2017/03/19 のログ
ご案内:「王都のどこか」にアーヴァインさんが現れました。
■アーヴァイン > 蝋燭立てについた金具を、正しい順番に捻ることで、カチリと音を立てて石の壁がドアのように開く。
その奥には袋小路となった通路、王城内にある薄暗い廊下の一部から、彼がその細道に入ると、石の壁は何事もなかったように閉ざされ、壁と一体化していく。
真っ暗な通路の中で、魔力で光の礫を生み出せば、周囲を見渡す。
ほんの僅かな痕跡、そして、仲間にしか分からないように残す足跡。
光に色の付いたガラスをかざすと、変化した光が狭い空間いっぱいに広がっていく。
石の一片に書き記された古い言葉は、象形文字のようにも見え、繋がることなく撒き散らされた文字は、石の橋に着けられた傷跡から、読む順番を組み立てねばならない。
一つ一つ、明かりを当てながら読み解き、その答えを脳へ記憶していく。
変わらぬ仏頂面でその繰り返しをするわけだが、密閉された室内は徐々に酸素を失う。
早くやらねば酸欠になって意識を失い、最悪放置されて殺されるのだ。
指折り、その組み合わせと記憶を連結して整理し、答えを組み立てる。
それが終わると、行き止まりとなった部分へと進み、石を数える。
上から4つ目、そこから中央へ向かって二つ。
そこの石を押すと、中央のブロックがせり出す。
今度はそれを半回転させてから押し込むと、天井の岩が外れ、そこから引き縄が垂れ下がる。
しかし、これは罠であり、引けば毒霧を注ぎ込まれてしまう。
正しい答えは、そのまま1分待つことである。
すると、正面の壁が横へとズレていき、新たな道が開かれていく。
「……」
変わらぬむっつり顔でその奥を覗き込みながら、ガラスをしまっていく
先は暗いが、明かりを一旦消してその道を進みはじめた。
少し歩けば、螺旋階段が目の前に現れ、更にそれをいくつも下へ下へと突き進んだ。
鉄格子の扉を開き、きぃっと金属の擦れる音が響くと、赤い絨毯の引かれた一角が姿を表すのだが、一歩踏み出したところで瞳だけであたりを見渡し、両手をゆっくり頭の上へあげていった。
「……元スペクターの者だ、団長代理にアーヴァインが来たと伝えてもらえるか?」
周囲の柱の影から、ぬっと生まれ出るようにして黒尽くめの姿が幾つも姿を見せる。
魔力の光すら屈折を変えて隠匿した魔力のナイフ、それを掌に収め、何時でも投擲できるように構えていた。
不用意に踏み出せば、体中を貫かれていたかもしれない。
一人がその場を離れるも、戻ってくるまでは警戒は解かないらしい。
手のひらを頭の上に重ねるようにして載せると、そのまま10分ほど睨まれ続ける時間が過ぎた。
『確認だ、流星の瞬きを見せろ』
戻ってきた黒尽くめの一人が、問いかける。
その言葉に小さく頷くと、頭の上に載せた片手で、反対の手を指差す。
下ろすぞと告げてから、ゆっくりと指差した手を胸板に寄せていく。
魔力の糸で掌と胸板の間を繋げ、うっすらとした明かりを広げていくと、命じた黒尽くめが、周囲の仲間に武器を降ろせと掌で制した。
『本物なら代理が会うと言った、ついてこい』
魔力の光を消せば、黒尽くめに取り囲まれながら奥へと歩かされる。
その合間、本物と分かっても警戒した気配は一切緩まない。
薄暗い石に囲まれた世界を、足音もなく歩き続けた。
■アーヴァイン > 大きな両開きの扉の前へ連れてこられると、先導していた黒尽くめが、扉をノックする。
一言二言、ドアの向こうの存在と言葉をかわすと、黒尽くめが扉を開いた。
ここへ来るまでの通路や室内と打って変わり、部屋の中はランプの明かりが灯されている。
一歩踏み出そうとした瞬間、隣りにいた黒尽くめがナイフの鞘からカチリと金属の音を響かせ、彼の足を止めた。
『我々は部屋に入らない、だが、妙な真似をすれば何時でも殺す』
眉をひそめながら小さく笑うと、わかっていると告げてから改めて歩を進める。
変わらない、まったく昔のままだと思いながら室内へと入ると、扉が閉ざされていった。
ランプの明かりに揺られる人影は、明かりの前だと言うのに背景に溶け込むかのように姿がぼんやりとして見える。
彼から見る位置、そこから敢えて見づらいようにして晒し、最低限の身の保全をしていたのだろう。
『久方ぶりだな、今は組合長だとかいわれてるそうだな』
まだまだ発展途上ですがと付け加えながら肯定すれば、人影の正体がはっきりと見えてきた。
40ぐらいの男性、何処にでもいそうなありふれた顔だが、そう作り変えられた顔だというのも知っている。
男に促されるまま、向かいの席に座ると、男が更に言葉を続けた。
世間話をしに来たわけではないだろう? と。
その言葉に、うっすらと浮かんでいた笑みが消えていけば、男の瞳を覗き込む。
「団長代理…候補者はあれから見つかったか?」
その言葉に、男は頭を振った。
あの方が満足する者は現れないと、それならとマニラ封筒を手にし、テーブルの上へとすべらせるようにして差し出した。
「今、その申し出を受けたいと思う。条件付きだがな」
そのためにここに来たと、目的を伝える。
変わらぬ仏頂面で紡ぐと、男はなるほどと一度頷いて、封筒の中身を確かめていく。
■アーヴァイン > 男は書類を捲っていきながら、中身を確かめ、その度に何度か頷いていた。
10分ほど書類を読み続けたところで、なるほどと改めて呟くと、書類を封筒に収めてテーブルに置く。
厄介なのに目をつけられた結果かと呟くも、その言葉に対して彼は否定するように頭を振る。
「遅かれ早かれ、フェルザのご令嬢とは衝突していただろう。ただ、此方としては国を維持していく清流とし、光影の関係になろうと思っていたが…思っていた以上に根腐れしている。あの方が…いっていた通りだった」
まぁ、そうだろうなと言いたげに男は溜息を零しつつ、背もたれに寄りかかった。
この場所、この組織の長に近い場所に立つ男には、色んな情報が舞い込む。
貴族達が腐り始め、王族も正当な王を決めることや己の欲望にかまけてばかりだ。
一部の良心が、この国を延命させていると言っても過言ではない。
だから、彼の答えは当然の結果としか思えないのだろう。
それで、この手段に出たかと、男は呟く。
「現状、変な刺激を与えず、変わらぬまま、あそこを守るには最適の手段と言える。幸い…跡継ぎ予定はいるし、荒事の面倒を見れる弟もいてくれる」
ティルヒアで暴れたアレかと呟く男は、思案顔で顎に指を添える。
二人の合間に無言の時間が流れ、チリチリとランプの日がガラスをうならせていく。
先に口を開いたのは男だった、良いだろうと呟き、すっと後ろへと振り返る。
それでよろしいですね、そう告げた先は暗がりの一角。
そこからスッと姿を表したのは、体中に傷跡を残す細身の男だった。
一度だけであったことがあるその姿に、仏頂面が崩れ、目を見開きて驚くと、唇が痙攣するように小さく震える。
『だから言っただろうが、お前が夢物語をしたいなら俺のもとにいろと。遠回りしたが考えていたとおりだ、名も権力も好きに使え。死ぬまで忠を尽くして、夢を語っていろ。続けたいなら世継ぎぐらい、王族の女でもとっ捕まえて孕ませて作っておけ』
そういうと、傷の男は少し曲がっている中指から指輪を引き抜き、彼へ投げつける。
パシッと受け止めたそれは、カルネテル王家の紋が入った、縁者だけが持つことを許される代物である。
『さっさと引き継ぎを終わらせてこい、こいつに第零師団を引っ張らせるのも限界だったところだ。わかったな? 息子よ』
立ち上がり、ありがとうございます と、礼を告げる彼を尻目に、傷の男は消えていった。
戻れないところまできたのだ、今更奥へ進もうと恐れるものはない。
自身を差し出した代価を握りしめながら、今宵、彼はその場をさり、秘書の待つ組合の施設へと戻っていく。
何と言われるやら、相談なしに決断したことにどやされるのを目に浮かぶ中、今宵の幕を下ろす。
ご案内:「王都のどこか」からアーヴァインさんが去りました。