2017/02/25 のログ
■アーヴァイン > あれから一日、拠点に戻ると目まぐるしい程に各方面へ指示を飛ばし、組織を動かしていく。
置き土産を終えたリトルバード隊と魔法銃士隊のメンバーは、カラーレスの娼館から娼婦の多くを撤収させ、残ったのは撤収時にいなかったり、残ることを望んだ娼婦と、現地の警備員たる門番など、少数。
改装中の看板をかけ、今は娼婦宿の営業をストップさせながら、もともとの目的は続けさせている。
王都から拠点へと通じる馬車の運行は継続しながらも、門でのチェックは厳重に行うように伝達し、念入りに商業区や観光区への出入りを観察させていく。
ミレー族の村への商品回収は、変わらずリトルバード隊で空いている者に任せているが、普段とは動きを変化させた。
『馬車襲撃、並びに関連施設への対処に備えたリトルバードによる緊急展開訓練』と名を打ち、凡そ馬では追いかけ様のない速度で移動させる。
監視されたとしても、遠眼鏡で方角はわかろうとも、何処に村があるかを探るには、情報不足だろう。
打てる手はどんどん打っていく、流通を続けること自体が武器なのだから、商売の手は広げていく。
最近完成した多目的船舶が3隻、これの運行もはじめ、一つはティルヒアとの間を走り、もう一つは海賊対策の警護依頼を受けて出向させる予定だ。
「……まずは順調か」
昨晩の女が仕掛けるとすれば、嫌がらせに宿に何かやるか、施設外にあるミレー族の村にちょっかいを出すぐらいか。
そんな回りくどいこともせずに、もっと直接的な手を取ることもあるかもしれないが、共倒れを強めるための、商売展開である。
書類にサインを、部屋を訪れる組合員と言葉を交わし、コーヒーをゆっくりと飲む頃にはこんな時間だ。
書類やら筆記用具やら、事務道具に埋もれ気味な机を前に、背もたれを軋ませながら座り、ゆっくりとコーヒーを楽しむ。
■アーヴァイン > 『組合長、入ってもいいですか?』
ノックの音と共に、少女の声が響く。
構わないと返事を返せば、組合の紋が入った戦闘衣に身を包んだミレー族の少女が入ってくる。
基本的に彼女は司令部所属の娘で、戦いには出ることがないのだが…何時でも行けるようにと備える姿は、結構な月日が流れても変わらなかった。
先日の買収の報告書ですと差し出された書類を受け取れば、一気に文面に目を通していきながら、書類をめくる。
『王都で10名、買い取りしました。なお、業者については、軍部に違法性についての報告済み、既に手が入り軍資金回収がてら、罰せられていますね』
「そして…内6名は戦闘職を希望、4名はストール…なのはいいが、どうして四人揃って娼婦と記載がある?」
王都に売りに出されるミレー族の奴隷を買い取り、回収するのも組織としての目的の一つでもある。
買い取った後は、各々に好きな仕事を選ばせるが、大体の少女達は農業か真っ当な接客業、興味があれば戦闘職と別れる。
最初から娼婦を望むものなど、早々いないのだが、珍しい要望に訝しげに眉をひそめて問いかけた。
理由を知っている少女は、罰が悪そうに表情を崩しつつも、しどろもどろに口を開く。
『それが……本人たちが、自身には体を開くぐらいしか能がないと聞き入れないもので、無駄飯ぐらいになるぐらいなら、娼婦になると』
それは確かに彼女もいいづらいことだろうと納得すれば、なるほどと納得したように頷きながら、すまないと呟いた。
消去法に選ぶには酷い答えであり、しばし腕を組みながら、最善策を浮かべようと思考を巡らせ、瞳を閉じる。
■アーヴァイン > 受け取った書類は、簡単に言えば10人のプロフィールのようなものだ。
希望の配属先以外にも身体や精神の状態、どの種のミレー族か分かる範囲での記載もある。
まずは戦闘職を希望した6人の書類にサインをしていく、王都から拠点への移送の際に護衛についた魔法剣士隊の姿に、相当惹かれたそうだ。
訓練はキツイだろうが、玩具にされるよりは雲泥の差があるほど希望に満ちている。
今後に期待しながらサインを終えれば、残った四人については、サインのされていないそれと共に、別の書類を添えて彼女に差し出した。
「物を数えるぐらいは出来るとある、君が4人に読み書きと簡単な勘定を教えてくれ。その後、高専門奴隷扱いで、村に配置したい。毎度隊員に金の勘定をさせるのは、結構ストレスらしい」
各村にもある程度読み書きと計算ができるものがいたりもするが、出来ないところでは商品の勘定や、代金の計算をその場で隊員がやらされることもあり、どうにかして欲しいと言われていた。
出来ることがあるなら、やすやす身体を開かなくて済むだろうと、彼女たちへの提案を告げれば、少女は不安げに書類を受け取る。
『人に教えるのは初めてですが…大丈夫でしょうか』
「誰でも初めてはある、気負わずやればいい。困ったら…ヴィク以外を頼ってくれ、アイツは頭の仕事は不向きだ」
弟以外の手も借りていいと、脳筋な弟をネタに冗談めかして告げれば、少女がクスクスと可笑しそうに笑う。
わかりましたと、頷き、書類を手に外へと出ていく彼女を見送ると、再びコーヒーのカップへ手を延ばす。
■アーヴァイン > (「こうして人が入ってくると…あの娘の抜けた穴が大きいな」)
ここに来てから、王都の闇に心を狂わせていった義妹の事を思い出す。
相変わらず山脈の山小屋に引きこもったままであり、無事を何度か確かめているが、人の世に関わるのはもう嫌だと都度聞かされている。
雑用に魔法銃の講師、こうして誰かが入ればそこそこの学があるあの娘に任せていたが、今では覚束ない他の娘達が代わる代わる請け負っていた。
失った存在に小さくため息をこぼす。
「っ……」
不意に視野が霞み、焦点が合わなくなる。
同時に胸の紋から身体が避けるような痛みが広がり、顔を顰めながら机に突っ伏す。
時折やってくる、人を超えた代価。
それに悶絶しながらも、腰のベルトに下げた小物入れから小さな瓶を取り出すと、中の錠剤を口に含み、残っていたコーヒーで流し込む。
カフェインがクスリを歪ませるかどうかは、最早どうでもいいとしか言えない。
少しずつ止まり始める痛み、今できるのは、こうした子供騙しな手当て程度だ。
■アーヴァイン > 痛みが引く頃には彼も今日は仕事を終えて、眠りに落ちるだろう…。
ご案内:「ドラゴンフィート・拠点内施設」からアーヴァインさんが去りました。
ご案内:「ドラゴンフィート・拠点内施設」にアーヴァインさんが現れました。
■アーヴァイン > 「……アイツにしては随分と成長したな」
当てつけのような組合員への仕打ち、そして夫たる弟にも見せたわけだが、自身の術で砕くような処置をしていたので、恐らく消えたの…だろうか、詳しくは分からない。
ともあれ、向こうから喧嘩を売り始めてきたことに驚きはないが、やり口に小さくため息をこぼすぐらいだ。
『組合長…?』
「…あぁ、貴族ということだったが、まるでヤリ口が地上げ屋に雇われたチンピラだ。どちらが下賤かと…呆れていただけだ」
怒りはない、呆れているだけで住んでいるこの男も感覚が狂っているのだろう。
寧ろ、怒り狂いたいはずの弟が、燃え盛る怒りを静かに心の中に収めるのを見てしまったのだ。
制御役の自分が、そこで怒る訳にはいかない。
ともあれ、事は変わらず進めるだけだ。
この土地は所謂清流、だからこそ今まで他の貴族ですら鬱陶しく思いながらも手出しができない。
突っつける埃を求めて叩いても、何も出やしない。
奴隷はまっとうな方法で買い付ける、情報は軍属要求に答えた通常業務だ。
脱走を扇動することもなければ、逃げ出した奴隷が入り込み、返却を求められれば正価価格よりも高値で買い取りを提示するぐらいである。
尤も、それでも返せと言われれば返さざるを得ないわけだが、疎まれる存在だけあって、埃の一つも許さなかった。
故に、これから彼女らが埃を探すなら、骨折り損のくたびれ儲け。
その間にこちらは、次の手を進めるだけだ。
「業務拡大はこのまま続けてくれ、方法はいつも通りだ。汚い金は一切いらない」
まっとうな商売をするものを、真っ当に扱い、真っ当に取引をして、金を巡らす。
腐った世界において、真っ当であることだけが武器になるのもおかしなことだが、それが事実だ。
ティルヒアや海運での輸入品売買も順調と報告書から確かめれば、次の課題が書かれた書類へと目を通す。
「……ふむ、紡績も形になってきたか。この間、払い下げされた奴隷を買い取ったのが功を奏したな」
娼館で針子を兼任されていたミレー族の奴隷を引き取ったのだが、粗末な扱いをされすぎて、片目が潰れてその周辺も火傷で酷いことになっていた。
治療後に、娼婦たちのドレスを修繕し続けた腕前を見て思いついたことだったが、商業区での衣類の売れ筋は好調だ。
近々、王都にも支店を出させようと書類にペンを走らせる。
針仕事は意外とどんな業種にも欲しがられるものだ、ミレー族同士に技術を伝達させ、高専門職化させれば、壊すことすら愚かとなっていく。
『組合長、そんなにいつも通りに仕事をしてていいんですか? あのフェルザ家の令嬢に目をつけられたんですよね?』
「あぁ、そうだ。それに向こうが勘違いしているだけだ」
何を?と言いたげな組合員の少女に、互いの立ち位置だと答えながら、書類を渡す。
外を見やれば、夜間も動き続ける馬車の発着場が見える。
王都に比べれば狭いが賑わいの絶えない集落を見やりつつ、サイドテーブルに置かれたサイフォンの中でコーヒーの粉を交わらせていく。