に放り込まれたわけである。
その結果、普段なら悲鳴も上げずスラスラと事務仕事を熟す内勤の少女達が、疲労で目を回して潰れているわけだ。

「…おつかれ……様、です。後は装備の手配等になるので、私がやれるだけやっておきます……明日もありますから、皆は休んでください」

書類の束を手にしながら机の前に座り、苦笑いで彼女達へ呼びかける。
そうすると言いたげに手だけ掲げて振るものもいれば、その余力すらなく、尻尾で返事する娘もいた。
体を引きずるようにしながら、彼女達が各々の部屋へ戻っていくのを見送ると、扉が閉ざされたのを見てから、やっと溜息の一つも吐ける。
組合長の秘書…というよりは、最早代理に近い為、あまり皆の前で疲れたなどと宣えない。
ゆっくりと立ち上がると、茶器の収まった棚の方へと向かい、ティーポットとカップを準備していく。
お気に入りのカシスティーの茶葉をポットの中へ散らすと、火の魔石で暖められたケトルから、適温のお湯をゆっくりと注ぐ。
広がる甘い香りに嬉しそうに目を細めながら蓋を閉じれば、机へと戻っていき、再び書類へ目を通していく。

レナーテ > ティルヒアにある造兵廠から送られてくるのは、盾と新型の魔法機剣である。
この2つは今後の戦闘形態を変えるのに必須といわれ、作られたものだ。
その中でも盾は、自分達も今後使うことになるため、前々から取説と試作品による訓練も執り行われている。
盾はバックラー程の小型シールドであり、その内側に魔法銃と同じ機構を組み込んである。
魔力盾を発生させる術式構築と、申し訳程度に魔法弾を発射できる機能。
そして盾の性能を一時的に強化する増幅弾を使用する機構。
実際、書類を目にする自身も訝しげに眉を顰めて、その装備の必要性に疑問を抱く。
そもそも、機動力と火力を主体としているのに、なんで今さら防御を強化するのかと。
一旦書類から目を離すとティーセットの方へと戻り、カップに紅茶を注いでいく。
先程よりもはっきりと届くカシスとアッサムの香りが疲れを癒やす中、ティーソーサーに乗せたそれを手に、机へと戻っていく。
息を吹きかけ、冷ましながら少しずつ楽しみながら書類をめくれば、何故盾が必要かが見えてくる。
そして、新しい剣の理由もそこに加われば、嗚呼といった様子で納得していった。

「最近、あの二人が妙に話し合ってたのはそういうことですか……」

ティルヒアから組合長の義妹とともに拾われた軍師。
戦争を始める前から無謀だからやめろと進言して、更迭された事で魔法銃とこちらと関わる様になった男だ。
それが組合長と最近、よく部屋に籠もって話し合っているのを見かけていたが、記載内容と重ねれば納得の結果である。
剣のページは飛ばし、最後についていたページへ。
戦闘形態がどう変わっていくのかがそこに記されており、ついては必要な作業がまとめられて行く。
最初こそ理解に至った様子だけだったが、必要となるさ行に徐々に表情が引きつっていき、最後は盛大に溜息を零しながらカップを置いた。

「……何でこうも、ギリギリ出来るところで命令出すんでしょうねあの人は…」

無理かと言われれば答えづらく、出来るかと言えば恐らくといった様相。
そんな絶妙なラインで多量の仕事を振られ、疲れが肩にのしかかっていく。
今日帰ったあの子達には、もう少し黙っておこうかなんて思いながら書類を机に軽く放った。