2017/02/26 のログ
アーヴァイン > 「それと……まだあの娘は王都に?」
『えぇ、ですが状況はお伝えしたので、明日の便でここに来る予定です』

淹れたてのコーヒーがカップの中から、心地よい香りを立ち上らせる。
何も入れずに、そのままで苦味と香りを楽しみながら窓際から離れると、いつもの椅子に腰を下ろす。

「状況的に王都にいてほしくないからな、リーゼのところに暫く厄介になってもらうか…スノウフルーフ探しに出てもらおう」

雪の妖精とも、冬の訪れを伝える妖精だとも言われる存在。
これを探すのは急ぎではないが、あの正確の娘をこの件に関わらせるほうが面倒だ。
あの令嬢とは正に真逆に位置する性格をしている、何をしですか分からない。
馬車の護衛に魔法銃士隊と剣士隊からメンバーを出させ、念のための備えをするように、命令書を書き上げれば少女へと差し出す。

『何か動かれるのですか? あちらに対して』
「何もしない、それが最大の返答だ」

相手はこちらの神経を逆撫でて、何か行動を求めさせているのだろう。
それが反撃でも、嫌がらせでも、悪態でも、何でもだ。
逆に降伏か従属なら、詫びの品なり、言葉なり送るだろう。
だから何もしない、なにもしないことが答えである。
『お前らの行動など、歯牙にも掛けぬ』、無返答は暗にそういうのだ。
その方が、向こうとしては、苛立つか、突っつきたくなる気持ちを煽られるはずと見ている。
なにせ、あれだけ権力と財力を持つのだ、無視などという見下し返した煽られ方に、慣れていないはずだろう。
そんな男の意図も、短い言葉から察するのは、少女には難しく、怪訝そうな表情をみせた。

「……思っていたより、王都の性関連の商売は寂しいようだな」

第7師団の派手な焼き討ち、あれから娼館へ行くのを恐れているのもあるらしい。
そこに合わさるように、奴隷の需要が増えたが、こちらが買い取っているのもあって、欲の捌け口が減っているのだろう。
そこのパイも奪っておきたい、以前商業区の娼館と会議をした時の記録書を引っ張り出すと、速記で纏められた義録を検める。

アーヴァイン > 清流たるドラゴンフィートと貴族には、接点がないわけではない。
意外と娼館を使いたいと思っている層はいたらしい。
それは、娼婦という下賤なものとして扱われていたものを、高品質に保ったことにある。
見た目は勿論、清潔さ、格好にサービス。
元々娼婦宿を運営する際、店舗が組合へ出費する金の大半は、疫病阻止と清潔さの維持によるものだ。
貴族を客に取れれば、収益は大きくなるが、まず貴族がここに来たがらないというのが大きい。
そのジレンマを解消する方法をあれこれと相談していたが、その一つが九頭竜山脈の温泉宿との連携だ。

「幾つか試しに開始してみようか、ここにリストアップした宿に呼びかけてくれ。念のため、ティルヒアから輸入していた霊薬の準備も頼む」

まずは王都へ小型の装甲馬車を出発させ、客を回収する。
護衛は、ランパードから精鋭であり、ミレー族以外の者を配置することで、妙なちょっかい出しを防ぎつつ、道中の安全を強調する。
客たる貴族を饗すのは、各娼館から選りすぐられた上玉の娼婦だ。
そして、九頭竜山脈の温泉宿で楽しいひと時を過ごす。
そっちには、その手の設備もあると聞いている。
場所代、移動費、娼婦の代金など金は嵩むが、ハイグレードな商品ならば貴族も手を出すだろう。
霊薬を使うのは、万が一あまりにハードなプレイで娼婦が壊された時のための保険だ。
そういうことはNGとしても、弁えない馬鹿がやらかす可能性はある。

「最近はずっと事務作業ばかりだな……たまには休暇がほしいところだ」
『ふふっ、そうですね。お客さんより、私達が温泉に行きたいですよね?』

全くだと少女の言葉に頷きながら笑う。
変わらない、変えない、それが最善手だからこそ日常を過ごすのだ。

アーヴァイン > 「さて……少し外に出てくる。届いた銃の試し撃ちがしたいと、はしゃいでいたからな」

ぐっと背伸びをしつつ、背中と肩のこりをほぐすように身体を右っヘ左へと傾ける。
その言葉に少女も納得したように頷きつつ、柔らかに笑う。
立ち上がれば、後は任せたと告げつつ軽く肩を叩き、部屋の外へ。
少し歩いた先にある組合の訓練所へと向かうと、魔法銃士隊の少女達が、新しい銃を手に試し撃ちの真っ最中である。
最近まで量産が難しかった、連発式魔法銃シモノヴァ。
リーゼを追ってきた少女を引き入れたことで、技術力が上がるとなれば、これの量産もしやすくなる。
少しずつ装備の更新をしようと試し撃ちをさせながら、改良点を探っていたのだ。
銃士隊の少女は、騎馬にまたがり、流鏑馬の如く魔法弾で的を撃ち抜きながら、コースを駆け抜けていく。
命中率は中々のもので、騎馬で駆け抜けながら8割当てれば十分だろう。

「どうだ、連発式は?」

はしゃぐ少女達へと歩み寄っていくと、勢い良くあれやこれやと感想を吐き出す。
大体は自分が使ったところの感覚を、悦びと一緒に吐き出しているものだが、まとめるならただ一言。
使いやすい、それだけだ。

アーヴァイン > 特に問題もないとなれば、後は量産を開始するだけだ。
各施設や区域に挨拶がてらの見回りに、訓練の手伝いと、時間が許す限り、集落に組合に尽くしていく。
そんな彼が眠るのは、大体秘書役に近い少女に寝ろと急かされてからなのも、多く……。

ご案内:「ドラゴンフィート・拠点内施設」からアーヴァインさんが去りました。
ご案内:「王城・会議室」にアーヴァインさんが現れました。
アーヴァイン > 思っていたとおりの展開を仕掛けてきた事で、こちらも早々に返答の一手を討つことが出来た。
それは至極簡単で単純な方法である、業務請負経費に請求された税金分をそのまま乗っけて提出したのだ。
その結果、こうして会議室に呼びされたわけだが、それすらも丁度いいとしか言いようがない。

『何故税金分をそのまま請負経費などとして請求している! そちらの集落への請求だぞ』
「お言葉だが、そもそも我々とそちらの関係をお忘れか?」

唾を飛ばす勢いでまくし立てた貴族へ、淡々と答える。
その言葉に、王国軍側の関係者はだろうなと行った表情を浮かべるばかりだ。
訳も分からぬ貴族たちは、異様に静まり返った会議室の空気に狼狽えるように、居合わせた面々の様子へ振り返る。

「ティルヒア戦争の後、我々は王国、そして王国軍と契約している。そちらと兵站、軍務について請負い、代わりに他国との業務は行わないという契約だ」

そもそも、チェーンブレイカーという名前は、過去に近い。
関係者は口を揃えて彼らをPMUと呼ぶからだ。
傭兵ではなく、民間軍事組合であり、規律を持った一つの組織として軍事業務を真っ当に行う。
故に、他の組織から仕事を請け負うことが会っても、攻撃に関する業務は請け負わないのだ。
防衛、兵站、育成など、軍務において面倒になる業務を金で引き受けているのだから。

「我々は、業務遂行において必要な資金をそちらから請求する権利がある。だが、国は金を作るのが中々面倒な組織だろう? 今までは自前で準備していた経費を補えなくなれば、そちらに請求するのは至極当然の権利だ」

契約書にもあると言葉を添えれば、軍側の関係者は頷くか沈黙するばかりだ。
彼らにとって面倒な仕事を引き受けている存在が、行動に支障をきたすのは、彼らにとってはデメリット以外の何者でもないのだ。

アーヴァイン > ティルヒア戦争、その言葉にはっとした貴族はしたり顔で更に言葉を連ねた。

『その戦争で、そちらは銃を大量に抱え込んだそうじゃないか? それについてはなんと説明する?』
「魔法銃か、そもそも火薬銃ではないし、魔導銃でもない。掻い摘んでいえば、特殊技術の魔法専門の杖だ」

どうせそれについても突っつかれる可能性ぐらいはあるだろうと、実際に使われている魔法銃の一つを包から取り出すと、テーブルの上へと置いた。
サンティエヌと呼ばれる、現行の主力魔法銃を差し出せば、触ってみろと貴族に渡す。
勿論、軍用品に詳しくない貴族は、連れてきた鍛冶屋関連の部下にそれを渡すが、暫くして部下は驚きを持って呟く。

『何だこれは…銃の形をしてはいるが、どう使うのかがさっぱりわからんぞ』
「だろうな、それゆえにティルヒアはこれの投入方法を間違えて、結果敗北した。そもそもこれは、軍用品でもないからな」

彼は更に言葉を続ける。
戦争中期、敗北を恐れたティルヒアは、最新の魔法学を取り扱う学園から、魔法銃の練達者を引き抜き、隊長格に添えて余り物の兵士と共に軍勢を作った。
だが、魔法銃を作るには専門の銃技師が必要であり、更には増幅弾と呼ばれる火力増幅の装置には鉱石も必要である。
何千、何万の兵士に行き渡らせるには無理があるのだ。
それでも2000人ほどの兵士へ配備させ、最後に残ったのは500人という僅かな数で終戦を迎える。
配備が出来ても、専門の魔法技術を会得し、コントロール力を養い、魔法のセンスを要求される。
身体と魔法と技術の集合体、それが出来てこそ、魔法銃は脅威の武器になれたのだ。
ティルヒアには、時間が圧倒的に足りなかった。

「それに、我々は第二の砦としても機能している。今はタナールで取り合い合戦しかないが、そこから進行し、あの二股道へ到達された場合……湾港と王都は分断される」

テーブルに広がった地図、そこを見れば一目瞭然だ。
ドラゴンフィートは、その交差点付近に構えることで、流通の接続点となっているが、同時に王都最終の砦とも言える場所にあるのだ。
落ちれば、あっという間に喉元に切っ先が迫る。
正にそんな守りの意味も兼任しているのだ。

アーヴァイン > 魔法銃、結局これは軍用品として扱うには工数が多い品なのだ。
仮に外部が手に入れても、量産方法、材料、教員と、必要な要素は多い。
火薬銃が脅威とされるのは、引き金を引けば、誰でも撃ち殺す事ができる手軽さと、殺傷能力の高さだ。
それは明らかに真逆の方向性に在り、運用の面倒な高性能品。
オマケに人間よりも魔力に慣れ親しんだミレー族が多いからこそ、彼らの組織では運用が可能なのだ。

『だが、それだけの性能を持っていれば王国軍と争うことぐらい』
「出来るわけがない。我々は数が足りない」

国と事を構えるなら、もっともっと数を増やさねばならない。
だが、そうすれば魔法銃を取り扱えるメリットを同時に手放すことになるのだ。
それを知っているからこそ、王国軍は何も言わないのである。
現実的に見て、反逆行為やクーデターを行うのに無理がある。
だが、その少数が防衛の要に慣れるかも、立地条件がすべて満たす。
コツコツと指差したのは砦から繋がる街道だ。

「ここらは山間にあり、それほど横幅が取れない。正面から衝突できる軍勢が制限される。つまり、数の勝負はできず、質の勝負になる」

魔法銃という高性能武器、練達に鍛え上げられた組合員。
この二つが揃うこちらにとって、砦から攻め込まれても、早々やられることはないのだ。
武器を持つ理由、強くなる理由、その全てが国のためである。
そもそも、王国の長を不意打ちで殺しても、軍団は誰一人彼らを認めないだろうし、戦国時代のような闘いが始まる可能性すらあった。
誰が得をする、誰が笑う?
植え付けられていた全てが、空回りの不安と解かれていけば、貴族たちが徐々に沈黙していく。

「ご納得いただけたか? ならば…経費を頼む。それと、近々九頭竜山脈の温泉宿で、こちらの娼館から選りすぐりの娼婦を出してのサービスを開始する。良ければ来てくれ」

確りと、新しい商売の宣伝をすることも忘れない。
貴族たちが出ていくのを見送ると、他の軍人たちと言葉をかわす。
次の新兵訓練、親衛隊の訓練、各防衛拠点への物資運搬等など、軍が請け負いたくないがやらねばならない仕事は多くある。

アーヴァイン > (「叩いても埃は出ない、金を取ろうとすれば、自身の財布から出させられる。大変だな」)

他人事のように脳裏で呟きつつ、軍人たちとの仕事の話も進める。
ただ、真面目に仕事をするだけと言えばそれまでだが、それが行える清流の存在だからこそ、彼らからも仕事が舞い込む。
そういった点では、軍部にとってのPMUとドラゴンフィートは、共存体のように密接な関係を築けている。
それの率いるのは、軍部でも重宝された存在。
信頼させるに十分な名声もあり、デモンストレーションだった戦争でも、第七師団に一矢報いて、戦績も十分。
貴族達に加担することなく、ただ黙っていたのも、そのほうが都合がいいからだろう。
ふと、一人の軍人がこんな言葉をこぼす。
税収が芳しいことを、そちらにふっかけようとしているのを耳にしたと。

「…ふむ、丁度いい。実は王都に服屋の支店を出そうと思っていたところだ。他の職種の店も出すことを考えておこう、それでそっちに税が回れば文句はないだろう」

ならば、そっちにも旨味を落としてやればいいだけだ。
基本的な製造は集落で行うが、現地で店の従業員を雇えば、仕事の供給にもなる。
後は弟に面接をさせて、良からぬことを考えるやつだけ弾けば問題ない。
弟にそんな人の目利きがあるわけではないが、嘘を見抜く力がある。
地道に一つずつ店を増やせば、清流の分流が生まれるだろう。

アーヴァイン > そもそもこの男に国を変えるきなどない。
変えようとしても変わらぬならそれでいい、ならば一抹の光を置ければ、それでいいのだ。
その光は、自身だけでは存在できず、影を必要とする。
王族、貴族、金を持ったものたちへ、高品質なものを差し出すことで作り上げられていく。
光が強まれば、影は濃くなり、光が消えれば、影は永遠にその存在を失う。
生産するが渡る光の自分達と、消費して享楽に沈む影たる彼女達。
喧嘩をするのは自身の首を絞めるのと同意だと、そろそろ気付くだろうと思いながら、会議は幕を下ろす。
それでもまだ、愚かなことを取るなら…もう一度教えるだけだろう。
まっとうな方法で。

ご案内:「王城・会議室」からアーヴァインさんが去りました。