2018/03/29 のログ
ご案内:「どこかの軒下」にルシアンさんが現れました。
ルシアン > そんな女性の雨宿りをする軒先へ、歩み寄ってきた姿が一つ。
マントについたフードを目深にかぶり、その顔の辺りはすっかり影で隠れて見えないかもしれない。
雨をぱたぱたとマントが弾きつつ、その横を通り過ぎようと――したところで足が止まって。
女性の元へ、ゆっくりと足を進めて

「―――エディス、さん?」

少し驚いた、というような調子の声は若い男性の物。
彼女が聞き覚えがあるかは――怪しい所。何せ、一度話を交わしただけなのだし。
それでも、その青年には、嬉しい事であったようで。驚かせないよう、少し離れたところで足を止め。

「やっぱり、エディスさんだ。…おひさしぶり、です。どうしたんです?こんなところで」

フードを後ろに卸す。顔が相手に見えれば、分かってくれるかもしれないが…一度限りのお客の顔を覚えてくれていたかどうか。

エディス > 軒下から手を翳してみると、掌に叩く雨音は激しい。
そうして濡れた手をひとつ払い、腕を持ち上げた時には、濡れた手は乾いていた。
――――自分の躰なら、こうして水分を飛ばす事が出来る。
けれど衣服に染み付いた水気までは、払うことが出来ない。
人魚としての利便性など、陸の上では皆無なのだ、とまた一つ、物憂げに溜息を吐いたところで―――、

「……………、………、…………… ぇ…?――――― 、ぁ……。」

突然に声を掛けられて、反応が遅れた女はゆるりと貌を上げ。
目深に被られたフードで貌が見えなかったから、最初、誰だか分からなくて、緩やかに小首を傾げたのだけれど。
己の名を知っている事。フードが取り払われた事で、露わになったその相貌、に。
一度限りのあの邂逅を、何故だかぽんと思い出す事が出来た。

「……………………………… ま、ぁ―――― あの時 、の………… お客様。
 ――――… ぇえ 、と……、…… 突然、雨に…… 降られました 、ので……
 ……… 少々……、 …… 此処で、雨宿り… 、を………。」

ともすれば、雨音でかき消されてしまえそうな程の声量ではあったけれど。
どことなく申し訳無さそうに、微苦笑してそう答え。

ルシアン > 勢いで声をかけてしまったものの、歌姫の方も覚えてくれていたらしい事に一安心。
雨に濡れてしまったらしいその容姿に、少し考えながらも歌姫さんと同じ軒下へとお邪魔をして。
自分のマントの水気も軽く払いながら、少し困ったような笑顔で言葉にうなずいた。

「急に降ってきたからね。まあ、もう雪でないのは良いのか悪いのか……ええ、と」

自身のマントの中の背負い袋。その中を何事か探っていたけれど、やがて目当ての物を見つけて。
それを引っ張り出しつつ、軽くパタパタと叩いてから差し出してみる。

「これ。良ければ使ってほしい。雨に濡れたままで風邪でも引いたら大変。特に、歌唄いなら…ね?」

差し出したのは、白いタオル。多少使い古された雰囲気だけれど、洗い立てでさっぱりと乾いているもの。
遠慮がちな歌姫さんの事だから、遠慮されてしまうだろうか?なんてことも考えてしまうのだけど。

「またエディスさんの歌を聞いてみたいし、そのためには喉を大事にしてもらわないとね」

なんて事も。前の一時で、すっかりこの歌姫の歌がお気に入りになっている様子。

エディス > まさか、あの夜に少しだけ話した過日を、覚えているとは―――嬉しんだのは、相手ばかりではなく。
とはいえ、まだ一度目。今日は、二度目。顔見知り、と呼ぶにはまだまだ。、客と歌姫、の間柄から抜けてはいないだろう。
そうして、軒下へと滑り込む彼が、何やら背負い袋から物を探っている様子に、不思議そうに目を瞬かせれば。
――――差し出された白いタオルに、きょとりと目を丸くするのも一瞬、えっと慌てた声が、漏れ。

「 ぃっ……… ぃぇ 、ぁ、 ぁのっ……! ―――― だ、大丈夫です、濡れたのも 、ほんの少し… ですし……、
 ―――― 申し訳 、ないので………、… 寧ろ、ご自身でお使いになった …方が ――――… 、 ぁの、」

女の性格上どうしても、相手の考え通りに遠慮してしまう。
次第、段々と言葉尻が小さくなっていったのは、己の体調を、歌姫としての喉を、案じてくれる彼の言葉に。
面映いような気恥ずかしいような気がして、頬の高いところがほんのりと赤らんでしまった。
受け取れないジェスチャーに、両手を軽く挙げていたものの―――もしかしたら、強引に手渡されてしまうかも、と
思い立った女は、タオルを差し出す彼の手に、己の両手を重ねんとするだけでなく。
叶う事ならそぅと身を寄せ、己より背の高い青年を見上げるようにして。

「―――― その、お気持ちだけ 、で… 十分、 です。………、…… ありがとう 、ございます…。」

囁くよな、女の声は。感謝と申し訳なさと、嬉しさと―――気恥ずかしさと。

ルシアン > 「ん…僕の方こそ平気だから。…あ、それともやっぱり抵抗あるかな…
 一応、ちゃんと洗ったばかりだし使っても無いから、汚いことも無いとは思うんだけど」

指し出したタオルだけれど、案の定断られてしまって。
とはいえ理由は何か見当はずれの方向。あまり綺麗な身なりでもない自分の持ち物、
女性が使うのも抵抗はあるだろうか、なんてことは考えた。

だけど、自身の手に触れられて、其れだけでなくそっと身を寄せられて。
自分の顔を見上げられれば、自然と目と目が合ってしまう。柔らかな紫の瞳で見つめられ、一瞬どきりとしてしまいながら。

「そ…そう?…でも、やっぱりこんなに髪も濡れちゃってるし、体だって冷えて…」

こんな間近で歌姫の顔を見たのも初めて。
柔らかそうな黄金色の髪も水気で重たげに見えるし、
身を寄せられて微かに伝わってきた気配も、すっかり冷えてしまっているような。
――半面、自身はどきどきと不意に緊張してしまって。頬が熱い。
思わず、といったように手を伸ばして…歌姫の肩口辺り、少しほつれたような髪の端に、そっと触れて。

エディス > 「――――――………… ぃぃ 、ぇ……。………、…… いいえ、そういう…… ことでは 、なく……。」

無論、彼が言うような抵抗感は微塵もない。
清潔云々を重視しているわけではない事を、せめて伝わればと―――身を乗り出すようにしたのは、そんな意図もある。
ぐっと距離が縮まれば、夜の帳のような髪と色が、露草色の目には吸い込まれそうに見え。
己にはない色に魅了されながらも、きゅ、と両手でタオルごと、彼の手を握り締めた。
大きな、男の手だ。両手で包むには女の手は、細くて小さくて、頼りなくて。

「………、…… 大丈夫……、です、ほんとうに………――――、 だって、
 貴方の方が 、つめたい―――――、 ……… 、 ぁ……――――。」

人魚だから濡れることぐらい苦ではないのです、なんて――――軽々しく言えない。
彼が気に入っているらしき女の歌も、当然と言えば当然で、“だから”と納得されるのが嫌で。
己より雨に当たっていた彼の方が冷えていると、心配そうに眉尻が下がった時、
肩口辺りの髪に触れるその仕草に、意識が逸れてしまえば。
随分と身を寄せすぎていた事にはたと気付き、慌ててぱっとその手ごと躰を離した。

「 もっ…… も、申し訳――――… っ、…… ち、近すぎ 、ました………。」

今度こそ貌を真っ赤にして、俯きながらそろそろと後退する。
あまり下がりすぎると軒下から出てしまうのだが、動揺した女は気付かない。

ルシアン > お互いに遠慮がちな性格なのか、お互いに相手を慮っての行動とは中々わかるのも難しいかもしれない。
手に触れられ、自分の年相応に大きく、ごつごつとした手でなく柔らかな手のひらが重ねられて。
つい、そっと握り返してしまいたくなるけれど…そこは何とか堪えて。

「このくらいは平気だってば。狩りで雪山に三日三晩入る事だってあるんだ。
 雨に、濡れる位は……」

狩人としての生業。それに彼自身の生来の体質も。寒さには強いのだ。
だけどそれより何よりも。
この歌姫さんを、何処か放っておけない。そんな気持ちがなぜか強く湧いてくる。
軽く首を横に振って、大丈夫と笑いかける。だけど其処で女性が何処か心配そうに見ている事に気づき。

「あ…。 え、いや、その…別に謝る事、なんて。
 そ、それにほらっ。エディスさんまた濡れちゃってる!こっち、へ…さ」

体を離されれば、一瞬名残惜しそうな顔。
すぐに頭も切り替わり、今度はまた雨に当たりそうになる歌姫さんに手を伸ばす。
反射的に、ではあるのだけど…肩口に手を伸ばし、抱き寄せる様にして軒下にまた入れてしまおうと。
自分が濡れる分には構わない。歌姫さんを雨に当てるのは駄目だろう、と思っての事。
――抱き寄せてしまってからお互いの姿勢に気付く、かもしれない。

ご案内:「どこかの軒下」からエディスさんが去りました。
ご案内:「どこかの軒下」からルシアンさんが去りました。