2021/08/30 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍛冶場工房地区」にスピサさんが現れました。
スピサ > 鍛冶師というものは、村に一つあれば鍬や斧 山刀に歯車
色々な注文を造ることができ重宝される
しかし街中の鍛冶師は肩身が狭くなる
鉄を打つ音は、昼間が主に現れ、夜は日が落ちてすぐが好ましい

出なければ眠りを妨げるとして、嫌われてしまう
人気のない外れに構える鍛冶師や、錆びれた街中のほうがひっそりと
思い思いにきっと武器が打てることだろう

スピサもその日、夏の長い昼が終わり夕暮れを過ぎたころ
工房の中でランタンや天井に火を灯すことなく、炉で燃える炭の火をその単眼へ映していた。
手元には鞴で時折空気を送り、真っ直ぐな両刃の直剣を造り上げる

良質な鉱石から抽出された、錬金術師らが取り出した鉄
歪な外見でも 特異な力でもない 望む処まで硬くし しかし衝撃を受け止める撓みを持ち しかし一定の斬れ味を持つ
刀のような研ぎも造りも、何が其処までさせるのかと言わんばかりの物に比べれば
西洋剣は叩き殺し しかし斬り飛ばせる頑強さと切れ味 そして突き殺す鋭さを持つことが主題

     ゴォフォォォォ……    フゴォォォォォッ……

暗い中で、左手で操作する鞴の送り出す、炎を強める音
スピサは己以外、誰もいない空間故に傍に来客用の単眼隠しを置き、裸眼で火を見つめ続ける
鉄と向かい合う一対一 鍛冶師は鉄に何度も何度も向き合うからこそ、最後には分かり合える。

「……。」

炭から引き揚げ、刃に映り込んだ熱の色 それは火のように眩しくなるような白い色ではなく
光沢の無い 穏やかな橙色 しかし危険を感じさせる纏う色
金床の上にヤットコで沿わせ、槌を振るう音

    コォォォンッ   コォォォンッ   コォォォンンッ

火花が不純物を追い出し、表面が冷えるたびに剥がれて薄く落ちていく
既に形をほぼ成しているそれを 手作業という術一つで 両側が均一になる様に何度も見直して打ち込んでいく槌
唯の直剣でも、人間相手ならば何度か斬ったところでは、刃こぼれ一つしないのだろうなと
見物人でもいれば思わせるだろうか。

スピサ > 形作る為の大きな槌の音は次第に数を減らしていく
研ぎで減る部分を想っても、目に余る凹凸を別の槌が小さく小突くように

    コンッ コンッ コンッ   カシンッ カシンッ 

と音を小さく鋭く言わせる
複数の鉄を組み合わせた、受け止める力と斬り殺す力を伝える造り
鍛造の音が次第に止む頃には、用意しておいた焼き入れ用の水が詰まった枠の中へ
ヤットコでつままれた炎を吸ったような剣の形を焼き入れさせる

    ジュウウウウウウウッ……

沸騰する水の音と共に、その場で制止させては周りはお湯のまま
攪拌するようにゆっくりと揺らし、外側の水を巻き込みながら水で冷やし続ける事を続けた
事が終わり、二つの鋼を重ねて作り上げた剣の形を、天井のランプを灯すことで
凹凸や形状を確認し終わり、罅や冷却の不備がないか眺め続ける。

「……ふぅ。」

満足いったように、額の汗をグローブ越しで拭うと煤が少しついてしまった
それにスピサは気づかないまま、焼き戻しを行う為に低温釜の中へとつまみ入れ
少しの間硬くなりすぎた全体を戻し、馴染ませる

形を変えるほどの熱を与えて冷やされた鉄は、今度は形を保ち続ける為の熱を与える
もう一度冷やし終えたそれを眺め、研ぎに入るころには無言で複数の砥石と水を使い
独特な研ぎの音を共に直剣を仕上げていく

片手で振るうには好い重心と重さ そして好い鉄だったと、打ち終えた腕にまだ
その鉄の良さの感触が残っている
研ぎあげるこの最中も、その良い鉄の感触は続いていた。

時折手ですくいあげた水でとろみのある鉄粉を洗い流し、研ぎだけで仕上げる表面
それを根本から切っ先まで ジィっ と眺め。

「……鞘とグリップは、お前には何が合うかな。」

そんな独り言を向けながら、製作は続けられ。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍛冶場工房地区」からスピサさんが去りました。