2022/07/06 のログ
エイプリル >  
 
「あら、オーナーが狼さんでしたら、とっても可愛らしいでしょうね」

 くす、と笑って『襲ってみます?』と本気か冗談かわからない調子で囁いて。

「ふふ――はい、任せてください」

 自分の手を握る、自分よりも少し大きな手を、そっと握り返す。
 大事なものを壊さないように、そっと――。

「大丈夫ですよ。
 もしオーナーが間違えそうになったら、きっとわたしよりも先に、オーナーが連れて来た子たちみんなが声を上げますから。
 でも、それでももし止まらないようでしたら。
 その時は力づくでも止めてあげますから、安心してくださいね」

 苦笑いする青年の背中を押すように微笑み。

「もう、ですからなにもありませんよ?
 今だって十分すぎるくらい、沢山いただいてるんですから、ね?」

 と、身を乗り出してきそうな青年に言い聞かせるように。
 

リレイ > 「くぅ…。い、いつか襲います、いつか…」

軽口は言ったが、そんないつかは余程でない限り来ないだろう
自分もそういう交わりは忌避するし、相手もそうだろうと思っている

「あはは、そーでした。なら、エイプリルさんと皆にこのお店の中のことは任せます。

……俺からすると、全然足りてない、と思うだけですよ
そう思う理由は、エイプリルさんがとっても良く働いてくださるからで…毎日毎日、いったいいつ寝てるんですか?」

肌を心配するように、手を離して…
今度は男から相手の頬へゆっくり手を伸ばして撫でようと
元気そうに見えるが、いつか倒れたりしないか、と心配そうな顔

「たまにはしっかりお休みを取って…あ、そうだ。九頭竜の温泉にでも行ってきていいんですよ?
…すっごく助かってますけどね!」

このあたりで有名な癒しといえばそこだ。
ル・リエーの水遊場も良かったが、あそこは少し騒がしそうに思う
提案をしつつ、軽食を食べ終えて…ありがとうございます、と改めてお礼を。

エイプリル >  
 
「ふふ、じゃあ――待ってますね?」

 にっこりと、それこそ楽しそうに笑って言う。
 この年上なのに、愚直で可愛らしい青年が、虚勢でもそう口にしたことが成長を期待させてくれるのだ。
 まあ――いずれ本当に襲われたとしても、エイプリルが拒む事はないだろうが。

「――え、わたしですか?
 そう、ですね――酒場を締めてから掃除とお片付けをして、夜間スタッフさんに差し入れと、宿内の巡回と、戸締りの確認と引継ぎをして――」

 と、自分のルーチンを思い出しつつ列挙していき、

「でも、ソレくらいですよ?
 あとは朝の仕込みまで暇がありますから、たまに時間の空いてるキャストの子とカードで遊んだり、本を読んだりして――うーん、一時間くらいは寝てると思いますよ?」

 伸びてくる手には、くすぐったそうにしながらもされるがまま。
 心配そうな顔にも、不思議そうな表情を浮かべるだけだ。

「温泉ですか?
 うーん、それもいいですけど――今はやっぱり、ここが楽しいですから」

 そう言いながら、大事そうにカウンターテーブルを撫でる。

 青年が軽食を食べ終えたなら、微笑んで『どういたしまして』と答えるだろう。
 

リレイ > 「……って、やっぱりそれくらいやってるよね。その、エイプリルさんが要らないってわけじゃないんだけど
俺が心配になるから、戸締りの確認と引継ぎとか、俺にできそうなところは回してよ
俺も大体、夜には帰ってきてるからさ
もー少し、俺を頼ってください」

驚きの後、苦笑いして。
男にとっては難しい経理すらも彼女はルーチンの中で行ってくれているのだ
遊んでいたり読書というのはまあ、息抜きと取れなくもないから、いいとして…

「だからその、もうちょっと寝よ?本当はめちゃくちゃ無理してるとかじゃないよね?
…お店を好いてくれるのはすっごく嬉しいけどさ、エイプリルさんが倒れたら元も子もないんだから」

相手の体の事情までは、男は今は知らない
けれど知っていたとしてもこの言葉は変わらないだろう

「…えーと、…一人で寝るのが何か理由があって寝にくい、とかなら…一緒の部屋で寝てもいいし
あ、あ、もちろん普通に寝るだけだからね!?」

たまたま出会い、たまたま求めている能力が一致して相手も乗り気だったから意気投合した…というだけだ
深く事情も聴いていないし、あまり踏み込みすぎるのも、と思って聞くつもりもあまりない
ただ、何かあるのならそれを解消してあげたいとも、また思っていて

食器を片付けに、洗い場に持っていきつつ…赤くなりながら提案しよう
そろそろ自分も眠気が来ているところだ。

エイプリル >  
 
「ええっ、十分に頼ってますよ?
 オーナーの人柄がなかったら、この宿は成り立たないんですから」

 青年の思う所と徹底的にズレているのが、残念である。
 けれど、頼りに思っている事は本心である。
 そうでなかったら、共同経営なんて申し出をする事もなかったのだ。

「――うーん?」

 青年の真剣そうな言葉に少し考えるような表情をする。

「いえ、そういう事は――もちろん、オーナーがそういうなら、ご一緒してもいいですが――」

 はて、さて。
 青年はなぜこうも神妙な様子なのだろうか。
 エイプリルにはそれがわからない。

 『怪我』をして『完治』してから。
 気分転換などでしか眠った事のないエイプリルだったが、これまで、それを誰かに指摘されずに生きてきたのだ。
 親代わりの錬金術師や、妹弟子も、エイプリルが寝ない事を当たり前のように接していたのである――認識の歪みの元凶はこいつらだったりする。
 とはいえ。
 これだけ気遣われると、流石に推測は出来る。

「――その、もしかして。
 寝ないのって、普通じゃ、ないのでしょうか――?」

 おそるおそる、と片手をあげて、あはは、と何とも言えない崩れた表情で笑った。
 

リレイ > 「もっと!
人柄は…褒めてくれるのは嬉しいけど、宿の作りぐらいなら俺も知ってるんだから戸締りは俺にだって出来るよ?
…後…いや、その、一緒に寝ることについては俺が言うんじゃなくて…」

ん?と首を傾げる
確かに何もしなくても、こんな美人が隣に寝ているという状況はとても嬉しい事で、叶うならお願いしたいがそうじゃない

薄々感じ続けて、甘え続けていただけれどやっぱり他人本位が強すぎる
食器を片付ければささ、と戻ってきてもう一度隣に座ろう

「兵士さんとかの中には寝る時間が短い人も居るけど…毎日じゃないよ…。
俺だったらとっくに倒れてるくらいだから、俺を基準にすると普通じゃない…かも」

毎日1時間睡眠、というのを想像してみる
考えただけで倒れそうだ

「えーっと、その…ほんとに平気なの?
実はエイプリルさん、魔族でしたー…とかじゃないよね…?ああいや、ごめん。
別にそういうので態度変わったりはしないけど…何か、昔にあったとか…?」

あまりにあっけらかんとしているから、その程度しか寝なくても平気というのは信じた
そして、例え魔族だったとしても何が変わるわけでもないし、心配も変わらないけれど…
彼女自身がそのことを把握してなさそうな態度が気にかかって、質問を。

エイプリル >  
 
「――えっと、生物学上は、一応人間で間違いありません。
 少々、昔した『怪我』の関係で色々ありますけども」

 そこでまた、うーん、と一つ唸って。

「みなさん、よく寝られるので、寝るのが好きなんだと思ってたのですけど。
 ――そうですね、睡眠という行為の意味を考えると、わたしが普通じゃない、という方がしっくりしますね」

 なるほど、と神妙に頷いて、真剣な表情で考えている。
 顎に手を添えて、ふむ、と一息。

「恐らくですけど、昔の怪我の後遺症、でしょうね。
 わたしの場合ですけど、寝なくても特に困らないんです。
 あ、もちろん、一睡もしない日が一週間も続くと少し疲れますけど。
 ですから、本当に無理はしてないんですよ?」

 と、自分が異常だという事を前提に置いて、自分の身に起きた事を考えて。
 『怪我』の治療が関係してるんだろう事はすぐに推測が出来た。
 恐らく、脳と体のほとんどが生身でなくなった事に関係があるんだろうとは。
 

リレイ > 「ケガって…そんな他人事みたいに。
…でも、うーん…確かに…今までもその生活だったんだったら、とっくに倒れてるしね」

この様子だと、共同経営を始めた頃からそうだったのだろうとわかる
なら、彼女の言うことも…もちろん本当なのだろう
そして後遺症というなら、自分にできることは…今は無い

「それにしても、一週間不眠で少し疲れる程度、かぁ…」

羨ましい…のだろうか
寝るというのは必要であると共に煩わしさもあるものだから
けれどその時間を使って働いてくれるというのは少し気が引けもする
ただ、働いている彼女はやはり心から楽しそうでもあり…

「わかりました。じゃあ信じて…無理してる、とはもう思わないよ。

けど、何か異常があったら言ってね、っていうのと…見回りくらいは一緒にしよう?
ほら、俺ももっとエイプリルさんのこと知りたいしさ。見回りの間ちょっとお話とかさ
それに一人より二人の方が万が一の見落としも減るでしょ?」

負担ではないと分かっていても、少しはお返ししたい
彼女は要らないというかもしれないけれど、それでも
このままでは、オーナーとして胸は張れないと、勝手に思っているから手伝いを申し出てみる

エイプリル >  
 
「あはは、他人事、ではないですけど、もう終わった事ですから。
 ――そうですよ、ほら、見ての通りピンピンしてますから、ね?」

 どうやら心配は払拭出来た――のかもしれない。
 まったく想像もしていなかった所で心配をかけていたのは、非常に申し訳ない気持ちだった。

「ええ、一緒にですか?
 うーん――オーナーにさせるような仕事じゃないのですけど――」

 とはいえ。
 この青年の事だから、どこかで譲らないと、ある日突然、突飛で強引な行動をするかもしれない。
 お人よしで思い切りが少し足りない雰囲気がある青年なのだが――思い切った時は意外ととんでもない事をするのだ。

「――わかりました。
 それじゃあ、オーナーがおやすみになる前に一緒にしましょう。
 それに、これまでゆっくりお話しする機会がなかったのもその通りですしね」

 経営を始める前も、後も。
 こうして軌道に乗るまでは、ゆっくり話をする時間なんてなかったのだ。
 口よりも手を、昨日の事より今日、今日より明日の事を考えなくてはいけない毎日だったのだから。

「というわけで――さっそく、お付き合いいただけますか?
 きっと、深夜番の子たちもオーナーが声を掛けたら喜んでくれますよ」

 と、そう言って今度はこちらから誘い。
 

リレイ > 「オーナーって言って偉ぶりたいわけじゃないしさ
友達みたいな、けど頼れる…っていうのが理想かな」

ぴんぴんしているのは、見ていてもわかる
なら、しばらくはこのままでもいいのだろう

「よし、じゃあそういうことで。
もちろん、俺も無理はしないし」

誘われれば、むん、と力を入れて
少し疲れるだけで深夜番とのコミュニケーションが取れるなら儲けものだ
眠気も色々驚いて晴れたし、問題はない

「じゃあ、よろしくおねがいします。エイプリルさん」

深夜に関しては彼女の方が先輩ともいえる
冗談めかして笑いつつ、カンテラを持って立ち上がり、元気よく闇の中へと進んでいこう――

エイプリル >  
 
「理想もいいですけど、必要な時はちゃんと威厳も持てるようになってくださいね?
 期待、してるんですから」

 気合を入れる青年にくすり、と笑って。

「はい、それじゃあ行きましょうか。
 まずは、宿の空き部屋の確認からなんですが――」

 なんて、見回りの手順や確認項目を教えながら。
 成長盛りのオーナーと、どこか常人ズレした経理雑用は、深夜の見回りへと向かうのだった――。
 
 

ご案内:「宿屋『貴婦人と一角獣』」からリレイさんが去りました。
ご案内:「宿屋『貴婦人と一角獣』」からエイプリルさんが去りました。