2023/05/11 のログ
ご案内:「廃教会」にラディエルさんが現れました。
ラディエル > この街で夜を過ごす時、決まって足を運ぶ場所がある。
夜を迎えてますます、熱に浮かされたような賑わいをみせる街の中心から遠く離れ、
片手に携えたカンテラの心細い灯りだけを頼りに、丈高く茂る雑草を掻き分け、
手を掛ければそろそろぼろりと崩れ落ちそうな扉を押し退けて、中へ。
見上げれば屋根はほぼ骨組みだけ、風雨に晒され続けた床は彼方此方穴だらけで、
慎重に歩かなければ、三歩と進めず嵌まり込んでしまう、そんな場所。

ギシリ、ギシリ、一歩踏み出すごとに悲鳴を上げる床に、仄暗い影を投げかけ、
奥まで進んだとしても、何か素晴らしいものがある訳でも無いけれど―――、

「………まだ、残ってたか」

辛うじて。
かつて祭壇が設えられていたと思しき場所、真紅の天鵞絨―――であったものの、残骸が、僅か。
吹き込む夜風に揺れているのを認め、薄く微笑う。
その傍へ跪き、揺れるくすんだ紅の端を摘まんで、俯く額に軽く押し当てて目を伏せる。
声を出さず紡ぐのは、忘れかけていた祈りの言葉だ。
王都の言葉でも、帝国の言葉でもない、―――何処かの。

ご案内:「廃教会」にアスリーンさんが現れました。
アスリーン > 「素敵」

古びた教会、朽ちた祭壇、廃されて久しいその場所で跪く貴方の真上から、そんな声がする。
骨組みだけの天井から差し込んでいた月明かりも、淫雑な奴隷都市の夜の灯も一瞬で消えてしまったかのように。
貴方の真上から影が落ちる。
貴方のように慎重に歩く足音はなかった。何故ならソレは空から来た。
貴方の真上から垂れるように銀糸のカーテンが降りる。ソレの長い髪は、貴方の髪と似ている。

鈴を転がしたように優しい音色、天上の音に似て耳心地のいい声音は、ソレの異能。
貴方に状態異常への抗体があるなら、特に効きはしないが。

六対の翼を広げた、貴方より大きな女の形をした天使は、貴方の発した言葉をもっと聞きたがった。

「ねえ、素敵な貴方。もっと聞かせて、その言葉を」

とても愉しそうに笑って、貴方を腕の中に捉えようとする。

ラディエル > ――――――おんなの声だ。

その『声』をそう認識するより早く、反射的に、項垂れていた頭を跳ね上げていた。
頭上から降り注ぐ、月明かりの慈愛にも似たそれは、しかし、同時に。
僧衣の奥、ぴんと張り詰めた背筋をざわつかせる、甘やかな毒のいろを孕んでいるようで。
仰のいた視界を覆う、白銀色の―――女の姿を視界にとらえた刹那、どくん、と鼓動が爆ぜるのを感じた。

「お、まえは…… 何処、から、――――――… 『何処、から』」

震え、引き攣れた喉から零れ出したのは、初めは確かに、王都の言葉であった筈。
けれど、忙しない瞬きひとつ、ふたつの間に、己の舌は、声は、女の求めに従い、
この街でも、この国でも、誰一人解する者の居ない言葉で、誰何の問いを投げていた。

『おまえは、誰だ』

『何処から、来た』

『なにを、するつもりか』

最後の問いを、紡ぎ切るより早く。
跪いたまま強張った身体が、女の腕のなかへ囚われる。

アスリーン > 声に反応して上を向いた貴方の美しい紫の瞳を、天使の蒼の双眸が覗き込む。
視線を反らさねば数秒で、聴覚を侵した声音と同じような感覚が貴方の双眸から、脳へ。
『幸福』と言う虹色の美しい毒が、貴方を見つめたまま視覚を侵し始める。
幸福とは安堵。安心。リラックス。そして高鳴りと高揚、興奮。

「ああ、素敵な声、素敵な言葉────。
『わたくしはアスリーン。貴方の名前は何というの?』
『きっと同じ場所、けれど違う場所。貴方が捧げる祈りの先と似て非なる場所』」

きっとこの場に第三者がいれば、聞き取れぬ不明の言語で語り合う異様な光景だっただろう。
最後の問いに応えるより先に、貴方の体を背後から抱きしめる。
心地よい温もりと香り、天使の掌はきっと貴方のものより大きい。
それでいて女性らしさのある細長い指先が、貴方の顎のラインから喉元を撫でていく。
顎に手を添えて、薄い唇をなぞって、指先が貴方の口の中へ入り込もうとする。

「どうしましょう……ねえ、素敵な貴方。懐かしくも愛おしい魂を持つ貴方。
 わたくし、本来はヒトに快楽(こうふく)を与えるモノだけれど……、
 わたくし、ああ、『貴方で快楽(こうふく)を見出したいわ』」

うっとりと恍惚めいた囁きを零す。
ヒトに幸福という名の快楽を与える天使は、自らの快楽を望まない。
けれどヒトでない相手ならば。
自らが欲のままに振る舞い、満たされるためだけに貪っても良いような相手であれば。
傲慢な堕天使は貴方を、快楽の贄、と捉えるかもしれない。
その証に、普段は使わない天使の股間にそびえる雄の象徴が、貴方の背に当たるだろう。

ラディエル > 視えない。

その姿はあまりにも優美で、身震いする程に完璧で、
けれどこの上もなく、いっそ禍々しく感じられるくらいに―――

ぞくん、とまた、背筋に悪寒じみた震えが走った。
蒼く澄んだ瞳を見つめ返した双眸が、じわりと潤み始める。
濡れて、翳んで、それなのに何故か女の姿だけは、ひどく鮮明に、艶めかしく映る。
どくん、どくん、乱れ打つ鼓動を鎮める術も無く、掻き抱かれた柔らかな腕の中で、
か細く、しゃくり上げるように啼きながら、一度だけ、小さく身じろいだけれども。

『あ、 ぁ、 アス、リー…ン―――――… ん、んっ、
 おれ、は、…… れの、名は、――――――― ぁ、ふ、』

こんな場面で、こんな状況で、素直に名乗るなど正気の沙汰では無いだろう。
しかも、女の長く、細く、しなやかな指先が、喘ぐ唇を割って、口腔へ分け入ろうとしているのに。
仰のいて、苦しげに喉を鳴らして、けれど、言葉にならない『声』が。
己の名を、震える舌先に載せて、女の指先へ直接伝えるだろう。

ラディエル、と、自ら捧げるように。
口にした瞬間、頭の芯がまた、甘く、あやしく痺れて、思考が途絶える。
弓形に撓らせた僧衣の背に、生々しい、雄の熱が触れる気配。
女のからだにはある筈の無い、おぞましい欲望の象徴を感じて―――けれども、己は。

『ア、ス、リーン……アスリーン、おれ、を、おれに、おまえ、の、
 ―――――… 貴方の、快楽(こうふく)の、在り処を、教え、て、くれ、
 どうか、…… あ、あ、どうか、この、穢れた、からだに、
 貴方、の、快楽(こうふく)を……… ふかく、ふ、かく、刻んで、お、しえて、

 なにも、かも、食らい、尽くし て―――――…』

一音ごとに女の指先へ舌を這わせ、粘つく蜜を絡ませながら、
紫の瞳を陶然と細めて、己は言い募る。
吐息は熱く、抱き締められた身体も、とうに熱を孕んで。
この、美しく傲慢な存在に、我が身を差し出すことこそ―――己の、幸福である、と。

アスリーン > 【移動します】
ご案内:「廃教会」からアスリーンさんが去りました。
ご案内:「廃教会」からラディエルさんが去りました。