2023/07/10 のログ
■オルティニア > 実に長い旅であった。
普段通りにギルドで簡単なクエストを受けて森に入り、出会う端からモンスターをいてこまし、調子にのってずんずん進んで深部に入り込み、オーガの群に追いかけまわされ迷い込んだローバーの巣穴でしばらく苗床にされようやく抜け出したと思ったら今度は山賊共にとっ捕まって肉便器生活を余儀なくされて……我ながらよくもまぁ無事に戻れた物だと思う。
「――――ま、色々と大変だったけども、ローパーの体液の影響なのか髪色がいい感じに変化してくれたのは収穫だったわ。くふふ、これでもっと駄肉が縮んで背も伸びてあのクソ悪魔の呪いも解けばあたしも理想のエルフの仲間入りよ!」
身体にがっつり伸し掛かる疲労についつい猫背気味となる小躯の背筋をえいやと伸ばし、独り言を呟いた少女の頭部は以前までの辛気臭いブルネットではなく、綺羅びやかなブロンドを風に靡かせていた。
此度の冒険、報酬的には間違いなく赤字だが、髪色の変化はそれを補って余りある喜ばしい出来事であった。
どうせなら下の方の毛も白肌に目立たぬ金になっていてくれたなら良かったが、残念ながらそっちの方は黒のまま……。人生とはままならぬ物なのだ。
■オルティニア > 「はぁぁ……ほんっと、疲れたわ。さっさと宿とって温泉にでも浸かって休みましょーっと」
そこから更に数時間。
街門の検問もようやく終えて、久方ぶりの王都に入ったオルティニアは今一度ため息を漏らしてから馴染みの宿へと足を向けたのだった。
ご案内:「王都街門 検問所」からオルティニアさんが去りました。
ご案内:「自由騎士団屯所」にサウロさんが現れました。
■サウロ > 【待ち合わせ待機中】
ご案内:「自由騎士団屯所」にセレンルーナさんが現れました。
■サウロ > (自由騎士団が活動するにあたっての拠点、本部とも言って良い大きな建物。
その中でも救護室に隣り合ってある病室のような一室がある。
白い清潔なシーツが敷かれたベッドが四つ。
今は他の三つは空いていて、奥の方に布をかけた仕切り用の衝立に隠れて、彼女は寝かされているだろう。
窓が高い部分にしかないので侵入は難しく、扉は一つ。
部屋の外には人の気配が複数、行ったり来たり。
一夜明けて、高い窓から差し込む日差しが遮るものなく部屋を明るく照らし、眠りを妨げる。
扉が開く音がする。
静かに、中にいる人を気遣うような開け方だ。)
「……起きているかい?」
(軽く問いかけて、それから顔を覗かせる。
昨夜路地裏で負傷していた彼女を見つけて屯所まで連れ帰り、緊張状態の中意識を落とした彼女に治療を施した後、
この部屋で寝かせたのが、サウロである。
自由騎士団の医務を担当する女性に着替えや体を拭くのは任せたので、今彼女が着ているのも質素なシャツだ。)
■セレンルーナ > 気がついたときには、既に病室のベッドで寝かされていた。
抱き上げられるとほぼ同時に、不覚にも意識を失っていたらしい。
目が覚めたのは、夜中でランプの間接的な明かりがぼんやりと天井や窓の輪郭を浮かび上がらせていた。
それから何度も意識が落ちては、扉の前を通る人の気配にはっと目を覚まし、また意識が落ちるを繰り返していて…微睡むような状態だった。
何度目か意識を手放して、次に目が覚めたのは窓から差し込む日差しが、まぶた越しにも眩しく感じて、ふっと閉じていたグリーンブルーの瞳を開いていく。
眩しげにパチパチと瞬きを繰り返して、手を翳して視界に入る日差しを遮るようにしながら、首を巡らせて改めて室内を見渡していく。
どうやら、それなりに広い部屋らしく衝立の先にはベッドが他にもあるようだ。
質素さはあるが、清潔感があり病室といったところか…。
記憶に曖昧なところがあるものの、自由騎士団の駐屯所に連れて行くと助けてくれた青年――サウロが言っていた言葉は覚えていたので、自分の現在地は把握できた。
薄い掛け布団の中で、右手を動かして脇腹に触れると痛みは感じられない。
体のだるさと熱っぽさが残るものの、痺れも感じられない。
手当してもらったのか、治癒を実感していると静かに扉が開く音がした。
「……。ああ、起きているよ…。」
声を掛けられると、入ってきたのはサウロである事がわかる。
扉が開く音に微かに緊張していた体から力を抜くと、顔をのぞかせたサウロを見上げる。
「手当をしてもらったみたいで、ありがとう…。とても楽になったかな」
もぞもぞとベッドから半身を起こすと、血や汗に汚れていた服も清潔なシャツに着替えさせてくれたようだ。
手厚い看護に感謝しかない。
■サウロ > (返事が返ってくれば起きているようで、衝立の中に入れば身を起こす彼女の様子を見てほっと息を吐く。
近くの椅子を軽く引いてから、手に持っていた深めの木皿を彼女の方へと差し出そう。
中には食べやすいサイズに切られたリンゴが短い串に刺さっている。
昨夜から何も口にしていないだろうから持っていくようにと頼まれたものだ。)
「いえ、気にしないでください。
傷は塞いでいますが、流した分の血は補われていないので、栄養をとってしばらく安静にするようにと」
(椅子に腰を下ろしてからそう伝える。治癒魔術があるとは言え、何もかも完全に元通りにはならない。
傷口を塞ぎはしてあるが、傷跡は残ってしまうかもしれないし、出血した分の血は取り戻せない。
昨日の今日で、まだしばらくは彼女を追っていた者たちもしつこく捜査を続けるだろう。
その件についても、訊ねなくてはならない。)
「上に報告書を出さなくてはいけません。
貴女の事情を聞かせて貰うことになりますが、宜しいですね?」
(じっ、と彼女の翠碧の双眸を見つめて、そう問いかける。)
■セレンルーナ > 木皿を差し出されると受け取り、中を見ればカットされたりんごが入っている。
「…ありがとう。喉も乾いていたから助かるよ。…傷口を塞いでもらって、解毒してもらっただけでも充分かな。じゃなきゃ今頃神の元に召されていたかもしれないし…。」
りんごを見て、ふっと気遣いに笑みを浮かべ。
腰よりも長い髪は、寝ている時にひっかからないようにと女性医務官が編んでおいてくれたようだ。
肩から編んだ髪を前に垂らしながら、サウロの言葉に苦笑していく。
実際、血を多く失ったために顔色はいいとはいえないだろう。
浅い眠りを繰り返して疲労の残る顔で、それでも大丈夫と言おうとして。
「……あー……そうなるよね…。報告書に書かれるのは、ちょっと困るかな…。」
じっと碧の瞳が、セレンルーナの瞳を見つめてくる。
その瞳から、ちょっと視線を逸らしながら頬を掻いて歯切れ悪く言うだろう。
内偵調査は極秘というのもあるが…、そして決して自由騎士団の管理を疑うわけではないが、もし万が一報告書が流出した際に今後の内偵や監査などに影響が出る可能性がある。
その事を考えると、どうしたものかと悩むところであった。
■サウロ > 「……それを食べたら、しっかり休んでください。
神の御許に召されかねない程なら、なおさらです」
(起き上がった彼女の体調はまだ万全とは言い難いだろう。
目の下に薄っすらと隈があれば、眠りも浅かったのだろうということが伺えて、疲労している様子が伺える。
彼女が大丈夫と言い連ねようと首を横に振って、頑として頷かないだろう。)
「──何か事情があるだというのは、解ります。
ですが、何もなかったとすることは出来ませんし、改竄も許されません。
……それとも、言えないような悪い事を?」
(歯切れの悪い彼女の返答に、そう伝える。
路地裏で毒矢を刺されて、複数の傭兵たちに追手をかけられていたと思しき状態。
それで事情を聞かずに解放するわけにはいかないと、彼女もわかってくれるはずだと思う。
それに、彼女が悪いことをするような人物には思えない。
視線を軽く彼女の髪へと向けられ、何かを考え込むように軽く顎と口元に手を当てる。)
■セレンルーナ > 「あはは……。今は神のもとに召されそうなほどではないかな」
大丈夫と言ったが、彼は首を横に振って頷いてはくれなかった。
困ったなぁ…といった感じで、苦笑を漏らし。
騎士団の印章の入ったローブを女騎士に肩からかけてもらった上で、ここへと運び込まれたから追っ手に追跡対象であるセレンルーナがここにいることが露見する可能性は、恐らく低い…。
けれど、ゼロではない。その懸念ともう一つ。
逃走の段階で分かれた同僚監査官についても、心配なところである。
恐らくは上手く本部まで戻っているとは思うが、万が一の事もある。すぐにでも確認に戻りたいとこでもあった。
「……まあ、そうなんだけど…。悪い事は、していないかな。…とはいえ、こちらも守秘義務というものがあるから口にできないというか…。」
サウロの言い分は最もなので、ぐうの音もでない正論である。
しかし、自分の立場を鑑みると素直に状況説明をするわけにもいかず、難しい顔で考えていく。
上手い落としどころがないものかと、うーんと考えながらとりあえず一口りんごをかじっていく。
しゃくっと歯切れのいい音とともに、さわやかなりんごの甘味と果汁が口の中に広がっていく。
「……?…どうかしたかな?」
改めてサウロの方へと視線をむけると、サウロの視線はセレンルーナの顔から編まれた髪へと向けられていた。
考え込むように顎と口元に手を当てている様子に、首をかしげて。
■サウロ > (真面目を絵に描いたように融通の利かなさがあるのがサウロである。
彼女が何を目的として行動し、その結果追われる立場になったのか。
悪いことはしていないと言う言葉と、守秘義務となれば相応の組織に属していることが分かる。
負傷から回復しかけているので戻りたいと思う気持ちは十分に伝わるが、それでもまだ彼女を解放することは出来ないのだ。
難しい表情で考え込んでしまった彼女の反応に、サウロもまた考えを纏めるように思考することで沈黙して、伏し目がちに視線を落とす。
少しの間、しゃくしゃく、と林檎をかじる音だけが、静かな部屋にしていただろう。
彼女の風貌、色合い、雰囲気────。
引っかかることはあるのだが、それは私事であり、話題が急に変わるので、一度飲み込んで。
しばらく考え込んでいたサウロに気付いたのか、声を掛ける彼女へとまた視線を合わせて。)
「いえ……。
……そう言えば、貴女の名前をお伺いしてませんでした。差し支えなければお伺いしても?」
(彼女には名乗りはしたが、彼女の名を知らないことを今更ながら思い出して訊ねる。
一瞬、セナ、という名が過ったのは、彼女の持つ色合いがあまりにも"彼"と似通っていたからだろう。
血縁者なのかもしれないとは、うっすらと思っているけれど。
けれど別の予感もある。彼女自身が"彼"なのではないかという予感が。)