2021/05/16 のログ
■タン・フィール > 「ん…っくぅう…ぅ、けふっ…!!」
王都の平民地区と貧民地区の合間に流れる小川の下流。
そこに、まるで河川敷に居座る浮浪者か旅人のようにテントを張り、
焚き火で体を温めながらうずくまり、用意した木桶に、こみ上げてきた胃液を吐き出す小さな薬師の姿が、ひとつ。
「ぅ~~~…えぷっ…ひどいめにあった… もうそろそろ、ぜんぶ出てっちゃえば、いいのに…」
先日、この川の上流にあたる路地で、町中に出現した触手の魔物と対峙した薬師の少年。
戦闘の果にその触手の群れに取り込まれ、口内や目、耳、鼻…
臍や、尿道やお尻の穴にもぐりこんできた触手に無数の卵を産み付けられてしまい、放置されていたところを王都の傭兵団に救出され、
今は休養を経て、薬師お手製の「虫下し」を飲んでは、上下の口からタマゴや触手の幼虫をなんとか絞り出す日々。
ぺしゃっ…てろてろてろ…と、桶の中に吐き出されたほぼ透明になった胃液の中には、
爪切りで切り取った小指の爪のように小さく細く白い触手の幼体が数匹うねっていて、
その不快感にまた吐き気を催しては胃腸の中の生き残りを駆除したり、
下剤が聞いてくれば、川を汚さぬよう近場の茂みに堀りぬいた簡易トイレで用を足す。
そうして、体内にうごめく悍ましい異物の敵と共に、
栄養と水分と体力を順調に失っていき…
キャンプの焚き火と、それで煮詰める薬湯…それで煮込んでいる甘く似たパンやミルクをちびちび胃に入れて、
なんとか失ったそれらを補いながら、半病人のように弱ったカラダで寝込んでは、
また虫下しが効いて、木桶かトイレの世話になる。
それを繰り返すばかりの数時間に、憔悴した様子で力なく笑い。
「っはぁああ、っは、ぁ、んぁ…ぅええ…っ…ッ…
…まぁ、いちおう無事、だし…これくらいで済んでよかったの、かな…?」
ご案内:「河川の下流」にアルシェさんが現れました。
■アルシェ > 日中は汗ばむような陽射しも、まだまだ夜には肌寒い風が吹き抜ける。
そんな風とは裏腹に、珍しく依頼を完遂できた少女の懐具合は、ほんの少しだけ暖かい。
鼻歌交じりに、行きつけのボリューム満点がウリの食堂へと向かう途中で。
「ん? なんだろ…??」
ふと耳に届いた何かの呻き声。
酔っ払いが吐いているのかとも思ったけれど、それにしては可愛らしい声で。
ちょっとばかりのお節介心を胸に、焚火の灯りを目印に河原へと降りていく。
「えーっと……だいじょうぶ?」
テントのそばを覗き込むようにして見てみると、何やらげっそりとした様子の可愛らしい子が桶にしがみついていた。
辛そうな様子に、慌てて駆け寄るととりあえず背中を擦ってあげて。
■タン・フィール > 「ぅ~~~……っ ぅえ?…あ、っ… ぅ、ん、へーき。
…ちょっと、悪い「むし」に当たっちゃったみたいでぇ…
…おなかのなかにいるのを、お薬でやっつけて、げーってしてるの。
…ちょっときたなくて、ごめんね。 でも、ありがと、ぅーーー~~~。」
木桶のなかに水同然の胃液を、そろそろそれらすら尽きてきていたのか、
ほんの大さじ一杯ほどの量を吐き戻した後、
背中に触れる優しそうな手にさすってもらえると、直接の高揚というよりは、気晴らしと安心感でいくらかラクになった様子。
痩せこけて、やつれているという程ではないが、
おそらくは平時よりも血色の良くない肌の顔は、病的な少女といった風貌で、格好は裸にシャツ1枚を羽織っただけというもの。
へたりこむまるだしの太ももをもし凝視すれば、その隙間から男の子の象徴が見えるかもしれない。
見ないほうが懸命ではあるが、もし木桶の中を覗き込めば、
吐き戻したばかりの体液から、先述した触手の幼体がうごめいていることから、
これらが少年の体を蝕んでいるのがわかるだろう。
■アルシェ > 「むし? むしって、虫?」
当たったというからには、悪い食べ物でも食べてしまったのだろうか。
それなら自分にも経験があるから、苦しさはよく分かる。
まぁ、むしのほうはさすがに経験はないのだけれど。
幸い桶の中までは焚火の灯りが届いていなかったらしく。
蠢くそれらを直視せずに済んだ。想像だけでもぞわわっと来てしまうそれらを見たいとも思わない。
女の子のように見えたけれど、近づいてみればその薄手のシャツの胸元はぺたんこだった。
顔色は悪く、ちょっとばかり脱水症状気味にも見える。
とにかくへたり込んだ男の子の背中を優しく撫で続け。
「ん……出すもの出したら平気だと思うけれど……
ちゃんと水分摂れてる? 食欲なくてもお腹に何か入れないとダメだよ?」
■タン・フィール > 「ぅん、正確には…触手のまものの、ちーちゃいやつ。
とりあえず、お薬で弱らせてあるから、あとはカラダの中から残ったのを出してくだけ、なんだけど…」
また吐き気がこみ上げてくればすばやく顔を向けられる程度の位置へ木桶を退かしつつ、
力なくへらへらと笑って精一杯強がってみせる。
細い手足や、少女のように華奢な体つきは、平時よりも弱々しく、
少女の見立て通り、一応の非常食の薬湯を鍋にかけてはいるが、
そのあまり具合からあまり食欲は進んでいないらしい。
「ぅん、あとはちょっとずつ、お腹に優しいものを飲んだり食べたりシて、
もうちょっと休めば大丈夫だとおもう…けど…。
…ぅ=ん、一応、ここの薬湯、おかゆみないなものかな。
これをちびちび食べたり飲んだりシてるけど、すぐ戻しちゃうんだよね。
…お塩とか、調味料も切らしちゃってて、買いに行く暇もなかったから…あんま、おいしくないしー。」
と、少し困った様子でう~ん、と腕を組み、項垂れる。
弱った胃腸の粘膜に優しい、ヨモギのような草と、僅かな穀物、パンや干した果実類をミルクで煮込んだだけの代物で、
下町の定食屋ならば、ここに干し肉や塩やら安物のスパイスなどで味を整え、なんとか酒で流し込めるような…
豊かではない地区の子供らが風邪をひいたときなどに、母親から飲まされる「病気の時のおかゆ」といった味気なさだった。
背中を優しく擦られて、しゃべる程度ならば問題なくなるほど、ひとまずは落ち着いてきた様子。
■アルシェ > 「触手の魔物……そんなのがお腹に入り込んでてほんとにだいじょうぶなの?」
幾ら小さくても、聞くからにヤバそうな気がする。
うねうね動く触手を幻視して、思わず身震いしてしまう。
見たところ、風邪で弱っているのと大差はない様子だけれど、相手が魔物だとしたら気は抜けない。
弱い魔物だといっても、その生命力だけなら他の魔物と変わらない。
しぶといくらいに旺盛なのだというのは冒険者の常識で。
「おかゆ? あぁ、これね。塩なら持ってるし、ハーブとかもちょっとならあるけど。
味気ないのに飽きたなら、ちょっとだけ冒険してみる?
びっくりしてお腹の虫も逃げだすかもしれないし。」
味の保証はしないけれど。と笑って見せる。
さすがに病人におかしなものを食べさせるつもりもない。
ただ料理は専ら食べる専門。趣味が高じて野営の際には凝った食事を作ったりはしているけれど。
所詮、素人に毛が生えた程度なうえに、野趣溢れる代物で。
あまり病人向けではないのは確実だった。
吐いてばかりで汚れている口元をハンカチで拭ってやりながら、悪戯そうな笑みを向け。
■タン・フィール > 「もし、なんにもしてなかったら~…どんどん、お腹の中で増えてっちゃって、
最期には…こう、カラダの色んな所から触手がはえてきちゃって、タイヘンなことになっちゃうかも、だけど…
…まぁ、すくなくとも、そういうコトにはならないための、虫下しは飲んだから、だいじょーぶ。
おねえちゃんは…ぼーけんしゃ?…だったら、タマゴや子供をうみつけるタイプの魔物には、きをつけてね。」
と、触手に対する恐怖や不快感に身震いしている様子の彼女を見て、
詳細はできるだけ伏せつつも、もし同様の目に遭いそうな危険性があったら是非とも裂けてほしいと、
服装や装備品などを観察して、彼女も冒険者であると仮定し、注意をうながして。
「んぁ、っふ、ありがとっ…。
……ほんと?…うぅーん、それじゃあ…ちょっとだけ、美味しくしてもらうの、てつだってもらっても、いい?
…お料理は、おねえちゃんに、おまかせ…っ」
ふふ、と力なく笑いながら、先だっての介抱にどうやら真実、親切心であると安心して…
ここはそれに甘えてしまおうと、ぺこりとお辞儀して。
「ボクは、タン、タン・フィール。
このテントで、王都の色んな所でお薬やさんをしてるの。
おねえちゃんは、なんていうの?」
と、彼女が調理を始めるならばそれを見守りつつ、自己紹介。
■アルシェ > 「わぁー、わぁー、わぁーっ!
大事なことなのは分かるけど、あんまり想像させないでっ!」
皮膚を突き破って出てくる触手を想像してしまって、耳を押さえてジタバタする。
魔物の恐ろしさはしっかりと共有しておくに越したことがないのは分かるのだけれど。
だからといって、好き好んで聞きたいかと言えば、決してそんなことはない。
「……頭に駆け出しが付くけど、いちおー冒険者だよ。
ふぅ……うん、そういう危ないのには近づかないことにするよ。」
人に寄生するタイプの魔物については知識だけでは知っている。
けれど、実際にこうして宿主にされた被害者を見るのは初めて。
幸いにして被害は酷くはなさそうだけれど、それはこの少年の対処が良かったためだろう。
もしもの時は頼りにしようと。
「運が悪かった時には、君にお願いするね。
えーと、タンくん。私はアルシェ。よろしくね。」
自己紹介をしつつ、鞄を地面におろすと、中から香辛料の入った小瓶をいくつも取り出していく。
あと持ち歩いているものと言えば、干し肉に乾燥豆、乾パンくらい。
火に掛けられたおかゆっぽい薬湯をひと匙、味見して。
「あー、うん。これは確かに美味しくないね。」
まず味がしない。
さらにどろっとしていて、飲むにしろ食べるにしろ、口当たりが悪すぎる。
これならまだ良薬口苦しの方ががマシかもしれない。
お鍋に目分量で香辛料とハーブを放り込み。火力を少し強めにしてかき混ぜる。
■タン・フィール > 「あはは、ごめんごめん。
うん、そだね…でも、その魔物、どこからか逃げてきたのか…ここからちょっと先の路地で出てきたんだ。
それを聞いて冒険者ギルドのヒトとか、王都の衛兵さんが見回りしてるみたいだから、
もしお姉ちゃんもばったり遭遇しちゃったら、逃げてね。」
と、重ねて注意を促し合いつつ、
彼女が鍋の中に手持ちの具材を放り込み、
煮込んでいく様子を炎のゆらめきとともにじいっと見つめていく。
やはり香辛料の力は偉大で、今ほどマグメールの文明が栄えていなかった頃は高値で取引された歴史も頷ける。
塩味の無い雑草めいた香りの薬鍋が、食欲や気力を唆る香辛料の風味を漂わせる香気に包まれ、
くつくつと煮込まれて膨れるおかゆは、徐々に遠方でいうカレーのような良い香りへと化けていき…。
わずかに、じわりと口内に胃液ではなく唾液がこみ上げる。
「わっ…すごいっ、おいしそうなにおい、してきたっ…。
もし、美味しく出来てたら…おねえちゃんも、ちょっと食べてみる?
…さすがに、今のボクじゃ全部食べれないだろうしー…
…先に入れていたお薬や草は、体力や体調を戻すための、ちょっといいものだから。
きっと今日と明日くらいは、おねえちゃんのカラダもちょっぴり強くなるよ。」
と、薬師おすみつきの薬湯の効能を述べつつ、ご相伴の提案。
適当に鍋のそばに置かれていた木製の皿とスプーンをもう1セット用意して、いっしょにいかが?と誘う。
もし彼女が承諾して、共にそれを口にするならば…
冒険者ギルドの用語で言えば、攻撃力・体力・防御力・魔力や毒体制…
様々なステータスが50時間以上底上げされ、
気力や体力が充実してくる、すぐれた回復食となる、それも、先程よりは間違いなく美味。
もともと、舐めるだけで少年の生命を持続させられるだけの代物だっただけに、
仮に王都の露天などで「回復・ステータス増強の料理アイテム」というくくりで売り出したならば、
そこそこに贅沢な一品になっただろう。
■アルシェ > 強火にしたお鍋の中に、切り刻んだ干し肉を味のアクセントと歯応え用に、乾燥豆をボリュームアップ用に放り込む。
どろっとした食感は変えられないものの、それでもだいぶマシにはなっただろう。
そうやってお鍋の中をかき回しつつ。
「えぇっ!? 路地から? どっかの魔術師が変な実験とかしてるのかなぁ……」
森の奥とかならいざ知れず。
街中でそんなのに出会った日にはやっていられない。
こればっかりは出会わないことを祈るばかり。
お椀に少年の分をよそってあげてから、ひと口大に割った乾パンをクルトン代わりに。
そのままでも良いのだけれど、弱っている胃腸には細かいもののほうが良いだろう。
「はい、どうぞ。
さっきも言ったけれど、味の方は冒険ね?
……そっちの薬の方がなんだかすごそうなんだけど。」
食べるだけで、完全回復してしまいそうなのに、それでもしつこく巣食う触手の方が厄介なのかもしれない。
香りだけなら食欲も誘うだろうが、味の方はどうか。
少年だけを実験台にするのは忍びなく、ご相伴には預かろうか。
いただきます、とひと口掬って食べてみる。
■タン・フィール > 少年の弱った胃腸を気遣っての、数々の心遣いを尽くされた細やかな調理の工夫を嬉しく思いながら、
お鍋の中と少女の顔を行ったり来たりで視線を移しながら
「うん、ギルドのヒトは魔術師とかの実験とか…どっかの貴族のペット?とかが、逃げ出したんじゃないかって。
普段は王都にはそういうのでないから…ちょっと、びっくりだよね。
ふふーっ、それじゃあ、合作だね。
もし美味しくなくっても、アルシェおねえちゃんがせっかく作ってくれたんだもん。
ちゃーんと食べて…はやく、げんきになるから。」
と、味見も兼ねて先んじて鍋の中身を口にしてみる彼女を見守る。
少年の消化器官や噛む力を考慮して食べやすく、おなかにやさしく、
それでいてボリュームのある具材はそれを保ったままとろとろの質感におさまり、
塩味や香辛料は、喉を通りにくかった味わいや風味や口当たりを、
当然のごとくそれ以上不味いものにすることはなく、食べやすさを倍加させているはず。
問題は、その度合がどの程度が、少女の目分量の調理感覚と、
その結果を物語る味覚次第なのだが…。
その味わいは別として、薬効・ステータス向上の効果は、
少年の薬師としての調合が上手く行った鍋は少女のカラダを芯から温め、活力を増すだろう。
少女のリアクションが、「たべれなくはない」程度のものだろうが、「美味しいよ!」だろうが、
その親切心ごといただきたい、と願った少年は、
少女が口にしたものを飲みこんだタイミングで、甘え半分、お礼半分のリアクションとして、
四つん這いで少女に近づき、「あーん…♪」と小さな口を開けて、
口元に一口、分けてもらおうとおねだりする。
■アルシェ > ぱくりとひと口。
問題のお味の方はまずまず。
食欲増進用の辛さをベースに、ちょっぴりの酸味と、隠し味のドライフルーツ。
これくらいなら病人が食べても大丈夫だろう。
辛み成分のせいで、薬草に加えてデトックス効果が高まっているかもしれない。
つまりは発汗作用があるということ。
熱を出した時にはいいかもしれないけれど、下痢の時はどうだろうか。
お腹を温めてくれそうなぽかぽか感は悪くないだろうと独断と偏見での評価を下し。
「ん、これならだいじょうぶ。
しっかり食べて早く元気になってね。
って、甘えっ子だね。仕方ないなぁ……はい、あーん」
合作だと言われてちょっぴり緊張したけれど、出来の方は上々だろう。
匂いに釣られたのか、近寄ってきた少年のそのしぐさに、病気の時は甘えたくなるものだし、と苦笑して。
自分が口にした匙をそのままに、ひと掬いすると軽く息を吹きかけて冷ましてから少年の口元へと運ぶ。
■タン・フィール > 適度に添えられた辛味は、この場合はとろとろとした食感や、
細かくちぎられた具材が優しい緩衝材となり、
荒れた胃に負担をかけることもなく少年の胃腸と食欲を刺激し、
体内に食物が入ったことによる体温上昇・発汗作用・代謝の向上へと繋がって。
「んっ…っふぁ、はほ、熱ちゅい…っ…
っふふ、おいしーよ、だいせいこうっ…♪
……ぅうーん…ふだんは、ね、もうちょっと、ちゃあんと、しっかりしてるん、だよ?
…今日は、その…ちょっと、魔物のせい。
魔物のせいで、疲れてるから、だから…」
と、甘えっ子と言われてちょっぴりどぎまぎとしてしまい、恥ずかしそうに顔を赤らめてしまいながら、
それはそれとして、あーん、と甘えた食事を許容してもらえるならば遠慮はいらぬと、
まるでひな鳥のおねだりのように口を開けては、彼女が差し出すスプーンからの一匙を大切に頬張っていく。
やっている側からしてみれば、徐々にしっかりと咀嚼し、飲み込み、
そうするたびに血色がよくなり、発汗が促されていく、
弱っていた子供に、枯れた草花に水やりをするように食事を与えるほどみるみる回復していく様子は、少し面白いかもしれない。
時折、次の一匙が待ちきれないかのように、
彼女のさじを持つ親指あたりに、いつのまにか跳ねていた一滴の薬湯の残滓に、
ちゅっと手のひらにキスするように吸い付いて、
上目遣いに少女を見つめる幼子の視線は、少しだけ妖精めいた妖しさを放つもので。
「…♪ …おねえちゃんも、いっしょに、もーっと、たべよ?
…げんきになれる、し… 冒険も、安心していけるから…♪」
■アルシェ > 「ひゃっ…!?
もう、がっつかなくても、まだあるからね。」
こちらの指まで食べられそうになると、思わず悲鳴が出てしまう。
普通ならそんなこと考えられないのだけれど、ちょっとゾクッとしてしまったせい。
それを誤魔化すように、少年に待てをしてから、木匙をせっせと口元へと運び。
「う、うん。じゃあ、ちょっと貰おうかな。
タンくんはもういいの?」
可愛い子の上目遣いは、何と言うか卑怯と言うか、心臓に悪い。
そんなつもりがなくても、ドキッとしてしまう。
先程まで少年の口元に運んでいた匙を、自らの口元へ。
手持ちの食材に香辛料をふんだんに使っただけあって出来は上々。
ぽかぽかと身体の芯から温まってくる感じは、身体にも良さそうで。
ステータス上昇の効果はすぐには実感できないものの、疲れが吹っ飛ぶような感覚はあるかもしれない。
「今なら、触手の魔物に襲われてもやっつけられるかな?
タンくんはもうちょっと安静にしてたほうが良いね。」
お腹が膨れて元気いっぱい。
出来れば遭遇なんてしたくはないけれど、身体が軽くなった気がする今なら少なくとも逃げるのは余裕だろう。
介抱ついでに食器の片づけもしておこうと、使ったお椀を重ね合わせ。
■タン・フィール > 「っちゅ…っふ、…ふふ、ごめん、らさぁい…♪」
すこし悪戯めいた笑みを浮かべつつ、ちろりと舌をのぞかせておかゆの残滓を舐め取り、
何かをごまかすようにわしわしと、少女自身用によそった食事をかきこむ様子を、
年下の子供の容姿にもかかわらず、どこかいとおしく見守るような眼差して観察して。
そうして、おたがいに腹八分目に届くほどの満足感を得れば、ふう、と一息つき。
「だぁめ、逃げなきゃ、ダメ。
ボクだって、そのへんの冒険者さんと一緒に薬草狩りのクエストを受けれるくらいには弱くないのに、ぜんッぜんダメだったんだから。
…もしやるなら、大勢のパーティさんが参加する、討伐依頼とかのほうがいいとおもうよ。
…まぁ、もし…ひとりで逃げないで、戦って…
お口や、おへそや、お耳… おしりや…おんなのひとの、だいじなところ…
いろーんなところに、ヒドイことされちゃって…赤ちゃん、うみつけられてぇ…
そこから、にゅるにゅるが出てきちゃうようになっちゃったら、
その時はアルシェおねえちゃんのこと、ボクが看病してあげるけど、ね。」
と、冗談半分、本気半分の警告。
あえて彼女がぞわぞわと来るであろうおぞましさを匂わせつつ、
一方では彼女を本気で心配もしている文言。
仮に、彼女がそれに近しい災難に見舞われたならば、この一晩の開放と一食のお礼に、少年は薬師として全霊で彼女の心身を元通りにするだろう。
「―――ぅん♪…アルシェおねえちゃんのおかげで、おなかいっぱいで、ぇ…ぽかぽかになって、眠くなってきちゃった、かも。
…ボク、ここで火にあったまりながら寝るけど…
…寝ちゃったら、お姉ちゃんは自分のお家や宿に戻っても、いーから…
ボクが寝ちゃうまで、おてて、ぎゅーってして、くれる?」
と、子供ながらに無理強いはしない遠慮の見える希望をのぞかせながら、
親切な冒険者に最期の依頼をしようと。
■アルシェ > 冗談だったのだけれど。
それでも自分のよりも年下の少年にしっかりと諭されてしまう。
ついでに何やらリアルで具体的な被害状況の解説付き。
悍ましくて恐ろしいのに、何かゾクッと先程とはほんの少し違う悪寒が走る。
「うぅ、りょーかい……
ちゃんと逃げるから、そういうことは言わないで。」
ぷるぷると首を振りながら、懇願する。
耳も塞いでしまいたかったけれど、残念ながら両手はお椀と匙で塞がっている。
ご飯とどっちを取るかと言えば、答えは明確で。
それに本気で心配して忠告してくれている言葉を無碍にするのもできなくて。
「身体が弱ってるときは、寝るのが一番だしね。
うん、そのくらいならお安い御用だよ。」
食器を片すと、請われるままに手を差し出して。
そのままころんと少年の隣に横になる。
空いたほうの手でぽむぽむと少年の頭を撫でてやり。
寝かしつけるつもりが、一緒になって寝てしまうまで然程かからず。
ぽかぽかと温かい人肌だけに、手どころか全身がぎゅっと抱き締めて。
朝になれば抱き枕にされた少年が抜け出せずに困ることになっている光景が見られたことで。
ご案内:「河川の下流」からアルシェさんが去りました。
ご案内:「河川の下流」からタン・フィールさんが去りました。
ご案内:「街道」にジェイクさんが現れました。
■ジェイク > 王都から離れる事、半日。昼下がりの近隣の村落に通じる街道。
普段から人の往来が多い、その道を遮るように柵が設けられ、
道の脇には幾つかの天幕が建てられ、簡易的な陣営の趣きを為していた。
街路に立ち、通行する馬車や通行人を差し止め、積み荷や身分の検査を行なっているのは、王都の兵士達。
曰く、此処最近、山賊や盗賊の類が近隣に出没するために検問を敷いているという名目であるが、
実際の所は隊商からは通行税をせしめ、見目の良い女がいれば取り調べの名を借りて、
天幕でしっぽりとお楽しみという不良兵士達の憂さ晴らしと私腹を肥やすための手段に他ならなかった。
「――――よし。次の奴、こっちに来い。」
でっぷりと肥った商人から受け取った賄賂を懐に入れて、彼の率いる隊商を通せば、
列をなしている次の通行人に声を掛けて近寄るように告げるのは一人の兵士。
何よりも厄介なのは、彼らが紛れもない王国の兵士であり、市井の民が逆らえない事だ。
そして、その事を理解している兵士達は、御国の為ではなく利己的に国民を食い物にしている最低最悪な屑揃いであった。
ご案内:「街道」にフォティアさんが現れました。
■フォティア > 文字も読めなく育つ子供たちが、少しでも少なくなるようにと、王都から離れた村々のために、よさそうな児童書や絵本を馬車に積んで移動貸本屋を営んでいた。
その道すがら、時折検問のようなことが行われることがあるのは知っていたが、引っ掛かるのは初めてだった。
だからこそ、少し不安げに少しずつはけていく人々の列に並び、前の人々の所作を見守る。
前に並んでいた隊商が通される様子と、渡された賄賂の金袋に、息を呑んだ。
何しろ、利害度外視の移動貸本屋だ。
「 ────お金。 …いるのかな」
どれくらい必要なのか。
通行書や、身分の証明、王都に居住している旨を示す書類は手にあるものの、通行料というものには心もとない。
次を促され、少し焦って馬を引くようにして、銀色の髪の娘は小さな馬車ごと検問へと訪れる。
居並ぶ兵士たちへと、小さく頭を下げ。
「よろしくお願いします」と小さな声音。
「い、移動の貸本屋です。 本店は、王都で… 」
■ジェイク > 小太りの商人から渡された賄賂を懐に収めて、次に並んだ女へと視線を移す。
綺麗目の顔立ちから衣服に包まれた身体の稜線を、視線でなぞり上げると口角が吊り上がる。
先の商人のお陰で実入りが良く、金銭欲も満たされた故に、彼女には他の欲求を満たすのに、
役立ってもらおう、と邪な思考を浮かべながら、内心でほくそ笑んで。
「移動の貸本屋、ねぇ。……名前は?」
馬車に積み込まれた書籍の数々を余り興味なさそうに眺めながら問い掛ける。
一般市民が購入するのに書籍は高価であり、貸本の需要があるのは兵士の彼も理解している。
劇場などで披露される演劇を題材にした物語等は特に人気があり、常に返却待ちとの話も聞いた事がある。
だが、王都ならば、兎も角、識字率の低そうな田舎の村々でも需要があるのか、と怪訝な視線を向け。
「――――最近、王都に蔓延る他国のスパイが密書のやり取りをしているらしいとタレコミがあった。
貸本に偽装して、重要情報を流している可能性があるな。……少し、此方で話を聞かせて貰えるか?」
流れるように口から零れ落ちるのは、真実を織り交ぜたでっち上げ。
スパイが居るのは事実だが、タレコミなどは当然、存在していない。
それでも、彼女を疑っている風を装えば、捕まえるかのように彼女の肩を抱けば、
傍らに用意された天幕へと、未だあどけなさを残す少女を連れ込もうとして――――。
■フォティア > 身体に触れる視線に、小さな寒気のようなものを感じたのは気のせいだろうか。
その失礼な感覚を小さく首を横に振って振り払い、小さく会釈を返して。
「……フォティア・ビエントと、申します。
普段は、王都で店を守っておりますが。
時折、こうして子供たちに読み聞かせによさそうな本や、教材を選んで、商っております。」
書籍は飯の種なので、怪しまれて廃棄でもされれば大変。
田舎町でも立身出世を夢見る若者のための勉強用。王都で流行の物語や、時折図鑑の需要などもそれなりだ。
少し恐縮するように身を縮め、二度三度まばたきを。
「──……スパイ…?」
きょとんと思いもかけない疑いに目を丸く。
そんな、と首を横に振って否定の仕草を垣間見せるも、肩を捕まえられれば連行される動きに抗うこともできない。
細い肩の微かな怯えが、兵士の掌に伝わるだろうか。
検問中の衆知の中で、疑いをかけられるのは王都の商いにも関わる、との心の動き。
不安げな表情のままに、天幕へと娘は素直に連れられていく。
「と、とんでもありません。 スパイなんて…──
…はい。 お話、なら……いくらでも。」
ご案内:「街道」からジェイクさんが去りました。
■フォティア > ──娘は、そのまま天幕へと連れていかれ──
【移動いたします】
ご案内:「街道」からフォティアさんが去りました。
ご案内:「設定自由部屋」にフォティアさんが現れました。
ご案内:「設定自由部屋」にジェイクさんが現れました。
ご案内:「設定自由部屋」からジェイクさんが去りました。
ご案内:「設定自由部屋」からフォティアさんが去りました。
ご案内:「娼館通り」にタン・フィールさんが現れました。
■タン・フィール > 王都の入り組んだ路地の先、さまざまな娼館や乱交場がならび、
列状をそそる店名やキャッチコピーの看板を艶やかな照明が爛々と照らす娼館通りと呼ばれる一角。
今宵も望みの雄を、雌を、客を、獲物を物色する男女が声を掛け合う妖しく猥雑な通りを、
ぺたぺた裸足の音を立てて呑気に闊歩する、幼い薬師の姿が一つ。
ふらりと散歩にでも出かけたような気楽さと無邪気さは場違いでもあり、
しかし裸の肢体に桃色シャツを一枚羽織っただけの格好は、幼年の少年少女を好むもの好き紳士に声をかけられたり、
年下に欲情する娼婦や、スカウトの店員に誘われたりと、妙にこの場になじんでもいた。
「ん~っ、おくすり、買ってくれる~?…それなら、かんがえちゃうけどー。
…え?いらなぁい? ふふー、じゃあ、だめーっ」
と、薬師の手には薬瓶や錠剤の詰まったバスケットのカゴがひとつ。
今日は娼館や性に溺れる客の夜を彩るような薬を卸し、営業に訪れたようで…
口調や態度がどこか酔ったようにぽわぽわして、頬がわずかに赤らんでいるのは、
ここに来る前にその「夜の薬」を複数味見したせい。
酔ったような様子の幼子が繁華街をふらつく様子は、いかにも危うげで、妖しい。
ご案内:「娼館通り」にリサ・エルバさんが現れました。
■リサ・エルバ > 店も落ち着きを取り戻し。
休憩がてら、新しいお客でも捕まえられないかと、娼館が立ち並ぶ道を歩いていて。
ふと、道の先を見れば見慣れた少年の後ろ姿が目に留まり。
小さく口角を上げて笑みを浮かべればそっと相手に近づいていき。
「ふふ、タン君じゃない。
こんなところで何やってるの?」
相手の後ろから抱きしめるように腕を回し。
柔らかい髪に頬を預けるようにしながら声をかけ。
■タン・フィール > 「ぅあっ…♪ あ、リサ、さんだっ…♪」
とさ、と小さな体を包み込む、暖かく柔らかな感触。
娼館通りという、少女めいた幼子には不釣り合いな場所で、
見目麗しい年上の踊り子娼婦に抱きしめられる二人のシルエットは、
これはこれとして背徳的。
くしゃりと黒髪を乱れさせ、彼女の頬には柔らかな髪の弾力と、
赤ちゃんめいてミルクっぽさの残る肌のにおいが鼻孔に伝わる。
「っふふ、今日は、お薬のえいぎょうー♪…でも、そこそこ売れたから、もう帰ろっかなーって。
…そう、おもってたんだけど…っ。
ね、ね、リサさんっ、きょう、一緒にあそぶー?」
と、無邪気に彼女に誘いをかける。
もちろん、ただの遊びではなかろう遊戯を匂わせる、妖しい視線。
それにふさわしい、まるっきり子供の酔っぱらいのような陽気さで。
■リサ・エルバ > 「ふふ、そうなんだ。
じゃあ今夜もタン君の薬で狂っちゃう人いっぱいでるね」
相手の薬の効果を身をもって知っている身であり。
それに溺れる男女が出るのだとわかればどこか嬉し気に笑みを浮かべ。
「いいわよ。
ちょうど私も今日の仕事は終わりにしようかと思ってたところだから」
相手の無邪気な誘いの意味を分かったうえで優しい言葉で返しながらうなずき。
■タン・フィール > 「ぅんっ…♪ きっとそうっ… っふふ、リサさんのところにも、いーっぱいお薬、売らせてもらったから。
…もし、タイヘンなことになっちゃったら、いつでも呼んでね?
…ちゃあんと、元通りになおしてあげるから…」
くすくすと微笑みながら、その言葉の示すところは…
最終的に薬で治癒し、もとに戻すならば、何をしても良いというかのような行為を可能にする、魔性の薬師。
「じゃあ、じゃあ、ボクのおうち… ボクのテントまで、いっしょにいこ?
…いろんな、おもしろいもの見せてあげるしぃ…
…シて、あげる…♪」
ぴん、と一生懸命に背伸びをして、リサの耳元になんとか唇を寄せながら、
こしょこしょと、自分の自宅でも有り、店であり、秘密基地でもあるテントへと誘おうと。
彼女がそれを了承すれば、ぎゅっと手をつないで歩みだすだろう。
…少年の言葉が真実で、薬の効き目が正常に働くならば、
彼女はその後、無事にテントから出てこれる筈…なのだが。
■リサ・エルバ > 「あら、それは楽しみね」
相手が作る薬は一般的な媚薬をはるかに超えたものも多い。
そんな中で面白いものとあえて言うのであれば相当のものなのだろうと期待に心臓が高鳴り。
相手と手をつないで歩いていく姿ははたから見れば仲の良い姉弟にも見えるかもしれない。
ご案内:「娼館通り」からリサ・エルバさんが去りました。
■タン・フィール > 【移動】
ご案内:「娼館通り」からタン・フィールさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にプリシアさんが現れました。
■プリシア > 王都マグメールの平民地区に在る大きな公園。
今日此処に居るのは、授業が終わった後に遊びに行ったお友達の家、其の帰り道に公園が在ったから。
何時もは学院に迎えが来るのだけど、そうした理由で一人で帰るとは伝えてある。
誰かと居ると気を遣って寄り道はしないのだけど、今日は一人だから特別。
日が沈むにはもう少しばかり時間があるし、ちょっとした探検気分でやって来たのだ。
ボール遊びとかも出来る大きな広場。
設置された色んな遊具。
ちょっとした自然の風景も楽しめる遊歩道。
大きいだけあって人も多いし、色んな設備等も揃っている。
小さな歩幅で歩き回るには十二分な場所だろう。
心地良い微風に髪を靡かせ乍、確りと背負う鞄のストラップを小さな手で掴み。
なるべく他の人達の邪魔にならない道の端を選んで歩く。
時々キョロキョロと辺りを見回し、足を止めたり進んだり。
見る人が見れば迷子の様にも見えなくはないだろう。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にリスさんが現れました。
■リス > 家自体は、富裕地区に有る物の、トゥルネソル商会は、顧客の利便性などを考えて、平民地区に建てられている。
今回は、仕事が早めに終わり、お店をミレーの店員たちに任せる異にして、早く店を出ての帰り道。
普段は娘の迎えを行う所ではあったのだけれども、しかし、友達の家に行くという事で、お迎えは必要ないとの事だった。
其れなら、問題ないわね、と考えて居た物の、仕事が終わり、通りがかってた公園を見れば、うろうろしている見慣れた姿。
それは、まぎれもなく自分の娘でプリシア、だった。
「プリシア?」
一応、家には、国中を見回す千里眼の力のある家令が居るから、何かがあった時は家令から連絡が来る。
それに、彼女のもう一人の親は、国有数の魔術師だ、今も何らかの手段で彼女の危険を見守っていると思われる。
それらが無かった、という事は問題はないという事なのだろう……とは言え、日が伸びてきたとはいえ、今は夕暮れ。
もう少ししたら完全に夜の帳が落ちて、昏くなってしまう。
そうなると、危険ではないだろうか、過保護と言われるだろうけれど、娘を心配するのは親の役目だ。
それに、人竜だから、と完全に安全とは言えない、自分の様に戦闘の出来ない人竜はいるのだから。
気が付いたなら、せっかくだし、と娘のほうに歩いていくことにする。
「プリシア、一人で遊んでるの?」
時間は未だ、余裕はあるし、迎えの馬車を呼んでおく。
少し娘と遊んで、迎えが来たら、それで帰ることにしよう、そんな風に考えて、声を掛けた。
■プリシア > 「あれ?」
ふと気が付いたのは聞き覚えの在る声が聞こえてきたから。
でも其の声の主は今はまだお仕事中だと思っていたから不思議に思うのは当然の事だろう。
其れでも聞こえたのだからと首を傾げ乍クルッと其方を向けば。
「おかーさん!」
見えたのは愛しい母親の姿。
先に此方に気付き歩み寄って来る、其の姿が見えたのなら。
パタパタッと小走りに駆け寄って行く。
其の勢いの侭に抱き付くのだけれども。
身体強くは無い母親で在れど、其の軽い身を抱き留めるのは難しくは無いだろう。
抱き付き顔を上げ、上目遣いに見上げて。
「おかーさん、おかーさん。
あのねあのね、プリシア、おっきな公園、色々と見てたの」
巡ったら遊ぼうとしていたのは確かだけれど。
今はまだ見て回っている途中だったので其れを素直に伝え。
其れを伝えてから、改めて小さく首を傾げる。
「おかーさんは、お仕事中?
お仕事終わったの?」
仕事と一口に云っても色々と在って。
お店の中でも、外に出てたりしているのも知っていた。
其れを思い出せば、こうして抱き付いているのも邪魔をしているのかもしれない?なんて考えてしまって。
抱き付いた侭、ちょっと不安そうな表情でそう聞いてみた。
■リス > 「わぁ、もう、プレシアはお転婆さん。」
自分の声に、くるりとこちらを振り向いた娘、蒼と水色の瞳がぱぁっと輝くのが判る。
嬉しいのが、目に見えるし、パタパタと駆け寄ってくる姿、フレアのフリフリのスカートがふわりと靡く。
柔らかそうな髪の毛も走るのに合わせて靡くのが判る。
駆け寄ってくる足は、足の遅い母親よりも、幾分遅い位で、まあ、幼いので仕方のない事だろう。
軽く笑いながら、駆け寄る娘に、軽く手を振って見せる。
其れから両手を開いて、さあどうぞ、とばかりに飛び込んでくる娘を受け止めて、その胸でぽよんと受け止める。
母親も人竜だから、軽い娘の体当たりはちゃんと受け止めきって見せる。
「ん、そうね、此処は広い公園ね?
竜胆が良くグリムを連れて散歩させてるのよ?」
この場所は、自分自身はよく知る、という程のものではない、通りがかる程度の場所で、寧ろ、妹たちの方がよく知るだろう。
そっか、見て回ってたのね、と、娘を抱きしめつつ、ちゅ、と額にキスを落とす。
楽しそうに揺れる翼や尻尾、今は、何もかも、見て回って楽しいのだろう、と微笑ましく思って。
「おかーさんは、お仕事は終わったわ。
丁度、お家に帰ろうとしてたら、プリシアを見つけたのよ?」
今日は、外に回って行う仕事は特にない。
店の中の仕事は全て終わって引き継いできたので問題はない。
だから、安心していいわよ、と。
「今、お家から馬車を呼んだから、昏くなるころには着くわ。
それまでは、一緒に、見て回って、遊びましょうね?」
大丈夫だから、と安心させるように笑いかけて、一度娘を地面に下ろして、さあ、一緒に散歩しましょ?と手を差し伸べた。
■プリシア > 「えへへ、だってね、だってね。
おかーさんが居て、嬉しかったの」
其の言葉の通り、余程嬉しかったのは其の表情からも解るくらいのもので。
柔らかに表情を崩し乍、抱き付いた侭、ピョンピョンと飛び跳ねる。
小さく跳ねる度にドレスの裾を揺らし、髪を靡かせて。
其れに合わせ小さな翼も尻尾も揺れていた。
「竜胆おねーちゃんが?グリムと?そうなんだ?
おっきいもんね、お散歩いっぱい出来るね」
其の言葉に頷き乍答えれば、其の大きさを伝える様に両手をバッと広げるのだ。
因みにお姉ちゃんと云っているが、母の妹と考えれば実際は叔母に当たるのだけれども。
自分から見ても姉の様に見える見た目だし、若し叔母さんと云ったら訂正させられるだろう。
そう考えると其の呼び方は都合が良かったのかもしれないか。
「おかーさん、おかーさん。
お仕事終わったの?遊んでくれるの?
うんっ、プリシア、おかーさんと一緒!」
額へのキスに擽ったそうにしつつも。
飛び跳ね嬉しそうにした侭、母の言葉に益々嬉しそうな満面の笑み。
抱き付いていた処を一度下ろされれば、差し伸べる母の手をギュッと両手で掴むのだ。
尤も歩き始めれば両手で掴んでいると逆に歩き難いので、片手で握り直したりするのだけれども。
初めての自分依りもと母に案内して貰う気が満々なのか。
手を握った侭、ジッと見上げて次の動きを待っているのだった。
■リス > 「うふふ、私も。プリシアを見かけて、嬉しくなったのよ。
と、そうだ、今度、プリシアの二つ上のお姉ちゃん、シロナもプリシアと同じ、コクマーに通う事にしたから。
今度からは、一緒に登下校、すると良いわ。
大丈夫、ちゃんとおかーさんも迎えに行くから、ね?」
プリシアの二つ上の姉、彼女とは別の種類の闇の竜で、正妻の娘となるシロナ。
快活で、勉強とかが苦手に見えるだろうし、実際に苦手意識を持っている娘なのだけれども。
未だ、大人になった後の先を見つけられていないので、学校で様々な事を経験させることにした。
今までコクマーに誰も居れなかったのは、人竜だから、苛めとかに会うのではないか、という懸念があったのだけども。
プリシアが通うようになって、その母親であるミリーディアも問題ないとの太鼓判を押してくれたので、通わせることにした。
流石にリスは商会があるので通えないし、竜胆は―――そのレベルはもう一人で習熟を終えている。
ラファルは流石に学校を通う様な性格ではないので、今まで通りの家庭教師。
クロナとフィリに関しては、まあ当人と確り話し合いをしないといけないわね、と考えるのであった。
とは言え、決まった事、なのでプリシアにそれを伝えておくことにする。
「先輩として、ちゃんとシロナおねーちゃんを学校に連れてってね?」
なんて、軽く冗談交えてウインク。これを機に、娘同士仲良くしてほしいと思う。
シロナの性格からすれば、プリシアは――――たぶん着せ替え人形になるだろう、可愛い女の子に、可愛い服を着せる趣味があるし。
そういう意味では、シロナの理性が危ないかもしれない、と、視線を少し逸らして見せる。
そこから、話を彼女の返答の方へと戻した。
「そ、竜胆おねーちゃん。グリムは、何時も彼女がお世話してるからね、ゼナの次に懐いてるの。
プリシアも、興味があったら何時でも言うのよ?あの子頭いいから、背中に乗せてもらえるから。」
あの狼犬は3mはある、正直にリスなどよりも大きい犬なので、両手を広げたくなる娘の気持ちもわからなくない。
序に、言えば、プリシアの勘は当たっている、竜胆は、フィリに、姪に、叔母ではなく、お姉様と呼びなさいと言っているのだ。
大人気の無い彼女だ、叔母様と言えば、ゲンコツは飛ぶ。
ただ、リスやラファルの様に人の姿をせずに、角もつばさも、尻尾も出したままの叔母。
そういう意味では、プリシアと一緒に歩くと、良いかもしれないと、思うのであった。
「ええ、一緒に遊びましょ?
其れで、お腹を一杯減らして、お家で美味しいご飯にしましょうね。」
両手でつかみ、其処から手を掴みなおす娘。
自分を見上げる様子、動かないで何かを求めて居るので、ああと納得。
さて、と公園を見やるのだ。
「まずは、あっち、かしら?」
この公園は、色々なものがある。
何がいいかしらね、と考えながら歩き始める、乗馬の訓練用の、動かない馬の模型とか。
走り回って大丈夫なように、柔らかな草の敷かれている広場。
おままごとをする為だろうか、小さな子供用に作られた家のような物。
それらのある区域に、足を、運んでみる。
■プリシア > 「おかーさんも、嬉しい、良かったの。
学院、シロナおねーちゃんも行くの?
わーいっ!」
お姉ちゃんと一緒に登下校が出来る。
其の言葉に両手を上げて喜び様を見せた。
送り迎えが在るのは嬉しいのだけれども。
学院に通ってみて解ったのは、同じくらいの子達はちゃんと自分達やお友達とで帰っていると云う事だった。
自分もちゃんと出来ないと、そう考えてた処での今回の話。
此れで他の皆みたいにちゃんと出来る、何て考えも在っての喜び様である。
「うんっ、シロナおねーちゃんと、頑張るの」
自分が、ではなくて一緒に頑張る。
母の云う通りに学院生活では先だけれども。
先輩振る依りも姉も持ち上げる様な感じでそう伝えるのだ。
其の辺りは家族皆を想う性格の表れかもしれないか。
「プリシアも、お世話したら、グリム遊んでくれる?
なら、プリシア、お世話も頑張るの」
ギュッと空いた方の手を確り握って意思表示。
大きくても区別が付いてないからか、自分から見たグリムは大きな犬。
実は正しい種族を知らないのだが、其れを気にする様為らば何れは正しく覚える事だろう。
そんな狼犬のお世話もする気を出しているものの。
実際に出来る事は何処迄の事なのか。
「一緒に遊んで、お腹をいーっぱい空かせて、美味しいご飯。
全部全部、おかーさんと一緒なの。
あのね、おかーさん。
公園って、色々あるんだね?」
手を引いて案内を始める母。
そんな母を見上げ乍、興味深そうに行く先を見詰めている。
好奇心擽られているのか翼や尻尾は揺れ続けていた。
公園は通りから見た事があるだけで中に入った事は無かった。
遠目に見える公園は、広場で遊ぶ他の子供達や其の親の姿が見えただけで。
遊具や建物等は見た事が無かった。
本当は全部行ってみたいけれど、そうしていたら日が沈んでしまう。
何処に行くかは母任せだ。
■リス > 「ふふふ、ええ、シロナおねーちゃんも、いっぱい勉強しないとだめだって、思ったみたい、よ?」
嬉しそうにはしゃいでいる姿は、とてもかわいらしく、それを女は目を細めて見つめることにする。
幼い娘が喜ぶ姿、他の娘には無い純真さが、可愛らしく感じられてしまい、だから、嬉しく思うのである。
意地悪な性格の娘は今の所いないので、屹度大丈夫だろう、と安堵も一つ。
そして、既に自立心がものすごい勢いで走って居る事には気が付かない。
リスが送り迎えをするのは、唯々心配が大きいから。シロナが付くなら、問題は無いから、という安心感もあるのだった。
なので、確り一人でやりたいという思いを理解するには、もう少し掛かりそうだ。
「ふふ、ええ、お願い、ね。」
お姉ちゃんと一緒に頑張るという姿に、うんうん、と頷いて見せて。
とても優しい性格のプリシア、このまま育ってほしいなぁ、なんて考えるのは、親ばかだろう、か。
答えは出ないのだけども。
「んー……?グリムは、多分大丈夫よ?
ほら、ラファルとか、シスカちゃんも別にお世話はしてないと思う…し?」
あの狼犬、本当に頭が良いので、家族であれば基本的に優しくしてくれている。
普段あまり家に帰らず、放浪してるラファルがその辺で寝ている所を拾って家に連れて帰る事も良くある。
それに、ゼナの妹でメイド長をしているシスカちゃん、彼女が買い物に出る時には、護衛なのか、背中に乗せてよく歩いている。
自分に対しても、言えばちゃんと理解してくれるし、問題はない気がする。
ただ……股間に鼻先突っ込んで匂いを嗅ぐのは、止めて欲しいと思うが、止めてくれない。
其処さえ気にならないなら、大丈夫ではないか、と。
「今日のご飯は、何だったかしらね?
シチュ―……だったかな。
ええ、公園はみんなの場所だから、色々なものがあるわ。
ほら、目を楽しませるための噴水があったり。
疲れたときに座る為の、ベンチもあるわ。」
遊歩道を連れて歩く母親は、何もかもが未だ新鮮な娘に、ああいうのもあるのよ、と。
何のために、等の質問が来たら、其処に答える積り。全て最初に言うのではなく、彼女の中に疑問として生まれ。
質問としたときに。考える力を、養うために。
とりあえずは、今日は遊歩道で、のんびり景色を見ながら歩くことにするのだ。