2021/09/12 のログ
ご案内:「九頭竜の水浴び場 マッサージ室」にエレイさんが現れました。
■エレイ > ──温泉旅籠内の、主に宿泊客向けに用意されたサービスの一つが、このマッサージ室である。
その施術室はいくつかの個室に分かれており、客は専用のカウンターで受付を済ませた後、各個室で待機しているスタッフと
一対一でマッサージを受けることになる。
なお、客にどのような施術を行うかは、スタッフの判断にすべて委ねる、というあたりはこの旅籠らしいといった所。
ついでに、各個室内には客に安心感を与え、施術への抵抗感を知らず知らずのうちに薄れさせてゆく効果を持った、
ほのかな香りのアロマが炊かれていたりもする。効果がどれほど出るかはその客次第なのだが。
「──はーいお疲れチャン。また来てくれたまへ」
そんな中の一室から、満足げに出ていく宿泊客を笑顔で見送る、スタッフ用の作務衣姿の金髪の男が一人。
今日も今日とて知り合いからの依頼で、臨時のマッサージ師として仕事に精を出しているのだった。
「ふぃー……こういう普通のマッサージも悪くはないのだが、そろそろ一発エロマッサージでもしたいところであるなぁ」
個室内に戻り、施術用のベッド脇の椅子に腰掛けながらそんな詮無い独り言を漏らす。
今日は現状、立て続けに男の『標的』にならない客の来訪が続いたため、男はごく普通のマッサージ師として
仕事をこなすばかりであった。
男としてはそれもそれでやりがいを感じなくはないのだが、やはり役得の一つぐらいは欲しいところであった。
「まああそれも時の運というヤツなのだが……──おっとと一息つく暇もなさそうだったな」
ボヤキを続けようとしたところで、閉じたばかりのカーテンが開く。
各個室は廊下に面しているため、稀に受付を経ていない誰かも紛れ込むこともあるようだが、それはさておいて。
現れたのは男の『標的』になりうる客か、それとも……。
■エレイ > ともかく、男は客を迎え入れ。カーテンは再び閉ざされて──
ご案内:「九頭竜の水浴び場 マッサージ室」からエレイさんが去りました。
ご案内:「黒い幌馬車」にダリルさんが現れました。
■ダリル > 二頭立ての幌馬車が、のどかな午後の街道を走っている。
空気はじっとりと湿っているが、馬車の幌はぴったりと閉じられ、
良く見れば結び目には錠までつけられている念の入れよう。
それは、中に詰め込まれた商品が、自らの足で外へ逃げるのを避けるためだった。
所狭しと詰め込まれた、革の首輪を嵌められた少年少女の群れ。
彼らはひと晩、奴隷市場の檻のなかで過ごし、たいていは疲労困憊として、
もう、自力で状況を打破しよう、などという気概とは無縁に見える。
ただ一人、明らかに爛々と光る眼差しで幌の開き口を睨んでいる、
シスター服姿の少年を除けば、だ。
檻のなかでは足枷が嵌められていたけれど、今、拘束と言えば、
後ろ手に打たれた縄一本なのだから、ぐっと脱走の成功確率は上がっている。
もしも何某かのアクシデントが起こり、減速、ないし急停車でもしたならば、
最悪、縄打たれたままの状態でも、何とか転がり出て逃げおおせよう。
―――――そんな気持ちでじりじりとしているのだが、果たして。
ご案内:「黒い幌馬車」にメレクさんが現れました。
■メレク > 黒い幌馬車の手前、並走するようにもう一台、馬車が走っている。
此方は煌びやかな装飾が為された豪勢な仕立ての馬車であり、見るからに貴人仕様と分かるだろう。
やがて、二台の馬車は街道の脇を流れる小川の傍にて馬を休ませるために揃って停車を果たす。
御者達が馬に水を飲ませて休ませている間、前の馬車の御者台に便乗していた、
体格の良い男が、後方の馬車へと近付けば、幌を捲り上げて中の様子を眺め。
『……おい、其処のシスター。お前だ。ご主人様がお呼びだ。』
幌の内側、革の首輪が付けられた少年少女の姿の中から目立つ恰好の人物に目を付ければ、その腕を引き、
馬車の外へと引き摺り出せば、腕を引っ張るようにして豪華な荷馬車の方へと連れて行こうとして。
その馬車の扉を開けば、修道服の少年の背中を押して、馬車の中へと押し込めようとする。
『へへっ。精々、神さまの代わりに可愛がってもらうんだな。』
そんな不穏な台詞を吐きながら、屈強な男は少年を馬車の中まで入らせれば扉を締める事だろう。
目の前の相手を非力なシスターであると勘違いしている彼は油断し切っており、
必ずしも好機とは言い難いが、万が一、逃げるチャンスがあるとするならば今を置いて存在しないかも知れず。
■ダリル > ――――停まった。
期待していたような形ではないけれど、明らかに停車していた。
閉ざされていた幌が上がり、朝、市場から連れ出される時にも顔を見た、
縦幅も横幅もがっちりと大きな男が、こちらを睥睨する。
ついつい、負けじと睨み返してしまったが、次の瞬間。
「は、―――――――痛っ、ちょ、待っ……!」
二の腕を掴まれ、こちらが腰を浮かせる間もなく、引き摺り出されて馬車の外。
顔や肩ではなく、足で着地できたのはきっと、持ち前の反射神経があってこそだ。
歩け、と命じるでもなく、無理矢理引っ張って歩かせようという暴挙に、
当然の権利として声を上げたが、それで相手が力を緩めることもない。
それでも、がっちり腕を掴んでいた手が、少年を別の馬車へ押し込めるためにいったん離れ、
背中を押しやろうとした、その、僅かな隙に。
「っ、ざけんな、誰が………!」
可愛がられてたまるかバカヤロー、とまでは言わない代わり、
振り返りざまに鋭く振り上げた右膝が、男の急所を狙う。
もちろん、その間、扉の開いた馬車の中へ、神経を向ける暇は無かった。
そんな立派な馬車に乗るような人物、きっとなよなよした貴族だろうという、
希望的観測による振る舞いだったが、―――――さて、思惑通りに行くだろうか。
■メレク > 傍から見れば華奢な身体付きのただのシスター。
修道院が拵えた借金のカタに売られたのか、或いは、人買いに攫われたのか。
そんな程度の想像しか持ち得なかった護衛に相手に対する警戒心など皆無であった。
故に下卑た笑いを滲ませる男の表情は、次の瞬間、金的をまともに受けて苦悶の顔に変わる。
『っっっっッ!?』
幾ら筋肉を鍛えていようとも、鍛える事の叶わない男の急所。
身体の外部に曝け出した臓器へと膝蹴りを受ければ、男は悶絶して地面に崩れ落ちる。
完全に無防備だった所に、女の力ではない蹴りを受ければ尚の事だろう。
果たして、少年の護衛の男を排除するという思惑は功を奏する事になる。
尤も、誤算があるとするならば、馬車の奥に潜むモノが護衛と比較にならない存在であった事。
「おやおや、これはこれは。随分とお転婆なシスターですねぇ」
そんな愉快そうな言葉が馬車の内側から響き渡ると同時、無数の触手が奥の暗がりから伸びて、
少年の四肢へと絡まり付き、その身体を持ち上げると馬車の奥へと引き摺り込もうとする。
彼が起死回生の手段を講じなければ、最後に一本、伸びてきた触手が馬車の扉の取っ手を掴み、
パタン、と音を立てて、その扉は閉ざされる事だろう――――。
■ダリル > 多少の敏捷性、柔軟性では、鍛え抜かれた大人の男に対抗し切れない。
だからこそ、同性であっても、そこへの攻撃を躊躇うことは無かった。
振り向く勢いも借りて、思い切り振り上げた膝に、何とも言えない手応えを感じる。
痛そうだなぁ、と顔を顰めるのも無意識に、崩れ落ちた男の背を踏み台にして、
本格的に、逃走の第一歩を踏み出そうとした拍子。
―――――――しゅる、と、風を切る気配、四肢に絡みつく何か。
「え、………なっ、なん、―――――バケモ、……!」
ぎょっとして、馬車の中を振り返ろうとした時には、もう、
触手に四肢を絡め取られた身体はほとんど、馬車の中へ引き込まれていた。
人間の言葉を話していたけれど、人間である筈が無い、
つまりは化け物だ、と、その単語の最後の一音まで、発することは出来なかった。
似非シスターの少年を呑み込んで、馬車の扉は閉ざされる。
引き摺り込まれた密閉空間の中、少年が逃げ出す術は完全に封じられて――――――。
ご案内:「黒い幌馬車」からメレクさんが去りました。
ご案内:「黒い幌馬車」からダリルさんが去りました。