2022/07/30 のログ
ご案内:「腐海沿いの翳りの森」にジギィさんが現れました。
■ジギィ > 【待合せ待機中です】
ご案内:「腐海沿いの翳りの森」に影時さんが現れました。
■影時 > いちいち見える仕草が、巷間で聞くエルフらしくないのも相手らしさ、個性という奴か。
「ったく」といった顔つきで顔を歪めてみせる己が仕草は、覆面越しでも向こうに見えたかどうか。
同族の目線で見ると褒められた様子ではないかもしれないが、己には有り難い。
旅先で色々と危うさを抱える要因というのは、願い下げだ。もっとも、この度では別の懸念事項も見え隠れしてるかもしれない。
その点だけは念頭に置きつつも、忍者として培った体捌きは淀みなく目的地へと運んでゆく。
「ああ、良く見えてるともさ。……立派な樹だなァ」
やはり陽光が良く当たりだす域というのは、木々の育成に何かと影響が大きいのは明らかだ。
地味の善し悪しをこのあたりの地勢から察し、見出すのは難しいけれども、結果押して良い環境であるのを象徴するものがある。
目的の針葉樹であると思しい樹の天辺が、さながら顔の如く抜きんでて自己主張している。
仕事でさえなければ、伐るのが惜しいくらいかもしれない。目元に手を遣り、遠く示される方角を見つめながら内心でそう思う。
「成程。植えられてたのか、種から芽吹いたのかは知らんが――他の樹たちは、別の奴かねこりゃ」
地勢を考えると、農場や植林の場としては向くかもしれない。もっとも、それは管理するものが居ての話だ。
「翳りの森」などと呼ばれるようになる前は、そういった場所だったのだろうか。
見回せば推察に足る要素は多い。歪みなく、まっすぐに生育した針葉樹が立ち並び、地面も棘が生えた蔦なども繁茂せずに歩くに困らない。
森に住まうエルフたちが天性の庭師のようなものなら、そういった整備が今もまだ生きているかのよう。
やがて、並ぶ樹たちを抜けて、目的の樹の足元辺りまで行き着けば、背に担いだ荷物を下そう。その中身の道具と品に用がある。
■ジギィ > 「んふふ」
覆面の下の表情も透けて見えるかのようににんまりとエルフは笑う。己の失態を見せつけて『してやった』ふうにするのは、ヒトとしてもすこしどうかしているがこのエルフの個性といえば個性かもしれない。
「でしょーぉ。 ちゃんとしてんだからこの辺りの子たちはー。
精霊の祝福もあるけど、あんまりお互いいじめ合ったりしないようになってるんだ。だから同じ種類が一か所に集まったりもしていないんだけど…
―――ううん?植えたんじゃないのは確かね。 動物か風か旅人か…落とした種からだと思うよ」
歩いていても解る。真っ直ぐ伸びた樹同士は絶妙な距離を保っているが、凡そ狙って出来るようには整列していない。
少し寄り添っている場所もあれば、少し離れたものもあり
そんな景色を横切って、遠目に見えていた樹の傍へと。
確かに少し開けているせいで、背の高い樹の下に居る割にスポットライトで照らされているかのように木の根元まで陽光が届いている。
辺りに落ちた枝葉から独特の香りがただよい、そのせいか妙な虫や動物が這いまわったような跡も見当たらない。
まだ斜面のままなので、荷を下ろすならすこし場所を選ばなければならないだろう。
「足元、気を付けてね。
枝葉が積もって何もないように見えるけど、下に動物が掘った穴が開いてたりすることあるんだ。
あとこの葉っぱも意外と滑りやす …っいから」
言葉の後半が詰まったのは、言いながら地面を弄っていた爪先が滑ったからである。
エルフはそのまましれっとした顔で、荷物を降ろす彼を尻目に樹に近づいて触れる。抱えるのにちょっと苦労するくらいの幹に、そのまま抱き着いてみたりしながら
「ねえー どれくらい採るの?
上の方の枝幾つ落として来る?」
まさか幹から伐採したりしないよね?と目力で訴えを。
■影時 > やれやれ、と。感じる笑い、笑みの気配に肩を竦めてみせよう。
今のところ向こうのその癖で何か困った、というコトは何もない。道中が何も会話も笑いも何もないより、ずっとイイ。
その手の可愛らしい仕草などは、無頼を自称する男などに求められては困る。
「そう言えるあたり、感嘆することばかりだ。
ヒトがやろうとすると草抜きやら間伐やら、色々と大変でな。……苗を植えたりしてなくて此れか。いよいよ凄まじいな」
なるほど、距離がある間に観察の目を向けていれば、分かる。
わざと一定になるように歩幅を整え、図っていれば感覚値の計算でも明らかだ。整然と並んでいない。
木々の感覚は絶妙な距離を置いていても、ヒトの手で植えたかのように一定間隔ではない。
まるで天の配剤かの如く。森に住まう動物もそうだが、たまたま通りがかった鳥の排泄すらも、森が敷いたルールに倣うのか?
さて、そんな計り知れない何かをつい覚えつつも、目的の樹の傍へと近づいてゆく。
さながら劇場の特等席のように、木の根元まで陽光が届いている。香しい木々の香りを覚えながら。
「あいよ。見えないところにこそ、色々あり、だ。……っと、大丈夫か?」
足裏に鉄板などを仕込んでない履物は罠を仕掛けられていた場合、踏み抜きの憂いこそあれども、大地の感触を捉えるには十分だ。
そっと落とす地面の感覚、反力を読み解き、胡乱な窪みを感じればそっと跨ぎ超えて前へ。
先導する背中が、云いつつも足を滑らせたか。大きな幹に抱き着きくように身を支える姿に声をかけつつ、適度な場所に荷物を下す。
「……材木として切り出せる分がそれだけで賄えるなら、妥協もするが、見分次第かねこりゃ。
この樹以外で伐っても差し支えない奴があるなら、教えてほしいもんだが」
依頼内容を思い返す。
請けた依頼の内容とは、高名な楽器作成者が良質かつ量のある木材を探し求めている。指定の地域に赴き、確保せよ――というもの。
間伐として伐れるものがあれば、そうすることは全く吝かではないが、この樹はどうだろうか。
己が背よりずっと高い樹を仰ぎつつ、目を細める。
大木、大樹であるならば、例えば先端、とか。十分な材木が取れる太さと長さが確保できて、目の狂いがなさそうなものであれば、あるいは、だが。
■ジギィ > つるっと滑るとその分香りが濃くなる。
ともあれ実際外の森であればこのエルフとて足元への注意を疎かにすることはない(たぶん)。気のゆるみを自覚してああ、戻ったんだなあーと人知れず感慨に浸りつつ、抱えた樹に頬を押し当てた。
「んー 多分ここが見つかったからここにした方が良いと思うんだ。
他を探すと延々に迷って結局ここに戻るか、戻れないし出れなくもなるかもしれない。
上の方ねえ…」
彼の目線を追ってエルフのどんぐりまなこも上を向いていく。樹の幹に押し当てた頬が少し痛い。
途中の枝葉で遮られて良くは見えないが、透かし見える空からすると真っ直ぐ聳えた樹は今抱えた幹の大きさを然程変えないで伸びている様だった。
もしかしたら、落雷やら強風やらで一度傷ついたものが、再び息を吹き返した類かもしれない。
「他の樹の高さより少し高い辺りくらいを保てれば問題ないかな。
正直、生きていくだけなら真ん中くらいまで耐えられると思うけど、そうすると周りと戦国時代に入ると思うんだよね。
…ちょっと登ってみる。お客さん、目方どれくらいなら満足しそうかなあ?」
言いながらエルフはもう登り始めている。
一見取り掛かりが無い場所を手先で爪先で補いながらするすると、取り敢えず最初の横木にぶら下がって小休憩。
彼の頭一つ上位に、エルフのつま先がぶらぶらと揺れている。
■影時 > 長らく人の手、エルフの手すら入っていないかもしれない有様は自然に近いというのか。
この場合の自然とは、ありのまま、という形容の方の自然だ。
管理の手を離れてもなお、往時の面影を感じさせるに十分なものが残っているのは、どれほどの影響力がエルフたちにあったのだろうか。
まるで樹に頬ずりしているような有様を見やれば、口元の覆面をずらし下ろし、息を吸う。木々の香りが確かに強い。
「じゃァ、あれか。ここらが無事に帰ってこれると保証できる限界かもしれん、といったところか。
伐り倒す前提で考えて道具を持ってきたンだが、それが困るってなら、まずは妥協点のすり合わせだ」
流石に樹の根元から振り仰ぐというのは、男が長身であっても首の可動範囲的にも無理がある。
枝ぶりのお陰で空まではしっかり見え難いが、立派と形容してもなお余りあるくらいの丈がある。登り甲斐はきっとありそうだ。
「ン、まずはその辺りが一つと。家を建てる分だけ――というのは過剰な話だからな。
あー。「う゛ぃおら」やら「ふぃどる」……だったか? このあたりの弦楽器は。
とりあえず、それが十挺と少しの分くらい仕立てられる分があれば、先方も満足するだろう。下手に大きすぎると乾燥させるのも手間が過ぎる」
この依頼の着目点は、建築目的の材木を希望ではない。もっとコンパクトだが良材が欲しい楽器などの細工用途だ。
伐採したばかりの材木はそのまま使えない。乾燥させて余計な水分を抜いてからでなければ駄目だ。
そうとなれば、エルフが云った通りの見立てで存外足りる余地はありそうである。
さて、止める間もなく登りだすさまに、取り出した斧は仕方ないとばかりに籠に戻す。仰げばぶらぶら揺れる足先が見える。
足の付け根の中身までは――流石に観ようもあるまい。どうだ?と問いつつ、向こうの見立てを待つ。
■ジギィ > 「あらやだ、カゲトキさん木こりの経験もあったの?
さすが、経験豊富ー」
改めて見遣れば連れが取り出していたのは斧。
まあ伐採するとなれば当たり前だし魔物に遭遇することも考えれば武器としてもあってしかるべき存在ではあったが、凡そここまでの行程でずっと彼がそれを背負っていたことに驚いていた。
ソッチの意味で目を丸くしつつ軽口を叩いて、必要な量の目方を聞くとぶらぶらと揺れながらひとつ、頷きを返す。
「おっけー、 そのくらいなら、途中の枝集めても足りそうだけど
太い枝があるなら幹もあるはずってなる気もするから、結局幹から切ってきた方があとくされなくて寧ろ良さそうだね」
いってくるー と軽い声とともに両足を一振り。くるんと器用に枝に取り付くと、そこが重みでしなる前に幹を伝って更に登って行った。
時間をかけるとそれだけ樹に負担がかかる。目指す方向へと真っ直ぐ駆け上がって行くと、スカーフ越しでも緑の香りが濃い。
…
………
がさがさと
登って行くざわめきが逆回しのように彼のほうへ近付いて来る。
最後にちょっと高めの所からエルフが跳躍――――いや落下?―――してきて、枝葉の積もった上にくぐもった音で降り立って―――
「ぃった!」
滑って尻もちをついた。
「……あーね。
うん、残念だけど……やっぱり、伐り倒したほうがいいかも。
…少し、枯れて来てる、このコ。使える所がどれくらいあるか解らないし…」
残しても周りに広がるかも、とまでは言わず。
エルフは尻もちをついたままの恰好で報告をして、心底残念そうに樹を見上げた。
■影時 > 「褒めても言葉と手しか出んぞ。
と、いうか。此れでも山育ちなンだよ。生活のためには色々やったし、させられたもんだ」
斧といっても戦闘用ではない。林業用の斧だ。
大樹を刀で伐り倒すというのは、できなくもないとしても加減を誤ると刀が曲がる。
曲がりそうにないものを携えているとはいえ、道具は適材適所がある。大は小を兼ねるようにはいかない。
そうとなれば、供物替わりの干し肉と酒も一緒に担いでいくのも止む無しである。
扱いは心得ている。そうでなくては、食事も何も与えられなかった。遠い目をする仕草と言葉は生活の労苦が滲む。
「枝を薄く削って継いでというのは、流石にそれなり以上に太くなけりゃあ無理もあろうよ。
分かった。気を付けて、な?」
組木細工など、木工品も色々だ。鉋で極薄に削り出したものを糊で貼り付けてどうこう、というのもある。
が、幾らなんでも楽器作りにしては、太さが足りない枝からそんな無茶な加工の機会があるかどうかだ。
軽い声とともに身を回し、幹を伝って登りゆく姿を見送ろう。
首尾は、どうだろうか。腰につけた水袋の一つを外し、吐息とともに喉を湿らせてしばし待てば――。
「!?」
遠く遠く、気づけばやがて近く、もっと近く。
枝葉のさざめきが逆流するように落ちてくる。スマートな着地と云うには、無理がある。
幸か不幸か、落ちた枝葉が積もった箇所に落ちて尻餅を突く有様に近づいては、大丈夫か、と声をかけて。
「……そうか。じゃァ、止む無しか。
大振りなものを先方に送り付けることになるが、最低限以上の仕事は果たしたと云えるだろうよ」
見えない処まで悪くなっているのだろうか。幹に近寄り、耳を付ける。微かな音のさざめきは明瞭と言えない処もある。
己以上に木々に詳しいはずのエルフの言葉、判断に頷き、斧を樹に立てかける。
そのあと、担いできた籠の中から包みを一つ、そして甕めいた形の酒瓶を取り出す。
「他所の流儀なれど――森の精霊に捧げ奉る。我が為すことを赦し給え」
神職となれば、祝詞まで捧げるだろうが、生憎と斯様な知識までは紡げるようなものはなく。
包みを樹の根本の近くに置き、酒瓶も並べ置く。
二度頭を下げ、手を打ち鳴らすこと二度。そしてもう一度頭を下げれば、改めて斧を取ろう。どこから切り出すか、樹の周囲を回って確かめて。