2017/05/12 のログ
■マティアス > 「うん、基本に忠実な回答有難う。――結論から言うと、捻りとしては今一つだ」
ぱちぱちぱち、と。乾いた拍手を響かせて、浮かべるのは目元に笑みの宿らない冷たい微笑。
けして間違いな戦術ではないのだ。基本であり、堅実であると言ってもいい。
そもそも、魔法で難しいと考える自体がまだまだ甘い。
魔法の運用でもっとも恐ろしいのは、対高位魔族等で起こり得る、折角立ち上げた大魔法を立ち消えにされることだ。
「前衛や射撃武器の使い手を能力を活かす方法論としては、間違いではないよ。
しかし、例えばこういう術を極限まで高めることが出来るとしたら、……どうかな?」
右手を前に出す。言葉を交わす相手に背を向け、掌に魔力の光を溜めては数句の呪文を紡ぎあげる。
締めの言葉と共に差し上げる右手の先の空中に生じるのは、身の丈程もある氷の槍。
ただの氷ではない。気泡等も含まず、周囲に加速度や即席の硬度上昇等もたらす呪文の円環を加えたものである。
■エアルナ > 「う、…足りないってことですね、それは。」
笑ってない。あれは絶対、笑ってない。
合格点は上げない、そういわれているに等しい。
…その理由は、眼の前で作り上げられた氷の槍。
周囲をめぐる魔力、気泡ひとつ残さず作り上げられた氷の強度は、…鋼をも砕きそうな輝き。これは、と思わず目を見張る。
「氷の魔神槍――まさか、グングニル…?!」
魔導書でも、記述でしかみたことはないが。
普段氷の術を使うのもあまり見ない青年が作り上げたそれに、息をのむ。
「それ、なら――竜の皮膚を裂くことも…?!」
■マティアス > 「そりゃあそうだとも、エアルナ。
歯が立たない――打つ手がないと決めてかかってるじゃないか。それじゃあ、駄目だ」
守りが固いなら、別の弱いところを打つのは基本である。しかし、遠回りするよりも強行突破する手立てもありうるのだ。
水は揺蕩うものであり、揮発して大気中に満ちるものである。そして冷えて固まり、硝子のような氷にも成る。
そう、氷を礫や槍として投じる術もあるのだ。頑強なる守りをまさに打ち抜く手立てにもなるのである。
「そんな大それたものじゃないけどね。
大規模にして精妙な術を繰って魅せるのは、確かに魔法使いなら誰だって憧れるものだよ。
けど、基本的な術を窮め尽くすことだって一つのやり方でもあるんだ。……――見てみるといい」
感嘆の気配を見せる様に困ったように笑いつつ、視線を巡らそう。
見えるのは血の気配に走り寄ってくる、巨躯の猛獣。獅子の如き魔性の獣。その姿に狙いを定める。
ぴっと右手の人差し指で獲物を指し、魔力を走らせる。氷槍を軸に回る円環状に連なる魔文字が、回転速度を増す。
「翳し構えるは蒼氷の轟槍。迅雷の威と剛毅なる覇を重ねて擲たん――我が敵を討ち果たすがために!」
射出される氷槍が、風を生む。大気を破る音は遅れて鳴り響く。
着弾と同時に地が爆ぜ、砕ける氷がその場を凍てつかせて凍えるような気配を生む。赤い血霧が霧氷と変じて地に落ちる。
氷の槍に数種の強化術を重ね、高速度を以て撃ち出す。並行して幾つもの魔術を扱うセンスが問われるものが。
■エアルナ > 「…そうですね、先にあきらめる形になってました――」
言われてみればその通り、だと省みる。
そうではない、一筋に突き詰める形もまた、明らかな一手。
そして。
一本の矢は折れても、3本重ね束ねた矢は簡単には折れない。
ひとつの術式だけで通用しないなら、それを強化する術式を同時に重ねればいい。
その見本を――効果を、獅子のような魔物が受けた結果を、目の当たりにして。
「回転、加速――硬度強化、雷術、…本来の凍結。
少なくとも、5つ、ですか――」
さすがだ。これだけの術を同時に、重ねて奏でる様は…精霊の血筋ならではか、彼の研鑽と経験ならではか、そのすべてか。
今の自分では、いくつ重ねられるだろうと思えば、ぐっと杖を握り締める。
ふたつ――いや、三つまでか、いままで試したことがあるのは。
■マティアス > 「そうそう、敵の身体や足裏を凍らせて地面に接着させるのもアリだよ?
強引に突き破る方法もあれば、動きを止めさせてさっきのような弱点狙いという方法もあるね」
大事なのは想像力と手札を組み合わせ、時に高める応用力、そしてあきらめないことだ。
数種の術を同時に発動できなくとも、続けざまに術を発動させてゆく方法もあり得る。
魔法の発動自体を潰される事態でない限り、絶望には遠い。
「加速の重ね掛け、加速度に負けないだけの強度上昇、かな。
最低でも4つ同時に繰れれば、さっきと同じ位はいける。僕の真似を目指しても良いし、違う方向性に走ってみても良い。
……ただ、撃てばいいというだけじゃないことは、この前でよぉく分かったと思う」
ふう、と。そっと息を吐いて、どうかな?と言いながらくるりと向き直ろう。
状況に応じて、様々な術を繰りだすのが魔法使いの基本的なスタイルだ。
どうなりたいまでは押し付ける気はない。それぞれに合ったものを、よりよく伸ばす。それが己の欲するものだ。
■エアルナ > 「身体の大きい相手では。足元が弱い、というのはありますものね――」
いろいろ方法はあるものだ、落ち着いて考えれば。
魔法使いには、魔法使いの極め方がある。
その方法自体は、これまた個性に応じて様々な道があるわけだが…あきらめてはいけない、それが基本。
「はい。…それはこの前のことで、身に沁みました――」
ヒュドラ、竜の眷属の怪物。
眷属だろうと、竜をなめてはいけない。
ただ撃てば魔法が通じるほど、甘くはない――こちらに向き直る彼に、反省を込めて深々と頭を下げる。
青年がいなければ、あの場で襲われていたのは自分だ。
そう思えば、念を押されても仕方ない。
「基本術式の重ね掛け、は。連続重奏でもいいかもしれませんが、応用が効きますから――身に着けたいと思います。」
他にももちろん、手段はあるだろうが。
まずは基本、其れからだ。
■マティアス > 「身体の大小に関係なく、使い出はあるよ。だから心得ておくといい。
足元から忍び寄るのが真冬の冷たさの具現であり、そのものじゃないか?」
そして、可能ならば最低限の詠唱や所作で、速やかに発動できるようになれば最良だ。
最低限の労力で最大限の効果を発することこそが、至高である。そう考える。
魔力の浪費に見合った効果と成果を出せないことを、何よりも己は恥じる。
「うん、あれはまだ序の口だよ。いずれより強いものと遇うこともあるだろうからね。
少なくとも僕と同じくか、僕よりも優れた術の使い手になれる才が君にはある。
僕が君を連れて歩く時は出来る限りのことはする。 だから――。」
もっと、強くなって、追い抜いてくれたまえと。微かに口元を緩めつつ、頭を下げる姿にそう声をかけよう。
試し、目指す方向性についてはそれでいいと思う。ただ、漫然とあるだけでは成長はない。
そして、それは自分にも云える。研鑚に果てはないのだ。魔法にも。剣にも。
追い越し、追い越せるか。其れは互いにまだわからぬことではあるが。
■エアルナ > 「ええ、それは――冬の寝起きには、特に。」
足元からくる冷たさを思いだせば、よくわかる例え。
脚を取られれば動きが鈍るのも、真実のひとつ。
しっかり記憶に刻みながら、応えて。
「マティアスさん――ありがとう、ございます。
そう簡単に追いつけるとは、思ってませんけど…ちゃんと肩を並べられるように、頑張ります。」
本物の竜や、それに匹敵する魔物や魔族。
今まで遭遇しないだけで、この世界には脅威の存在がある。
いつか、そういうものと出会った時。
どれだけ強くなっているか、なれているか。
未来はまだ様々な可能性のなか、未知数だ。
けれど、追い越し、追いつき、高めあっていければいい――
果てのない、成長の彼方をめざして、ともに。
ご案内:「荒野」からエアルナさんが去りました。
ご案内:「荒野」からマティアスさんが去りました。