2023/04/16 のログ
メイラ・ダンタリオ >
 雨上がりの夜
 こんな日は皆家屋引き籠るだろうか。
 空気もやや冷たく、出歩く者は少ない。
 人の眼がないからこそ、今のうちに野良犬は腐肉を漁り、浮浪者は徘徊する。
 平民地区故に見回りの兵も、賭けに負けた順か貸し借りで決めているかもしれない。


 そんな裏路地
 黒い髪から覗く肌の色や赤い瞳 唇を持ち上げれば白い歯が見える程度のシルエット。
 雨が上がったばかりの、生まなくなった曇り空では月明りも臨みにくい。
 見えるのは、点々とした扉を示す明り程度で、声すらない。
 猫や野良犬の争う喧噪程度だろう中に聞こえる、鉄の悲鳴。


   「―――。」


 三日月の笑みを浮かべ、白い歯が鋭角なジグザグを魅せる。
 抜かれたやや大振りな、反りのキツイ片刃が幾つか交差し、剣花を生みながらも
 肋骨下の肉筒が群れた場所を通り過ぎると、倒れ伏す水辺の音と共に
 またいくつかの剣花が暗がりの中で真っ黒なメイラを相手に、いくつも奔る。

 その鉄の音を聞く住民らは我関せずを決め込む。
 闇討ちか強盗紛いか 関わらない方が無難とする。
 速く鉄の音が止んでくれれば幸いだと、思う程度の中
 指より向こうの手の甲が、バカリと割れる剣筋
 近すぎる相手に大した胴の真っ直ぐな胸骨を砕く柄頭のグリップ打ち。


 終わるころには、真っ黒な地面の上 何色かもわからない水辺が混ざり合いながら
 メイラはひゅらりと風の音を乗せて、刀をゆっくり鞘の中へ納める。


   「…、…もはや誰に恨まれているのかも、わかりませんわねぇ。」


 王都内の剣撃事なんて、狙う者はどんな者かくらいわかるものの
 なんて無駄な事だろうと、鼻息も生ぬるい。
 メイラのような生き様ほど、貴族共には邪魔と感じる者が多いのだろうか。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 裏路地」からメイラ・ダンタリオさんが去りました。